Fate/promotion【完結】   作:ノイラーテム

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ザバーニーヤ

「そもそも、デミサーバント化なんてそんなに簡単にできる物なのか?」

「簡単には、いえ普通は出来っこないわ。でなきゃ、私が此処まで来る必要なんかないでしょ」

 可能なのかと問う慎二の質問に、オルガマリーはノーと言う答えを突きつけた。

 本末を転倒する、あるいは根本から覆す答えに苦笑というよりは、呆れた顔を浮かべる他はない。

「ハア!? じゃあどうやってこの場を乗り切るつもりなんだよ! デミサーバント化なんて…」

「話は最後まで聞きなさいよ。…普通にはできないから、バックドアで裏技的に成功させるつもりだったの。ううん、この表現は正しくないわね、成功させたのよ」

 激昂する慎二にオルガマリーは務めて冷静に対応する。

 普段は警戒してることも多い彼女だが、ここに来て腹を括ったのだろうか? あるいは単に、慎二が自分を傷付け無いからかもしれないが…。

「裏技…っ! そうか、英霊を召喚して勝つんじゃなくて、英霊そのものを目的にしたのか」

 慎二は元は魔術の才能は無かったが、呼べるとしたらと、自分が英霊を呼べるとしたらと色々な手法を考えて居たのだろう。

 裏技と言う言葉で、何を目的としたかを推察した。

「病人を直す為に医師の英霊を呼び、錬金術が可能かどうか確認する為に錬金術師を呼ぶ…そういう方法か」

「一言で理解してもらえると助かるわ。山の爺のうち、英霊と呼ばれる様な暗殺者たちを育て上げた存在が目的だったの」

 慎二の想像をオルガマリーは肯定した。

 

 暗殺者の英霊…いや、アサシンの語源とすらなった教団の長。

 山の爺は様々な技を得意としたと言い、冬木でアサシンを呼べば歴代ハサンの誰かが来る様に固定されていると言う話だ。

「アニムスフィアではとある目的でデミサーバント化を研究していたのだけど、成功度が低いとみられていたの。そこで、山の翁と呼ばれる党首の中で、肉体改造を得意とするハサンに目を付けたわけ」

「肉体改造?」

 オルガマリーは軽く頷き、移動を開始しようと教会で貰った服を指差した。

 今のところ他に行くあては無く、仮に降伏同然で聖杯戦を放棄するとしても、そこに行くしかないだろう。

 そして、士郎に術式を施せるような場所も他に充てが無いのだから。

「中世に置いて、それまで出来ていたことが出来なくなり、あるいは外国由来の技術が異端とされたわ。当時の外科手術は悪魔の技ってわけよね」

「文明の暗黒期か。まあ、当時のロード達が主導したとか、神秘を隠したって考え方もあるけど」

 オルガマリーは皮肉には答えない。

 あるいは、ロードの家系ゆえに答えようがなかったのかもしれない。

 それ以上の言葉が無いと理解して、歩きながら続きを話し始める。

「中東で後継者たちに肉体改造的な技術や薬品を残し、西洋に渡って医術を広めた替わりに、色々な技術を学んだそうよ。まあ魔術なんでしょうけど、それを故郷に持ち帰った」

「そして、その残された技…宝具で、デミサーバント化を効率よく進めた?」

「英霊召喚を可能とする第三魔法は、技術と魔術の境界を渡るモノだし、因果関係的にも…成立し易いのかな」

 今度こそオルガマリーは頷いた。

 ハサンを育てるハサンが残した技術と経験であれば、デミサーバント化も成功し易くなる。

 不承不承であるが、慎二とイリヤも納得はしたようだ。

 

 それはそれで危険な賭けなのだろう。

 だが、アトラムに襲われた時のオルガマリーや、今の士郎には放置すれば死ぬ他ないのだ。

 一か八かの賭けであれば、十分に採算があり、二度目とあれば成功度も高い可能性がある。

「死ぬよりは良い、成功率が在るのも判った。じゃあ聞きたいことはあと一つだ。…副作用はどうなんだ?」

「さっきアインツベルンが技術と魔術の境界を渡るモノと言ったけど、まさにその通りよ。本人の自覚ある無しに、技術と魔術が混ざり合って現出してしまう。どんな能力が目覚めるか判った物じゃないってことね」

 そう言ってオルガマリーは自分の目の辺りを指差すのだ。

 そこには血で赤く染まってしまった、直死の魔眼が存在していた…。

「私ならこの眼。多分、死に掛けた状態でずっと時間を掛けてしまったとか影響してるんだと思うけど…。正直、今回は急場だから判らないわ。それにバランスとかちょっと怪しいかも」

「サーヴァントに関連する技術なら、核に魂を固定する方法は? 御爺様はそうやって延命してる筈だけど」

 倒れた士郎を支えながらなので、遅々として歩みは進まない。

 気持ちの良い話ではないが、つい、研究じみた話になってしまう。

「ああ、本体を別に移して『降霊』と『支配』をベースに組み入れるのね。それならなんとか…できれば虚数魔術があれば安心出来るんだけど、こんな時にトリシャが居てくれたら…」

 マキリ・ゾォルケンが残した資料の一つに、そんな案があったそうだがと聞いた時。

 オルガマリーは何の気なしに、案の一つに辿りついた。

 とはいえ、虚数魔術はレアな属性だ。

 中々居るものでは…。

「虚数魔術があればいいんだな? 心当たりがあるから、教会に来るように伝えとく。…だから失敗何かするんじゃないぞ!」

「え、居るの? …なら成功までは何とかして見せるわ」

 キョトンとした顔で慎二の話に頷いた。

 少し遠いのだろうが、準備を考れば言うほどの事は無い。

 どちらかといえば、どこまで英霊化するのかが判らないのだ問題だろう。

「シロウ、待てってね…。必要な魔力は私が全て提供するわ! だから、絶対に失敗したら許さないんだから!」

 

 そうして一同は、ライダーと合流しつつ冬木教会に辿りついた。

「ようこそと言うべきか、それとも無事に御帰りとでも言うべきか。ひとまずはアインツベルンの少女よ、数日ぶりだな」

「…言峰綺礼」

 そこでは言峰綺礼が、両手を広げて待ち構える。

 受け入れるではなく、待ち構えると言うイメージしか湧かない不気味さだ。

「睨みつけて来るとは随分な挨拶だな、私は…」

「その様子だと、ある事無い事吹きこんだみたいだな。あんまり気にすんな」

「うん…そうなんだけど…」

 言葉をモードレットが遮った。

 口ごもるイリヤを見て、いや、正確には二人を見て珍しい見たとでも言わんばかりに、綺礼は目を見開いた。

「何か不満でもあるのかよ?」

「…真実だけを伝えたつもりだが、言い忘れた事が一つだけある。ならば私も手落ちだったと、先ほどの非礼は流すとしよう」

 聞きたくない事まで語ったに違いあるまい。

 モードレットはそう判断するが、間違いではない。

 だが、そう判断したのならば…彼女もまた耳を塞ぐべきだった。

 さっさと用件を伝え、場所を変えるべきだったのだ。

 だから、きっと後悔する事になる!

 

 綺礼は随分と楽しそうな、まるで楽器や銘品を愉しむ様な顔で微笑みかけて来た。

「いや、お前達を見て居ると十年前を思い出してな。…あの時も、アインツベルンはセイバーを擁していた。ああ、お前はライダーだったか、まあ大差あるまい」

「あん…? どう言う意味だ? 十年前のサーヴァントなんざ意味が無いだろう」

「こら、話してる時間なんか無いんだ。さっさとどこか休める場所に…」

 もう、遅い!

 口は災いの元というが、言峰綺礼ほど真実だけで人を傷つけられる者もそうはおるまい。

 だから心の疵から、目に見えない血と痛みでのたうち回ることになる。

 それがどれほどの痛みか、知って居たと言うのに!!

「アインツベルンは最高の魔術士に、最高のセイバーを召喚させた。まさに最後に聖杯を掴む寸前に達する程であったが、かの騎士王ならば何もおかしい事ではなかった」

「ちち…うえが?」

 呆然とした表情でモードレットは男を眺めた。

 こいつは何を言っているのだろう?

 いや、それ自体はおかしな事では無いのだ。

 これ以上、聞いてはならない。自分が聞いた事からも耳を背ければ、まだ間に合うだろうか?

「父上が召喚されていた? 聖杯を求める為に」

「そうだ。…やはりモードレットであったか、似て居るからもしやと思ったが。フフ…かの騎士王が守り切れなかったアインツベルンの聖杯を今度こそ守り通そうと言うのかと思うとな」

 縁とはなんと不思議なものだという言葉をどこか他人事のような言葉で聞き流す。

 別におかしなことでは無い、業績を残した英雄であれば英霊として座に登録される事もあるだろう。

 だからおかしくない、耳を背けろという直感に、この時ばかりは素直に聞けなかった。

「その時、最後の決戦ではランスロットを討伐して辿りついたそうだ。断罪を完了したものの、弾劾でもされたのだろうか? 自分は王に相応しく無いのではないか、と言わんばかりに憔悴していたそうだがね」

「そんな訳があるか…!」

 綺礼は伝聞のみを伝えたが、モードレットはそれに気が付かない。

 思わず激昂し、胸ぐらに掴みかからんばかりだ。

「キャメロットの王は父上以外に居ない。騎士王を除いて相応しい奴なんか居ないんだ!」

「これは異な事を言う。そのキャメロットを滅ぼしたのはお前では無いのか? 弾劾する手間が省けたと言うものだろう」

 絶叫するモードレットの顔は、涙の無い啼き顔であった。

 手間が省けた? 冗談では無い、それは、それこそはモードレット自身がやらねばならないことだったのだ!

 気に入らないランスロットを断罪するのも、王を弾劾して成り替わるのも自分でなければなら無かったのに…。

 やるべきことを全てやっておいたと言われて、目標を見失わない者が居るだろうか?

「ともあれ、柳堂寺に向かわせた者からの話では、良くも悪くも順調だそうだ。聖杯を使うにせよ、壊すにせよ、早い方が良いだろうな」

 綺礼はそう言うと、グッタリした士郎を抱えてベットの方に連れて行ったのである。

 




宝具『妄想外科(ザバーニーヤ)
ランク:C
種別:対人宝具
 とある代の山の爺が伝えた、外科手術が悪魔の技であったころの、治療および、肉体改造の技術の結晶。
物理と精神の境界を取り払い、対象に神秘の力を授ける、真・アサシンの宝具。
この宝具は伝え残す技術と秘薬からなる、後に遺せる物である。
 一見、メリットが多い様に見えるが、どんな能力になるかはその人物次第、およびバランスなどは考慮されていない。また、この技術に関する来歴から、使用者及び、施術者は『無辜の怪物』として忌み嫌われていくことになる。
オルガマリーが封印指定対象ではないかと疑われ易いのも、遠い未来に英霊エミヤがうとまれるのも、そうおかしな話では無い。

 と言う訳で、デミサーバント化の成功レベルが低いと言う欠点を、真アサシンが遺した宝具と、虚数魔術で核を封入すると言うことで補う感じです。
(fate/goの話に、プリヤのカードと運命のタロットシリーズでの大精霊への転写関連を少し混ぜてます)
何と言うか、丁度良い安定した核が、士郎の手元にはあるので、アッサリ成功するでしょう。
問題はデメリットの方がアレなのですが…。
と言う訳で、次回に桜が合流、魔力も前回、手術がパパっと終わって、キャスターとの決着を付けに行く感じです。

追記:
キャスター戦とオマケで中盤の人理剪定編が終了予定?。
その後に、最終章として運命の五月雨編に突入する予定になるかと。

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