無限の精霊契約者   作:ラギアz

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第十八話「学校」

俺も部屋へ戻り、登校時間までをぼーっとして過ごす。

 『普通学科』の1-2には、八時二十五分までに着けば問題ない。今は七時半で、寮から校舎までは七分くらいだ。

 昨日学校に行けなかった事も含めて、八時に学校の職員室まで行けば良いだろうと学校長も言っていた。だから出るのは七時五十分くらいだとしても、それでもまだ時間は余る。

 適当な暇つぶしを見つけなければ行けないな、と思いながらベッドの上で二十分間を過ごした俺は、しっかりと部屋の鍵と学校用のバッグを持って部屋を出る。因みにこのバッグは二代目だ。昨日、単眼の巨人との戦いで一個目のバッグはぐちゃぐちゃにされたのだから。

 寮の出入り口に向かっている間にも沢山の生徒達とすれ違い、しかし外に出る人はいなくて結局一人寂しく登校する事に。

 いつかは友達と登校したい。

 と、そんな事を考えている内にもう着いた。目の前には、壮大な白い校舎が建っている。

 『聖域総合高等学校』、『普通学科』。首が痛いくらいに上を向いて、やっと屋上が見える高さ。 建物の端から端までは500mくらいあるだろうか。都会の中にもこんなに大きい建物は無かったし、田舎にも勿論存在しない。

 初めて見る巨大な建造物に、俺は若干押され気味になりながらも下駄箱へ入る。1-2の表札を探すと、自分の所に外靴を置いて学校用のバッグから上履きを取り出した。

 もぞもぞと上履きを履いた俺は、学校案内書を見て職員室を目指す。

 校舎の中は白く綺麗で、長い廊下には幾つも教室がある。ドアの上にはここがどの教室かを示表札が付いていて、水道もトイレも至る所に設置してあった。

 学校ってこんな所なんだ、と隅々まで眺めながら、二階への階段を上がる。

 そのまま廊下を歩いて、角を曲がって、職員室へと着いた。

 三回軽くノックをする。

「失礼します」

 そして、俺は中へと入った。

 俺の声に反応して、何人もの先生が俺をちらりと見る。コーヒーを飲んでいる人やパソコンを打っている人、先生同士で談笑している所もあった。

 その中で唯一、ちらりと見るだけでなく俺のほうに駆け寄って来てくれる先生が居る。その先生は俺の前に立つやいなや、直ぐに話し始めた。

「おはよう、君が上代式君だよね? 昨日は災難だったね。お疲れさま。私は夕張。夕張先生と気軽に呼んでね!」

 そう言い、夕張先生はにこっと笑う。

 黒髪のポニーテールがその動作に合わせてふわりと揺れて、俺よりも少しだけ小さい夕張先生はどうやら昨日の事を知っているらしかった。

 となれば、この人が俺の担任だろうか。夕張先生はあっ、と口元を押さえて、慌てて職員室の奥へと駆けていく。数秒待っていると、やがて沢山の教科書を両手で抱え持った先生が此方へと歩いてきていた。

「……重たいなー、もう。じゃあこれ、教科書ね。忘れてたけど、私が君の担任ですよー。じゃあ、遅刻しないように! また後でね、式君!」

「え、あはい! 失礼しました!」

 どさどさっと渡された教科書を抱えて、俺は職員室を後にする。

 やはり夕張先生は俺の担任だった。面白そうな先生だと言うのが第一印象。

 教科書を抱えて、向かうのは1-2。廊下を歩いて、表札を眺めて確かめて、俺は足でドアを開けて教室の中へと入った。

 案の定、中には誰も居なかった。自分の席がわからないけど、出席番号順のロッカーはギリギリ分かる。クラスの人数を超える数があるロッカーの中から一つ、完全な空きを見つけた。出席番号は自分の物で、俺は取り敢えずそこに教科書類を全て突っ込む。

 軽くなった両手。後ろの黒板に書いてある今日の時間割の中で使う教科書だけを引き抜いて、次に教卓へと向かう。

 教卓の上には、勘だったが席の並びが書いてあった。自分の席を探して、そこに腰掛ける。

 机の中に今日使う教科書を入れて、俺は一息付いて机に突っ伏した。

 教室の一番窓際。その真ん中より少し後ろの列の席は横を見れば直ぐに窓から青空が見える。風に吹かれて流れる白い雲をぼんやりと眺めている内に、続々と教室に人が入ってきた。

 少しだけ様子を伺うと、何人かは俺をちらりと見たりしている。

 昨日来なかった人間なのだ。少しは興味を持たれているのだろう。

 やがて、教室は喧騒に包まれていく。その心地よい賑やかさの中で一人空を見ている内に、八時二十五分になってチャイムが鳴り響いた。生徒たちは直ぐに自分の席へ座り、あれだけ煩かったクラスが急に静かになる。

「おはようー! じゃ、HR始めよっか!」

 その静かさを破る夕張先生。右手にファイルと書類を抱えた先生はドアを後ろ手に閉めると、教壇の上に立ち教卓にファイルを置いた。

 それと同時に、誰かが「きりーつ」と告げ、教室中の全員が立ち上がる。

 声を揃えて挨拶し、全員が座った所で夕張先生はにこやかに笑いながら話し始めた。


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