躊躇なく。
俺は、隼人が炎の翼に力を溜めているのにも関わらず駆け出した。
彼の顔が驚愕に歪む。だが俺の状態は傍から見れば傷だらけの人間が、隙を自ら晒して走っているという状態。どこに打ち込んでも攻撃は当たる。
だが隼人が中々踏み込めないのは、彼が一度俺に負けているからだ。
疑心暗鬼。一回勝ち、一回負けた隼人は俺の手の内に対して不信感を持っている。まだ何かあるんじゃないか、[インフィニティ・バースト]みたいな物がという思いが、彼の動きを鈍くさせている。
そして、それは実際間違いではない。
[インフィニティ・バースト]であり、そうではない。左腕に宿る青白い輝きがそれを示している。
「……ッッ!! 穿て、[ホルス]!!」
俺と隼人との距離が10mを切った瞬間に、隼人は炎の翼を打ち出した。螺旋状に捻られた鋭い業火が俺の顔面目がけて迫る中で、俺は左手でそれを受け止める。
熱い。燃える。痛い。左腕が激しい炎に蝕まれ、焦げて、皮が剥がれ落ちる。意識が落ちそうになるその中で、更に前進した。
炎を全開で放出していたからか、やっと勢いが弱まった。その瞬間に、俺は右腕を伸ばして隼人の胸ぐらを強引に掴み、引き寄せる。その勢いに乗せて、俺は額の切り傷にフィニティの力を流し込みつつ、頭突き。
「ああっ!!」
気合い一発、ぶつけた瞬間に力が炸裂する。隼人の頭が上半身ごと後ろに持っていかれ、俺はそこで更に右膝で蹴りを打ち込んだ。
炎の翼。大技の直後の隙に攻撃を打ち込んだが、もう隼人は炎の翼の準備を終えている。
仰け反った状態から、彼は体を勢いよく起こした。瞬時に背中に生成される紅蓮の片翼、酸素を喰らい尽くし轟々と唸りを上げる最強の矛を前にして。
隼人の顔面へと、ぼろぼろの左拳を打ち付けた。
傷だらけで血まみれ。怪我が酷すぎる所為で痛みも感じないレベルの重傷を負っている拳に大した威力はない。精々隼人の視界を一瞬遮るのが出来るくらいだ。
だが。
隼人は、その時点で絶望の表情を浮かべていた。負けを、悟っていた。
俺の左腕は、一つの星の様に強い強い光を放っている。隼人の炎よりも、街灯よりも明るく輝く青白い光は純粋なエネルギー。人間を超えた力を持つ存在、『精霊』が持つ力。それが腕全体から溢れ出している。
隼人は知っている。この輝きを。力が、腕という器に集まりすぎたらどうなるかを。
「フィニティ!! 全力で頼む!!」
刹那、光が更に大きく強くなる。隼人が回避しようとするも、俺は地面を蹴って左腕を隼人に押し当てた。
視線が至近距離で交錯する。言葉はもう無く、俺は叫んだ。
「[インフィニティ・バースト]!!」
闇夜を切り裂く一筋の閃光。
青白い光が世界を埋め尽くすと同時に、鼓膜を突き破る様な轟音が大気を震わせた。