「次弾装填。続けて設計図を連続解凍」
俺はキュウリの叩きをテーブルに出すと、茹であがったモヤシをナムルに漬けこんで行く。
そしてお徳用で買い込んだ緑色の豆を、莢ごと鍋に放り込む。
茹であがるまでの時間に、もう一品か二品。作るなら卵…。
「をい、今の大豆。まだ熟してもねえだろう。んなもんを食わせる気か?」
キュウリの叩きで酒を飲み始めた少女は、不機嫌そうに箸でこちらを指して来る。
それに応える言葉は、一つしかない。
「…悪いが黙っててくれないか?」
いま台所を仕切るのは俺だ。
余計な差し出口なんて例え王様でも許さない。
「食ってもマズイと思えるなら、頭を下げるし二倍でも三倍でも作らせてもらうから、暫く静かにしてくれ」
「あっはい。…はいはい。文句は後で言いますよっと」
言い過ぎたので、ちょっとだけ言い直すと、フランシスさんとか言う女の子は大人しくし始めた。
より正しくは、マズかったら文句を言ってやろうと、俺が用意した第二品目を摘まみあげる。
つまらなそうな顔をしているが、不機嫌ではない。
もしかしたら、ピリカラのナムルが気に入ったのかもしれなかった。
「衛宮くんは凝り性…みたいだからね。暫く我慢してれば美味しい物がワンサカ出るわよ。…さっきの話に戻るけど」
くつくつと悪い笑みを浮かべて、慎さんは話を戻した。
あんまり女の子ぽくは無いが、もしかしたらこちらが素で、猫を被って居たのか?
「戦ったのはキャスターで、クーフーリンみたいな特徴でいいのよね? そして学校ではアーチャーが居たと」
「ああ、そうだ。まあ連中の話を信じるならだけどな。キャスターは激昂すると体と魔力が強くなるし、アーチャーは剣を使ってた。セイバーは俺が使ってるのにな」
俺は頷きながら卵の殻座を取り、ダシと混ぜて下拵え。
ポーチドエッグやスペイン風オムレツも簡単で良いが、欠食児童(フランシスさんは20越えてるそうだが)は外国の子みたいだし、出し巻き卵の方が面白いか?
そんな事を思いながら、茹であがった枝豆に塩を振って出すと…。
「なんだコレ、なんだコレ!? 熟しても無いのに、味付け塩だけなのにスゲーぞマスター!」
「枝豆って言ってね。熟してない大豆を使う。今じゃ日本以外のパブでも出す所多いんだ」
文化の差なのか、枝豆を知らない外国の人は多い。
加えて言うと、塩のバランスを調整しない人も多いので、好みの味付けに合わせるだけでズっと違うのだ。
先ほど出したキュウリの叩きや、もやしのナムルには味付けの濃度差が出易いので、観察しておいた甲斐があったと言う物だ。
「同じ塩だけの料理でも、ふかした芋の山盛りと、潰した芋の山盛りと大違いだ…」
「なんだ、フランシスさんは大航海時代後半より後の人なのか? まあ、芋料理も何種類かそのうち用意するから、今は同じので我慢しておいてくれ」
味付けに感動しているようなので、出し巻き卵を仕上げてる間にジャガイモを取り出して軽くふかす。
そして程良い所で芋に十字に切りつけ、バターの中から味の強い菓子用を取り出し、荒塩を振っておく。
俺たちのやりとりを呆然とみていた慎さんは、ゴホンと咳を一つして強引に話題を戻し始めた。
…なんというか、お姉さんぶってるけど、俺や慎二と同じか、1つ上くらいであまり離れて無いぽいな。
「クーフーリンは元々適合クラスが多くて、日本じゃなければって大英雄。アーチャーも似たような強敵なのかもね。で、セイバーとライダーが此処に居る…」
状況整理を口に出しているのは、おそらく推論を俺にも聞かせてくれる気なのだろう。
ということは、フランシスさんはライダーなのか。
スカーフ海賊巻きにしてるし、女の子の海賊…。
いや、男の英雄と思っていたが、何かの間違いで女子が…ということを言ってたな。
「こ、これが芋の味だと…。嘘ついてるんじゃねーだろうな?」
「嘘付いて何が楽しいんだ? まあ日本人は改良大好きだから、南米で発見された時や、持ちこまれた江戸時代よりかなり美味しいのは確かだけどな」
なんというか、顔に出易い子だな。
それともそんなに、彼女が居た時代の料理は壊滅的だったのだろうか?
イギリス人への偏見が形になったような…と言ってたけど、そういえば何も無くて虫とかも珍味にするくらいって時代があったんだっけ。
慎さんはその間も静かにしていたが…。
おそらくは、フランシスさんの言動に驚いて居るのではなく、状況を整理しているのだろう。
口を開いた時、それは正しい推測なのだと判った。
「ボクが調べた範囲で町の勢力図ね。それを聞いてから、今後も協力で済ませるか、同盟するかを考えてちょうだいな」
律義な人だ、協力・同盟のイニシアティブをこっちに投げてくれるらしい。
情報共有はやっとかないと、どこかで足元すくわれるから、判らなくもないけど。
言葉なく頷いた俺に、慎さんは続きを口にする。
「冬木で一番危ないのは、ボクらが石油王って呼んでいる勢力。何を呼んでるのか判らないけど、オークションでは”竜殺し”にまつわる触媒を探してたって噂」
「セイバーもライダーも居るなら…一番ありえるのはランサーってことか」
さっきの慎さんの言葉を思い出して呟くと、彼女はそのまま頷いた。
とは言え…と前置きを置いて、思い直したのか、少しだけ注意を喚起して来る。
「適合クラスで呼ばれる筈だけど、あえてバーサーカーで呼ぶ呪文も見付けたし、スサノオみたいに暗殺者ぽい行動してるなら、アサシンの可能性もゼロじゃないけどね」
「ああ、八岐大蛇の伝説って、外国にも似たような物は多いんだっけ」
竜殺しの英雄をバーサーカーで呼ぶ理由は思い付かないが…。
東西を問わず、化け物は強いから化け物なのだ。
化け物を狩る暗殺者として有名ならば、暗殺者の可能性だってあるだろう。
「こいつがヤバイのは、協力を仰げるはずの同じ魔術協会枠の魔術師。これに奇襲を掛けて成功した事、そして遠坂の家を物理的に封鎖したことよ」
「遠坂? ああ、遠坂も魔術師の家系なんだっけ」
そういえば、魔術師だったな…。
今更ながらに思い出した俺の表情に、慎さんは別の意味で納得したようだが、訂正する前に話を続けた。
「遠坂家は土地の霊脈と、物理と魔術の境を外す概念を応援した。マキリは目的のために技術と知恵を提供し…。そして、この町の郊外で籠城してるアインツベルンは聖杯という第三魔法を提供したの」
「…アインツベルン。聖杯…」
俺の頭を二つの単語がガツーンと打ちのめした。
元居た世界で、関わった少女。そして妹の親友。
そして、その子の居た世界では、俺もまた義理の兄であったと言うが、確か、切嗣がアインツベルンに何かしたって…。
俺の混乱に構いもせずに、慎さんは話題を締めくくる。
混乱していようがいまいが、聞き逃せない最後のワンピース。
「遠坂家、アインツベルン、石油王、追い出された魔術師。ボクら二人を合わせても六つ…おそらくは新町で起きてる昏倒事件が七つめの陣営なんでしょ」
「なんだって? 新町で事件…? ガス漏れじゃあ」
そういえば、最近ガス漏れとかで倒れる人が多いって…藤ねえや音子さんたちが注意してたっけ。
関係なさそうな大人組みを頭から除外しつつも、俺はさらに混乱を深める。
「それは監督役の教会が魔術の隠蔽にあたっただけなんじゃない? 何も知らない振りしてサラっと聞きに行くのもいいかもね」
慎さんは俺の方を眺めながら、丁度良い素人さんが居るしと…。
わざとらしいウインクをしていた。
ライダー:フランシス・ドレーク?
故郷では芋を山盛りにして、塩振って食べる夕食があったそうな。
『南米から』ジャガイモが持ち込まれたのは16世紀以降なので、それ以降の英雄なのだと士郎は判断している。
人生をエンジョイしているらしく、士郎の料理は気に入ってくれているようだ。
>冬木の陣営
1:石油王:契約サーヴァントはランサー?
噂は噂であるが、竜殺しの英霊にまつわる触媒を探していた模様。
魔術士協会の枠でやって来て居るが、同じ枠でやって来た魔術師を拠点から追放しているので、かなりの英霊を従えている模様。
2:アインツベルン:契約サーヴァントは不明
郊外の森に城を移築し、そこにメイド一個小隊と一緒に籠城中。
特に何もせず、優雅にのんびりしているらしいが…。
3:遠坂家:契約サーヴァントは不明
御存じ冬木のセカンドーナーであるが、ビンボーしているらしい。
証文を買い取ったヤクザな借金取りが押し寄せたが、売り飛ばされる危いところで脱出。
その後に借金を完済したそうであるが、罠か何かで物理的に封鎖され、立ち入って無いらしい。
4:魔術協会の、拠点を追放された魔術師
拠点としていた双子館を、石油王のコネで追い出され、そこを追撃されたらしい。
戦闘力的には一級だと思われるが、政治手腕はサッパリない模様。
5:?
新町の飲食店・スーパー百貨店など、人の多い場所で事件を起こしていると予想される。
6:ボーイ・アンド・ガールズ
士郎・慎・ライダーによる衛宮家。
現時点では同盟関係にないが、あまりにも弱小な為、このまま身を寄せ合って居そうな雰囲気。
/現状
霊地の次席である遠坂家、及び幾つか下(番外)であるが協会が管理していた双子館が石油王の手に。
第四位の新町は謎の勢力が闊歩していると予想される。
円蔵寺>>教会といった、他の霊地に関しては不明。
間桐家や郊外の森といった番外の霊地に関しては、それぞれの勢力が利用していると推測される。