Fate/promotion【完結】   作:ノイラーテム

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名探偵? マキリ

「しかし、本当に情報が少ないな。確かに教会へ聞きに行くってのも悪くないのか」

 マーボー豆腐の残りに、親の仇かと思うほどの花椒を放り込んで耐熱容器に入れる。

 たっぷりと言うには度を越しているが、それでもまだ足りないかもしれないので、ラップに包んで上から張り付けておいた。

 

 情報料と言う訳でもないが、残り物の処理を兼ねて言峰教会への差し入れを作って居ると、慎さんが突拍子もないことを言ってくる。

「数日して落ち付いたら泳ぎにでも行こうか。他に仲良くしてる子がいるなら、誘っていけばいいんじゃない?」

「なんでさ!?」

 そりゃ温水プールだけど…。

 とか言いつつ驚いて顔を挙げると、慎さんは鉛筆咥えて地図と格闘していた。

 視線は新町に注がれているようだが…。

 

「ダミーの情報が混じってないなら…。という前提だけど…遠坂の新拠点って、わくわくザブーンだと思う」

「遠坂は家を封鎖されてるって言ってたっけ。それにしても何で、プールってことになるのさ」

 そんな事も判らないわけ? と慎さんはこともなげに肩をすくめる。

 こういう所は完全に慎二だが、丁寧に説明してくれるあたりはちょっとだけ好感度が高い。

「効率とセカンドーナーの立場を考えればそこが都合いいから。具体的に言うと、問題の起きてる新町をパトロールし易くて、大量の水を人知れず確保出来るから…かな?」

「セカンドーナーならそりゃ昏倒事件をなんとかするだろうけど、大量の水なんか何に…」

 その言葉を待っていたのだろう、慎さんは二本の指を立てて説明を続けた。

 

「敵にクーフーリンが居ると判り、それも狂戦士に近い能力を持っていたとする。伝承通りなら大量の水が必要なの。それを容易く確保可能なのは学校とプールくらいって寸法」

「そっか。何度も利用する能力ならバレずに、一般人巻き込まずに使える場所って限られてるもんな」

 頭を冷やす為に冷水に入ったら、風呂桶二配分が瞬時に蒸発するそうで、そんなに水が必要なら確かに隠せる方が都合が良い。

 

 そのことに俺が納得した所で、ロクでもない追加情報がつきつけられる。

 よくよく考えれば当然の事なので、俺が目を反らせていたと思いたくなるくらいだ。

「となると、わくわくザブーンに拠点を構えた上で、学校を確認に行ったらクーフーリンと出くわしたって考えもあるかな。ということは、キャスターのマスターは学校を拠点にしている可能性が高くなる」

「なん、だって…」

 ということは、高い可能性でアーチャーは遠坂のサーヴァント。

 そして、学校に他のマスターが居る以上、事件が起きる可能性があり…。

 何よりも、同じ学校の生徒や、教師が巻きこまれる可能性もまた高いということだ。

 

「まあ、その可能性もあるってだけだし、そもそもフェイク情報や、見当違いの可能性もある。ただ、衛宮くんが知らない前回の聖杯戦争の情報を考えるとね…」

「前回って、そんなに頻繁に起きてるのか…」

 可能性の問題もあるが、一般人に被害が及びかねない聖杯戦争が頻繁にあるという事は俺を驚愕させた。

 頭の中で、この世界の俺が味わった大火災の記憶が頭によぎる…。

 ザリザリと頭脳を侵略する危険なシグナル、考えるな考えるな、思考回路をそこでカットしろ。

 

 今日何度目になるか判らない脂汗を止めてくれたのは、取りとめのない状況整理だった。

「前の聖杯戦争以降、遠坂の身代は急速に傾くんだけど…。どうも財政を傾けて凄い触媒を手に入れたみたいなのよね。黄金の鎧着て、武器を投げつけてた?」

「剣で戦ってたから、流石に飛ばしては居なかったな。でも、黄金の鎧だったと思う…」

 効率的に考えるなら、そんなに凄い触媒なら使い回すだろう。

 そもそも魔術師はそういった神秘を秘匿し、次世代に受け継いでいくものなのだから。

 

「なら、この考えが詳細では外れていても、大きく路線は違わないって事で良いかな。…ということは、新町の事件と学校の件だけでも遠坂とは折り合いがつくかもね。石油王にも復讐したいでしょうし」

「そうかもしれないな…。少なくとも無用な争いが無いのは良い事だと思う」

 俺が推論にしがみついて、記憶を処理していると慎さんがさらっと提案してきた。

「という訳で、教会に行って新町の情報を仕入れて、状況の確定。学校の件も含めて一時的な共闘の後で、適当に争うって感じいで良いかな?」

「俺の方は構わない。新町か学校のどっちかは協会の魔術師だろうし…凄いなさっきまで状況が不明だったのに…」

 慎さんは何かの準備をしている様であるが、ふふんと得意げな顔だろう…と短い付き合いながら察する事が出来た。

 そんなこんなで右往左往が一回転して、俺たちは言峰教会に向かう事となった。

 

 

 




/冬木の勢力の考察1

キャスター陣営:学校
 クーフーリンが激昂すると、元に戻るのに冷水での水浴びが必要。
少なくとも風呂桶二杯分の水が蒸発する為、なんども利用する能力対策で、隠れて水の確保がし易いこの場所だと推測される。
(小学校などでは量の問題や、近年の児童保護の観点から、警備がキツイので推測から外れている)
マスターは消去法から、協会の魔術師である可能性が半分ほど、そうでない可能性が半分ほど。

アーチャー陣営(遠坂家):わくわくザーブン?
 キャスター陣営への対処として、大量の水が確保できるプールを抑えている可能性が高い。
また新町で起きている事件への対策を考えると、新町を拠点にする方が効率が良いと思われる。
なお、遠坂家が手放した物件も新町にあった為、売主へのコネがあったのではと補足の推測がなされた。

?:新町
 事件を起こしているのは力量の無い者、あるいは消耗の大きいバーサーカーを召喚した陣営と推測される。
魂喰いで魔力を補強する為に、少しずつ魂を吸収し、足がつかない程度に奪っていると思われる。
無名の魔術士か素質のある素人と推測されるが、協会の魔術士が重傷を負っている可能性もあるので1の推論と半々である。


という訳で、状況理整理となります。
なお、今回の推論は、かなり希望的観測が混じって居ると自覚があるので、『最初に潰す可能性』と言う事になります。
確信している訳ではなく、まずは大きい可能性から調査してみて、違ったら次の可能性に移行するというスタイルですね。

次回はマーボーと御話しして、帰り道にあの子が出て来る予定。

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