無限の精霊契約者   作:ラギアz

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第四十話「手段」

「……どこへ行くんだ?」

 その声の主は、振り返らずとも直ぐに分かる。

 隼人だった。

 振り向くと、彼は最早炎の片翼を生成している。唸る紅蓮の炎が闇を明るく照らす。

「寮であれだけの大爆発が起きて、無傷か。あれだけの大爆発があったのに、お前は人を救助したりもせず『精霊』の力を使ってまでどこかに行こうとしてる」

 冷静に並べられていく言葉。条件。そして、彼は告げる。

「お前が犯人なんじゃないのか?」

 本気で疑っている様だった。低い声音に鋭い瞳。明らかに戦闘直前レベルの殺気と炎を纏い、彼はじりっと姿勢を低くした。

「ちがっ……違うって! 誤解だ、俺は犯人じゃないよ!」

 その今すぐにでも襲い掛かってきそうな剣幕に後ずさりしながらも、俺は必死に手を振り半ば叫ぶようにして否定する。しかし、彼の殺気は収まらず、寧ろ強まっている様にも感じられた。

「……犯人は皆そう言うよな」

「じゃあ他に何を言えば良いんだよ! 俺が犯人だって言ってるお前のそれこそ独断と偏見、証拠なんて何一つ無いじゃないか!」

 激情。隼人の言葉に、思わず叫び返す。

 剣呑な雰囲気の中で、隼人は明らかな戦闘態勢を見せた。左の片翼が引き絞られ、瞳が一層、鋭く細められる。

「……おい、何でもう戦おうとしてるんだよ……」

「白い光、大爆発。お前だけ無傷。……なあ、上代式。お前にはさ」

 そして。

 俺が準備するよりも速くに、隼人は地面を蹴った。

「[インフィニティ・バースト]って言う技があるよな」

 それは、物体に許容量以上のエネルギーを流し込み、物体を内側から爆散させる技。特徴は、人に使えば絶対の殺傷能力を持つ事。俺の体という器を壊さなければ物体に力が流し込めないと言う事。

 爆発する時に、大きく光ると言う事。

 考えてみれば、俺固有の[インフィニティ・バースト]は今の条件から考えると犯人の可能性が高いと言えば高い。俺も隼人も犯人を知らず、他人から見れば明らかに俺が犯人っぽいのだ。

 隼人がそう思うのも仕方はないのかもしれない。俺を犯人として、倒しに来るのも自然な動きだ。何故ならあいつは俺よりも強い。俺を、止めることが出来るのだから。

 でも、俺もここで立ち止まっている暇は無い。

 やるべき事が、あるから。すぐ目の前に、見えているから―――――

 急接近してきた隼人の右拳を左手で受け止め、右上空から突き下ろされた炎の翼を紙一重で躱す。直後、切り返される翼をバックステップで回避。

「……止めてくれ。俺には、やる事があるんだよ……!」

「奇遇だな、俺もお前を止めなくちゃならねえんだよ!」

 隼人の、絶対にお前を行かせる気はないと言う返答。それを聞いた瞬間、いや聞くよりも早く俺は地面に拳を叩きつけていた。

 コンクリートがへこんで、俺の拳から少量の鮮血が舞い散る。

 痛みが走るが、それは俺を加速させる為の必要な感覚。[インフィニティ・バースト]の準備が整った事に気づいた隼人は顔を顰め、俺と距離を取ったまま炎の翼を操った。

 繰り出される上下左右、四方八方からの瞬撃。二回、三回は防げてもその他は全て喰らう。

 速さを求めたのか一撃一撃は大した事無くても、積み重なればそれは脅威。連撃に距離を取る事すら叶わない。

 なら、と俺は息を深く吸い込む。そして、右拳を一瞬、翼に押し当てた。

 輝く青白い光。[インフィニティ・バースト]の予兆。

 分かりやすい前段階の動作に隼人は勿論反応し翼を引っ込める。俺の次の動きを、制限し押さえつける動き。

「……今更、それが通じるかよ!!」

 隼人が大きく叫び、炎の翼に力を溜める。距離を取られ、[インフィニティ・バースト]は通じない。俺の体は、隼人の連撃によって傷だらけ。

 時間が掛かれば、涼花がどうなるか分からない。[アマテラス]も。

 時間が掛かれば、単純に先生も来るだろう。ゲームオーバー。

 ……なら。優先順位は、一番上に来るのは。

「フィニティ」

『左手一本、これで行けると思うよ』

 俺の呟き一つで、彼女は俺に欲しい情報を教えてくれた。それだけで、十分。俺が今、隼人に勝つための唯一の手段はこれしかない。

 躊躇なく。

 俺は、隼人が炎の翼に力を溜めているのにも関わらず駆け出した。


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