Fate/promotion【完結】   作:ノイラーテム

50 / 57
ブリテンのセイヴァー

「何者だ貴様!」

「お前たちは用済みだ…消え失せろ」

 突如現れた黒き少女にアトラムは激昂する。

 だが、その返答は黄金の剣が一振りされたのみだ。

 澄んだ音が鳴り響き、バーサーカ…聖ジョージが割って入る。

「マスター、これが第八のサーヴァントです。一度お下が…」

「それで止めたつもりか? 温いな」

 聖ジョージの特性は、試練への狂気と、守護騎士であること。

 ならば防がれるのは当然。

 ゆえに黒き少女は、防がれる事を前提に一撃を見舞ったのだ。

 

 ゴウと小さく魔力を噴出し、跳ね上げると宝具の真名を解放した。

「これは影を盗まれし聖なる剣…卑王鉄槌。極光は反転する。光を呑め!」

 跳ね上げると同時に、直下から膨大な魔力が巻き起こる。

 大地を割り、天を焦がすほどに猛悪が湧き起ち始めた。

約束された勝利の剣!(エクスカリバー・モルガーン)

 

 ブクブクと地は融解し、漆黒の魔力が天へと登る。

 まるで流星をCGで逆回転させたかのような軌道。臨機命令により割って入る竜牙兵の盾持ちが、その大盾ごと次々に蒸発して行くではないか。

「ひっぃぃぎぃぃああー!!! わ、私はアトラム。……アトラム・ガリアスタなんだおぞお!!!」

 サーヴァントに準ずるまでに強化された竜牙兵が焼失するのに、ただの魔術師が耐えられるはずもない。

 彼が対魔の力を行使できたのは、単に聖ジョージが割って入った分の隙があったからだ。

 だからこそ、聖ジョージは耐えられない。

 本来なら耐えきるはずの大英雄は、主人を一瞬だけ護り通して、霊基の大半を焼失させた。

 

「ここまで読んでいましたか。いえ、そう目論んだのですね。…やはり汝は竜…邪悪罪あり…き」

「そうだとも。私に罪が無いはずがない。消え失せろゲオルギウス!」

 最初からバーサーカーを確実に仕留める為に、アトラムを巻き込むコースで放ったのだ。

 いやマスターを潰せばそれで済む、あえて言うなら、どっちでも倒せるように策を弄したと言う訳である。

 自らを守ればマスターが死に、マスターを庇えば自分が死ぬ。

 そして、生き残れば改めて斬り殺せば良い。

 

 円蔵山にキャスターより先に入り込み、彼の準備も、一同の戦闘も無視してここまで待った。

 そして最初からこの時を狙って奇襲を掛けたのだ、難しい算段では無い。

 ゆえに聖ゲオルギウスは切り捨てられ…アトラムの命も風前の灯。そこへ…。

「捕まってろよ!」

「邪魔が入ったが…まずは一つ手に入れたことで良しとするか」

 獅子劫・界離が瀕死のアトラムを連れ、即座に脱出して行く。

 彼が間にあったのもまた、最初からアトラムがピンチに成ってくれることを祈っていたからだ。

 このタイミングで助けても勝利は不可能だろうが、瀕死の重傷から蘇る為に、望みの礼装を使うだろう。

 

 そして、その光景を唖然とした表情で眺める少女が居た。

 先ほどまで荒らぶる騎士であったモードレッドは、呆然とした表情で立ちすくむ。

「そんな馬鹿な…。ちちうえが…なんで此処に、いやそうじゃない…。あれが父上のはずはない。あんな卑劣な奴が…」

「本当に第八のサーヴァントが居たのか…。でも、アーサー王の偽者? 女に見えるし…」

 混乱するモードレッドに代わって、マスターである慎二が可能な限り冷静に努めようとする。

 だが、少女の姿をした相手が、伝説のアーサー王とは思えなかった。

 なにより、少しでも油断させる為、騎士の軍装ではなくゴシックの服をまとい、騙し討ちまでしてのける相手が…。

「いや、間違いないぞ? アレは先の聖杯戦争で生き残り、受肉を果たした騎士王に相違ない。ただ…大聖杯の汚染を引き受けてしまったようじゃがの」

「御爺様…」

 マキリ・ゾォルケンが姿を現し、まるで一同を守る様に生き残りの竜牙兵や、虫達を展開し始めた。

 もっとも、護るのは亜種聖杯なのかもしれないが…。

 

「言ってくれるな虫の魔術師(メイガス)。この十年の間、雌伏を余議なくさせられたが…随分と消耗しているではないか」

「やれやれ。ワシ対策もあってキャスターめの術を妨害せなんだのか。かの騎士王がここまで堕ちるとはのう」

 言峰の娘を名乗る存在が何者なのか、正体を突き止めてからは何をするつもりなのか?

 その目的は正しいのか? 果たして、大聖杯の汚染に巻き込まれているのか?

 それを隠し続けた十年の歳月を皮肉り、あるいは見るも無残に変わった互いの姿を言葉の剣で斬りつけあったのだ。

 

「汚染…。聖杯に毒が盛られてて、父上がそれに負け立った言うのかよ? オレが倒すべき相手はそんなに弱かったってのかよ…」

「汚染したのでも、堕ちたのでもない。私は目覚めたのだ! かつてのアルトリア・ペンドラゴンは間違って居たと!」

 目的を見失いそうになり、啼き笑うかのようなモードレッドにかつての騎士王は言葉を叩きつけた。

 おそらくは最も聞きたくないであろう言葉を、現在の真実として叩きつけたのだ。

「そんな事は無い、オレの知ってるアーサー王以外にブリテンの王は居ない! だからオレはそれを越えなきゃならないんだ!」

「物書き上がりが世迷言を! 所詮、貴様など十三の議席を運営する為の穴埋めに過ぎん!」

 茫然自失とはこの事だろうか?

 アイデンティティが崩壊しそうになったモードレッドが、涙を流していないのが、むしろ不思議なくらいだ。

 確かにモードレッドはアグラヴェインと同じで、文官や行政官の面が強い。

 他に任せる者が居ないから、彼女が留守居役に抜擢されたのも間違いではない。

 だが、努力し、修錬を積んで円卓に列席した強さもまた、嘘では無いのだ。

 

「そこまで…そこまで否定するのか!? オレがたった一つ持つ誇りすら引き裂いて…そんなに難いかアーサー! いや、アルトリア・ペンドラゴン!!」

「もし…、もしお前がサクソンとして真に民衆を…。いや。言ってせんなきことだ。…私はかつての騎士王では無い!」

 絆を力に替える儀礼剣…今では大した威力がないはずのクラレントを抜いてモードレッドが唸りを上げる。

 騎士王であった者は、少しだけ痛ましいモノを見る目をしたあと、黄金の剣で迎え討った。

「我は卑王の意思を継ぐ者。忌まわしきヴォーティガーンと化してブリテンの変革、救済を果たす!」

 片手に魔力を集めクラレントの刃を握り込むと、黄金の剣で肩口を切り裂いた。

「ちっ、剣まで私を認めぬか!」

 反発するかのようなクラレントに苛立ちを向けると、突き離すように蹴り飛ばした。

 握り込んだ掌には火傷の様な痕があり、拒絶の証を少しだけ眺めた後、トドメの一撃を振り被る。

 

 だが、それを他の者が放置する筈はあるまい。

 モードレッドの事を思い、あえて手を出さなかっただけ。

 士郎は村正を投影しながら割って入った。

「過去の変更なんかできっこないだろ! 目を覚ませ!」

「変更できない? ああ、そうだとも。我れらが故郷ブリテンは、どうあがいても救済されぬのだ! だから変革する、世界そのものを変えてやる!!」

 技量の上ではアルトリア…いや、卑王ヴォーティガーンに叶うはずもない。

 それを英雄殺しの刃を持って、油断できぬレベルにまで押し上げる。

 うるさそうに卑王は受け止め、万が一にも受けぬように黒き魔力で押し返して行く。

 

「…? 救済できない?」

「そうだ…」

 二人の会話を聞いて居た慎二は、激烈な言葉の裏に切実な願いを見た。

 無視してしかるべきその言葉を、何故か…。

 何故か卑王は無視できなかった。

 あるいは、その思いこそが世界に彼女を繋ぎとめた鎖なのかもしれない。

「聖杯で受肉した時、ブリテンの救済を願った私が何を見たか、教えてやろう! 人理剪定案件…そう、世界が存続する為には、ブリテンはどうやっても救えぬ運命だったのだ…」

 それは神代の終わり、魔法の時代の終わり。

 

 ブリテン島という楔を穿つ為に、いかなる運命を越えても滅びる運命であった。

「我らの、我らの生涯は最初から無駄だった…? いいや、そんな事はさせない」

 心の揺らぎから押し返されかけた卑王は、より一層の魔力を込めて押し返す。

 竜の心臓よりなる魔力炉心は、膨大な魔力を供給し続ける。

 士郎の持つ村正は切り裂くものであり、元より耐久性は高く無い。徐々にヒビが入って砕け散って行く。

「今の世界を焼却してでも過去へ、一つ前の世界を焼却してもっと過去へ。そして人理定礎を定めて見せる。その為の聖杯! 七つの聖杯を持って、私はブリテンを救済して見せる!!」

「過去をやり直す為に世界を燃やす…? そんな馬鹿な事をさせられるもんか! 今の世界に住む人々の生活を壊させやしない!」

 切なる願いに言葉も無かった士郎だが、押し切られそうになる一瞬、思わず逆撃に転じて居た。

 回路が焼けつきそうになるレベルで魔力を解放し、刀を強化して押し返すのだ。

 既に滅びた世界より来た士郎が、そんな運命を見過ごせるはずもないではないか…。

 

 その言葉は正しい。

 だが、正しいがゆえに地雷を踏んだ。

 爆発的な魔力で押し返せるなら、同じことが卑王に出来ぬ筈はないではない。

「黙れ! 愛も、怒りも、憎しみも…全てを私は打ち砕く!」

 血の涙を流しながら、卑王は『約束された勝利の剣!(エクスカリバー・モルガーン)を発動させる。

 速度だけを重視した無理な体勢。

 だが、それで十分。

 強化されたとは言え、所詮はデミサーヴァントに過ぎない士郎が対抗できるはずもない。

 鍔迫り合いなど夢のまた夢、幾らか威力を削いで村正オーバーエッジは砕け散った。

 

 だが…。

 本当に不思議なのは、そこからだ。

 黄金の刃は士郎の肩口で止まり、肌をケロイドに焼く灼熱はたちまちのうちに消え失せて行く。

 そして、ドクドクと脈動するように、黄金の剣と士郎のからだが共振しはじめる。

「これはまさか…。はははっ…ようやく我が手に返ってきたか」

 驚く周囲とは裏腹に卑王は何事かを悟る。

 そしてぐったりした士郎の髪を掴むと、片手で持ちあげた。

「シロウに何を…っ!」

「間違いない…貴様が私の鞘だったのだな…」

 卑王は自らの唇の一部を噛み切ると、士郎の唇に自らの唇を重ね合わせた。

 そして舌を通じて血が士郎の口腔に入り込むと、ナニカに魔力が供給され卑王の唇、そして掌の火傷が癒されていく。

 

「予定が変わった。エクスカリバーの鞘が戻った以上は優先順位が変わる。新しきブリテンに私のサーヴァントとして生きるなら、料理番にでもしてやろう。お前達もどっちに付くか決めておくが良い」

 卑王は士郎の髪の毛を掴んだまま、円蔵山の奥へと移動し始める。

 途中でアトラムが連れて居た少女に声を掛け、何事かを囁いて連れて行った。





/人物紹介
クラス名:ブリテンのセイヴァー(自称)
真名:卑王ヴォーティガーン(アルトリア・ペンドラゴン・オルタナイブ)
 四次聖杯戦争により受肉したアーサー王。
聖杯の汚泥を持てしても完全には汚染されない筈であったが、ブリテンがどうやっても救済されないことを知って絶望した。
そして人理を曲げ、運命改変を成し遂げる覚悟を決めたのである。…例えプロメテウスのような末路が待っていたとしても。
ゆえに、今までなら彼女は絶対にせぬはずの、卑劣な行いに平然と手を染めた。
完全ある効率重視であり、騙し討ち大嘘八百であろうと、心の疵を無視して実行する。

宝具:『約束された勝利の剣!(エクスカリバー・モルガーン)
 聖剣エクスカリバーの一形態。
本来は収束して威力を高める真名解放であるが、本能の赴くままに解き放つ為、本来よりも広範囲に及ぶ。
今回の戦いに置いては、竜牙兵の大軍団を薙ぎ払うほどである(生き残りは瀕死のアトラムに同行した)。

宝具:『黄金の鞘』
 あらゆる呪詛を跳ね除け、疵を癒すエクスカリバーの鞘。
マーリンをして、剣よりも重要と言わしめた、いわばエクスカリバーの加護の大部分と言える。
四次聖杯戦争の終わりに、衛宮・切嗣によって瀕死であった士郎に埋め込まれたらしい。

 と言う訳で、バーサーカーの死亡も確認!
アトラムさんは瀕死なので、何もしなければ死ぬでしょう。
バレバレでしたが、第八のサーヴァントであったのは我が王ことアルトリアさんです。
この世界線のルートにおいては、ギルガメッシュの変わりに受肉した感じに成ります(やってることは天草四郎の方が近いですが)。
ブリテンの滅びは決まっているので、世界を滅ぼしながらその力を使って時間逆行。
残った力で運命改変を成し遂げて、人理定礎を書き換えようとしています。
 なお、最後にモードレッドや慎二たちにトドメを刺さずに撤収した理由の半分は、鞘が無いとギルガメッシュに勝てないからという判断に成ります。
アトラムさんがずるずると失敗したのを反面教師に、確実性を重んじた…。と理由付けをアルトリアさんはしてる筈です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。