無限の精霊契約者   作:ラギアz

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第二十四話「開戦」

「フィニティ。――――俺と、契約してくれ」

 今が、その覚悟を決める時だ。

 『精霊』と契約し、人間を超えた力を扱う。その為の覚悟を決め、確固たる決意を今持つ以外に道はない。

 青い目をすっと細めて、フィニティは笑みを浮かべた。

 そして、浮遊したまま俺へとすっと近づく。右手を伸ばし、俺の心臓の真上にその手のひらを乗せた。

「おっけー。式と契約するよ。……予想以上に早かったね」

「こんな事があったら、嫌でも早くなると思うけどな」

 にこにこと笑うフィニティ。

 その言葉に俺も返すと、次いでフィニティは目を閉じ、体に力を込めた。

 途端に輝く、純白の極光。ペンダントから放たれた光と同質の物を、更に強く放つ。その光はやがて俺とフィニティを包み込み、心臓が段々と沸騰するかのように熱くなってくる。

 速く大きく、高鳴る鼓動。全身に満ちていく力をひしひしと感じながら、俺は目を閉じているフィニティへと声をかける。

「……ありがとう、フィニティ」

 届いたのかどうかはわからない。

 それでも急な契約の要求を飲み込み、俺の願いを受け入れてくれたフィニティは、そのとき確かに笑みを浮かべた。

 光が、更に大きくなる。エネルギーは、膨れ上がり大きくなっていく。

 体が光に飲まれていき、そしてやがて、白い世界には何も無くなった。

 無機質な無味無臭の空気が、ばあっと消える。霧散した白い世界、そこに存在する黒い虚空を俺の意識が認識しなくなった瞬間、突如として意識が覚醒した。

 体育館の香りが、する。空気には多少の匂いが含まれていて、皆の混乱する声が鼓膜を震わせる。

 背筋を伸ばして、後ろを見ればそこには夕張先生が居た。神妙な面持ちで佇む先生に向けて、俺は話し始める。

「……『精霊』と……[フィニティ]と契約してきました」

「っ、そ、そう」

 小さな声だから、混乱している皆には届かない。

 それでも、しっかりと夕張先生には届いた。焦ったように頷く先生へ、俺は更に言葉を放つ。

「俺に契約の事を教えたのは、この為ですか?」

「……うん。ごめん」

「いえ、良いんです。おかげで、俺も覚悟が出来ましたから」

 少し笑みを浮かべてから、俺は振り向く。人狼を真っすぐに見ていると、向こうも俺の視線に気づいたらしい。訝しげに目を細め、細身ながらも筋肉の付いている腕を後ろに引いた。

「先生」

「何かな?」

「……ちょっと、行ってきます」

 先生にそう告げて、俺は結界に手を触れる。

 それは冷たい、透明な壁だった。通り抜けることは出来ず、俺は大声を上げる。

「聞こえるか!?」

 声に、人狼が反応したのを確認。俺は再度声を出す。

「俺が精霊と契約している者だ!! ここから出せ!」

「なっ……!?」

「お前かよ!」

「早く出て行けよ! 誰も死なないうちにさ!!」

 大声に反応したクラスメイトが我が身可愛さに俺を外に押し出そうとする。その流れに逆らわずに居ると、黒フードがそっと右腕を掲げた。

 するとオレンジ色の透明な結界に、人一人が通れるくらいの穴が開く。

 そこへ無理やり押され、外へと突き出される。後ろで結界の穴が封じられて、俺はたった一人で人狼と黒フードに相対した。

 怖い。

 『精霊』を間近にした、恐怖。気張って出て来たのは良いけど、膝を震わさずに立っているのだけでも精神力をかなり使う。奥歯を強く噛みしめて、額に流れる脂汗を鬱陶しく思いながらも、絶対に膝は付かない。

 怖い。

 本能が、俺の体を蝕む。爪が掌に食い込むほどに強く拳を握りしめ、俺は長い時間を掛けて決死の思いを固めた。

「……案内してもらうぞ、小僧。[イザナギ]へと」

 人狼が低い声で唸る。

 それだけでどっと背筋に汗が吹き出し、しかし俺は真剣な眼差しで人狼の瞳を睨み付けた。

 やるしかない。

 俺の決めた覚悟は、こんな事で砕けるのか?

 そうじゃないだろう。

 拳を握れ。腹の底から叫べ。

 村の皆から言われていた。友達や同年代の仲間の素晴らしさを。俺にはその友達とかも居なかったから、村のお爺ちゃんとお婆ちゃんの話は聞いていて楽しかった。夢が膨らんだ。

 そして、揃って言うことは一つ。

「友達を大切にするんだよ」 

 と。絶対に語尾はこれで締めくくる。

 まだ、クラスメイトとは友達じゃない。そもそも何を持って友達と言うかが不明な時点で、誰も友達なんて作れないんじゃないか。

 だから俺は違う解釈をした。村の皆は友達が大切だ。

 なら、大切にしている人を友達と呼んでも良いと思った。その考えを持ったその日から、俺に取っての友達は大切な人、だ。

 村の皆は家族。大事な家族。

 初めての都会。初めての学校にクラス。知らない人だらけでも、俺にとっては初めての同年代だ。

 そして、誰も死んだら行けないと思っている。こんな、訳の分からない奴ら殺されていい筈が無いだろう。

 ……自分を納得させる材料は、これだけで十分だ。

 

 長く長く、俺は息を吐いた。

 一度、右拳を開き。そして再び、強く強く握りしめる。

 その手に宿るのは、強い覚悟。燃え上がる意思は、やがて感情の激流となって―――!!

「行くぞ、[フィニティ]!!」

 大きく叫ぶ。そして、契約の二段階目を開放する。

「―――ステイ・リンク!!!」

 白い純白の光が、心臓から放たれて俺を瞬く間に包み込む。

 体の隅々にまで流れるエネルギー。高く熱く、脈拍する鼓動。

 人の力を超えた力を持つ者。その力を、俺は今この身に宿していた。

 理由は一つ。この場の皆を、殺させないために。守るために。


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