無限の精霊契約者   作:ラギアz

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「精霊学科編」、スタートです。


第二十六話「転入」

翌日。人狼と黒フードの襲撃から一晩経ち、俺は食堂へと向かっていた。

 あの後、警察と学校長によって速やかに処理され、結局俺たち生徒は特に何も言われずに解放された。

 しかし、『精霊』と契約し人狼達を倒した当事者である俺のみ後で直々に学校長と先生に呼ばれて事情徴収され、寮に戻って就寝という流れである。

 警察の質問には素直に答えていたお陰で、厄介ごとにもならずに結構直ぐに終わった。

 それに、俺にとってはその後の方が本題となっていたのである。その内容は、簡単。

 覚悟が決まった。俺は、『精霊学科』に転入するために学校長と話に行ったのだ。『精霊』という人間を超えた力を持つ物と契約し、その力を自在に使えるようになった。だからこそ、俺は力の正しい使い方を学ばなければならない。『精霊』関連の犯罪も知らないし、そして今後また人狼が襲い掛かってくるようなトラブルに巻き込まれないとも言い切れない。

 その為にも、『精霊』と契約したものとして『精霊学科』で勉強しなければならないと思った俺は、直ぐに紙に記入。学校長に渡した。

 結果はというと、即決。どこからか取り出した判子で学校長は直ぐにサインして、制服や教科書などを受け取ったのがつい昨日。

 そして今、食堂へと向かう道中。俺が着ているのは、『普通学科』の黒い制服ではなく、『精霊学科』の紺色の制服。左胸には金色の校章も付いている。昨日渡されたばかりの新品だ。教科書類の準備は昨日のうちに済ませて置いたため、気にする事は無い。

 『普通学科』は1-1、1-2という風に数字だったが、『精霊学科』は1-A、1-Bと言った風にアルファベットでクラス分けがされている。

 俺は1ーA。聞いてみたところ、涼花も同じクラスらしい。

 食堂に辿り着き、お盆をもって台に並んだ朝食を列に並んで取っていく。お皿が大盛になり、ずしりとした重さが両手に加わる。重たいお盆を両手で抱え、ふらふらしつつ何時も通り隅っこへ。

 ドン、と本当に一食分の食材が鳴らしても良いのか不思議になる音を立ててテーブルにお盆を置き、俺は早速食べ始めた。

 数分後、納豆を全力でかき混ぜているとやはり俺の前にお盆が置かれて、そして涼花が長い黒髪を靡かせて前に座る。いつも少食だな、と思って見ていると、涼花はあっと声を上げた。

「おはよう。制服、違う?」

「おはよ、涼花。そう、俺は今日から『精霊学科』なんだ。1-Aだから、涼花と同じだよね?」

「うん。一緒」

 何時も無表情の涼花が、この時だけは表情を崩して微笑を浮かべた。

 容姿の整っている美少女の微笑み。上梨村で見る女性というのは全員お婆ちゃんばかりだったから、その瑞々しく若々しい生気溢れる笑顔に心が洗われる。

「これから、宜しくね。式。分からない事があったら聞いてね?」

「うん。宜しく、涼花」

 そう言えば、涼花は友達が居ないんだっけ。俺もだけど。

 彼女にとって、俺が1-Aに来ることは嬉しい事なのだろうか? そうであって欲しいと願いつつ、俺は納豆のパックをぶち破いた箸を引き抜いた。ぐすん。

 朝食後、寮の自室へ戻った俺は自身の身だしなみを整えて、バッグの中身をもう一度確認する。

 筆箱に教科書。赤い宝石のついたペンダントを首から下げて、黒髪を撫で付ける。大して特徴の無い顔だからどれだけ整えても平凡ラインは超えられないのが最近の悩みだ。

 準備を終えて、俺は自室を出る。

 最上階の端っこから、一番下の入口へ。ホテルのロビーの様な内装の出入り口には、見覚えのある銀髪の少女が掃除機でゴミを吸い取っていた。

 挨拶だけでも、と思い俺が何かを言うよりも早く、カリストア・ルテミスは俺に気づく。

「おはようございます。……今日から『精霊学科』ですか」

「おはようございます、ルテミス。そうです、『精霊学科』デビューですよ」

「……一日しか『普通学科』に通わないって、どれだけ忙しくて慌ただしい生活を送っているのですか? 『精霊』と契約したとも聞きますし」

「契約しましたよ。……んー、取り敢えず濃すぎて何が何だか。俺、田舎育ちだから今まで知らなかったんですけど、都会ってこんなに忙しいんですね」

「それは貴方だけですと即答。他の人も巻き込まないで下さい」

 ルテミスはそう言い、呆れたように息を吐いた。

 その後、人差し指を寮塔の左側、女子寮の方へと向けた。俺もつられてそっちを見ると、ルテミスが口を開く。

「一階の、女子寮の奥に訓練室というものがあります。そこは『精霊学科』の人しか入る事は出来ず、何をする場所なのかと言うと『精霊』の力の使い方を練習する部屋です。『精霊』の力を扱えるのは、『精霊学科』での授業と緊急時、訓練室のみ。『聖域総合高等学校』では、それ以外の処で『精霊』の力は扱えません。覚えておいて下さい」

「分かった」

「訓練室を使う場合は、部屋の外に置いてある受付用紙に名前と訓練室に入った時の時間を記入。夜の十時まで使えます。……それでは、行ってらっしゃい」

「はい! 行ってきます!」

 ルテミスは無表情で手を振る。しかし、見送りというのはそれだけで嬉しい物だ。

 気合十分、俺は入り口を出て『精霊学科』へと駆け出した。

 コンクリートの地面を踏みしめる。天気は晴れだが、雲は多い。桜の花弁が風に乗って舞い踊り、その中を駆け抜ける。緑の多い『聖域総合高等学校』の景色を楽しみながら、走る事七分。

 紺色の制服の人々が沢山見える、『精霊学科』の校舎の前で俺は立ち止まった。

 大きな白い校舎。歩いていく人々。ここに居る人全員が、『精霊』と契約している人なのだ。『精霊学科』の授業には、『精霊』の力に慣れるための戦闘訓練というものがあるらしい。

 それは、怖い。『精霊』と相対するのだから。

 でも、楽しみでもあった。まだ見た事の無い人と会えるし、何よりフィニティの様な良い『精霊』、涼花の様な友達になれそうな人とも出会いたい。ぼっち脱却したい。

 ここからが、俺の本当の高校生活。

 水曜日の朝。白い校舎を見上げて、俺は一歩踏み出した。

「あ、おっはよー! 式君、元気?」

「あ、おはようございます。元気です!」

 ……踏み出した所で、急に声を掛けられて俺は立ち止まる。声のした方向に振り向くと、黒髪をポニーテールに纏めた人が立っていた。

 知らない人ではなく、夕張先生だった。

「ああ、夕張先生ですか。なんだ、驚かさないで下さいよ!」

「あはは、ごめんごめん!」

 笑って軽口を叩いて、俺は再び校舎へと歩き始め、

「もっと違う反応はないの!?」

「ふおっ!? えっ!? 夕張先生何故そこに!?」

「おっせえよ!!」

 お互いに叫びあうと言う、変な事を校舎の前で繰り広げた。


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