何はともあれ。ここから、俺の友達百人伝説が幕を開けるのだ……ッッ!!
数分後、俺は席に座って山盛りの食事を黙々と食べていた。
一人寂しく、死んだように表情を動かさず。食堂の隅っこの席で、機械のように食べ物を口に運んでいた。
食堂は俺の居る席だけを除き賑やかで、和気あいあいとした楽し気な雰囲気が充満している。
男子数人で固まったり、女子会のように話し込んでいたり、男子と女子が固まって会話しているグループもあった。結論から言うと、俺以外のぼっちは居ない。
田舎に居た俺は、グループに入る方法が分からない。だから、こんな風にグループを組まれた時点でアウトだ。恐らく、明日学校に行ってもまともに話せないだろう。
味付けの濃い肉と魚の煮つけを交互に食べつつ、表情を一瞬も変えずに、大量の料理を減らしていく。流石に多く取りすぎた。あれだけ空いていたお腹ももう満腹になりそうで、残りの料理の量を見て少し額に汗が浮かぶ。
食べきらないのは失礼だと、農作業をしていた人間だから身をもって分かる。
お米の一粒でも、必死に汗水流して作ったもの。理解しているから、残す訳には行かない。
もごもごと口を動かして、茶碗の白米を削る。一人ぼっちのまま、隅っこの席でそうしていると。
「……ここ、いい?」
突然、声を掛けられた。
びっくう! と肩を跳ね上げて、俺は口の中に残っていた魚の骨をその衝撃で飲み込んでしまっう。喉にちくりと刺すような痛みが走り、顔を顰める。
慌てて頷くと、俺は魚の骨を取るために白米を噛まずに飲み込んだ。
こうやると骨が取れるって、どこかで聞いた事がある。実際にしっかりと骨は取れて、それでもまだ少し残る痛みを流し込んだ水で抑えた。
そこまでしてやっと一息ついて、俺は目の前に座った人に目を向けた。
「いただきます」
そう呟いたのは、矢代涼花。長く艶やかな黒髪に、蒼い瞳。端正な顔立ちに、小さな唇。
細く白い指で箸を丁寧に持つと、そのまま魚の煮つけを崩して小さな欠片を口に運ぶ。静かにもくもくと長く咀嚼して、こくんと飲み込んだ。
「……な、何でここに?」
「だめだった?」
「いや、そうじゃなくて。涼花は友達居るんじゃないかなあと」
「居ない」
「え?」
「誰も話しかけてきてくれない……。話しかけても逃げちゃう」
そう言って、涼花は残念そうに俯いた。
俺にはその理由が、何となく分かる。
恐らく、涼花は高嶺の花と認識されているのだ。整ったスタイルと顔に、物静かな、クールな性格。俺の大怪我を直ぐに直して見せた『精霊』の力。
現に、食堂の色んな所から沢山の男子が涼花へ視線を送っているも、話しかける人はいない。
「話してくれるの式だけ」
(俺も話してくれるの涼花だけ)
涼花の言葉を少し変えて脳内で呟き、俺は残りの肉を口に入れた。
俺が今まで見てきた中で、と言っても田舎育ちだから今日初めて同年代の人を見たわけだが、涼花は可愛い女子の中でも最上位に間違いなく入る。
じゃあ他の女子を見た事があるのかと言われればあんまり見た事は無いけれど。
他に美少女といえば、ルテミスもかなりの美少女だとは思う。性格が残念なのを除けば。
俺は高嶺の花とか、思う以前に体と携帯を直してくれた恩人という認識だから、まだ話せる。田舎では老人ばっかだったので、同年代に興味があるのも大きな理由だ。
それに、俺も友達が居ないから涼花がこうして来てくれたのはありがたい。
「……そういえば、昼間畑、やってたよね?」
「うん。ルテミスに頼まれたんだ」
涼花の問いに、俺は頷いて答える。
「大変じゃないの?」
「人手が足りないから結構大変。畑も広いからさ」
軽く笑って、俺は返す。
すると涼花は突然目を輝かせて、
「私も畑仕事やってみたい」
「え?」
そんな事を、言ってきた。