エセ料理人の革命的生活   作:岸若まみず

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第14話 高峯流のお家争い

「あっ!この店です!

 

この店がですね、あの大人気スナック、ガンダムチップスの開発者。

 

そしてガンダムチップスの名前の由来である、映画機動戦士ガンダムの制作会社サンサーラの社長のお店なんですね。

 

社長の高峯氏はこのお店を中学生の頃にオープンしたとの事なんです。

 

残念ながら取材は一切NGとの事なので、並んでいらっしゃる方々にお話を聞いてみようと思います。

 

すいません、◯◯テレビのとくとく!という番組なんですけれど……」

 

 

 

アナウンサーから話しかけられた、眼鏡をかけた太った男は無言で店先の但し書きを指差した。

 

『撮影はご遠慮願います』と書いてある。

 

 

 

「はいっ!店内は撮影しませんので、今日は何時から並んでいらっしゃるんですか?」

 

「…………あんたらみたいなのが来ると純度が落ちるんだよ」

 

「……はぁ?純度ですか?」

 

 

 

困惑するアナウンサーと眼鏡の男が映るフレームに、数人の男が入ってきて眼鏡の男をなだめ始めた。

 

 

 

「吉崎さん、やめときなって……」

 

「メガ公やめとけよ」

 

「撮り終わったらどっか行くって」

 

 

 

なんと、この男が店員達がよく言っていた忠豚メガ公というあだ名の常連さんらしい。

 

 

 

「俺はな、カレーに命かけてんだ!ここのカレーと嫁と子供のために生きてんだよ!」

 

「はぁ……」

 

 

 

なぜか更に加熱するメガ公にアナウンサーはドン引きだ。

 

 

 

「まぁまぁ落ち着けって……」

 

「テレビ映ってるからさ……」

 

 

 

仲間達も引いてる。

 

 

 

「そ、それではそろそろお時間ですのでスタジオにカメラお返ししま〜す、こちら渋谷区にありますカレーショップきらり……」

 

「飯屋きらりだよ」

 

 

 

誰かの訂正の声とともにカメラはすぐにスタジオに切り替わり。

 

「なかなか強烈なファンがいる店ですね……」

 

とコメンテーターも苦笑い。

 

以上、うちの飯屋きらりに来た昼帯番組の取材だった。

 

 

 

 

 

2014年3月に公開された俺の会社の映画『機動戦士ガンダムⅠ』

 

その公開期間が一度も延長することなく終了した。

 

評判は上々、売上は死亡。

 

爆死じゃないだけマシといった状況だ。

 

制作上ではかなり気を使ったモビルスーツによるアクションだが、褒められるのは別の箇所ばかり。

 

リテイク出しまくってクオリティ上げて、喜んでるのはほとんど俺だけだ。

 

池袋だか秋葉原だかって名前の大学生1人からロボット描写に対する熱烈なお褒めの手紙が届いたぐらいか、正直あれは嬉しかった。

 

当初の目論見であった、男性へのロボットアニメの普及というのは完全に失敗。

 

女性ファンからの反応もほどほど、映画マニアからの評価はなかなか健闘してるって感じだ。

 

普通ならこんな微妙な映画は打ち切りだろうが、我が社的には辞める理由がない。

 

ガンダムチップスが死ぬほど売れまくっているからだ。

 

シールだけ抜き取られてチョコが捨てられたビックリマンと逆の現象が起きているらしく、ポテチだけ食べられておまけのガンダムカードは封すら切らずに捨てられているらしい。

 

それでも販売会社が他のポテチのラインを最小限にしてまで生産したという英断のおかげもあってか、俺の預金残高の桁が一つ増えた。

 

そしてポテチで出た利益を使って、ミリタリー系のプラモデルメーカーにガンダムのプラモデルを生産して貰ったが全く売れず。

 

俺の預金残高の桁が一つ減った。

 

とにかくガンダムチップスのおかげでガンダムは知名度最高にして人気微妙という不思議な状態に置かれている。

 

あくまで前向きに考えれば、というエクスキューズはつくが。

 

二作目を公開する前に一作目をテレビ公開するかネットで無料配信でもしてみれば、十分に勝負を狙えるポジションにいると言えるだろう。

 

ということで、機動戦士ガンダムⅡ制作決定だ。

 

半ば決まっていた事だが、俺は社員たちと改めて祝杯を上げたのだった。

 

作画マンの中には「この職場なくなったらまともに暮らしていけないっすよ!」と泣いているものもいた、どれだけ厳しいんだアニメ業界ってやつは!

 

 

 

 

 

四月、花ほころぶ出会いの季節だ。

 

きらりは無事に志望校に通り、毎日私服で楽しそうに学校に行っている。

 

バレー部とバスケ部から熱い勧誘を受けているらしいが、服のアレンジが好きなきらりは服飾同好会を作りたいらしい。

 

背が高い女性向けの服も金を出せば色々手に入るが、圧倒的にシンプルな物が多いからな。

 

きらりは昔からシンプルな服を自分で派手派手にアレンジして着ていたのだった。

 

ミシン針で手を縫いそうになり、逆に針が砕け散ってミシンがぶっ壊れた事もあったな。

 

そういう身体だからきらりは予防接種も打てないらしい、逆に病気になった所も見たことないけど。

 

そんな彼女はこの間飯屋きらりに学校の友達を連れてきた。

 

小学校から一緒の三村ちゃんと、高校から友達になったという同じクラスの子が来てくれたのだが。

 

聞いてびっくり、大覇道の総合プロデューサーの娘さんだった。

 

世間の狭さには驚くばかりだ。

 

『杏って、アイドルとかどうすかぁ?』と聞かれたので武内Pの名刺を渡しておいた。

 

「これは!」という子がいたら渡してくださいと美城芸能から箱で貰っていたものだ。

 

俺はもうあんまりアイドルマスター関係に関わる気がないので、結構便利に使わせてもらっている。

 

 

 

あとこの四月に、資格取得が趣味だと言って憚らないうちの嫁さん新田美波が簿記一級に合格したらしい。

 

学校の全校集会で表彰されたらしい。

 

俺は前世でもその手の資格はITパスポートと運転免許しか持っていなかったからイマイチ凄さがわからないが、凄いことなのだ。

 

美波は商工会議所から話を受けて簿記のナビゲーターとして仕事を貰い、今後日本中に彼女の写真入りのパンフレットが配られるそうだ。

 

話がデカくて良くわからないが、彼女は今後は税理士試験を受けるべく勉強を続けていくとのことだ。

 

 

 

楓は先々月に海外のファッションショーに参加して話題になった。

 

『エキゾチックな魅力』とか言ってスケスケな衣装を着させられるのかと思いきや、ボ・ディドリーのギターみたいな真四角のスーツを着させられたらしい。

 

評価は可もなく不可もなく、でも楓の実家の寿司屋では親父さんの手によってニュースサイトの写真が何倍にも引き伸ばされて飾られていた。

 

この仕事で楓のモデル専業計画が一歩進んだのは間違いないだろう。

 

日本で活動してるのに海外のコレクションに呼ばれたっていうのは結構な箔になるからな、うちの芸能事業部の営業パワーも侮れんものだ。

 

 

 

初代シンデレラガール佐久間まゆは楽曲リリースにライブに忙しく活動している。

 

無邪気だった彼女にも色気がでてきて、噂によると765プロで用意された男性プロデューサーにベッタリらしい。

 

恋愛禁止という世界でもないのでそれは問題にならないらしいが、問題は765プロ中の女がそのプロデューサーを狙っていることだ。

 

いつか血の雨が降る夜がくるかもしれないぞ。

 

 

 

二代目シンデレラガールの速水奏も今年高校生らしいが、その動きは謎に包まれている。

 

いきなりドラマ三本と映画二本に出演が決まったと話題になっていたが、はたしてそこまでスケジュールが空くのだろうか。

 

少なくとも入った高校には当分行けないに違いない。

 

彼女の演技を見たこともないが、恐らく黒井社長は今後彼女を女優として売り出していくつもりなんだろう。

 

 

 

 

 

七月、アニメ会社サンサーラの一周年記念パーティを行うことになった。

 

サギゲームスの宣伝用アニメーションを手がけた縁もあり、サギゲームス社員も結構な数が参加していた。

 

料理は飯屋きらりのスタッフと俺と自動車コンビで用意することになった。

 

なったのだが、それが良くなかったらしい。

 

 

 

「ポテトサラダも満足に作れないんですか?」

 

「何か文句でも?平民」

 

「私、一応あなたの姉弟子なんですけど?これ、皮を剥いてから茹でたでしょう?」

 

「別にあの男の弟子になったつもりもないんだけど……それを言うならあなたは雇われ、私は直弟子扱いでしょう。立っているステージが違うことがわからないのかしら?」

 

「私は少なくとも店の厨房を任されてるんですけど?あなたはオーナーにつきっきりで勉強していても基礎的な事すら学べてない。意識が低いんですよ」

 

「ああっ!?」

 

「何か申し開きでも?」

 

 

 

なぜか宴会料理を前に三船嬢と財前さんが大喧嘩を始めてしまった。

 

客達が「これもおいしいよ」とか「二人共料理上手いよ」とか微妙に気を使った事を言いながら順調にポテトサラダを食べていくのも気に入らないようで。

 

「後で作り直しますので」と冷たい声で言う三船嬢と、「こんな豚どもに上等な料理なんて必要ないのよ」と嘲笑う財前さんの間にまた火花が散った。

 

 

 

「ちょっと美優、やめなさいって……」

 

「美優さんちょっと落ち着いて……」

 

「僕はオーナー君の弟子っていうか、どちらかといえば兄貴的な所あるよね」

 

「あたしの料理も食べてくださーい!」

 

 

 

狼狽えながら止める和久井女史とニート、そして勝手な事をのたまうヒモ。

 

さらに勝手に作った梅昆布茶パスタを色んな人に薦めまくる日野さんの馬鹿デカい声が混ざり合い、順調に場のカオスさが加速していく。

 

 

 

「高峯流のお家争いじゃ~ん」

 

「身内の事だから恥ずかしいにぃ……」

 

「どっちの料理も美味しいのになぁ……」

 

 

 

と喋っているのは我が妹きらりとその友達の双葉杏、三村かな子の三人だ。

 

こいつらは今美城プロに所属している。

 

総合プロデューサーの娘である双葉杏が武内Pの名刺に電話した後、すぐに会うことになり。

 

その時にきらりとかな子に付き添ってもらったそうだ。

 

そのまま、なぜか付き添いの二人ごと武内君のお眼鏡にかない、熱心に口説かれてアイドル候補生となることに決めたらしい。

 

よくあるやつだ。

 

きらりも前からアイドルが踊ってるところをキラキラした目で見てたし、ほんとは二人にもデビュー願望があったのだろう。

 

といっても候補生までなら誰にでもなれると言ってもいい。

 

このアイドル戦国時代だ、各社候補生の育成には力を入れているが、物になるのはほんの数割なんだとか

 

とはいえ美城は超大手だから他の事務所よりチャンスも多けりゃレッスンの質もいい、一番マシと言っても過言じゃないだろう。

 

そんな事を考えてると、口喧嘩がヒートアップし切った二人がこっちに近づいてきた。

 

 

 

「じゃあオーナーに食べてもらって決めてもらいましょうか」

 

「あらあら、はっきりさせちゃっていいのかしら?私、一応気を使ったつもりだったんだけど?」

 

「私はちっちゃくて可愛いオーナーがピカピカの詰め襟を着てた頃から知ってるんです、あなたよりよっぽどオーナー好みの味のはずです」

 

「あたしのも~!ししょ~!あたしの料理も食べてください~!!」

 

「あの~、オーナー、食べてやってくださいます?」

 

「やだ」

 

 

 

和久井女史には悪いが全部雑な料理だ、舌に良くないんでね。

 

 

 

「ふざけんな~!」

 

「お前がちゃんとまとめろや~!!」

 

「クソ男~!美波様と別れろ!!アホ!」

 

「ロボットのリテイク出すなボケナス!!」

 

 

 

会場中からブーイングが飛んだ。

 

全然関係ない誹謗中傷も混ざってるじゃねぇか!

 

結局酔っ払ったアニメ監督ジャクソン・カトリーヌ・東郷三越麗子に羽交い締めにされた俺は、三人の料理を口に詰め込まれることになるのだった。

 

 

 

 

 

2014年9月は長雨の多い月だった。

 

梅雨に降りそこねた雨が全部纏めて降ったような雨天模様が続いてヒヤヒヤしたが、日曜日の大安は前日から続けての快晴で一安心だった。

 

この日、俺と美波と楓の祝言が行われた。

 

披露宴は後日という事で、親族だけのひっそりとした結婚式だ。

 

先月18歳になった俺がずーっと二人の嫁さんを待たせていた事になるが、誕生日は弄れないんだからしょうがないだろう。

 

出席者は、うちの家族は兄貴と姉貴ときらり、そして婆さんと親父だ。

 

大女優の母親は結局来なかった。

 

電話には出たが「忙しいから欠席ということで」と言われただけだった。

 

結婚式も三三九度ぐらいまでは覚えているが、正直そこから先はずっと眠気と戦っていたような気がする。

 

前世を含めると俺も結構な年だ、もう集中力がもたない。

 

いや、それは昔からか。

 

とにかく厳かに式は執り行われ、俺と美波と楓は正式に家族になったのだった。

 

美波も楓もお互いに同居OKということで、実家の近所に三人のための家を新築した。

 

俺の要望で車が五台は停められるガレージ付きだ。

 

ようやく18歳なわけだしせっかくのVIP生活だ、高級車ぐらい乗り回さないとな。

 

とは思うものの、家と一緒に注文した高級車は受注生産のために六ヶ月待ち。

 

しばらくの間デカいガレージには社用車のプロボックスと、楓が嫁入り道具に貰ってきた型落ちのフォレスターだけが並んでいたのだった。




転勤多すぎるんで退職しようとしていたのですが、揉めに揉めて円満退職には二ヶ月か三ヶ月必要という事になりましたので投稿再開しました。
ただ以前よりペースは落ちますことはご容赦ください。

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