Fate/promotion【完結】   作:ノイラーテム

48 / 57
柳堂寺の戦い

「なあ爺さん、そんなに都合良く行くのか?」

「なまじ最善を狙うと、おのずと手は固定されるものよ。…ほれ見るが良い」

 獅子劫・界離が義手の調整をしながら尋ねると、マキリ・ゾォルケンはくつくつと笑った。

 促された先には、アトラム・ガリアスタが少女を伴って居た。

「いつまでも集まらぬ、僅か一つの魂に痺れを切らし、きゃつが誂えた亜種聖杯を持ち込むつもりじゃ。綱引きになるか距離の勝負に成るかが見ものじゃが」

「爺さんの望みは聖杯のシャッフルだからそれで良いだろうがね。…俺の方はどうなることやら」

 キャスターとライダー陣営の戦いが、圧倒的な勝負では困るのだ。

 

 ゾォルケンの望みは亜種聖杯を揃え、平均化する事だと聞いて居るが…。

 直ぐにでも叶う彼と違い、獅子劫の望みは神便鬼毒酒…あるいは命の水と飛ばれる竜の髄液による呪いの浄化だ。

 アトラムが介入できずにどちらかが勝利してしまうのも、ライダーが横槍に気が付いて、奇襲してアトラムの方を処分されても困る。

 ほどほどの高いになった上で、アトラムが苦戦の末に試作品を持ち出すなり、完成させる段取りが必要だった。

 

「カカカ…。心配性の為に説明してやろう。あの寺にはサーヴァントを制限する結界があるが、クーフーリンが狂化の段階を進めると、内から破壊してしまう」

 ゾォルケンは笑いながら円蔵山を指差した。

 強力な結界だと言うが、クーフーリンが持つ神代の力に叶うはずもない。

「じゃが、それではガリアスタの小僧が数による包囲出来てしまう。横槍を避けるためには、どちらもギリギリの勝負を挑む必要があるじゃろう」

 次に指差したのは竜牙兵の大軍団だ。

 将軍級にまで知能を高めた勇者級のスパルトイが、古参兵のスパルトイに部下のドラゴントゥースウォリアーを指揮する形で部隊を形成していた。

 結界があれば、正面の参道のみに絞られるが、もし結界がなければ全方向から数の勝負を挑む事が出来る。

 軍団の中には、剣豪・スナイパー級に力を得たスパルトイもおり、討ち取ることが可能なはずだ。

 

 それを避けるためには、結界の保持はギリギリまで為さねばならない。

 牽制から牽制を重ね相手にトドメを刺した後、向かってくるアトラムを迎え討たねばならない。

「だから、そう上手くいくかって聞いてるんだよ。最後の最後でまた逃げ出したり、共闘されてこっちに来るかも知れねえだろ?」

「今回に限ってソレは無い。言ってはおらなんだが、孫娘が惚れた男に付きたいと言うたので、殊勝に思って土産を持たせてやったのじゃ」

 要するにライダー陣営の情報は筒抜けなのである。

 ゾォルケンの予想と大きく外れて無かったということを、この話を始める前から知っていた。

「ったく食えない爺さんだ。最初から全部織り込み済みかよ。どうせならキャスターの所にもスパイが居るとかだと嬉しいんだがね」

「キャスターは神代の魔術師、流石にそこまではのう。それにワシの望みは複数の亜種聖杯を持って、大聖杯の汚泥を払拭することじゃと言ったろう」

 大聖杯の汚染。

 それこそがアトラムの陣営が聖杯の勝利を諦めた、決定的な理由である。

 汚染されて危険であるがゆえに、彼は部分的勝利を狙っているのだ。

 一勝だけすれば自分が造った亜種聖杯で、簡単な願いを叶えて勝ち逃げをする。

 

 その考えに固執したからこそ、既にアトラムは一勝すらせずとも、人生における勝利を得て居ると気が付かないのだ。

 与えられた情報を信じる者は、自分で真実に気が付いた者より度し難いとは言うが…。

「まあ誰が勝利者でも良いが、小僧であるに越したことは無い。精々、きゃつが適度な勝利を得ることを祈ろうではないか」

「そうするとしますかね。んじゃ、俺は戦いが始まったら林から回り込むわ」

 獅子剛が先行するのを見送ると、円蔵山をゾォルケンはもう一度眺めた。

 いや、睨んだと言っても差支えないだろう。

 先ほど、ライダー陣営に虫を潜りこませた事を言って居ないと言ったが、もう一つだけ言って居ない事が老人にはあった。

 

 全てを思い出し、己の理想と悪行と、かつての仲間を思い出したマキリ・ゾォルケンは焔の様な目で円蔵山を睨んだ。

「世界の破滅、何するモノぞ! ユスティーツァ…待っておれよ」

 ソレだけが…。

 自分が全てを失って居たと自覚したマキリと言う魔術師の、最後に残された思いである。

 

 

 そして柳堂寺に向かう参道では、まさしく老人の予想通りにコトが進んで居た。

「くそっ。またニセモンだ!」

 仲間達の警告を兼ねて、モードレッドは叫んだ。

 せっかく苦労して体当たりを掛けたのに、クーフーリンは枝葉の様に崩れ落ちた。

 いや、苦労したとはいえ、一撃で倒れる様な相手は、偽者で間違いあるまい。

 即座に捻りを掛けて、斜め上へ退避する。

 

 すれ違う様に針の様な葉が、彼女の居た辺りを串刺しにして石畳を破壊した。

 自壊する枝の人形はまるでブービートラップの様だ。

 それぞれが一文字分とは言え、元のクーフーリンと大差ない力を持ち、倒さねば攻撃魔術、倒せばトラップと言うのだからたまらない。

「マスター、残り何体だ!」

「あと七体! でも援護するほど余裕は無いからな!」

 攻撃力は同等だが耐久力はそう無いのだろう。

 巻き込めば同時に狙え、慎二はともかく、士郎やセラ・リズと言った準サーヴァント級のホムンクルスであれば倒す事が出来た。

 そして…。

「桜! 右の奴をやるぞ、ライダーに当てるなよ!」

「了解です、先輩!」

 士郎は投影した黒い矢を、桜に渡して連射している。

 どちらかが交互に射撃したり、あるいは同時に放つことで、なんとか命中させているのだ。

 敵はクーフーリンと同じ力を持つがゆえ、弾かれる事もあるが、当たりさえすれば効果は十分。

 牽制を兼ねて放つ黒き矢の中に、本命は霊威のみに作用し直進する矢『ブラックドック・バスカヴィル』、魔術によって作成された枝人形を相性の差によって効果的に打ち砕いて居た。

 

『ちまちま攻撃したんじゃ全部食われるか。仕方ねえ。こっちも本気で行くぞ!』

「なっ…。体でルーンを…」

 二画、三画。長いものでは五画。

 ボディビルのポージングであるかのように、偽のクーフーリンが腕を折り曲げてルーンを描く。

 地水火風、あるいは光や木、それぞれの力を、周囲に充満させて飛び込んで来る。

 固有結界とまでは言わぬが、小さな世界を紡ぎあげ体当たりを掛けて来たのだからたまらない!

「リズ下がって! 直ぐに治療するから」

「だいじょうぶ。イリヤはほかのみんなを診てればいい」

「くそっ! いいから下がってろ! オレが片付ければ済む話だ!」

 射撃や攻撃魔術を使用するメンバーは問題ないが、白兵組はそうもいかない。

 先ほどまで偽者が放っていた攻撃魔術と違い、ルーンによる小世界は、攻撃力と範囲が格段に違ったからだ。

 たちまち怪我人が続出し、空を掛けるモードレッドですら傷を負わされていた。

 

「やっぱり手加減する気も、共闘する気も無いってわけか。衛宮の言った通りとはね…」

『アホか。いざ向かい合ったら殺し合うまでさ。そこで手を抜く馬鹿はいねえよ』

 呆れたような慎二の声に、それこそ呆れた声でクーフーリンが言葉を投げ返す。

 当然ながら全ての姿が言葉を発しており、本物と偽者の区別を付けさせない。

 あわよくば本物を燻りだすか、本物は居ないのではないか? という疑問を晴らそうとした慎二の案は当然のようにポシャる。

 

「どうする衛宮? 例の仕込みは十分なんだろうけど、このままじゃラチが開かないぞ。狙い通りだけどさあ」

「まあ仕方無いよな。例のアレを行くぞモードレッド!」

「あいよ!」

 慎二の指摘を受け、士郎は天空に向けて白い矢を放った。

 その矢は炸裂して、無数の小さな白羽に変わる。

 白羽の陣が雨の様に降り注ぎ、モードレッドは一時迂回して、波の如き魔力を振りまいて行く。

『アン? ちっ、羽に刃が仕込んであるのかよ』

 波で羽が舞うたびに、クーフーリンが小さな傷を追っていく。

 一つ一つは大したことは無いが、切り割かれるたび、動こうとするたびに傷が深くなる。

 もちろん本物のクーフーリンならいざ知らず、偽者の方はそう長く保たないだろう。

 

『やれやれ。牽制合戦ってのは想定通りだが、こうも攻め手を潰されるとジリ貧じゃねえか。バセット…連中は切り札を使ってるか?』

『いえ。あくまで余技ですね。おそらくは、礼装を量産する手段こそがエース。今の状態では一撃では無理です』

 ぽりぽりと額をかきながら、クーフーリンは己の笑って女に声を掛けた。

 バセットは苦笑しながら、己の男の言葉に境内から声を飛ばす。

『ならてめえは待機して、バーサーカーの野郎にぶちかましてやんな。オレに何があってもだ』

『了解しました。手出しはしませんから、愉しんでください』

 クーフーリンはここで保身の考えを捨てた。

 元より死者、一時的に現界している身だ。それに横槍を狙うアトラム達には、自分の女が体を張って構えて居てくれる。

 ここで本気で愉しむのが彼の流儀、そして、全力で戦う彼に魔力を供給しつつ、横槍に備えておくのがバセットの役目だ。

 

『ダミーはもう良いだろう。んじゃ、100%中の100%と行くぜ? …森の大いなる息吹、汝ら、自分自身の仇を討つが良い』

「しまった! 倒した連中が急速に…。最初から倒される為に用意していたのか…ボクとした事が読み間違えるなんて!」

 クーフーリンが用意した十八の偽物は、ただのダミーではない。

 一体一体が本体と同じ攻撃力を有しながら、報復攻撃を行う為の生贄なのだ。

 倒された十と一、いや十二体分の数だけ、これより行われる大魔術に上乗せされる!

『さあ喰らえ。これぞ森の大いなる怒り、原初の生命が持つ力だ』

 プチプチと、砕けた枝葉の中から粘菌が増えて行く。

 十二の位置から発生し、憤怒を帯びたフォース・オブ・ネイチャー!

 大海嘯が始まり、粘菌の林、粘菌の森と成って襲いかかる!




アトラムの目的:
 サーヴァントを一体倒して魂を格納し、亜種聖杯戦争に必要な全てのデータを得る

獅子劫・界離の目的:
 呪いの除去

マキリ・ゾォルケンの目的:
 大聖杯の浄化

クーフーリンの目的:
 闘いを最後まで愉しむ、手加減は無し

大魔術『生贄の小人』
 続く大魔術の為の布石であると同時に、本体と同レベルの攻撃力を有する偽者を用意する。
ただし、意図された範囲でしか動けず、意図された時間を終えると崩れさる。
最大数はルーンの数であり、攻撃魔術などもその属性に限られる。

魔術『ルーンの小世界』
 体でポージングして、ルーンを描くと周囲に力を纏って攻撃力を増す。
それほど強い威力を持たないが、本体が強いと、かなりの力を有する。
また、『生贄の小人』が使う場合は、対応するルーンの属性しか使えない。

大魔術『生命の怒り(フォース・オブ・ネイチャー)
 憤怒を帯びた森の生命が、大海嘯と化して襲いかかる。
倒された生贄の数で攻撃力と範囲が跳ね上がるが、命令系統が同じなので、使用した時点で生贄は全て崩れさるという欠点もある。
使用する属性で攻撃する属性も変わり、獣の群れであったり、蟻や鳥の群れにもなったりする。
『生贄の小人』だけで倒せるなら、アトラムの横槍対策であったが、クーフーリンはさっさと使用してしまった。

礼装『白羽の陣』
 空の白い矢を飛ばすと、無数の羽に成って降り注ぐ。
全てが小さな刃であるが、動かなければ大した攻撃力が無いので魔力コストはそう多くない。
今回はモードレッドが魔力の波を使えるので、かなり強力なコンボに成っている。

亜種聖杯『マキリの蟲聖杯』
 桜の中に居る刻印虫のことだが、まだ完成に至っていない。
ゾォルケンは大聖杯や亜種聖杯同士をシャッフルすることで、浄化力を高めようとしているので、今策では暴走しない。
また、シャッフルすると死ぬ可能性もあるので、ゾォルケンの本体の虫も此処には居ないようだ。

 と言う訳で、キャスター戦の前哨戦になります。
アトラムが約束を守る = 横槍で約束の期日より前に襲いかかる というのが予想できるので、クーフーリンは対策済み。
士郎達はその辺を知らないので、アトラム対策の大魔術でフルボッコにされてる感じになります。
 今回はカラスとか風小次とか、ナウなんとかさんから色々アイデアをパチってみました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。