無限の精霊契約者   作:ラギアz

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第四十四話「手段」

「……壊せなかったら?」

 俺の問いに、ライターは簡潔に答える。

「中の女の子を殺す」

 涼花の命は、いとも簡単に俺へと委ねられた。怖いくらいにあっさりと、俺の手中に。

「時間は……二分? いや、三分くらいあげるよ。精々頑張って、僕を楽しませてね?」

 人の命を、自分の命を懸けているのにも関わらずライターは飄々としている。数歩後ずさり、彼は白い箱から離れた。本気で手出しをするつもりは無いらしく、地面へと腰を下ろしじっと俺を見つめている。

 やるしかない。逃げ道は、無いらしい。

 俺は右拳を固く握りしめて、姿勢を低く構えた。鋭く箱を睨み付けて、そのまま地面の上で力を溜めて。

「スタート」

 ライターの声と同時に地面を蹴り飛ばし、拳を白い箱へと叩き付けた。

 ガァン!! と衝突音。ビリビリと拳に衝撃が伝わり、少し痺れが走る。全力の一撃なのにも関わらず、白い箱にはかすり傷一つ付いてない。虚しさが心中を駆け抜け、次の瞬間にはもう更なる手を打っていた。

 血まみれの右腕を白い箱に押し付けて、そのまま箱へとフィニティの力を流し込み続ける。

 が、結構な量を流しても爆発はしない。[アマテラス]の力で作った、光の箱という檻のキャパシティに愕然としながらも俺とフィニティは力を流すのを止めず、出力をどんどん上げていっている。俺の体が小刻みに震え始めて、体を覆う青白い光が強くなるくらいの出力。

 殆どMAXの状態で、数十秒が経ち。

 やがて。

「[インフィニティ……」

 白い箱が、青白い光に包み込まれた。輝きが、宙を裂く。

「バースト]ォ!!」

 ドゴオン!! と、炸裂音が廃工場内に轟いた。大気を震わせる威力の反動で、俺は勢い良く後ろへと吹き飛んだ。

 地面に体を打ち付けながら、何回も何回も転がって行く。やがて止まり、急いで顔を上げて白い箱を確認する。[インフィニティ・バースト]を限界まで溜めて、白い箱のキャパシティを超えた爆発を起こしたのだ。

 が、

「……そんな……」

 白い箱には、やはり傷一つ付いてはいなかった。

 絶望が溢れ出す。自分自身の技を使っても、[アマテラス]の能力には適わない。

 他に、今の[インフィニティ・バースト]を超える技が俺にあるかと言われれば―――――

 ある事にはあるのだ。しかし、余りにもリスクが高すぎる。

 その技を使ってしまえば、それ以上の戦闘は不可能。もしも壊せなければ、その時点でライターに一撃ぶつける事すらも出来なくなってしまう。

 でも、それ以外に手はあるか? いや、無い。自問自答で結論を叩き出した俺は、長く長く息を吸い込んだ。

 自身の無力さを嘆くよりも先に。

 今は、自分が出来る事。

 『精霊』への恐怖を忘れ、[アマテラス]の事も頭から消し飛ばす。今自分がやる事は、たった一つだけでいいのだから。


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