「てめえはあの時の…どう言うつもりだ?」
「さっきも言ったろ? アトラムに雇われてたのは奴にしか造れない礼装目当てってよ」
モードレッドが呆れた声で尋ねると、獅子劫・界離は豪快に笑って答えた。
「手に入れた以上は、万が一にも世界が滅びるのは困るってわけさ。ま、雇い主が死ぬのも目覚め悪いしな」
誤魔化しすらないド直球の回答にもはや笑うしかない。
「そういうこと来てるんじゃなくてな…。まあいっか、戦力も情報も足りないから猫の手以上ならいいさ」
「これか? まあ問題無く動いたな。…冗談だよ。連れて行かれたうちの女の子に何かできるか、何を持たせていたかってのはどうだ?」
ようするに情報か何かを寄こせと言うモードレッドに、獅子劫は義手を動かして冗談を返す。
そうした後に、不機嫌になりそうな手前で資料らしき物をちらつかせた。
確かに連れて行かれた竜の聖杯である少女も魔術師であるとするならば、その戦力がどの程度かは聞いておく必要がある。
「最初からそう言っておけばいいのよ。それにライダーもイヤミを言うなら直球の方がいいわよ。石油王の癇癪と付き合ってた奴を相手にすると面倒だわ」
「それもまあそうだな。悪かったな、戦力に成ってくれるならなんだっていいぜ」
「サーヴァントから見て戦力と言われると困るがね。お手柔らかに頼むぜ王様」
凛が取りなすとモードレッドも頷いてストレートに話すのだが、獅子剛は今までの会話を幾らか聞いて居たのだろう。
彼女が王を目指すと言う話を知っており、探りを入れて、それなりに情報網が有ると匂わせて来た。
そして、資料を読み上げ始める。
「吹っ飛んでるから戦力自体は多く無い。剣豪タイプが直衛に移動したはずだ。他にはスナイパーとか倒されてなきゃ軍師タイプかね?」
「…? ああ、盾持ちがエクスカリバーを防ぎに行ったから交代したのか。一緒に消えてくれりゃ面倒ねえのに」
「厄介だけどサーヴァントからすればその辺は問題無いでしょ。数が増えるスピードと、礼装の方が問題だと思うわ」
獅子劫が準サーヴァント級のスパルトイをまず計上した。
それに対しモードレッドは苦い顔をし、凛は涼しい顔で受け流そうとする。
「遠坂は知らないんだと思うけど、衛宮の投影で魔剣を持たせたら厄介にならないか?」
「うっ……。ま、まあ大丈夫だって。こっちは数名の魔術師で組むし、相手も直ぐに使いこなせるわけでもないしね」
「ねえリン。さっき出来ないはずの事を、ペテンを掛けて実行してみせるのが魔術師だって言って無かった?」
慎二が突っ込みを入れると、忘れて居たらしい凛は渋い顔をする。
そこへイリヤが追い打ちを掛けると、苦い顔に成った。
なにしろ、令呪で無理やり受け入れさせねば、他者には掛けられないはずのタイムアルターを、ペテンとも言える方法で突破することを提案したのは他らなぬ、凛その人なのだ。
それに言峰が兄弟子であるなら、同様の教えを受けて居る可能性も大きい。これで相手はそういうペテンを使えないと判断するのは片手落ちだろう。
肝心な所でこう言うところをミスするのが、遠坂の家系なのかもしれない。
「はいはい、判ったわよ。相手に状況の修正能力がある以上は、ある物として過程しましょ。で、数の予測と礼装の方は?」
「数の方は若干だな。バーサーカーはあの子に習得可能な範囲でしか増産は許さなかったし、仙術をアレンジしないと最初がスパルトイに成らないからな」
「仙術って言うと、自分で自分を生む女仙専用のやつか」
凛は苦笑して降参すると、獅子劫は続きを話し始める。
出胎の法とい仙術を慎二は思い出すが、ドラゴンを竜と仮定するならば、更に仙術を混ぜることは不可能ではないだろう。
高度なアレンジであるが、それだけの数は増やせないのが救いだ。
「高位のスパルトイは竜牙兵や低位のスパルトイを教育できるが時間の方が問題だ。それじゃ戦力には成らねえから、おそらくは少数精鋭化するだろう」
「妥当な所ね。居ても十体ちょっと、準サーヴァント級はその中の数体だろうけど、魔剣持ちかあ…」
仮に四段階レベルが存在するとして、三段階は一段階を増やせ、四段階は一段階を二段階に出来る。
だがあちらに居るかもしれないスパルトイの数は少なく、三段階以上の数が少ない以上はそれほど多くないはずだ。
こちらでも何らかのペテンを仕掛けたとして、増えたのは十居れば良い方だろう(元と合わせて十三か十四)。
「戦力の調整が必要ですね。こちらでそのレベルなのは、サーヴァントを除けば、私とアインツベルンのホムンクルスだけです」
「援護しないと戦力分散になるから最大で四チーム? 人数が居ると言っても偵察に割けるほどじゃない」
「同感だな。作戦を考えるとオレとマスターとあと一人で一組。アーチャー達で一組。残りを一まとめにするか半々だな」
バセットの言葉に慎二が頷き、モードレッドは慎二とイリヤを交互に眺めた。
先ほどの作戦がある以上、二人が同行するのは必須だ。
この三人が固定、凛とギルガメッシュも同様だとするならば、あとはバセットとリズが別れるか同じチームに成るかどうかの判断でしかない。
リズとしてはイリヤの側に居たいらしいが、ソレをすると戦力的に不安になるのが問題だ。
「その辺は最初の関門を確認してからね。相手が弱いなら遠慮するよりも手数で調べるべきだし。…で、言い難いのかもしれないけど肝心の礼装は?」
「あーやっぱ判るか? グレイプニールをモデルにした礼装なんだが…」
最後に回された礼装は、実に嫌な予感しかしない。
その名は有名な宝具の銘を冠した物で、神話に登場する物と同じ名前だ。
「見事に難門という感じしかしないけど。束縛系? それだとライダーは気を付けないと…」
「いや。出現して無い存在を遅延させる術式で、『
凛が獣を束縛したと言う術式を想定するが、獅子劫が語ったのは降霊封じを元にした置延術式であった。
存在しない物過程し、それの無効化を代償に、いまだ召喚されざるモノを封印…ではなくあえて遅延させる。
封印ではないゆえに一つだけならかなりの時間、多数でも数秒遅れるそうで、一瞬が分け目になるサーヴァント同士の戦闘では致命的だろう。
「それはどっちかと言うとアーチャーをメタった礼装? なるほど四次聖杯戦争を参考にしたって訳だ」
「最大の戦力を対策するのは当然だね。まあ、そうなったらそうなったらで、他の手を打てばよいんだけど。大人の時のボクはどうも慢心する癖があるからなあ」
慎二がギルガメッシュへのメタだとは言ったが、仮に『
その作戦を聞いて、子ギルは凛の苦い顔を楽しそうに笑うと同時に、
「ま、まあ事前に判って良かったわ。例の作戦も念のために少し前倒しで発動する事にしましょ」
「でも、それだと負担の問題でダブルアクセル前提で、要所だけトリプルアクセルになっちゃうわね。まあ仕方無いか」
「ペテンが成立するだけ良いんじゃない? まっ、後は戦力をいかに手早く集め直すかの勝負だね」
余裕かましていた凛がヘコムのを堪能しつつ、イリヤと慎二は前向きに計算し直した。
もともと絶望的な戦況で、タイムアルターなど使用できない事が前提だったのだ。
あとは戦力を集中させまいとする卑王側の戦略と、それを踏破して終結させるこちらの戦略の、どちらが有効に働くかである。
こうして一同は作戦の詳細を詰めつつ、まずは結界の第一関門へと進んだ。
ここでどんな傾向の結界かを調べ、その傾向を調べて解く為である。
やがて一同が分岐路に差し掛かると、そこには一体のスパルトイが銀剣を構えて居るのだが…。
『父上は邪悪では無い…。お前達もまた邪悪では無い…』
「っ!?」
その虚ろな声を聞いた時、モードレッドは嫌な予感がした。
良く聞いたような、それで居て、
聞いて居て、叩き斬らないと気が済まない。
「んー、なんだか聞いた様な気がするんだよな…」
「悪ィ。これはオレが片付けるわ」
「ちょっと、何を勝手に…」
止める暇もあらばこそ。
生理的嫌悪感がモードレッドを突き動かす。
プリトヴェンを小形のバックラーとして抑え込み、代わりに威力が低く使って無かったはずの銀剣を抜いた。
止めておけと直感が告げて居るのに、どうにもこうにも止まらない。
きっと後悔するぞ。倒さない方が良いのに…。
いいや、ここは分岐路だ。どの道倒さざるを得ない悪辣な罠。
『はっ!』
「はっ!」
無造作に放たれた銀剣を、モードレッドの銀剣が他愛なく受け止める。
威力は敵が持つ剣の方が上なようだが、能力そのものが上回っている為に互角だ。
おかしなことといえば、後から対応しているはずのモードレッドが何なく対処している事。
「「せい、っや!」」
そして…。
共に牽制として放った筈の拳打や蹴りですら、理解して防ぎあった。
「ねえ、なんだか似てない?」
「そうだな。同門なのかねえ」
「え? アイツ我流だとか言ってたぞ」
共に銀剣を使っているというだけでは無い、これまでそれほど関わってない凛や獅子劫にさえスパルトイとモードレッドの剣筋は似て見え居た。
慎二が聞く限り、我流であると言うのにだ。
もちろん我流とはいえ、剣理は存在する。
重たい剣を振り降ろすスマッシュや、盾で殴りつけて体勢を崩すシールドバッシュなどはどこの流派でも余り変わりは無いように…。
どうやっても、知らずにいようと参考にしようと似るモノは似てしまうのだ。
だが、それですらこの戦いは似過ぎて居た。
モードレッドは少し待ってから反応するとはいえ、対処が出来過ぎて居た。まるでどう考えるか判っているかのように。
『
「
それが如実に成ったのは、互いに宝具の態勢になってからだ。
敵が持つ銀剣が濃く赤黒い赤雷を放ち、モードレッドの銀剣が淡い蒼風を放つ。
後から放ったはずのモードレッドが先に出た。
ライダーである分だけ小回りが違う。
僅かな差で先制し、ここから先は見てから動けないのだと言うのに相手の動きが判るかのように飛びこんで行く!
「
『
此処に来て初めて動きが変わる。
赤雷が落ちるよりも前に、モードレッドは銀剣を掲げて横薙ぎに入った。
蒼風は全身を駆け抜けて、遥か後方へと流れるブースター・ドライブを掛ける。
一瞬だけ早いはずのソレは、確かな踏み込みで敵の胴腹を切り裂いたのである。
それはあまりにも決定的な動きであった。
モードレッドは明らかに、敵の動きを察知して読み勝って居る。
それは偶然では無く、確実に理解して居なければ不可能な動きだ。
「どう言う事? なんであそこまで先読み出来たの?」
「あれは俺の動きをトレースしてたんだよ」
「宝具を投影したついでに、使い手の経験も投影したのね。完全には無理でも降霊を組み合わせれば不可能じゃないわ。なんてインチキ…」
オルガマリーの問いにモードレッドが吐き捨てる様に答えた。
その言葉を聞いて、凛は己の迂闊さを呪う。
何が直ぐには使いこなせないだ。
経験をコピーすれば使い手の情報を引き出せるメリットもあるのだ。
もちろん、モードレッドがやって見せた様に先読みされるデメリットはあるものの、使い捨ての戦力であるスパルトイを強化するだけならメリットの方が大きいだろう。
「このままだと円卓の騎士をスパルトイに投影してそうね。流石に見ても無い宝具までは全員コピー出来ないにしろ…? どうしたのライダー?」
「…そこまで難いか。そうか、そうだろうな」
さきほどからモードレッドの反応が少しおかしい。
噴怒の表情を浮かべながら…。
それでいて、泣き出しそうだった。
パクパクと何かを言いたそうな、それでいて何も伝わらない酸欠の金魚だ。
「ライダー、貴女。何か知ってるの?」
「無理して教えなくても良いわよ。知っていたら抜けられないトラップもあるし、こっちで判断するわ」
オルガマリーはあえて言い難い事をあえて尋ね、凛は不要だと言ってのける。
二人で分担して、少しでも心を軽くしようとしているのだろう。
だがその気遣いは無用だ。
なにしろ、この知識には特にシークレットを要求する様な罠は無い。
ただ…。
「喋るのも構わねえんだけどな…。敵対したわけだし…」
ソレを告げてしまったら、モードレッドは二度と円卓を名乗れないだけだ。
少なくとも、今回サーヴァントとして降りて来たモードレッドに取っては、永遠の決別と成る。
反乱してもなお、彼女にとっての誇りは円卓の騎士としてあるのに…。
そして心の壁を突破したのは、意外な、いや以外でもない人物だった。
「迷うくらいなら次に行こうじゃないか。二つを比較すれば、答えを出すなんて簡単だね」
「まあそうだな。取り合えず太陽の騎士であるガウェイン卿と、最強である湖の騎士ランスロットは避けとくか」
慎二は根拠も無く自信満々に応え、獅子劫は最悪だけ回避すれば勝てるだろうと豪快に笑った。
男たちは野卑なままに(慎二の体は女だが)、何も知らずに踏破しようと言ってのける。
その不器用な優しさに、モードレッドは心底、気色悪そうに笑った。
余計な気遣いというものは、ありがたくとも余計な迷惑だ。
ただ、ありがたいというだけで、その気持ちだけで全ての問題を踏破出来る。
「反逆しといて何を迷うのかってやつだな。いいさ、全て話す。おそらくはこの結界の構造も判るぞ」
「それはありがたいけど良いの? 心苦しいなら…」
モ-ドレッドは先ほど尋ねて来たオルガマリーが、ここで心配そうに覗きこんで来たので少しだけ躊躇した。
やはり甘さは弱さ。
判っちゃいるが、同じ不要と言うなら、無くても良いと突き離された方が対処し易い。
だが、一度決めた以上は同じ事だろう。
モードレッドは意を決して、自ら円卓に背を向けた。
彼女は自分が気に入た者の為に、ただそれだけに戦おうと決めたのだ。
気に入る奴が増えるのは良いこと出し、どうせ背負うならば反逆の騎士の名前を最後まで貫くべきだろう。
「いいか、一度しか言わないから良く聞けよ? 円卓には名を連ねるだけの参加者と、運営に関わるジャッジメントの十三席がある」
「今回、投影されているのは、おそらく…その十三人からアーサーを除いた数ってことね?」
モードレッドは力強く頷いた。
ここまでは特に問題の無い話だ。現に他のメンバーも辿りついた簡単な推論でしかない。
「エクスカリバーにはその十三の魂の欠片が封印として存在している。だから投影するのはそんなに難しくない。問題は封印されている以上は解放で出来るってことだ」
「嘘…あれで封印されてるの? ギルガメッシュの宝具にだって、あれほどの物は無いって言うのに」
「正確には、よほどの事が無ければ使う気が無いだけどね」
モードレッドの言葉に凛が驚愕し、子ギルは苦笑して訂正した。
現世で使用するのは、大人げないから使用しない。
あるいは、使用すれば世界の根幹にかかわり、抑止の化身に見つかるから使わないとも言えるが…。
同じ様にエクスカリバーも、簡単に全力を使う事が出来ないのだろう。
「なるほど。私の『ラック』の機能が制限されているように、エクスカリバーも条件次第で性能があがると」
「そうだ。ジャッジメントはそれぞれ己が納得できる場合にしか承認を出さない。仮にオレが協力を申し出るとしたら、相手が邪悪な奴だけだ」
「それでさっきのスパルトイは邪悪ではないって…」
バセットが自分の宝具を元に尋ねると、モードレッドは頷いて条件を示した。
機密の一つであり、例え反逆しても話す気のなかった情報だ。
当時の騎士ならば知っている者は居るだろうが、それを口にするかは別である。
「最大解放と真価を引き出すには『過半数』の賛同が必要で、可決しなくとも割合で出力は上がる」
モードレッドはあえて、真価に付いては説明しなかった。
ここでは最大出力に関してだけ意味が通れば十分だろう。
「と言う事は、通れる道って卑王に賛成しない騎士を倒して通って来いってこと? 時間稼ぎの上に、邪魔者まで排除させる気か…」
慎二たちはここでようやく、悪辣な罠に気が付いた。
通れる場所には屈強の騎士が投影されており、通るだけでも時間が掛るが、倒すと敵が実力を引き出し易くなるのだ。
更に、絶対に避けるべき太陽の騎士たちが直通路に構えて居るに違いない。
「円卓結界キャメロットってわけね。マーリンが造ったって言う黄金の城壁でもあるなら判り易いのに」
「ギャラハッドの所へ行けば見られるかもしれねーぜ? まっ、罠は嵌って踏み潰すしかないな」
「漢探知~? 勘弁して欲しいな」
こうして一同は禁じられた遊びに没頭する事と成った。
成功しても失敗しても、苦難が待つことだろう。
『禁色結界キャメロット』
突破しようとする事自体が罠であり、籠城でもしないと意味が無い。
十三封印と呼ばれる拘束式には、円卓の騎士の魂の欠片が使われているのだが、これは合議制である。
コピーした魂を敵が打ち減らす事で、曲者揃いの彼らも団結し易くなる。
最悪、『世界を救う為の戦い』を象徴するアーサー王の議決を、ブリテンを巣喰う為と読み替えることで、全ての防壁が突破されても全力が出せる様になる。
(なお、当然ながら十三騎士の居ない場所を、飛行・転移・壁抜けなどの魔術で通り抜ける事は出来ない)
と言う訳で、突破すべき難関が示されました。
次回でこれの半分を突破し、卑王戦の序盤と、言峰戦が分散して開始される事に成ります。