2000文字ほど追記して色々編集し直しました。
怒涛の2012年もようやく終わり、2013年がやってきた。
俺は元旦から会社近くの銭湯で餅つきだ。
家でつくと妹のきらりが張り切って臼を壊すし、狭い飯屋きらりでやるにはスペースが足りない。
ゲーム会社の方は今まさに正月イベントでフル回転だ、さすがに邪魔だろ。
俺が餅をつくとチートの関係で一瞬でつき終わるので、実家の分もきらりの分も、社員の分もどんどんついていく。
昨日家で婆ちゃんの出ている紅白を見ながら仕込んだ肉まんも、千川さんに任せて蒸して貰っている。
夜中にコーヒー買いに出たら初日の出暴走で転んだらしい暴走族の姉ちゃんがいたから風呂にいれてやった、正月から風邪ひくといかんからな。
正月休みはないけど正月気分で仕事したいっていう気合いの入った和装をした社員達や、出勤前に初詣に行ってきた社員達が朝飯を食いに続々集まってくる。
「こういう時は普通ケチらずおせちだよな」
とか文句垂れながらも食べる手は止まらない。
餅も肉まんも好評でどんどんなくなっていく。
だいたい皆集まったかなってところで、煮込んどいた雑煮に餅を入れて締めにした。
雑煮は東京風のすまし汁だが、雑煮は地域によって全く形が違うから気に入らないやつ用に汁粉も作っておいた。
結局みんな両方食べてたから、わざわざ気使った意味もなかったけどな。
プロボックスに積めるだけ持ち込んだ餅米は最終的に全部餅に変わり、社員やその家族の腹に収まった。
社員の親から「大変美味しいお餅を頂きましてありがとうございました」って丁寧なお礼状が届いたのには驚いたが、これだけ大好評ならこれから毎年やる事になりそうだな。
あと、「お年玉くれー!」と一部の社員に言われたが、お前らがよこせよ!16の俺に!
正月の昼からはきらりの社員達がそれぞれ顔を出した。
女三人組は振り袖でやってきた。
和久井女史は「あれがサギゲームス本社ね……」と会社の方を拝みながらサプチケ付きお正月スペシャルガチャ(三千円)を回し。
三船嬢は暖色の振り袖なのにまるで未亡人みたいな雰囲気で、俺に聞いた雑煮の作り方をメモっていた。
佐藤は和装なのになぜか頭がツインテールで。
「どうよオーナー?」とくるりと回って聞くのに曖昧な笑みを返すことしかできなかった。
安部菜々曰く最近の佐藤はアイドルに興味津々らしい。
先に言うが、俺に人事権はないぞ!
最近入ったバイトの原田美世は競技用マフラー付きのザクホース(ZXR250)で爆音を撒き散らしながらやってきた。
もっと早く来たら族の姉ちゃんがいて色々喋れたのにな。
こいつは和装じゃなくてシンプソンのジャケットだ、メットのせいで髪も変な癖がついている。
女子力はゼロだが不思議と愛嬌がある、こいつもアイドルをやったら意外といい線いくんじゃないだろうか……
いや、いかんな、最近美人を見ると全員アイドル候補に見える。
そういうのは武内くんに任せておこう。
原田はお年玉と餅をあげると「やったー!スプロケ買って帰ります!」と大喜びで走り去っていった。
ヒモは冬なのにクロックスのサンダルをはいて嫁さん連れで来た。
「今日もしかして寒い?」と震えながら言うヒモの脇を小突く奥さんは重装備だ。
「実は奥さんが妊娠してね、僕もパパになることになったよ」
「実は今二ヶ月で……」
とはにかむ奥さんに銭湯中から祝福の言葉が投げかけられた。
俺は「お身体に気をつけてくださいね」と言いながらヒモが持てるだけ餅を持たせた。
そうか、あいつが親父かぁ……
ニート本田は妹と嫁さん連れでやってきた。
嫁さんはちょっと小柄な可愛い感じの人だ、元々飯屋きらりの客だったそうな。
「あけましておめでとうございます……」
「おめでとー!しゃちょー!お年玉ちょーだい!」
妹がコロコロ笑いながら言うのを、本田がちょっと焦った様子でたしなめている。
俺が「来るかもな〜」と思って用意してあったぽち袋を渡すと。
「やったー!しゃちょー太っ腹じゃーん!」
と大喜びでくるくる回って礼を言った。
眩しい笑顔に「アイドルになったらほんとに人気でるかもな〜」と思いつつも、俺はやはり自分の鑑識眼を全く信用できない。
やりたい事とやれる事だけをするのが俺流だ。
もし彼女がほんとにアイドルをやりたいなら懇意の芸能事務所に任せよう。
ちなみにうちの嫁さん達は営業で三が日どころか一月半ばまで全国やテレビ局を回りまくっていた。
アイドルに一家団欒は難しい……
2月半ばのくそ寒い日の事だ。
俺は雪化粧に包まれた山をぼんやり眺めながら、大阪行きの新幹線に揺られていた。
婆さんからの指令で、急遽大阪の会合でコックをすることになったのだ。
局関係なので断るわけにもいかず、俺はアシスタントとして三船嬢と千川さんを連れてやってきていた。
千川さんは呼んでもないのになぜか駅で待っていて、新幹線の切符までしっかり用意していた……怖い。
普段ならアシスタントなんか使わず、一人で速攻で料理して速攻で帰るのだが。
今日は婆さんから「相手にナメられてるから本気でやんな」と言われているので本気の時の毒見役が必要だったのだ。
朝のうちに会場のホテルに着き、ホテルの人に買ってきてもらっておいた食材をチェックした。
なかなかいい食材だ、これは高峯の魔法がよくかかりそうだ。
作るのは一応フランス料理のコース。
婆さんがシェフに任せろと言ったのに、先方がフレンチのフルコースを指定してきたらしい。
わざわざ俺を指名しておいてそういう態度を取るとは……ムカつくからきっちり味で仕返しをしてやろう。
クックパッドでフレンチの作り方を調べながらいつものように作っていく、が、今日は本気だ。
普段目分量や程々でやっている項目をミリグラム単位で完璧にはかり、素材の水気を必要なだけ吸い取り、熱の入りも秒コンマ単位で調整する。
人に任せる部分は一つもない、全部の行程に俺のチートが入っている。
出来上がった瞬間から味が落ちるので、食事者達は全員席で待たせてある。
「何を作っとるんや!!頼む!食わしてくれ!!!」
「金ならいくらでもやる!中に入れろ!入れてくれ!!」
「こんな匂い嗅がされて我慢なんかできるか!!いいから入れろ!入れんか!!」
厨房の入口には匂いにつられた客達が押し寄せているらしい。
警備担当者が必死でドアの前を死守してくれている、勿論警備にも後で残った飯を食わしてやる約束をしたんだがな。
連れてきた二人の毒見役はギラついた目で料理を狙う料理人達から料理を守ってくれている。
料理人が一番怖いからな。
あいつら美味い料理を食ったり作ったりする事には禁じ手なんかないと思ってやがる、盗みギンバイ当たり前の奴らだ。
なので俺は味見の終わった料理からさっさと配膳用エレベーターで会場へ運ばせることにした。
まず三船嬢に前菜を味見させる。
咀嚼して飲み込んだ後、急に濃い顔になったか思うと「ゥンまあああ〜いっ!」と奇妙な声を上げて体をくねらせた。
なるほど、出来は上々だ。
俺はあんまり自分の味覚を信用していない、味は他人の反応で測るのだ。
次に、千川さんにスープを飲ませた。
天井を見上げながら「うまい〜〜っ!!」と声を上げ菩薩のような笑顔で固まる彼女を見て、俺はこれまた成功を確信した。
厨房の外の群衆もかなり数が増えてきたようだ、肉を焼きだしたからだな。
もはや人としての言葉が聞き取れなくなっていて、「あー」とか「うー」とかいう野太い声と泣いている女子供の声がかすかに聞こえてくる。
ほとんどゾンビ映画の立て篭もりシーンだ。
ふわふわした様子の三船嬢に白身魚のムニエルを食わす。
静かに咀嚼して飲み込み、しばらく腹のあたりを押さえて何かを堪えていたかと思うと。
「さかな
うま」
とひとこと言い、大の字になって白目を剥いてしまった。
うーむ、嫁入り前の娘さんに食わしていいものではなかったか……
白目を剥いてうわ言を呟く三船嬢の口にレモンピールを練り込んだシャーベットを突っ込むと、一瞬で目を覚まして「らずもね〜うめ〜!!」と毛を逆立たせてスーパー岩手人に変身してしまった。
どこからか『ジュワッ!ジュワッ!』という効果音が聞こえてきそうな勢いだ。
もう料理人達は完全にドン引きだ。
さっきまではなんとか料理を盗もうと俺に鼻息のかかりそうな距離にいたのに、今は完全に壁際に張り付いて恐怖に引きつった顔でこっちを見ている。
三船嬢の様子を間近で見ていてビビりまくって腰が引けている千川さんの口に、俺は無理やりシャトーブリアンを突っ込んだ。
千川さんは何も言わず、瞳を閉じたまましめやかに失○して失神した。
人が○を漏らすのを小学校以来始めて見た。
しかし、おかげで成果は上々だ、これで会場のアホどもも美食の極み、食の地獄を見ることになるだろう。
俺は千川さんの事を「チヒータァー!!でぇじょうぶか!」と介抱する三船嬢を尻目に次々と料理を送り込んでいった。
食事会場では一品ごとに凄まじい絶叫が響き、精神錯乱者や失神者、そして失禁者が続出したらしい。
この日以降、俺たち三人は無事そのホテルを出禁になったのだった。
あっという間に花香る四月が来た。
出会いの季節だ。
しかし我が社は今年の新卒採用数たったの一人、千川さんのみだ。
元々扱い的には社員と変わらなかったので新鮮味はないが、さすがに今の我が社には新卒採用をしている余裕がない。
千川さんには俺から個人的に入社祝い金と飯屋きらりで使える大盛り無料チケット1年分が送られた。
社内では千川さんは俺の話し相手兼秘書みたいな扱いになってるらしい。
一部の社員は失礼にも俺のカキタレ扱いしているが、そんな事実はない。
さすがに身近すぎて手は出せない。
日ごろからボディタッチが多かったり、誕生日にネクタイ貰ったりしたけど、社員からの親愛の情だと思っている……思いたい。
アイドル達は順調に世間に浸透し、冠番組もいくつか頂いた。
アイドルマスタープロジェクト以外のアイドル達もどんどん出てきていて、これからは戦国時代になりそうだ。
それでもセンセーションを巻き起こした10人の人気はこゆるぎもせず『オリジナルテン』と呼ばれているらしい。
世間では内巻きの髪型が大流行してるらしい、佐久間まゆ高垣楓効果だそうだ。
佐久間さんはこだわってるのかもしれないけど、楓の髪型は単なる天パだぞ。
佐久間まゆは名実ともに日本で一番有名な14歳になってしまい、とてつもなく忙しい毎日を送っているみたいだ。
歌もダンスも一番下手だったのにいきなり人気トップになってしまい、そのギャップに苦しんでいるようだ。
休みもなしに練習練習で心配だと有能トレーナー姉妹が言っていた。
CDの印税が凄いことになったので、郵便貯金じゃ間に合わなくなって初めて銀行に行ったそうだ。
この間ラジオで話しているところをたまたま聞いた、中学生らしいエピソードにほっこりだ。
あと時々飯屋きらりの行列に並んでいるところを激写されているらしい、店にサインも飾ってあったしな。
うちの嫁さんの高垣楓はあんまり仕事していない。
酒が飲める仕事ならやりたいかもって言っていたのだが。
「あんまり俺のいないとこで酒飲まないでくれ」
と言ったら顔真っ赤にして照れていた。
ということで彼女はアイドルマスターチーム全体での仕事メインだ。
雑誌のコラムも書く予定だったけど、マイペース過ぎて第一稿の時点で企画ごと没になった。
モデルの仕事は定期的に入ってきていて、彼女のお小遣い元になっているようだ。
宮本フレデリカは行きつけの古着屋や美容室なんかが大繁盛になっているそうだ。
彼女が雑誌やSNSで紹介した服なんかも絶対売り切れるそうで、オシャレ番長としての地位を確固たるものにしているらしい。
アイドルやモデルはファッションリーダーでもあるからな。
彼女の着こなしを真似した女が街に溢れているが、基本的に足の長さが足りてないように思う。
うちの嫁さんの新田美波はマルチな活躍を見せている。
なんてったってアイドルだ、人気投票第二位だからな。
立ってるだけで可愛いし、頭いいから高校生なのにトークも結構いけるのでテレビにひっぱりだこだ。
CMやってる制汗剤も売れまくってる、まぁ爽やかなCMだからな。
腋に制汗剤をふりかける様子がエロいと評判だ。
ドラマも映画も出演が決まっていて、今は放課後はスクールに通いながら演技の勉強をしている。
真面目だからな、料理はできないけど。
城ヶ崎美嘉はいろんな年代にファンが多くて、彼女の真似をしたギャル達も街に大分増えた。
前世の記憶よりは清楚寄りの、肌を焼かない奴らだ。
ホットパンツやパツパツのキャミソールが大変扇情的でよろしい、俺は好きだぞ。
彼女はスタバやオシャレな飯屋に行くたびに写真を投稿し、インスタグラムの覇者となっているらしい。
間違えて男との画像とかを上げてくれるなよ。
一ノ瀬志希はよくわからんが雑誌の企画で香水を自作して資○堂に売り込んだらしい。
これが売れてる、めちゃくちゃ売れてる。
うちの姉がつけていてびっくりしたぐらいだ。
金銭的にはシンデレラガール佐久間まゆより稼いでいる、海外でも香水が売れてるらしいからな。
ギフテッドって奴の動きは全く予想不可能だ。
塩見周子は可もなく不可もなく、ほどほどにアイドル生活を楽しんでいるようだ。
彼女は出演する番組もその他の仕事もできるだけ絞って、基本的には旦那さんとの生活を大切にしているそうだ。
飄々としているがメンタル的に安定していて、他のアイドル達の精神的な支えになってくれているらしい。
安部菜々と川島瑞樹は鎖から解き放たれた獣のように暴れまわっている。
二人共『二十代半ばだからアイドルとしての寿命が長くない』とか言って精力的にCDを出しライブをし。
片っ端からテレビに出まくって武内くんの評価を上げまくっているらしい。
二人共トーク力があるしキャラが濃いから使いやすいそうだ。
川島さんは古巣のテレビ局でも特集組まれたりして、故郷に錦を飾ったようだ。
ウサミンは「菜々は17歳なので軽いタバコしか吸ってません」と爆弾発言をして一応週刊誌に取り上げられたが、誰も相手にしなかった。
来年からも17歳で通すらしい、ギャラで「昔から欲しかったソアラを買った」と大威張りしていた。
速水奏は謎だ。
元々あんまり喋ったことないし。
CD出してるしテレビも出てるのは知ってるけど、俺は見たことがない。
961プロ的にはアーティスト志向というか、バラエティ番組とかには出さない感じらしい。
次のシンデレラガールを狙って虎視眈々と爪を研いでいるんじゃないかと思っている。
黒井のオッサンは異常に負けず嫌いだしな。
イベントの打ち上げでゲーム大会したら「私が勝つまでやめん!」とか言ってコントローラー離さなかったからな。
あとカラオケでもマイクを離したがらない。
そういえば佐久間まゆの『魔法を信じるかい?』が世界的に結構売れていて、また「KTRって結局誰なんだ?」って騒ぎになってるらしい。
俺のとこにも問い合わせが来まくってて一時期は電話が鳴りっぱなしだった。
5ヶ国語を喋れる千川さんが完全シャットダウンしてくれたけど、ますます千川さんに関する謎が深まった気がする。
個人的にはこのままフェードアウトしたいが……
961と美城のオッサン達的にはアイドルマスター第二弾でも俺が曲を出すのは既定路線のようだ。
出さんといったら出さんがな。
各事務所からアイドルマスタープロジェクトに自薦するアイドル達のリストが送られてきた。
バラエティ豊かすぎて、率直に言ってまとまりのない女性達がズラッと並んでいる。
俺はざっと目を通したが、さっさと総合プロデューサーに渡してしまった。
アイドルマスタープロジェクトはほとんど完全に俺の手を離れたと言ってもいい。
アイドルマスターをやりたいというプロデューサーは山ほどいるし、俺はその分何か別のことに挑戦すべきだと思ったのだ。
そして時は流れ紫陽花香る六月。
俺はアニメを作っていた。
PUBG面白すぎでは?