Fate/promotion【完結】   作:ノイラーテム

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Knignt x Wizard

「あんにゃろう、本当にやりやがった…」

 モードレットは衛宮士郎の事を馬鹿だと思った。

 見た者を殺す眼を持つ、物騒な女を助けるなど。

 ましてや災いの渦中に飛び出すなど、論外極まる。

 

 だが、不思議と悪い気はしなかった。

 円卓の誰に聞いても、笑い話にしかならない無謀さなのに。

 

 本当に世界を破滅するなら即座に抹殺を、苦痛無き死を与えるべきだと英雄王に同意しただろう。

 逆に冤罪だとするなら、もっと上手く助けるべきだと言っただろう。

 彼ら円卓の連中は、そんな風に完全なる王へ躾けられている。

 

 実際の話、モードレットは助けるべきではないと判断し、むしろ有利な位置を占める為に移動していた。

 この事態を最大限に利用し、最善を勝ち取るべきだと、理解はしていた。

「判ってる、判ってるんだよ。そんな事は!」

 だけれども、こんなに体が熱いと思った事は無い。

 だけれども、こんなに心が震えた事は無い。

 

「あいつ、本当に自分がしたいことを実行しやがった。自分が助けたい奴だけの為に、命を張りやがった。嘘じゃなかったんだな」

 笑える。

 笑えて仕方が無い、衛宮士郎がしている事も、自分がしようとしている事も。

 馬鹿さ加減が酷過ぎて、涙が出そうだ。

「…なあ、マスター。命は惜しいか?」

「何言ってるんだライダー。もうとっくに死んでるさ。何時まで動くか判らない人形のからだに未練なんかあるもんか」

 震える声で、モードレットは自分にしがみつく慎に尋ねた。

 留めて欲しい訳でも、留められて聞く耳もないが、嫌なら置いて行く義理くらいは感じて居た。

 

 だけれども、返って来た反応は考え無しの大馬鹿だった。

「勝手なことを押し付けて来る魔術師の理屈なんて、もうウンザリなんだよ! 横槍食らわせて、ブン殴っちまえ!」

「おーらいっ。ほんと、馬鹿ばっかりだ…。底抜けの大馬鹿ばっかりだよ!」

 かくして黄金の船は、最大級の軌道を取って加速を始める。

 

 止める者が居ないのか。あるいは体当たりでトドメを刺す様な軌道だから、留める者も居ないのか。

 いや、英雄王はニヤリと笑って、お前に出来るのか? とイヤらしい笑いを浮かべて居た。

 

 躊躇している間に、セイバーが倒されてしまったようだが、知ったことか!

 汚い物でも払う様に、士郎が少女の方に蹴り倒されたが好都合だ。

「しっかりつかまってろ!」

 魔力を最大級に展開、危険域まで黄金の楯に注ぎ込むと、過負荷すら帯びながら急加速。

 黄金の船は凄まじい勢いで死地に突進すると、僅かに軌道を変えて二人をかっさらう!

 

 フルスロットルを入れた魔力は、プリトヴェンの力で迷惑なレベルに拡大。

 膨大な魔力は使い手のライダーにも、助けたばかりの二人にも、当然周囲の連中にだって波及する。

 そして天へと方向を切り替えて、ひとっ飛びに掛け受けた!

 

「なっ?! 連れて逃げる気か!」

「Honi soit qui mal y pense」(あしと言うモノに、災いあれ!)

 逆巻く波濤を制する王様気分。

 怒りの声をあげるアトラムをしり目に、罵声を浴びせてモードレットは駆け抜ける。

 

「くそっ。獅子劫、今何処に居る?」

『あん? 指示通りに、データ計測しながら亜種聖杯を危険な所から離してる最中だがね?』

 アトラムは通信を入れれると傭兵を呼び出した。

 伏兵が居ることを可能な限り悟られない為に、そして亜種聖杯を上手く運用する為に、車へ戻していたのだ。

「よし、ならば問題無いな。空を飛んでる奴が居るから、視界に入らない様にして魔力反応で追いかけろ。…魔眼持ちだ」

『了解。最悪、方向だけでも絞っとくわ』

 ヒュィーンとロータリーエンジンが静かな音を立てるのが、微かに聞こえた。

 怒鳴り散らしたい所だが、そうもいくまいと、冷静になろうと心掛ける。

 

 だが、ギルガメッシュはそんなアトラムを嘲笑うかのように、高笑いを始めるのだ。

 もちろん、嘲笑っているのだし、この喜劇を愉しんで居るのは間違いない。

「ふはははは! 真実、バロールの眼が制御できないのであれば、世界は滅亡まっしぐらだな。さて、お前たちはどうするのだ?」

「使い魔風情が良い気に…。ここは追い互いに痛み分けと行こうじゃないか?」

 ギルガメッシュは自身を使い魔と罵る魔術士を許した。

 

 何しろ彼は全てを知っている。

 アトラムの勘違いも、冬木で何が起きているのかも全て知った上で…。

 爆発寸前の大聖杯があるのに、亜種聖杯を幾つも用意した道化を許した。

 

 まさに喜劇ではないか、道化に怒りを覚える王など居るはずもない。

「まあ、我は一応は使い魔ということになってはいる、マスターを説得できるなら良かろう。…で、向こうはどうする?」

「…封印指定。バロールの魔眼の疑いがあるなら、十分に指示が降るはずだ」

 ギルガメッシュに煽られたアトラムは、赤を通り越して真っ黒になった顔でバセットを動かせる仮定を絞り出した。

 

「…くっ。その可能性は…高いでしょうね」

「さんざん遊んでくれた連中と手汲むのは業腹だが、まっ。ジーサンの眼が原因なら、これも浮世の義理ってやつだな」

 自分の感情よりも仕事を優先するバセットに対して、クーフーリンはさらっと真実だけで嘘をついた。

 怒りはあるが納めると言うのは嘘ではない、協力もするというのも嘘では無い。

 だが、ここで話を打ち切ると言う事は、結果的に士郎達と組んで居た事実を覆い隠す嘘に成る。

 

 それが致命的でないにしろ、霊器に大きな傷を残すと自覚した上で、話題を誘導したのだ。

 真実を守るというゲッシュを自ら破るのだ、もはや全力を振るうことはできまい。

 だが、信条では少女たちに協力したいバセットの心を守れるし、自分も気分が良い。そうクーフーリンはやがて来る破滅を笑って受け入れた。

 それが最大級の援護射撃、また出会ったら本気で殺し合うだろうが、躊躇する気は無い。

 

「だ。そうだが、どうするマスター?」

「ふん。停戦までは構わないけどね。聖杯戦争の真っ最中だってことは忘れないでよね。他所者に対する協力は、『どっちも』うろつくのを許可するだけよ」

 何が起きているのか判らない状態で、流石に協力を頷ける訳が無い。

 しかも、相手は亜種聖杯を作って、成果を持ち逃げしようとするアトラムだ。

 凛は自分の聞いて居る情報を伝える事無く、ただ、『他所者が冬木に何しても関知しない』と、誰に対しても一定の距離を保つことにした。

 

 与えられた情報で判断できるのはそこまでだろうか?

 ギルガメッシュは一応満足すると、凛を連れて帰還して行く。

 

 こうして、聖杯戦争における前哨戦は、誰に取っても不本意な形で幕を閉じた。

 




 と言う訳で、前半戦終了。次回から中盤の聖杯解体をメインにしたお話に移行します。
現時点で状況を完全に把握しているのがギルガメッシュただ一人。
次点が所長で、大聖杯が爆発寸前で、亜種聖杯の魔力が注ぎ込まれたら危険と、なんとなく認識している程度。
アインツベルンは四次マキリと同じく、おかしいと気が付いて様子見中。
クーフーリンや凛は、手を組んでたとか言うのを伏せて、仕切り直し。アトラムさんはまるで判って無い状況で、止せばいいのに自分で責任者に成りそうな雰囲気(聖ジョージは愉悦中)。
 今回のお話を思い付いたのは、「全陣営が本気を出したら?」「相性が良かったら?」「それを叶えるために、全陣営の背後に介入者が居たら?」というのを考えて行った結果。
「あれ? 良く考えたら、確か冬木の霊脈って今危険なんだよね?」という事に至ったので、前半が聖杯戦争→中盤が聖杯解体→終盤がゴニョゴニョ。と言う感じで組んでみようかと思いました。

データの補足:
『直死の魔眼』根源に繋がる式ではなく、滅びに直結する士貴より。スパさんがあっさり消滅したのも、滅びが確定される計測中だった為。
『大神刻印』封印されていますが、これを回避する為に模索中です。

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