Fate/promotion【完結】   作:ノイラーテム

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魔術に関して、捏造とか発生し始めます。
例によって、合わないと思われた方は、そっと閉じていただけると、助かります。


聖杯戦争

「交渉もしねーうちから、またぶっ倒れちまったぞ? どうすんだこれ」

「仕方無いわねえ。衛宮くんさえよければ協力関係になりたいと思ってるし、まずは診断してあるげるわ」

 このくらいはタダで良いから。

 なんて言いながら、慎さんはギコチナイ手つきで、テーブルに向かって折り紙を始めた。

 

 人が苦しんでるのに呑気なもんだと思いつつ、俺は不思議と笑みを浮かべた。

「そうやってると慎二を思い出すな。あいつは器用なのに適当にやるから自分のは時間掛ってて…。それでも気が付いたら、うちのクラスは学校中のどこより千羽鶴を集めるのが早かった」

「修学旅行は広島か長埼?」

 大きな口で笑いそうになり、慎さんは慌てて口元を隠してクスリと笑っていた。

 そしてもう一つ何かを折ると、二つくっつけて二身合体させる。

 

 立ちあがってこちらにやって来ると、俺の腕を持ちあげながら袖を捲り上げた。

「まあ作ってるのはヤッコで千羽鶴じゃないし、別に平癒を祈願もしないけどね。喰らった腕はこっち? ちょっと失礼するわね……うえ、しょっぱ」

 何をするのかと思ったが、慎さんは俺の腕に軽く噛みついた。

 吸血鬼の漫画か何かを見せてもらった時に、こんな感じの事をやって居た気がする。

 

 だけれども、この行為は少し違う。

 顔をしかめたまま折り紙のヤッコをペロリと舐めあげるのだが、不思議とイヤらしさは無い。

 それは慎さんが慎二に似ているからそう思ってしまうのか、それとも単に、彼女の気質なのだろうか?

 

 そんな事を思っていると、彼女の顔は、唐突にゲンナリした表情になった。

「うわーっちゃあ。衛宮くん、中に植物か蟲が入り込んでるわよ。ボクに親和性が薄いから、十中八九は植物だと思うけど」

 言いながら慎さんは、ヤッコをぴらぴらと振って見せた。

 

 見ればヤッコの腕にあたる場所に、大きな筋目が入って居る。

 それも少しずつ少しずつ、心臓目指して登っていくようにも思われた。

「さっきの続きだけど、ゲイボルグを食らった以上は7日もすれば死ぬって言ってたな。慎さんの期待には応えられそうにないかな」

「そう言うと思った。同盟組むまではか別にして、もし協力してくれるなら、情報交換だけでも一日一回くらいは、延命治療くらいしてあげるけどね」

 俺はきっぱり断ったつもりだったが、慎さんは苦笑する。

 その上で、対等の取り引きの範囲内なら、治療をしてくれると言った。

 

 呆れたような表情だが、慎二で見慣れた表情なので不思議と悪い気はしない。

「ありがとう、どこまで協力できるか判ら無いけど助かるよ。しかし…失礼かもしれないけど、やっぱり慎二に良く似てるな。言葉使いとかは遠坂って女の子に似てるんだけど」

「衛宮…くん。悪い事言わないから、女の子に幻想を抱くのは止めた方が良いわよ」

 頭を下げた俺が見たのは、気の毒な物を見る慎さんの視線だった。

 

 この時の俺は、混乱続きで、どうかしていたのかもしれない。

 良く考えればこの世界の俺なら、慎二との共通性の多さに、普通に気がついたはずだ。

 良く考えたら、ここではない世界の俺なら、慎さんが抱える歪さに、思い至れたはずだ。

 だけれども、混乱しているから仕方無いと、見過ごしてしまった…。

 

 そうこうしてると、何か準備しながら、慎さんが話題を変えて来る。

「じゃあ、改めて商売レベルの協力関係から御近付きを始めるとして、どこまで聖杯戦争知ってる? 契約したサーヴァントとかは、同盟レベルで組むまでは言わなくても良いけど」

「そう言ってくれると助かる。って、そういえば間桐も魔術師の家系なんだっけ?」

 俺が頷いた時、慎さんは一瞬の内に表情をクルクルと変えた。

 良いことが一つと、悪いことが一つという感じでもある。

 

 何か気に障ったのかもしれないが、それでも嫌な顔を浮かべただけで話してくれるようだった。

「そうよ。間桐はもともとマキリと言う名前で、御爺様の代でこちらに拠点を移したの。新しい土地の水が合わなくて衰退したんだけど…まあ、私に言わせると、土地に合わせてアレンジするべきだったんでしょうけどね」

 息を吐くと、溜まった堰が崩壊するようにベラベラと喋り出した。

 情報交換だと言う割りに一方的に話すさまも、やっぱり誰かを思い起こさせる。

「子孫に合わなくなるけど、御爺様は術式をアレンジしなかった。まあ、独りで片付けるつもりだったのだろうけど、お陰で子孫はいい迷惑。慎くんの代では能力が殆どゼロで、自衛も出来ない彼は疎開してるってわけ」

「ああ、それであいつの姿が見えないのか」

 術をアレンジすると、子孫には合う『かも』しれないが、自分には合わなくなる。

 だからゾォルケンという長命の魔術師は、こちらで何もしなかったのだろうと慎さんは苦い顔で語ってくれた。

 

 俺がホっとした表情で慎二の安否を口にすると、慎さんはクスっと笑って続きを語り始める。

「桜は養子なんだけど、今のところ、代理のボクがライダーと契約したから何もしない限りは狙われたりしないと思う。でももし、向こうの家が危なくなったら桜を匿ってあげてね」

「養子…なのか。判った俺で出来る事なんて殆どないけど、出来る範囲でやらせてもらうよ」

 慎二と桜の関係を聞きながら、俺は僅かな時間の後で頷いた。

 

 きっと苦虫を噛み潰したような顔をしてるのだろうけど、そこは慎さんも何も言わないでくれている。

 気まずいし彼女に喋らせっぱなしでは悪いので、お返しに、こちらも話し始めた。

「俺の方はそうだな…。俺も養子で、殆どゼロから魔術回路を増やしたんで、実力的にはあんまりってとこ。それで…言い難いんだけど、少し変則的な召喚・契約になったんで、中途半端な状態なんだ」

 彼女が何か言いかけたが、俺は構わず話し続けた。

 

 一つは、騙すつもりはないから、最初から変則的な契約だと有る程度教えておいたことだろう。

 それで見離されても仕方無いし、カードの事を突っ込まれても応えようがないから仕方が無い。

「もちろん聖杯戦争に関しては、どうにかして英霊を召喚して、聖杯って名前の魔法陣を取り合うくらいしか良く知らない」

 そこまで言った段階で、慎さんは溜息をついた。

 

 どの程度の知識なのかを理解して、色々考えているようだ。

「そこまで知ってるなら実地でやる分には困らないだろうけど、そうね。英霊に関しては、科学の授業を思い出してみて」

 魔術と反りが合わなさそうな科学の授業。

 その単語を持ち出された時、俺は少しだけ面食らった。

「20の魔力じゃ100に届かないから、幾つか間に倍率を誤魔化す反則を、挟み込む過程がある。次に、座に登録された設計図を用いて魔力で再構成するようなもんだから、齟齬が生まれる。例えば…」

 言いながら慎さんは、指を立てて1つずつ説明していく。

 

 魔術師ではなく大聖杯が実行し、英霊そのものを直接呼ぶのではなく、7つのクラスを用意して英霊が勝手にソレを扱うという形式。要は初期段階で来易い訳だ。

「英霊ソレ自体を呼んでないから、呼ぶことが可能だけど伝説通りの力を全て備えて居ない。逆に、逸話が勝手に宝具になることも有る。後はウチのフランシスみたいに、男の伝承なのに女性だとかね」

「お、こっちに風向きが来やがったぞ。マスターに影響でもされたんじゃねえか?」

 慎さんに言われて、もう一人の女の子が心外そうな声を挙げた。

 そういえば反応が無かったから、すっかり忘れて…。

 

 すっかり忘れていたので、声がした方に顔を向けると、そこにはあんまりといえばあんまりな姿があった。

 美少女で通じる外見の女の子が、キュウリと人参で独り遊びをしていたのだ。

「ちょっおまっ!」

「運び賃にもらってるぜ。見た目よりも重いんだよてめえは」

 具体的に言うと、塩やマヨネーズを付けて、ガジガジと丸齧り。

 そして料理用の酒をゴッソリと略奪していた。

 

「すまない慎さん。ちょっと二品か三品ほど料理を作らせてくれ。これじゃ食材があんまりだ」

「ははっ。イギリス人への偏見を形にしてるような子だからしっかり教えてあげないとね。あ…そうそう」

 俺がキュウリや人参を取りあげて調理を始めると、慎さんは男みたいな笑い声を挙げた。

 余程あの子の態度に含む所があったのだろう。清々しいくらいの笑いである。

「さっき言ってた宝具ってのは、伝説に詠われる魔法の武器のことよ。衛宮くんが受けたっていう、ゲイボルクなんか持ち主の弱点込みで教えてくれるから、気を付けてね」

「あークーフーリンか。確かに伝承を調べりゃ死因とか判るかもな…違和感とかもあるだろうけど、マイナーな逸話かもしれないし…」

 言いながら、怒りと共に巨大化するキャスターの事を思い出していた。

 ゲイボルクという必殺の槍のことは想像がつくか、流石にあの姿は、そんな事もあるのか…レベルだ。

 

 そんな事を思いながら、キュウリを叩いてニンニクと塩で味付けし、文字通りの『キュウリの叩き』を酒のあてに作る。

 女の子は餓えた視線を送って来るが、流石に塩だけで酒を飲んだという上杉謙信の真似なんかさせられない。

 もやしに御酢・ダシ醤油・ラー油で、同じく酒に合うナムルを作って居ると、奇妙な言葉で説明が締め括られた。

「言い忘れてたけど、聖杯戦争が逸脱しないように、聖堂教会から監督が派遣されてるから気を付けてね。まあ衛宮くんには関係ないかもだけど」

 教会って言うと、マーボー?

 




・捏造ネタ

『共感魔術』と『感染魔術』:
 どちらも古代から存在する呪術体系。

共感魔術は、良く似た対象「A」と「A´」があり
AがBに変化すると時、A´もまたB´になるというもの。

感染魔術は、ABCと連鎖させた存在を創り出すか見付けだし
AがA´へと変化する時、BもB´、CもまたC´になる可能性が生まれる。

 判り難く扱い難いタイプの魔術ではあるが
上手くコントロールすると、他者には効き難いはずの魔術を、割と簡単に掛ける事が可能。

作中では、慎が士郎の汗を媒介に、ヤッコに士郎の状態をモニタリングさせている。


 とりあえず、マキリの術に近そうな範囲で、日本の呪術から引っ張って来ました。
感覚的には、慎二がゼロから魔術回路を増やしてれば、このくらいは出来そうなので。

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