今一話を直していて、時間がなかったです。
明日明後日にリメイクした一話を出します。すみませんでした!
その巨体は黒い肌に覆われていた。
筋肉は青筋が浮かび上がる。腕なんかは所々に山と見間違えるくらいに大きな筋肉が盛り上がっていて、筋肉は全身にぎっしりと詰まっていた。
見ただけで脳が理解する。
これには勝てない、と。逃げることすら出来ないと。
15mを越している巨体は一歩歩くごとに地面が揺れる。遅刻間際の時間だと言うのに、俺はそこから動けない。動いたら殺されるという、その確信があったから。
白い校舎の合間に、その巨人は異形だった。
ガチャンと大きく音を立てて、俺は折り畳み式の自転車を倒してしまった。それを抑えていた手はがたがたと震え、力が入らない。奥歯がかちかちと音を鳴らし、その音で俺は巨人に気づかれてしまった。
地面を揺らしながら此方に振り向いた巨人。そいつは、単眼だった。
頭の真ん中に、ぎょろりと血走った黒い瞳が存在している。その瞳は俺を捉えると、ゆっくりと右手を持ち上げた。それはまるで、夏に蚊を潰すかのように自然な動き。こうすれば、こいつは死ぬと理解している。
これは、間違いなく『精霊』だ。
人間を超えた力を持ちながら、単体ではその力を振るう事は出来ない。
簡単に言えば、この単眼の巨人は『精霊』の力を使っている、俺と同じ”人間”なのだ。
その人間が、あろうことか入学式に来ている。
『精霊』の力を使いながら、人間を殺す動きを出来る”人間”が目の前にいる。
ゾッと、背中に汗が噴き出た。
持ち上げられる右手。盛り上がっている筋肉が筋を浮かべながらその巨腕を支え、血走った単眼は瞬きもせずに俺を見つめている。開かれていた手が、やがてぐっと握りしめられ、巨腕はあたかもハンマーの様に拳を作る。ズズズ、と身じろぎする度に起こる砂埃。
呆然とそれを見つめるだけの俺に向けて、何の躊躇も躊躇いも無く。
――――そのハンマーは、あっさりと下された。
『走って!!』
次の瞬間。
突然、聞きなれない声が脳内を走り抜けた。
その声で、やっとスイッチが入る。体が動き出して、俺は無我夢中で折り畳み式自転車を放り投げて全力で顔面からダイブした。
顔面と腹を地面に引っ掛け、引きずりながら何とか回避する。立ち上がろうとした俺の目の前で、一瞬前に俺のいた場所が黒い拳の一撃を受けて、瞬く間に破壊される。
亀裂が走り、大きく欠片が空へと舞う。ガンガンガン! と立て続けに落ちてきた地面の欠片が直ぐ傍に落ちて、俺はそれにも震え上がった。勿論、折り畳み式の自転車は無残に粉々にされている。残っているのは、ここから少しだけ見える前輪のパーツのみ。
ドッドッドッド、と強く大きく鼓動が高鳴る。
自分の体の中に響き続ける鼓動は止まない。呼吸は自然と大きく、浅くなって、そのペースも速くなる。
単眼の黒い巨人は、その右手を地面から持ち上げた。ぱらぱらとくっ付いていた地面の欠片が筋肉の隙間から落ちて音を立てる。
よろよろと、力なく俺は立ち上がる。
『精霊』の力を目の当たりにして、俺の体は恐怖に震えていた。
死という言葉が、指の先まで染み渡っていく。
そして。単眼の巨人は、もう一度腕を振り上げた。