ライブ当日、天気は生憎の雨だった。
「なんか昨日から嫌な空模様だと思ったらよ。今はまだいいけどライブが始まる時間に本降りになったら色々と大変だな」
俺は朝早くから学校へ行き、千歌の友達とライブのステージの準備をしていた。
「チャオ!調子はどうかしら?」
「鞠莉さん…」
会場設営中の体育館に鞠莉さんがやってきた。鞠莉さんは学校の理事長として、このライブを最後まで見届けることが自分の役目であると前々から言っていた。
「まぁまぁですね。悪くは無いと思いますが…」
「そうね。期待しているわ」
「海藤くん。そろそろ千歌ちゃん達の所に行ってあげてよ。続きは私達がやっておくから」
「ありがとう、そうさせてもらうよ」
俺は千歌の友達三人組に礼を言って千歌達が準備をしている部屋に向かった。そしてドアの前に来た俺は軽くノックをして部屋に入った。
「俺だ。入るぞ」
「あ!龍ちゃん!」
「龍くん!」
「海藤くん…」
既に千歌達はステージ衣装に着替え終わっていて自分達の出番を待っていた。三人がこの衣装を着ているのを見たのは初めてだったが、彼女達それぞれのイメージにピッタリでとても似合っている。三人とも蝶のように綺麗だった。
「本当に曜はすごいな。こんなに綺麗な衣装を作れるとは思わなかったよ」
「へへん。もっと褒めるがいい!」
「お前ら…緊張してないか?」
「私達は大丈夫!もしかして…龍ちゃんは私達が緊張しまくってると思ってたの?そんなわけないよー。楽しみ過ぎるぐらいだし!」
「そんなことはわかってるよ。何年お前らと一緒に過ごしていると思ってるんだ?それじゃ、俺は準備に戻るから………頑張れよ」
「うん!」
「任せて!」
「龍くんも準備頑張れ!」
心配する必要もなかった。あの三人は大丈夫だ。俺はそう確信し、会場の準備を再開した。
「あれ?戻ってきちゃったの?」
「まだ時間もあるしな。あとお前らはあの三人を励ましてほしかったから俺を千歌達の元へ行かせたんだろ?」
「そうだよ。わかってたんだね」
「あいつらなら全然大丈夫だ。だから心配なんかしなくていいんだ」
「そっか。それは良かった」
彼女達も千歌達のことを心配してくれたのだろう。千歌は本当にいい友達を持ったな。
「ん?なんでこんなところにこれが?」
俺は入口の近くに謎の機械が置いてあるのを見つけた。見た感じモーターみたいだけど…
「あ、こんにちは」
「おお、確か…花丸ちゃんだったよね?」
「はい。ルビィちゃんもいるずら」
「ど…どうも…」
「そうか。来てくれてありがとな」
花丸ちゃんやルビィちゃん以外にもお客は入って来たが…俺と鞠莉さんを合わせても10人に満たなかった。
「そろそろ時間よ!幕を開けて!」
ステージの幕が上がり、千歌達がステージに立つ。一瞬悲しそうな目をしたように見えたが、来てくれた僅かな客を楽しませようとライブを実行した。
何度も何度も練習をしてきたのもあって彼女達の歌もダンスも素晴らしかった。俺を含めて全員がステージに夢中になっていた。そして、曲はサビに入る…
「えっ…」
「なんだ?」
その時、外に雷が落ちた。その影響で体育館の証明が全て消えてライブは中断してしまった。
「クソっ…復旧できるか?」
「ダメ…全然点かない…」
俺はステージの三人の様子を見た。千歌は照明が落ちても歌い続けていたが、その声は震えていた。曜と梨子も同じだ。もう見てられねぇ…
「ここまでかしら…」
鞠莉さんは少し残念そうな顔をしてステージを見つめていた。それは鞠莉さんだけではない。花丸ちゃんもルビィちゃんも。
「クソッ……ん?」
その刹那、俺は一つの物の存在を思い出した。入口近くの不自然な場所に何故か置いてあった物のことを。
「それだ!」
「リューゴ?どうしたの?」
「ちょっと行ってきます!」
「どこに行くずら?」
「すぐ戻る!」
俺はすぐに入口の近くに行った。しかしそこにあった筈の機械はなかった。代わりに謎のコードが一つの部屋に伸びていっているのが見えた。俺はコードの後を辿ってその部屋に入った。
「あなたは…」
「よう!」
「ダイヤさん…それに孝至達?」
その部屋にはダイヤさんと孝至達がいた。何故こんなところに…
「それは…」
ダイヤさんの手に発電機があった。さっき置いてあったのはこれだったのか。
「ダイヤさん…もしかして…」
「勘違いしないでください。私はただ、来てくださったお客様にこんな姿をお見せしたくないだけですわ」
「ほら、龍吾も生徒会長を手伝ってくれ」
「お、おう…」
俺とダイヤさんと孝至達で発電機を繋いで電源を復帰させた。すぐに照明が点き、俺はダイヤさん達に礼を言って体育館に戻ろうとした。
「おい、龍吾」
「なんだ?今忙しい…」
「あれ、見てみろって」
孝至が言う方を見てみるとそこには車が道路にはみ出るぐらいに渋滞していた。
「これは…」
「まだ終わってない。そうだろ?」
「………ありがとな!」
俺はすぐに体育館に戻った。そこには体育館から溢れるほどに人が集まっていた。
「バカ千歌!あんた開始時間間違えたでしょ!」
遠くから美渡姉の大きな声が聞こえる。あいつは開始時間を間違えていたのか。全く…こんなオチがあるのかよ…
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「お前ら…お疲れ様!」
「龍ちゃん…怖かったよ!」
「全く…お前にはいつも驚かされるよ…」
結果的にライブは大成功だった。ダイヤさんからの評価は厳しい物だったけど、最初はからこれだけ出来れば上出来だろう。
「龍くんもお疲れ様!」
「曜…ありがとな!ゆっくり休めよ!」
本来だったらこれから会場の後片付けがあるのだが、千歌の友達が代わりにやってくれると言ってくれた。俺も疲れていたからとてもありがたかった。後であの三人にも礼を言わなければな。
「ねぇ…海藤くん。」
「どうしたんだ?梨子…」
「ちょっと来てもらえるかしら…二人っきりになりたくて…」
「俺は構わないけどあいつらは?」
「許可は貰ったから大丈夫だよ!」
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俺と梨子は二人っきりで浜辺に来ていた。ライブからかなりの時間が経っており、夕日はもう沈みかけていた。
「懐かしいね…この場所」
「そうだ。ここだったよな、俺と梨子が初めて出会ったのは」
ここは俺と梨子が初めて出会った場所だった。今思うとあれからあっという間だったな…
「ライブ…成功してよかったな」
「うん。海藤くんのおかげだよ。ありがとう」
「いや、俺は何もしていない…結局また孝至達に借りを作っちまったから。それに成功したのはお前らの力じゃないか」
「確かにダイヤさん達が復旧作業をしてくれたからライブを続けることが出来た。でもね、海藤くんはもっと沢山の仕事とかやってくれたでしょ?貴方のサポートが無ければ私達がここまでやることは出来なかったと思うの」
「そっか。頑張った甲斐があったな」
「それに海藤くんだって大事なAqoursメンバーなんだから」
梨子は本当に優しい。俺をAqoursのメンバーの一員だと言ってくれたことが純粋に嬉しかった。
「ねぇ…海藤くん///」
「どうした?」
「貴方に伝えなければならないことがあるの…」
梨子は顔や頬だけでなく耳まで赤くしていた。そんな彼女の様子を見て俺は少しドキッとした。胸の鼓動が早くなっているのを感じる。俺はその事を梨子に悟られないようにしながら彼女の次の言葉を待っていた。
「私は…初めて出会った時からずっと…海藤くん、貴方のことが……好きです///」
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俺には梨子の言ったことが理解出来なかった。彼女が可笑しいことを言っている訳では無い。俺の頭が追いつかなかったのだ。
「えっ…ええ!」
「迷惑だったかしら…?」
「いや!そんなことはない!」
今までずっと隠し通してきたけど、俺は梨子のことが好きだった。気づいたのは最近だけど、多分出会った時から…
あの恥ずかしがり屋の梨子が勇気を出して俺に告白をしてくれた。俺も自分の気持ちを包み隠さず彼女に伝えよう…
「梨子…俺もお前のことが好きだ。信じられないかもしんないけど、これが俺の本心だ」
「えっ…嘘///」
「嘘を言っているように見えるか?」
後から言うことは何だって偽ることが出来る。だが俺は嘘は一つもつかなかった。これが俺の正直な気持ちだ。
「梨子………俺と付き合ってください」
「……………はい///」
俺は梨子のことを思いっきり抱きしめた。梨子も俺のことを優しく抱きしめ返してくれた。
「海藤くん…もう離さないでね…」
「例え梨子が俺のことを嫌いになってたとしても俺は絶対にお前を離したりはしない。誓うよ」
「じゃあ///キス…してくれる?海藤くんが私のことを好きっていう気持ちを全部私にぶつけて………一つ残さず受け止めるから///」
「えっ///」
「お願い…」
「いや…ここではちょっと…」
口では無理だとか言っていたけど、俺の足は自然と梨子のいる方向へと向かっていた。もうやることは一つしかない。
「大好きだよ。梨子」
「私も…海藤くんのことが大好き///」
「梨子…」
「海藤くん…」
二人の影は少しずつ、ゆっくりと近づき…そして静かに重なり合った。
この瞬間、二人の心は一つになった。これからはこの二人で新たな物語を築いていくのだろう。
To be continued…
あと二話で終わらせるつもりでしたが二話に分けると色々と不都合が生じるので一つにまとめました。
それではまた。