4話目にして初のまともな原作キャラ登場です。
黒歌と白音がうっかり悪魔の実を口にしてしまってから早一ヶ月。
そして、いつになったら帰ってくるのか疑問な親父が、海に出てから一ヶ月と一週間。
俺にとっては予想以上のことが沢山あった。
その全てが良い方という訳でもなく、少々頭を悩ませる事もある。
まず一つ。
元々暗いこの島が更に暗く寝静まる夜中に、こっそり俺の部屋に侵入する者がいる。
まあ、黒歌と白音しかいないが・・・・。よく考えて欲しい。
朝起きて隣を見ると黒歌の寝顔。
驚いて寝返りを打つとあるのは白音の寝顔。
加えて言わせてもらえば二人の就寝時の服装は着物だ。二人も寝返りを打つから当然着物がはだけてしまう訳で、目のやり場に困る。
朝から男として辛いが、これはまだマシな方だ。
一番厄介なのは二つ目
何と言っても入浴中に乱入してくること・・・・・・これしかない。
『背中を流してあげるにゃん』と言って黒歌が俺の体を撫でるように触ってきたり、『髪を洗ってください』と言って白音が膝の上に乗ってきたり。
気を許してくれてるのは嬉しいが、もし俺じゃなかったら野獣と化していたに違いない。自分でもよく堪えられたと思うからな。
二人は俺のことを兄のように慕ってくれる、俺にとっては妹のような存在だ。それなのに下心を抱き始めたら二人を裏切ることになる・・・・・。
ならば、確固たる意思を持って雑念を取り払ってやろう。
━━━━と、襲いかかる打撃と魔力弾を避けながら改めてそんな事を考える。
「ふっ・・・・・!えい!」
「鋭くていい拳だ。けど・・・・・まだ甘い」
白い猫耳と尻尾を生やした白音がスピードを生かして俺を翻弄し、隙を見て拳を放つ。
風を切る音が鳴るほどに澄まされているが、狙いがバレバレだ。俺は敢えて受け止めて、動きが止まった瞬間に軸足を払う。
白音は即座に地面に手を着いてバク転で距離を取った。
「姉さま、今です!」
ズドンッ!!
白音の声とともに、突然体を束縛するような重圧が襲いかかる。
思わず膝をついてしまった事に驚きつつ、下を見ると重圧の謎が判明した。
なるほど、この魔方陣は黒歌の仕業か・・・・!
先程から分かりやすい白音の攻撃もこの術式に誘導させるため、そして俺はまんまと引っ掛かってしまった。
「にゃん♪油断大敵だよ、ヴァーリ」
俺の後ろで黒い猫耳と二本の尻尾を生やした黒歌が笑みを浮かべて両手をかざしていた。
「まいったな・・・・」
神器『
だから、使えばルールを破った事になり俺は負け。ならば地力で抜けられるかと聞かれれば・・・・・・出来なくもないが時間が掛かる。
「白音、今にゃん!!」
「はい!」
黒歌と白音は俺の前後から凄まじい速度で迫ってくる。流石は
「くそっ・・・・!」
ビキビキ・・・・ッ!!
俺は足に万力のような力を込めて立ち上がろうとすると、地面と魔方陣にヒビが生じる。
あと、少し・・・・・!
強制脱出を試みたが━━━━━
ぎゅっ!ぎゅっ!
「捕まえたにゃ!」
「ヴァーリさん、捕まえました」
サンドイッチの具のように二人に抱きつかれた。
俺は一度大きく息を吐いてから再度力を込めて術式を破壊し、二人の頭を撫でる。
「まさか、捕まるとは思ってなかったな・・・・・。二人ともこの一ヶ月でよくここまで成長したよ」
「ヴァーリのスパルタのお陰だにゃん」
「はい、普通じゃありませんでしたから」
ああ、流石に俺もやり過ぎたと思った。
それでも必死に食らい付いてくる二人の気合いと底力に心底驚かされたよ。
先程の“戦闘”━━━━をイメージした遊び。
鍛え始めてから一ヶ月という節目に俺が考案したものだ。
ルールとしては至って単純、どんな手を使ってもいいから俺のことを捕まえること。
そして神器の使用は無し。
使ってしまえば捕まらない自信があるからだ。
まあ、使わずともまだ大丈夫だろうと余裕になってたらこの様さ。俺も一度、一から鍛え直してみようかな。
「ねえねえ、ヴァーリ。ちゃんと約束を覚えてるかにゃ?」
「ああ、覚えているよ。もう決めてあるのか?」
「はい!」
黒歌と白音は目をキラキラと輝かせて尻尾を振りながら俺を見上げてくる。
約束・・・・・・・そう、“もし俺に勝ったら二人のお願いを何でも一つ叶えてあげる”という実に嫌な予感がするものを開始前にしたんだ。
その時は負けるなんて微塵も頭に無かったから、すんなり了承をした。
『自業自得だ、ヴァーリ。油断をしなければ黒歌の術式に掛かることもなかったぞ。・・・・・・だがまあ、今は二人の成長を喜ぼう』
アルビオンは俺に呆れつつも笑みを含ませている辺り、まだ許容範囲ってことだろう。
この一ヶ月、戦闘に関しては俺が叩き込んだが、魔術はアルビオンに指導してもらった。
初めは乗り気じゃなかったアルビオンも何だかんだで生き生きとしてたな。
黒歌と白音から“アルビオン先生”なんて呼ばれて満更でも無さそうだったし。
「それでお願いは何なんだ?・・・・・出来れば優しいのだと嬉しい」
「ひどいにゃー、私たちが非情な事をおねがいするように見える?」
「まったくです。今まで良い子にしてたじゃないですか」
ふむ、非情じゃないのは分かる。良い子・・・・・?なのかは疑問に思うが一先ず良いとしよう。
「という訳で、私たちはヴァーリの一日所有権を要求するにゃん!」
黒歌は名探偵の如くビシッと指を俺に指す。
白音もそれに続いて指を向ける。
「私と姉さまで一日ずつですから、楽しみにしててください」
け、結構ノリノリなんだな・・・・・こういうのは恥ずかしがるかと思ってたけどそうでもないらしい。
って、一日所有権?
「それはつまり、一日中二人のものになるってことか?」
俺の問いに黒歌と白音は顔を真っ赤にさせてコクコクと頷く。
やっぱりそのポーズ恥ずかしいのか、と内心思いつつ以外と安全そうな要求に胸を撫で下ろす。
「わかったけど、俺の所有権なんかでいいのか?てっきり高額の宝石とかをねだるのかとばかり・・・・・」
「私たちにとってはある意味宝石よりも価値があるにゃん。・・・・・・・えへへ、ヴァーリと何しようかにゃ〜!」
「ヴァーリさんが私のものに・・・・!」
前言撤回だ、安全さの欠片も感じられないし悪い未来しか見えない気がする。
二人の目が獲物を狙うそれと同じなんだが・・・・・ちゃんと手加減はしてくれるのだろうか?
ま、まあ、きっと限度の範囲内で済ませてくれるはずだ。そう祈っておこう。
「はぁ、取り敢えず城に戻るか」
深くため息をついて、怪しげな妄想の世界に入り込んでいる二人を現実に呼び戻し城へ引き連れる。
▽▼▽
「ウキッ!」
俺達は広間に行く道中にある廊下を歩いていると、箒と塵取りを持った一匹のヒヒに頭を下げられた。
「ご苦労様」
俺は片手を上げて返事をすると、今度は窓を拭いているヒヒに頭を下げられる。
「ウキャッ!」
「お疲れ様」
さっきのヒヒと同じように返す。
これもまた、一ヶ月の間で起きた事に含まれるな。
とある日にいつものように場内の清掃にせっせと取り組んでいたら━━━━
『毎日大変にゃん。ヒヒ達に手伝ってもらったら?』と黒歌に冗談混じりに言われたんだ。
しかし俺は、ナイスアイデアと思いすかさず行動した。
取り敢えず十匹程いれば十分だったため、ヒヒの溜まり場へ殴り込み・・・・・もとい訪問。
案外すんなり着いてきてくれたヒヒ達だったが、その行動を許さないヒヒもいた。一際大きな体と強者の匂いを漂わせるヒヒ━━━━つまりは長だな。
牙を剥き出しにして威嚇していたが、ちゃんと説明したら渋々うなずいてくれた。
そして城に連れていき、ヒヒ達に調きょ・・・・・教育を施して今に至る。
この島にいるヒヒは“ヒューマンドリル”という種で、人間を真似て学習する賢いヒヒだ。教えれば直ぐに覚えてくれるので大変助かる。
「まさか本当に実行するとは思わなかったにゃん・・・・」
「武装したヒヒ達を従えさせるなんて、一体何を・・・・・・・いえ、分かりきった事でしたね」
「白音、俺は暴力で全てを解決する程野蛮じゃないぞ?」
二人とも、本当に平和的な交渉だったんだよ。だからそんな目で見ないでくれ。
「冗談ですよ、ヴァーリさんは優しい人ですからそんな事しないってわかります・・・・・」
白音は小さく微笑んで此方を見上げてくる。
「そ、そうか」
ストレートに言われるとどうもむず痒い。
少し恥ずかしくなって白音から咄嗟に視線を外してしまう。
「白音、中々やるにゃん・・・」
ぼそりと黒歌が何かを呟いているが、あまり気にしない方がいい。よくあることだからな。
それから長い廊下を歩き、すれ違うヒヒに労いの言葉をかけて漸く広間に着いた。
広間と言っても、今では生活感溢れるリラックス空間に改造されてしまっている。
主に俺の手によって。
大きな両開き扉を開けて先ず視界に入るのは、豪華な装飾がついた長テーブルと椅子。
そして、その中でもクッション性に富んでいて見た限り一番高価そうな椅子に足を組んで座る男・・・・・。
整った口髭に鋭い瞳、首からは金の十字架のネックレスをぶら下げて優雅にワインの入ったグラスを口に運ぶ。
黒歌と白音にとって見知らぬ男で警戒心を高め、戦闘体勢に移るが俺は手で制止させる。
まったく、一言くらい掛けてくれればいいものを・・・・・。
「いつの間に帰っていたんだ、親父」
「「えっ!? 」」
驚愕する二人をよそに親父はグラスをテーブルに置いて至って冷静に返答する。
「お前たちが外でじゃれている時だ」
親父は俺から黒歌と白音に視線を移す。
「そこの小娘二人はどうした?」
「一ヶ月程前からここに住むことになった黒歌と白音だ。無断で決めたことは悪いと思うけど、どうか許してほしい」
親父の“鷹のような瞳”に見られて二人はビクッと肩を揺らすが、直ぐに視線を外して『好きにしろ』と一言だけ言う。
ふぅ、良かった・・・・。
もし拒否されたら説得するためにこの島の地形を変えることになるところだった。
「ねえ、ヴァーリ・・・・。私あの人何処かで見たことあるにゃん」
「姉さまもですか?私も見たことありますよ」
「ああ、新聞にもたまに載ったりするからその時に見たんじゃないか?何せ、“王下七武海”の一人で剣の腕は世界の頂点だからな」
「「えっ・・・・」」
二人が口を開けたまま固まってしまった。
前に言わなかったか?親父が七武海だってことを。
『言ってないから驚いているんだ・・・・・』
アルビオンは疲れたように言う。
そうか、なら教えなきゃいけないな。
「俺の親父は、知っての通り世界最強の剣士で“鷹の目のミホーク”の異名を持っている。それから、俺のフルネームも教えていなかったな」
一呼吸置いてから二人に告げる。
「━━━━━俺の名はヴァーリ。ジュラキュール・ヴァーリだ」
この世界ではヴァーリ・ルシファーではなく、ジュラキュール・ヴァーリですね、はい。