時期が時期なんで卒業の話とかも出てきたりしていますが本編とは一切関係ないのでよろしくお願いします。
花丸ちゃん誕生日おめでとう!
三月某日、だんだん日も伸びてきて暖かくなり始めた頃。俺は一人の女の子とデートをする約束をしていた。
「あ!やっと来たずら!」
「待たせて悪かった。ちょっと立て込んでてな」
今日、俺と会う約束をしていた女の子は花丸ちゃんのことだ。最近はAqoursの活動が忙しかったりしたので二人で会うのはかなり久しぶりだ。
「ううん。マルは海藤さんと一緒にいられるだけで嬉しいです…」
少し胸がドキッとしたような気がした。急にそんなことを言われると心臓に悪い。
「と、とにかく早く行こうぜ!」
「行くってどこに行くずら?」
「そうだな。まずはあそこに行くか!」
「あ、あそこってどこずら~!」
俺は花丸ちゃんの手を握って、目的の場所へと向かっていくことにした。
俺達の様子を何も知らない人が見たら、俺達二人は付き合っているように見えるかもしれない。でもそんなことはない。二人の関係性が壊れてしまうような気がしてしまう。そう思っているから俺達の関係はあまり進歩していないのだ。
「ん、そうだ。花丸ちゃん、誕生日おめでとう!」
「覚えててくれたずら!」
「俺が花丸ちゃんの誕生日を忘れるわけないでしょ?」
「嬉しいずら!ありがとう…」
「どういたしまして。」
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「ここに来るのも久しぶりずら」
「そうだったんだ。俺は千歌達と来ることが多いなぁ…」
俺達が最近に訪れたのはショッピングモールだった。デートでここに来るのはどうかなと思ったが、花丸ちゃんが楽しそうだから良かった。
「ここに来るのはルビィちゃんと来た時以来ずら!」
「そうだったのか」
ルビィちゃんと花丸ちゃんが二人で仲良くショッピングモールで買い物をしている姿を想像するととても微笑ましかった。なんだか胸がほっこりしているような気がした。
「わぁーきれいずらぁ…」
花丸ちゃんはジュエリーショップのケースに入っている指輪をじっと見つめていた。
「これが欲しいのか?」
「えっ?いや、そんなんじゃないずら!」
「別に気にしなくていいんだぞ。すみません、この指輪をください」
俺は店員さんを呼んで、すぐに会計を済ませた。この買い物で俺の財布の中身の8割が消えたことは内緒だ。
「本当にいいの?こんなに高い物を…」
「いいんだよ。これは俺から君への誕生日プレゼントってことで。それに似合ってるよ。何だか新婚さんみたいだね」
「し、新婚さん!?」
「えっ、あっ…」
「うう、海藤さんのスカタンずらぁぁぁ!」
「ス、スカタン!?ちょっ、花丸ちゃん!」
そのまま花丸ちゃんは走り去ってしまった。この後、カフェでケーキを奢ったりして何とか花丸ちゃんの機嫌を直すことが出来たが、俺の財布の残高は10円になってしまった。
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「本当にここでよかったのか?」
「うん。マルは海藤さんとここに来たかったずら」
俺達が訪れたのは花丸ちゃん家のお寺だった。ここに来るのは本当に久しぶりだ。
「さ、お参りをするずら」
「そうだな」
「神様が見てるんだからちゃんとお参りしないと怒られちゃうから」
俺は賽銭箱へ向かい、財布に残っていた10円玉を放り込んだ。
「よかったの?これで一文無しだよ?」
「一文無しって…また貯めればいいんだよ。10円だけだっとしてもあげないと神様に失礼かなーって」
「…やっぱり海藤さんはいい人ずら」
「ありがとね」
俺は神様にお賽銭を渡して、願い事をした。正直俺に願いたいことは無かったけど少し考えてあることを願うことにした。
(これからもAqoursがメンバー同士で仲良くやっていけますように。)
これだけで十分だった。俺にはAqoursのメンバーがバラバラになるような状況は全く想像出来ない。あるとすれば…
「卒業か…」
今は三月。三年生が卒業してもAqoursの活動は続けていくことになっている。だけど果南姉さん、ダイヤさん、鞠莉さんがスクールアイドルとして活動出来るのはあと少しだけだ。悔いは絶対に残したくない。
「海藤さん?」
「…花丸ちゃんはさ、三年生が卒業したらどうするんだ?」
三年生の卒業について花丸ちゃんがどう思っているのかが気になってきた。
「もちろん、Aqoursの活動は頑張って続けていくよ。三年生のみんながいなくなっちゃうのは少し寂しいけど…」
花丸ちゃんは寂しそうな表情をしていた。俺はいてもたってもいられずに彼女のことを思いっきり抱きしめた。
「か、海藤さん!?」
「…俺だって寂しいよ。出来るんだったら卒業してほしくない。だけどそうはいかないってこともわかってる。だから…あと少しだけど、悔いを残さないように頑張ろうな!」
俺の目からは自然と涙が出てきていた。もう止まりそうもない。それは花丸ちゃんも同じだった。
「…うん!マルは頑張るずら!Aqoursのみんなと…海藤さんと一緒に!」
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しばらくして俺達はやっと落ち着きを取り戻した。こんなに泣いたのは久しぶりだな。
「ごめんずら…海藤さんの服、びしょ濡れにしちゃったね…」
「ううん、気にしなくていいよ」
花丸ちゃんの服はほとんど濡れてないが、俺の服は海に飛び込んだと言っても通じるほどびしょ濡れになっていた。
「やっぱり三年生がいなくなるのは…」
「今はそのことは考えないでおこう。Aqoursの活動に集中するんでしょ?」
どうしても卒業のことが頭に過ぎってしまうのは仕方がない。あまり深く考えない様にするしかないようだな。
「…そうだね。ありがとずら」
「どういたしまして」
その後は他愛のない話が続いた。その途中で俺の鞄の中にある物が入っている事を思い出した。やれやれ、これを忘れるとはな…
「そだ。これを渡すのをすっかり忘れてた」
「これは…」
「もう一つの誕生日プレゼントだな。手作りのマフラーだ。使う時期は過ぎちゃったけど受け取ってほしい」
それは俺が時間をかけてじっくり編んだマフラーだ。俺がこれを編むのが遅いせいで季節外れになってしまったけどね。
そして同時にあの事も言おう。今までずっと伝えることが出来なかったことを…
「花丸ちゃん、改めて誕生日おめでとう!これからもずっと俺と一緒にいてください!」
「…本当にありがとう。季節外れでもとっても嬉しいよ。それと…マルも海藤さんと一緒にいたいです。海藤さん、大好きずら!」
「どういたしまして。そして、ありがとな」
言葉は変わってしまったけど、彼女にはやっと自分の正直な気持ちを伝えることが出来た。これからもこの笑顔を決して曇らせないようにしよう。俺はそう固く誓ったのだった。
To be continued…
それではまた。