白龍皇と姉妹猫の大海賊時代   作:しろろ

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2話 白龍皇の怒り?

「はっ・・・・はっ・・・・はっ」

 

俺、ヴァーリの一日の始まりは島を一周してから始まる。

そこそこ広い面積だからウォーミングアップには丁度いい。

 

リズムよく行われる呼吸。

今日もいつも通り、体の調子に問題は無さそうだ。

 

何をするにも体力は欠かせない。ましてや、俺ならば尚更必要不可欠なもの。

 

 

『修行熱心で何よりだ、ヴァーリ』

 

 

頭の中に直接聞こえてくる威厳ある声。

今では当たり前のように話をするけれど、幼少の頃は恐ろしくて仕方なかった。

 

俺は口には出さず頭の中で返答をする。

 

 

日課みたいなものだからな。

それに、体を動かしていた方が何かと落ち着くものだよ。

 

『血は繋がっていなくても、子は親に似るということか』

 

俺の中で笑みを含めてそう言った。

 

 

彼の名は“アルビオン”。

 

誇り高き二天龍の片割れで“白龍皇”の2つ名を有している。

 

片割れと言うことはもう片方も存在するわけで、その2つ名は“赤龍帝”。

 

それぞれが『白い龍(バニシング・ドラゴン)』、『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』とも呼ばれ、例外を抜いて最強のドラゴンとして謳われていた。

 

━━━━━が、知り得るどの書物を調べてもそんな伝承は記されてなどいない。

 

嘘かどうかと聞かれたら頭を悩ませる所だが、俺にはアルビオンが嘘をついているようには感じない。

 

なあ、アルビオン。

 

もう一度確認するが、俺の中にはアルビオンの魂が封じられた神器『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』が宿されているんだったな?

 

『ああ、そうだ。それは間違いない。間違いないのだが、不思議なことに神器が俺以外に存在しないのだ。どういう因果か、別次元の世界の人間に宿ってしまったらしい・・・・・』

 

だ、そうだ。

 

アルビオンが元々いた世界では悪魔や天使、堕天使などの異種族がいて神も存在するそうだ。

まったくもって興味深い。

 

それに、向こうでは悪魔の実が無いとのことだが、代わりに神器なるものがある。

 

能力はピンからキリまでらしいが、俺としては強いやつと戦えればそれでいい。

 

『ふっ、典型的なドラゴンの思想だな。俺もその方が暇じゃなくて助かる。それに、ヴァーリは歴代の中でも飛び抜けて才能を持っているから将来が楽しみだ』

 

そう言ってくれるのは嬉しいが、やはり赤龍帝との決着は着けたいのか?

 

俺たちと対を成す存在・・・・・、是非とも戦ってみたい。

 

『勿論だ。“赤いの”とは戦う運命になっていたんだ。運が良ければ俺のように、此方に流れ着くかもしれんな』

 

運命、か・・・・。

 

俺はこの世界では異質な力を手にしている。神器は勿論、それ以外にも他とは違う力が宿っている。

 

アルビオン曰く、“魔力”と言うものらしい。

これもその運命が原因か?

 

世界中の人にも魔力に近しいものが体を巡っているが、余りにも微弱。

殆ど無いに等しいとのことで、膨大な魔力を持つ俺は規格外だと言われてしまった。

 

『そう言えば、昨日連れてきた小娘二人も中々の魔力を秘めている。流石にヴァーリ程ではないが、鍛え上げれば新世界でも通用するレベルだ』

 

ほう、黒歌と白音が・・・・・。

 

偶々通りかかったから海賊船に寄ってみたが、どうやら正解らしい。

 

今頃、まだ二人は仲良く寝ているところかな?

余程ひどい生活を強いられてたのだろう、昨日は食事をとったら直ぐに寝てしまった。

 

親父以外に料理を振る舞ったことは無かったけど、美味しそうに食べて貰えて嬉しい限りだな。

 

・・・・・おっと、もう少しで城門前だ。少し彼ら(・・)と遊んでから食事の用意をするとしよう。

 

 

俺はペースを幾分か上げてゴール地点である城門に向かった。

 

 

 

 

▽▼▽

 

 

 

 

「黒歌姉さま、勝手に外に出るのは・・・・・」

 

「にゃはははーっ、ちょっとくらい大丈夫にゃん!」

 

姉さまは私の制止の言葉なんて聞かずに、どんどんお城の出口に進んでいく。

何だかんだ言って、私も着いていくんだけどね・・・・・。

 

昨日は久しぶりにお風呂に入れて、涙が出るくらい美味しい料理を食べれて、夢のような時間だった。

 

姉さまとこうして笑顔を向け合えるのは、ヴァーリさん━━━━

 

貴方のお陰です。

 

もし、ヴァーリさんが来てくれなきゃ何時までも牢屋の中にいたかもしれません。感謝してもしきれない・・・・・。

 

そ、それに・・・・・。

 

お、お、お姫様抱っこまでしてもらって・・・・・!

 

確かに体に力が入らなかったけど、実はあの時、足が痺れてただけなんて恥ずかしくて言えない。

 

 

だからその、何と言うか・・・・・・・・・・。

 

 

ご馳走さまでした!!

 

 

思い出すだけでも頭から蒸気が出てしまいそう。

私の様子がおかしいと思ったのか、姉さまは顔を覗き込んでくる。

 

「どうしたの、白音?顔が真っ赤にゃん」

 

「い、いえ!何でもないです!」

 

「ならいいんだけど、無理はしちゃダメよ?白音が倒れたらお姉ちゃん心配するにゃん!」

 

姉さまは不安そうな目でそう言ってくれる。

 

 

私の姉さま。自慢の姉であり、理想の姉。

 

私よりも大人っぽくて、でも子供っぽくて、妹思いの優しい姉。

体は姉妹とは思えないくらいに妖艶で、そこはちょっと羨ましい・・・・・。

 

あの牢屋での生活も姉さまがいたから生きていられた。そうじゃなかったら、とっくに死んでいたかもしれない。

 

・・・・・姉さまにも感謝してもしきれません。

 

 

「姉さま、大好きです」

 

「え、ちょっ、白音!?」

 

不意にぎゅっとしたくなって抱きつくと、姉さまは突然で戸惑ってしまう。

 

けど、直ぐに優しく抱き返してくれた。

 

「ふふっ、私も大好きにゃん。白音から甘えてくるなんて珍しいにゃ〜♪」

 

そう言って、私の頭や頬を撫で回したり、頬擦りしたりと、いつも以上にスキンシップをしてくる姉さま。

 

 

為されるがままにされること10分。

 

 

「堪能したにゃぁ。よし、それじゃあ出発!」

 

「は、はい・・・・」

 

うぅ、姉さまの暴走・・・・・・・・怖い。

 

疲労困憊の私と元気一杯な姉さま。

既に城門はくぐってしまったけど、本当に大丈夫なのかな?

 

お城が大きすぎてヴァーリさんを探そうにも、此方が迷子になってしまいそう。

 

って、姉さま行くのはやい。

 

黒歌姉さまは気付けば遠くまで移動していた。

 

「迷子になっても知りませんからね・・・・・」

 

私も小走りで追いかける。

無事に追い付くことができたけど、姉さまは立ち止まって何かを手に持ってる。

 

「かわいそう、後で治してあげるにゃん」

 

手に持っていたのは、腕がとれて綿が出ているクマのぬいぐるみだった。

 

今になって周囲を見渡してみると、民家らしきものが疎らにあるのに気づく。

民家と言っても、とても生活できるとは思えない。屋根は無く、壁には所々穴やヒビがある。

 

他にも剣や銃弾の跡が痛々しく刻まれていた。

 

戦争・・・・・したのかな。

それとも海賊が荒らした?何にしても、悲劇には変わらない。

 

この島のじめっとした空気と、暗くて厚い雲が相まって、悲しく、寂しい気持ちになる。

 

すると、右手が温かい何かにそっと包み込まれる。

 

視線を移すと、黒歌姉さまの手だった。

 

「そろそろ戻ろ?ヴァーリが心配して探し回ってるかもしれないにゃん」

 

「・・・・はい」

 

優しく微笑んで私の手を握る黒歌姉さまに、自然と笑みが零れてしまう。

 

 

 

手を繋いでお城に向かっていると、私は何かに見られているような感じがした。

視線は1つや2つじゃなくもっと大量に。

 

姉さまも視線に気づいていて、歩調を速めていく。

私たちに合わせるように、“何か”も移動しているのがわかる。

 

静かだった木々がざわめき始め、土や石畳を踏みしめる音が徐々に近づいてきた。

 

 

「白音、走るにゃ!」

 

 

その合図と共に、手を引かれてこの場を駆け抜ける。

 

 

━━━━しかし

 

 

『ウウゥゥゥ・・・・・ッ!!』

 

 

っ!?

 

既に囲まれてる!?

 

 

いつの間にか、私たちの周りには数十体の猿・・・・・ヒヒが威嚇をしている。

 

ただの野生のヒヒならまだマシと思えるけど、生憎このヒヒ達は“普通”じゃなかった。

 

「武装なんかしちゃって、まるで人間みたいにゃん・・・・・」

 

黒歌姉さまは一筋の冷や汗を流してそう呟いた。

 

そう。このヒヒ達はそれぞれが武装をしている。

 

剣、槍、ナイフ、銃、ハンマー、鍵爪、おまけに防具まで。構えも中々に様になっていて、かなり知能が高そうだ。

 

 

折角助かったのに、こんなところで死にたくない・・・・・!

 

死を意識すると途端に体が恐怖で震えだす。

止めようとしても止められず、姉さまの手を強く握って立ち尽くすことしか出来ない。

 

怖い・・・・怖い・・・・怖い・・・・!

 

 

「私が引き付けるから、白音は隙を見てヴァーリを呼んできて!」

 

姉さまは近くに落ちていた木の棒を拾って両手で握る。

 

「そ、そんな・・・・!姉さま一人じゃ死んじゃいます!!」

 

「お姉ちゃんは簡単には死なないにゃん!

だから━━━━」

 

姉さまの言葉が最後まで発せられる前に、ヒヒ達は一斉に襲いかかってくる。

 

雄叫びを上げながら此方に迫ってくるその姿は、正に野生。けたたましい足音が全方位から響いてきて、その距離はすぐそこまで近づいている。

 

 

「「・・・・・っ」」

 

 

姉さまっ!!

 

迫るヒヒ達の姿が恐ろしくて、これから起こることから逃げたくて、私は目をギュッと閉じた。

 

 

・・・・・・・・。

 

 

しかし、一向に襲いかかってくる気配はない。

 

 

あ、れ・・・・?

 

足音が、止んだ・・・。

 

 

あんなに響いてきた足音がピタリと止んだ。元々なにも存在しなかったかのように静寂がこの場を包む。

 

恐る恐る目を開けてみると、そこには全身から汗を流し、私以上に震え上がっているヒヒ達の姿があった。

 

 

「これは、どういうことにゃ・・・・?」

 

 

私にも訳がわからない。

 

さっきまで私達を襲おうとしていたのに、まるで立場が逆転したかのようだ。

 

疑問が頭を駆け巡っていると、上空から声が発せられる。

 

 

 

「その二人は敵じゃない。武器を置け」

 

 

 

淡々と、しかし怒気を微かに含ませながら聞こえるこの声は・・・・・・・

 

 

「「ヴァーリ(さん)!?」」

 

 

な、なんで空を飛んでるんですか!?

 

しかも背中から翼まで生えてる!!

 

 

死への恐怖なんて何処かに飛ばされてしまうくらいに驚いてしまう。

 

ヴァーリさんは蒼白い輝きを放つ翼を広げて、完全に宙に静止している。鳥類とは違って羽毛は無いが、それがかえって神々しさを醸し出す。

 

 

『・・・・・』

 

 

ヒヒ達は次々と武器を捨て始めた。

体は震えたままで、瞳にはヴァーリさんに対しての恐怖が見られる。

 

 

「大丈夫か?怪我は・・・・・してないようだな」

 

 

音をたてずに地面に降りてきたヴァーリさんは、私達を見て安堵の息を漏らす。

 

 

「うぅ、ヴァーリぃぃ・・・・・!」

 

「ヴァーリさん・・・・・っ!」

 

 

姉さまと同時にヴァーリさんに飛びついた。

少しビックリしたかもしれないけど、彼はしっかり受け止めてくれる。

 

ホッとしたら止めどなく溢れ出てくる涙。ヴァーリさんの胸の中で小さく響く嗚咽。

 

 

「・・・・怖い思いをさせて悪かった。もう大丈夫だから泣かないでくれ」

 

 

困り、戸惑ったようにそう言ってポンと、私の頭に大きくて堅いけど、どこか優しいものが乗せられる。

 

顔を上げてみると、ヴァーリさんの手だった。

彼の綺麗な蒼い瞳と目が合って思わず見つめてしまう。

 

改めて見ても、やっぱりカッコいい・・・・・。

 

「あー!白音だけズルいにゃん!ヴァーリ、私にもやってほしいにゃ〜」

 

「ヴァーリさん、もっとお願いします」

 

「二人とも、もう大丈夫そうじゃないか?」

 

姉さまの魅惑のおねだりと、私の純真無垢なおねだりを爽やか笑顔で流して彼はヒヒ達の前に行く。

 

酷いです、ヴァーリさん・・・。

 

 

 

そして、ヒヒ達を地面に3列にして正座させ、お説教が始まる。

 

「いいか?彼女達はこれからこの島で住むことになっている。つまり家族だ。だから、もし二人をまた襲おうとしたなら俺が叩き潰す。・・・・・・わかったな?」

 

 

『ウ、ウキッ!!』

 

 

ドスの聞いた声音で警告するヴァーリさんに、ヒヒ達はブンブンと首が取れそうなくらい縦に振る。

 

「よし、分かってくれて何よりだよ。━━━━けど、彼女等を怖がらせた罰は受けなきゃいけない」

 

ヴ、ヴァーリさんが黒い笑みを浮かべてる・・・・・。

 

「それに、丁度君たちと遊ぼうとしていたから一石二鳥だ。ああ、安心してくれ、ちゃんと手加減はするから」

 

言葉の意味を理解したヒヒ達は、さらに滝のように汗を流し、体の震えも最高潮に。

 

我先に逃げだす者もいたけど、ヴァーリさんの右手から蒼白い球体が生成、発射されてそれがヒットし気絶。

 

 

「さて、始めようか」

 

 

その言葉から先は・・・・・一方的でした。

 

そして、姉さまと私は心の中で密かに誓う。

 

 

“ヴァーリさんは怒らせちゃいけない”・・・・・と。

 

 

 




ヴァーリのキャラが分からなくなってしまいました。
おまけに駄文に・・・・・。

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