無限の精霊契約者   作:ラギアz

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第四十二話「邂逅」

 闇夜を切り裂く一筋の閃光。

 青白い光が世界を埋め尽くすと同時に、鼓膜を突き破る様な轟音が大気を震わせた。

「……はあっ……痛い……!」

 ふらふらとよろめく俺は、思わず呟いた。右腕で抑えている左腕は血まみれのぐちゃぐちゃ。痛さと熱さが尋常じゃないほどに左腕から発される。

 左腕全体を犠牲にしての大爆発。吹き飛ばされた隼人は地面を抉り、数十m向こうに倒れている。周囲の地面や街路樹は半分から吹き飛ばされていて、網膜を焼き尽くすかの光量に視界がまだまたたいていた。

 肩で大きく深く呼吸をして、痛みと疲労を和らげる。満身創痍の体は震えて力が入らない。

 でも、ここで走り出さなければ隼人との戦いも、左腕を犠牲にした事も無意味になってしまう。

 行かなきゃいけない。走りだせ。

 夜空に吸い込まれそそうになる意識を必死に奮い立たせて、俺は正門へと足を進める。ゆっくりと、体を引きずる様に。

 どこへ行けば良いのか、それすらも分からずに歩く。

 そして、学校の前にある桜並木を抜けた、その瞬間。

 

 ズドンッッ!!

 

 と、ここから遠く離れたところで寮が爆発した瞬間に見えた光の柱が天を貫いた。

 それは[アマテラス]の居る証拠。さっきの[インフィニティ・バースト]の数倍は強い光を強く睨み付けて、俺は歩き始める。

 その歩みは、最初はゆっくりと。次第に、速く。

 最終的には走っていた。気づけば、痛みや熱さ等は消えていた。それらよりも、速く行かなきゃという思いが勝っていたから。

 何故なら。

 [アマテラス]を止める為に[ツクヨミ]が戦っていなきゃ行けない状況なのにも関わらず、さっきの[アマテラス]の光柱からは、何一つ音沙汰が無かったのだ。

 考えられる最悪は一つ。

 ―――――たったの一撃で、[ツクヨミ]こと涼花が負けた可能性―――――

 

 それなら、夕張先生が死ぬ。『無限の精霊契約者』が解放される。

 逆に、涼花が勝っていたならそれを確認すれば良い。何も起きていなかったらそれで良い。

「最悪の可能性を考えろ」。ルテミスが教えてくれた教え。相手が何をしてくるか分からない場合、相手の全てを考慮した上で行動をしろ。その考慮する時には、最悪だけを考えろ。

 走れ。走れ。例え徒労に終わったとしても、それならそれが一番良い。

『そこ、右。次、左』

 フィニティの的確な指示に従い、俺は走る。ただひたすらに走り続けて、青白い光の尾を引きながら、霞む意識を細い糸を紡ぐように繋ぐ。

 やがて。

『……ここだよ』

 フィニティが淡々と告げる。足を止めた俺の前にそびえ立つのは、大きな廃工場だった。

 ごくりと生唾を飲み込んで、空いている鉄製の重たそうなドアに右手を掛けて、ゆっくりと中を伺う。転がる鉄パイプに、鉄筋。所々崩れている天井からは夜空と星が見えて、薄暗い床と天井には落書きが書かれていた。

 恐る恐る中に足を踏み入れ、左腕を押さえつけながら奥へと入っていく。

 放置されていた大きなコンテナの間を縫うように抜けて、辿り着いたのは大きく開けた場所だった。

 その中心の奥に、光り輝く白い箱が置かれている。それに興味を向けた瞬間、その箱の上から声が降ってきた。

「また来客かあ。君は誰だい?」

 若い、青年の声。箱から飛び降りてきた金髪碧眼の青年の体は、淡い金色に輝いていた。

「[ツクヨミ]に続いて何ともまあ、若いなあ。……おっと、礼儀だったね?」

 青年は軽く笑みを浮かべ、にこやかに言葉を発する。その奥には、強い狂気が見えた。

「僕はライター。[アマテラス]と契約してる、人間でも最上位に君臨する存在だよ」


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