無限の精霊契約者   作:ラギアz

20 / 50
第二十話「食堂」

 夕張先生はずっと教壇に立ち続け、面白く分かりやすい授業を繰り返していた。

 その事に疑問を抱きながらも、俺は特に何も言わずに授業を受けていた。クラスの何人かも授業と授業の合間に挟まれる休み時間に不審そうに会話したりして居た物の、夕張先生に何かを言う人は居ない。

 誰も変だと言わない、なし崩し的に四時間全ての授業を完璧に終わらせた夕張先生は、四時間目の終わりを告げるチャイムが鳴ったと同時に英文を書いていた手を止める。

 白いチョークを黒板の淵に置いた先生は、少し疲れたような笑みを浮かべた。

「ふう、じゃあ四時間目は終わり! お昼休みを挟んだら五時間目だからね? 教科書やその他諸々、忘れないようにー!」

 その一言で、皆の緊張が解ける。号令をしてから、クラスの大半が席を立った。

 寮に入っている人は、お弁当が無い。厨房を借りて作る人も居るらしいけど、そんなめんどくさい事をするのはごく少数だ。

 大体は購買で買ったおにぎりやパンで済ませるか、一旦寮まで戻って昼食時に解放される食堂でお昼を食べるかの二択。

 俺は寮に戻って食堂だ。財布と携帯、最低限の貴重品だけを持って俺は人々の波に紛れて『普通学科』の校舎を出ていく。上履きを外靴に履き替えて、黒くて固い地面、コンクリートを踏みしめて歩く。

 田舎の道は土が剥き出しの道で、それに慣れてしまっていたがこのコンクリートも歩きやすい。

 やっぱり都会は進んでいるなあとか考えている内に寮へ着いた俺は、真っすぐに食堂へ向かう。

 食堂にはもう結構な大人数が居て、最早食べ始めている人や台から料理を取っている人、列に並んで友達と楽し気に会話している人も居た。

 黒と紺色の制服が入り混じる中で、列の最後尾に俺は並ぶ。今日のお昼は竜田揚げにご飯、お味噌汁とサラダ等。揚げ物の良い匂いが空腹を加速させている。並ぶ、その僅かな時間ももどかしい。台の前についた俺はお盆の上に竜田揚げを山盛りにして、ご飯もてんこ盛りにする。

 今更だけれど、結構な大食いの俺は田舎でも野菜を食べまくっていた。

 まあ、それでも全く困らないのが上梨村だ。農業は自分たちが生きるためで、上梨米なんていうのは半分くらい趣味だよと村長が言っていた。

 それで良いのかと思ったりしたけど、そのお陰でご飯が食べれていたのだ。文句はない。

 重たいお盆を持って定位置になろうとしている食堂の端っこに座り、お盆をテーブルに置く。プラスチックの箸を持って頂きますと唱和して、俺は熱々の竜田揚げへと箸を伸ばした。

 タルタルソースに絡めて口の中に入れて、ざくざくとした触感と味わい深い香りを楽しむ。

 食堂のご飯は全て美味しい。これだけで疲労が吹き飛ぶ。

 一つ、また一つと竜田揚げを咀嚼し嚥下していく。食堂の端っこでご飯を食べ続ける俺の前に、何時も通りにお盆が置かれた。

 その上にあるのは、俺以上に盛ってある竜田揚げにご飯にサラダにお椀三個のお味噌汁。

 涼花か、と一瞬思うも、涼花は少食だ。こんなに量を食べる訳が無い。

 じゃあ誰だ――――と俺は視線をお盆の持ち主へと向けて、そして思わず声を上げた。

「ゆ、夕張先生っ!?」

「『ゆうばりせんせー、お昼ご飯一緒に食べよー』っとかさ!! もっと気軽に話しかけて来いよ思春期ボーイ&ガール!!」

 やけに思いの籠った叫びを上げて、夕張先生は目の前の椅子にどかっと座った。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。