上手くいかなければ、何度か修正する予定。
振り上げられた杖より落ちた影。
「今のを食らって生き残りやがったな? 心の臓腑に落ちれば必ず死すべきその運命を」
ソレは影を落とすと言う呪いであり、影とは死を象徴する事もある。
それが影見踏みと言う、死を掛けた遊び。
物質的に存在しない刃が死地に存在する。
「完成したら死ぬんだろ? なら呪いが形になる前に先に食らえばいいさ」
だからこそ俺は、死中に活を求めて飛び込んで行った。
絶対に防御できない、貫通する刃なら、受ける場所を自分で決めればいい。
それを瞬時に判断した訳じゃないが、咄嗟に飛び込んで頭突きをかましたのだ。
間違いなく大したダメージじゃない。
だけど、これは手も足も出ない俺が繰り出した、初めての反撃だった。
「さあ次だ。次があるなら、今度は喉元に噛みついて見せる。その次があるなら、心臓に突き立てるのは俺の方だ!」
例え今は鼠が噛みついただけであろうとも、生きているなら何度でも繰り出せるし、もっと的確に食らいつき直してやればいい!
ちっぽけな俺が繰り出した言葉を、虚勢と受け取ったのか男が笑う。
それとも顔を抑えているのは、文字通り顔を潰した相手への、怒りを抑える為だろうか?
「てめえも良い具合にトチ狂ってやがんな。あーたまんねえ、ヤる気抑えるのに酒や女にでも頼らなきゃやってられねえ」
男が顔から手を離して笑い転げる。
その表情は潰れかけ、怪我よりも怒りで血管は膨れあがり、そして目は片方が潰れかけていた。
「昂るのを我慢でき無さ過ぎて、叔父貴を笑えやしねえ。まー笑う気は無いし、叔父貴を馬鹿にするやつあブッ殺してやるが」
その潰れた顔で、男はなおも笑い転げる。
ちっぽけな俺が、更にちっぽけに見えて来るぐらいに、怒りで体を膨れ上がらせて。
…違う!
(本当に俺がちっぽけなんだ。ゆうに3mはあるぞ…。いくらなんでもおかしい。さっきまでどこかのプロレスラーくらいだったのに…)」
口には出さず呟きながら、俺は恐ろしい現実に気がついた。
学校で見かけた時、奴は2mも無かったはずだ。
それがこの家で見た時は、もう人間山脈と呼ばれたレスラーに匹敵していた。
さらに言えば、睨むだけで腕を振るうだけで魔術が発動するなら、双剣のアーチャーと互角だろうか?
驚愕して見ている間に、男の潰れた目から放たれる魔力は…。
行き場を無くしてブスブスと煙を立てている。
「あん? ああ、こりゃあ自前だ。てめえのせいじゃねえから気にしなくていいぞ。マスターが怒りそうだしヤベエから、できれば使いたくはなかったんだが…」
男は言いながら、片目を閉じて杖をその辺りに突き立てた。
もはや既に、あれほど長かった杖が、大剣かせいぜい通常サイズの槍に思えて来る。
「てめえはアレだろ? 練習よりも本番で全力出すし、最初は防御を固めて徐々にスロットルをあげてくタイプだ。俺で訓練しようたあ、ふってえ野郎だぜ」
サッカーのPKを見ているような感じで、男が杖から距離を開ける。
否、ような…感じじゃない。完全にPKそのものだ!
「行き掛けの駄賃に殺して行くが、こんなんで死ぬんじゃねえぞ?」
男は心底心配をしていた。
愉しみが一瞬で終わっては困ると、心底心配していた。
そんなにも惜しそうな顔をするなら、手加減というか立ち去って欲しい物だが、死んだらそれで構わないらしい。
先ほどまでの魔力が水道水に思えるほど、濃密で強烈な魔力を宿して走り出した。
『
男は宿り木で出来た杖に向かって全力疾走、その途中で地面をこすり上げ、反動で凄まじい力を蓄える!
宿り木の杖が、弾けてカっ跳ぶ。
猛烈な蹴りで叩き込まれたソレは、腕で投げるよりも遥かに強烈だ。
まして途方も無い魔力が載せられて、避けるも至難、受けるも至難の魔技である。
「うおおお! トレース、オン!」
俺はありったけの魔力を込めると、身を反らしつつ全ての魔力を動員する。
何もせずに直撃すれば、いや受け止めても腕なら肩ごと、フットブロックであろうと腰ごともがれかねない。
だから、必死に片手で跳ねあげ、可能な限り力を受け流す事にした。
当然ながら完全に威力を殺す事には失敗し、俺の体はキリモミしながら吹き飛んで行く。
受け身も取れずに悶え苦しむ俺に残されたのは、残る力でどうやって相討ちまで持って行くかだった。
どう考えても敵だけ倒すなんて不可能だ、だからまずは相討ちにまで持ち込み…。
「槍を受けて生き残りやがったか。まあそれでも七日もありゃあ呪いで死ぬんだが…こうなったら撤退しろって言われてんだよなあ」
ソレを察したらしい男は、さっさと勝ち逃げに徹することにしたらしい。
攻撃だけで重傷を越えた致命傷。
魔力で生命力その物を向上させてなければ、即死する状態を見て…。
「攻撃だけじゃない? のろっ…グアアア!!」
声にならない痛みに、俺はのたうち回った。
体の中から、何かが延びる感触!
先ほど作り上げた魔力の防壁を迂回するように、ナニカが俺の体の中で成長している!?
「逃がさない。先に…」
「まっ死にたきゃ、呪いを止めるために追って来な。マスターからも止められちゃいないからよ」
悲鳴の様な軋みを挙げる体に鞭打って、俺は走り出す。
だが無常にも、敵は土塀を乗り越えて、軽快に笑った。
その表情には侮りなど無く、必殺技を受けられた怒りも無い。
ただただ、死に向かい合う戦士の貌が姿を見せる。
「この野郎、逃が……」
追ってどうなる物とも思われなかった。
だが、追わなければ七日前後で死ぬ運命。
だから俺は痛みを後回しにして、残った体力と魔力に総動員を掛けて飛びあがった。
視えた人影に、最後の気力を振り絞って大上段から…。
だがしかし、そこに見えたのは、見知った人物に良く似た顔の女…。
「きゃっ!?」
北欧の雷神のように変身したのか? それとも他人か?
考えるよりも先に、俺は急制動を掛けた反動で、意識を手放していた…。
登場人物
キャスター?:クーフーリン
コノートの女王を捕え、侮辱した男。
それだけでなく、コノート中の勇士という勇士を殺し、ついには親友や息子すら手に掛けた暴虐の魔人。怒れば肉が盛り上がり、全身が血走って片目で睨み、目からはブスブスと煙が立つと言う。
アルスターから見た本来の召喚では無く、コノート側から見た側面である。
能力
『狂化』
ランク:シェイプシフト
怒りや興奮によって段階があがり、徐々に体が巨大化する。
納めるためには冷水を浴びる必要があるが、風呂桶二配分の水が蒸発する。可能ならば女性や酒などによる宴も必要。
サイズの巨大化と溢れかえる魔力の影響で、本来持つべき、陣地作成は失われている。
『ブランクルーン』
ランク:A+
ルーン文字に特化した道具作成能力で、失われた神代のルーンすら刻んで残す事が出来る。
意味を吸収して世界に刻まれるため、即座に刻む程度では、大した力を持たず、直接に他のルーンと組み合わせることはできない。
『多面召喚』
ランク:-
キャスターとバーサーカーを兼ねるが、狂気は徐々に理性を失わせる。
元からのバーサーカーと違って扱い難く、二重召喚と違って、どちらかと言えば呪いに近い。
スキル:
『ルーン魔術』
ランク:B
ブランクルーンでルーンを作成できるように成って居るため、あくまで基本的な能力の表現。
このスキルで神代のルーンを刻んだ場合は、神性ランクに応じてダメージを受ける。
『高速詠唱』
ランク:D+
ルーンを高速で刻むことが出来る。
宝具:
ランク:B
親友のフェルディアを殺した時に使った能力面が表に立ち、威力だけではなく、死を与える強烈な呪いを持つ。
防壁などを迂回し、強化して耐えても、時間を掛けて浸食する力がある。
と言う訳で、クーフーリンを強化して本来の姿に近いモノにしてみました。