無限の精霊契約者   作:ラギアz

36 / 50
すみません、テスト期間に入ったので不定期更新になります。
一応毎日投稿は目指しますが、勉強もあるのでキツイくなると思います。
読者様には申し訳ないのですが、すみません。

では、どうぞ!


第三十六話「本題」

 隼人が鳩尾を穿たれて大きく吹き飛ぶ。そのまま膝から崩れ落ちて、地面に背中を付けた。荒い呼吸は聞こえるが、起き上がれるダメージでは無いらしい。そのまま動かない隼人を見て、夕張先生は高らかに声を上げた。

「よし、終わり終わりー。勝ったのは式君! じゃあ次は―――」

 ふっ、と俺の体から青白い光が消える。よろよろと、ようやく立ち上がった隼人は俺を忌々し気に睨み、何も言わずに観客席へと戻っていった。

 何も言わないクラスメイト。いや、言えないのだろうか。

 ただ静かに、次の人が下へと降りてくる。俺も急いで観客席へと行って、涼花の横へと座った。

「……凄かった。本当に、凄かったよ、式。強くなったんだね……!」

「まあ、毎晩毎晩鍛錬してるから……。[インフィニティ・バースト]も通用して良かった」

「あの爆発する技?」

「そうそれ。大体、当たってから一秒くらいで敵は爆発する」

「む……。結構厄介だね」

 眉を寄せて、考え込む涼花。俺の[インフィニティ・バースト]の対策でも考えているのだろうか。

 何はともあれ。

 俺は、成長した。強くなった。前に手も足も出なかった隼人に模擬戦とは言え勝利したのだ。

 ルテミスとの鍛錬は、確かに俺を強くしてくれている。彼女への感謝が募る中で、俺は一つの言葉を思い出す。鍛錬を始める前に彼女が言った言葉を思い出して、しかし意味が分からず首を傾げた。

「近々貴方の力が必要になります」。ルテミスはそう言ったが、ステイ・リンクしか出来ない俺力なんてたかが知れている。

 何の為に……? と考えつつ下で繰り広げられている模擬戦を眺めていると、やがて六時間目の終了を告げるチャイムが鳴った。

 そのまま号令をして、俺たちは寮へと戻るために席から立ちあがる。

 俺も帰ろうとして、突然背後から肩を誰かに掴まれた。振り返ると、そこには夕張先生の姿が。

「どうしたんですか?」

「ん? いや、ちょっとね。……お話ししようぜ、ボーイ」

 最後、茶化すようににやりとした夕張先生に呆れつつ、俺はそのまま手を捕まれて半ば引きずられるように移動を始めた。

 

 着いたのは、空き教室。適当な机に腰かけた先生は、俺へと言葉を投げかける。

「いやはや、さっきの[インフィニティ・バースト]は凄かった。隼人の炎の翼を破壊するなんてね。強くなってるねえ」

「まあ、その……ルテミスに鍛えてもらってますから」

「二年生の生徒会の子か。彼女は強いよ。[アルテミス]っていう『精霊』と契約してるね」

 笑いながら、きっちりと説明をしてくれる先生はどこか掴みどころがなく、窓から差し込む陽光をその身に受けながら、本題を切り出した。

「……で、式君はそろそろ私の秘密に気づいてるかな?」

「『精霊』ですか」

「そ、やっぱ分かってるね。じゃあ、誰かまでは―――?」

 一瞬、答えるのを躊躇い、しかし俺は答えた。

「……[イザナミ]」

「正解」

 あっさりと答えを認める先生は、右手に闇を纏い、直ぐに消した。

「そして、[イザナミ]を殺そうとしてるのは?」

「[イザナギ]ですか?」

「ううん、違うよ。それはね、私と涼花ちゃんの敵、[アマテラス]」

 [アマテラス]。それは確か、入学式の日に単眼の巨人を光のカーテンで覆い尽くした『精霊』の名前だ。人間を超えた力を持つ存在、『精霊』。そしてその中で唯一、光を利用して単眼の巨人レベルの大きい物を隠せる力を持つのが[アマテラス]だ。

「式君、率直に言うと君には涼花ちゃんと[アマテラス]を倒して欲しいんだ。彼? 彼女 を倒すには、私じゃあ力が足りないし、涼花ちゃんとならあいつを倒せるはずだから」

「[アマテラス]を倒す?」

 急な言葉に、俺は戸惑う。[アマテラス]の事を殆ど知らない俺が、涼花と一緒にそいつを倒す理由が分からない。

「[アマテラス]の目的はね、ただ一つ」

 その俺の表情に気づいたのか、彼女はゆっくりと語り始める。

「『無限の精霊契約者』を、この世に蘇らせる為」

 人狼の言っていた言葉だった。体育館での事が鮮明に思い浮かび、脳裏に映った『精霊』の姿に一瞬膝が震える。

「この学校に封印されている[イザナギ]という『精霊』で、私を、[イザナミ]を殺す。そうするとね、冥界への門が開かれる。日本神話と同じ。[イザナミ」が死ぬと、冥界の門が開くの。そして、その開いた冥界から『無限の精霊契約者』を引っ張り出してきて、世界を侵略していくのが[アマテラス]の目的。壮大だけど、『精霊』の力なら出来ちゃうんだ」

 夕張先生を殺して、『無限の精霊契約者』を蘇らせて、世界を侵略する。

 余りにも突拍子も無い―――とは言い難い。何故なら俺は『精霊』と契約していて、『精霊』の力がどれほど強いかを身をもって知っているからだ。

「……先生。『無限の精霊契約者』って、何なんですか?」

 ずっと思っていた疑問。それを問うと、夕張先生は腰かけていた机から立ち上がり、空き教室の黒板へ。教壇の上に立った彼女は腰のポーチからチョークを一本取り出すと、黒板に何かを書き始める。

「特別授業をします。式君、人間は一度に何人の『精霊』と契約できる?」

「えっと……一人」

 内容は、今日の復習の様なものだ。五時間目の精霊学で習った事を、夕張先生はそっくりそのまま黒板に書く。

「もしも二人以上の『精霊』と契約すると、契約した人間はどうなる?」

「良くて精神崩壊、悪くて死亡です」

「正解。よく授業を覚えてるね」

 精神崩壊と死亡。日常生活を送ることは確実に不可能。だから人間は一人の『精霊』としか契約しない。

 それが精霊学で習った定義であり常識。『精霊』の文化が染みついた現代社会に置いての絶対の法則なのだ。かくいう涼花でさえ、一人としか契約していない。前例を覆したという話も聞かないし、『精霊学科』に入って日が浅い俺でもそれはしっかりと理解した。

 が、しかし。

 それを教えた当の本人は、あっけらかんとそれを根本から否定する。

「『無限の精霊契約者』って言うのはね、その名の通り無限の『精霊』と契約した人の事なの」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。