「何が…起きて、いるの?」
自由にならない体に鞭を打って、少女は音のする方へ進む。
筋肉は硬直し、目も調子が悪いのか像がうまく結ばない。
飛蚊症のように邪魔が入り、ジクジクと痛むかと思えば、充血が酷くて血がにじむかのようだ。
あまりの痛みと、不吉な光景に、精神的にまいっていたのかもしれない。
だからだろうか?
目の前に非現実的な光景が拡がって見えるのは?
魔術士である彼女をして、それは死の河としか評しようが無い光景だった。
「抗え。朽ちる定めを覆す為に、滅びを踏破し、自らの生き方を歴史に刻むために。戦いと言う祈りを捧げよう」
『セント・ジョージの加護を!』
中世風の甲冑を着た騎士、聖ジョージの名のもとに、竜牙兵たちが始動した。
まずは二・三の個体が先駆けとして、争う様に突進。
続けて第二波、第三波が怒涛の様に押し寄せた。
竜牙兵と言っても、彼らは全てが精鋭たるスパルトイ。
弱いサーヴァントにも匹敵する彼らの突撃は、もはや死の行進と言って差し支えあるまい。
「はっ! 懐かしい景色だぜ。来な!」
クーフーリンは嗤いながら、ヤドリギの杖を大地に突き立てた。
百以上の敵だからと言って、彼にとっては見慣れたモノ、対処など手慣れたモノだ。
「開封!
予め封印されていた大魔術が解放される。
葛の旺盛な生命力が建物を蝕む様に、緑の波が敵陣を襲う。
それはまるで、白い河と緑の河が混じり合う、大海嘯だ。
現実の物とも思えない死の大河である。
だが、神代を伝える連中ならば、鼻歌交じりに対処する。
『ここは我らにお任せを!』
第一陣のスパルトイが、腰を落とし剣や槍を支えに肩を組む。
第二陣がそれを足場に駆け登り、第三陣以降は即座に待機。
後方より竜皮スクロ-ルを持った個体が、膨大な魔力を暴走させ、自分たちや第一・第二陣ごと爆散する。
そして相殺した屍を踏み越えて、第三陣以降が再び前進を開始しようとした時。
天より眩い光が前衛陣全てに降り注いだ。
『
太陽の光が如き光弾が、無数に分裂して前衛陣全てを呑みこんだ。
そう、先の大魔術はただの囮。
神代より現代に伝えきった宝具の機能が一つ、掃射攻撃を成功させる為である。
この攻防そのものが、真なる一撃を隠す偽りの幕だと、フラガラックを知る者ならば気が付いたかもしれない。
本来は、たかが敵陣殲滅の為に使って良いモノではないのだ。
だが、続けざまに放たれる極大の攻撃が、真実を覆い隠して行く。
「いくぜ相棒! 75%まで稼働率上昇承認! ぶっとばせ!」
『イエス・マイ・ロード! 百年の大戦を共に!』
あろうことか、ライダーが黄金の大剣を無造作に投げつけた。
だがそれは、まるで円盤投げのように大回転を掛けると、勢いをつけて敵中央を目指す。
「温いな…。まさかこの程度では無いでしょう?」
「あったり前!
聖ジョージが飛来した大剣を剣で弾くと、そこへ凛が宝石に込めた力を解放する。
大魔術にも匹敵する力は、周囲一面を凍結させる。
巻き込まれたスパルトイ達は砕け、たまたま耐えきった個体も、体を凍りつかせて動きを止めた。
高い対魔力を誇る聖ジョージも、主人の壁に成りつつ、能力の増強までは出来なかったようだ。
傷は大したことはないものの、目に見えて動きが鈍った。
「もらった!」
そこへ、弾かれた剣を空中で拾ったライダーが真っ向唐竹割りに振り降ろしたのである。
「やったか?」
「これで済んだら興覚めと言うモノよ。そら、次が来るぞ。死にたくなければ精々あがいておけ」
期待を込める士郎に、ギルガメッシュは愉しげに忠告を投げてやった。
何しろ彼好みの喜劇はもう少し先だ、こんなところで役者が死んでは、剣士の真似ごとしてまで雑兵働きなど割りに合うまい。
「素晴らしい。やはり人の輝きは素晴らしい。かつて竜であったモノが見せる知恵、そして今代の竜が見せる勲しは、いつだって素晴らしい」
『我らが母と、セント・ジョージの名のもとに! 我らが明日に誉れあれ!」
肩口に傷を負ってなお、聖ジョージは愉しげに笑った。
彼の期待に応えるべく、スパルトイ達は戦陣すら汲んで襲撃を続行する。
もとより彼らの時代に、そして現代に一対一と言う概念がある訳も無い。
『ラーッシュ! ラッシュ、アン、バックス!』
『ラッシュラッシュ!』
盾を持つ個体が先頭に成り、盾で殴りかかる攻防一体のシールドバッシュ。
「くそっ! こいつら急に知恵を…うっとおしい!」
「駄目だライダー! 一端引かないと何もできずに押し込まれる」
ライダーが黄金の大剣で薙ぎ払うが、一体が盾で剣を強打した。
木っ端微塵になるどころか、我が身を犠牲に刃の勢いを留める始末。
お陰で二体目を一緒に倒す事が出来ず、大剣の厚みを活かしてこちらが防ぎ止める羽目に成る。
もしこの剣が、盾としても使えるようになってなければ、傷の一つも負ったかもしれない。
いや…剣としても盾としても…、中途半端な使い道だから苦労してるだけか。
ライダーは直感的にそう判断すると、自らのマスターの方を確認した。
そこではスパルトイ達がさらに戦法を進歩させ、恐るべき猛攻で圧倒していた。
『二列で挑め! ルートラッシュ!』
『ルートラッシュ、ルートラッシュ!』
二体が一緒に盾を構えて並列突撃。
ゆえに一体を留めても意味が無い。
二刀のギルガメッシュは半身をずらしながら、片方を止め、もう片方からの攻撃位置に着かないことで解決。
足で揺さぶってから、反撃に出る。
だが、一刀な上に後ろに慎という足手まといを抱えた士郎はそうもいかない。
回り込めば慎の元に行かせるだけなので、ここは無茶する事で解決した。
「ならこうするまでだ!」
「ほう。体当たり用の盾に対して、自分から体当たりか。良い判断、そしてなんたる勇気。ゆえにこそ倒すに相応しい」
士郎が体当たりで一体の動きを送らせ、その隙間から二体目に襲いかかる。
彼が扱うのは、英雄殺しの域にまで高めた村正ブレード。
スパルトイほどの勇者ならば、本来の威力を越えて無残な程の脅威を見せる。
その力は自身にも届くかもしれないというのに、聖ジョージは怨敵の出現を祝福した。
なにせこれは虐殺などでは無く、試練の戦い。
敵が強ければ、その味方を守ろうとするほど尊い心の持ち主ならば、さぞや誉れ高い戦いに成るだろう。
一方で、そんな戦いに固執せぬ者、する余裕のない者が居た。
「マスター。そろそろ全力で良いか? オレはともかくてめえを守りながらじゃ無理だ」
「そうだなライダー。相手の真名も判ってるし、仕方無いか……」
ライダーの申し出に、慎は不承不承頷いた。
実際には場所が遠いので、ここまで正確に伝わって居る訳でも無い。
だが、この状況をひっくり返す宝具がある以上は、何を意図しているかは判り切ったことだ。
ライダーは黄金の大剣を振り回すと、竜牙兵たちを突き離す。
軽く目を閉じ、意を決すると目を見開いた。
「あばよ相棒、そして再びやっかいになるぜ!」
『イエス・ユア・ハイネス! いざキャメロットへ!』
黄金の大剣に設置された礼装が、音を立てて弾け飛んでいく。
名残を惜しむ間もなく、内側から圧倒的な魔力が零れて落ちる。
後に残ったのは黄金の盾に過ぎない。
だがしかし、この盾は膨大な魔力と共に運用する事で、その用途を変える。
「今は無き故郷よ、キャメロットの風よ。落陽の運命と共に滅びしブリテンの潮よ!」
ライダーは高らかに叫び、黄金の盾だけではなく、自らの偽装も剥ぎ取っていく。
ここに居るのはイギリスの少女では無い。
ここに居るのはイングランドの騎士ではない。
「故郷は滅びた、オレが滅ぼした。だが、ここにオレが居る、最後の一人が居る。ならばブリテンは滅びてなどいない」
振り被る竜牙兵の剣を受けながら、ライダーは言魂を綴った。
この痛みは我が痛み、滅びたブリテンの痛みと思えばこそ、あえて受け入れる。
「だが一人の民無くとも、一片の国土無くとも、オレが居る限りブリテンはここに在り! 故郷の風よ、故郷の潮よ、我が元に集え!」
何故ならば、ブリテンを滅ぼしたのは、彼女なのだから。
「我が名はモードレット、ブリテンを滅ぼし栄光を奪い取った反逆者! それでも良しと思う酔狂な奴はついて来い!」
ライダーは己が真名を告白し、奪い取った宝具に語りかける。
その一言を皮きりに、黄金の盾は本来の用途を思い出した。
黄金の楯プリトヴェン、それは船でもある盾だと言う。
魔力に寄りて浮遊し空を舞い、背に騎士を載せる黄金の船だ。
「いくぜ相棒! いやっほー!」
「ライダー! 急につかむな、痛い痛いってば!」
モードレットは途中で慎を抱えると、そのまま空を駆ける。
魔力を放射し跳ねまわる姿は、飛んで居ると言うよりも、サーフィンかスノーボードの様だ。
軽快に暴れ回っては、地上に再突入して竜牙兵を駆逐し始めた。
「はっ! ただ一人の王とは、とんだ裸の王も居たものよ。いや、まさしく飛んでおるがな」
「あんたが言わないでよ。でも円卓の騎士か…」
嘲るギルガメッシュに、凛は呆れた声で苦笑した。
国を滅ぼしたという意味なら、彼も大差ないはずだ。
反逆者と暴君では大きな差があるのだろうが……。
自らの居る場所を領地といい、自分が気に入った者だけを民という。
確かに裸の王様だろう。
「アーサー王もあんな感じだったのかしら? 無理だろうけど、一度あってみたいものね」
だが、ただの反逆者ではなく、堂々と胸を張る一人の王であることに満足しているのだろうか。
本人は気が付いて居ないのかもしれないが、凛から見て、その笑顔は燦然と輝いて見えた。
そして、空から一方的に攻撃する者が現われたことで、戦いはバーサーカー側が不利になって行く。
威力こそ突進の方が強いが、魔力をまき散らすだけでも十分な範囲攻撃だ。
ただでさえ三方からだったのが、天を抑えられて勝てる戦術などありはしないだろう。
やっと決着が付くか、それとも撤退する気か?
誰かがそう思ったそんな時に、災厄が遅れて姿を現した。
ガラガラと弓道場が崩れ落ち、近くに居た竜牙兵が朽ち果て、延びっぱなしの蔦がまとめて枯死していく。
残骸と化した弓道場から現われたのは、血走って赤い目を持つ、銀の髪の少女であった。
「オルガマリー…アニムスフィア?」
/登場人物
クラス名:ライダー
真名:モードレット
円卓の騎士であり、留守を任されながら、アーサー王を裏切った反逆の騎士。
宝物庫を荒らし、クラレントやプリトヴェンなど王の権威の象徴を奪ったと言う。
その最後はカムランの丘での決戦であり、大抵は反骨精神旺盛な人物として現われる。
ただし、ここに居るのは、いずれかの平行世界に置いて、満足し次を目指した己一人の王であるようだ。
良くも悪くも出会った人々に影響を受け、変わりつつある。
あえて言うなら、「人呼んで冬木の白獅子、モードレット」略してフモさんとでも呼ぶ存在。
/スキル名
『対魔力』
ランク:B
大魔術を持ってしても傷つけるのは難しい
『騎乗』
ランク:A
大抵の生物・乗り物を乗りこなせるが、幻想生物は難しい。
『青き流れに乗りし者(魔力放出:水)』
ランク:A
魔力を放出し、自身の能力を強化する。
『直感』
ランク:B(C)
様々な状況における判断力を向上させるが、万能さを持ってしまったがゆえに、戦闘などそれぞれの行動ではCランクに落ちてしまう。
『己、一己の王』
ランク:B
オレと、オレがダチだと思うやつと、できれば、その連中が大事に思うナニカの為にも闘う。
特に効果は無いが、それは自らの魂に誓った誇りである。
/宝具
『黄金の楯プリトヴェン』
船にもなる黄金の楯で、魔力放出があれば空を飛んだり、陸を高速で進んだり、海を大容量で渡る事も出来る。
『破天の嵐に座す、王の視座』
ランク:A
種別:対軍宝具
黄金の楯プリトヴェンを船として使用し、魔力放出を強化することで広範囲への攻撃が可能となるだけでなく、状況に干渉することもできる。
ただし最大限に発揮すると自分もペナルティを負うので、対軍宝具であることを活かし、多数の敵が居る場合に留める方が無難である。
『されど、燦然と輝く王剣』
ランク:D~
モードレットはこの剣が使える事に気が付いて居ない。
民も騎士も居ない王なのでこの剣自体に威力は殆どないが、絆を結んだ同胞が増えるごとに強化される性質を持つ。
『不貞隠しの兜』
ランク:不明
モードレットはもはや使用しない。彼女に隠すような後ろめたさは、おそらく、もうないのだから。
封印礼装『女王Aの楯』
とあるライトノベルに登場した、アーサー王には双子の妹が居たという、怪しい逸話を利用した礼装。
ブリテン島の運命を預かった、宰相・将軍・暗殺者など王の代理人が持つ礼装を束ねたアイテム。
この礼装で召喚すると、モードレットやウィリアム、黒太子・クロムウェル・果てはドレイクなどが出て来るので、SR以上確定ガチャと言えるだろう。
魔力放出の制御を簡単にする機能もあったが、封印解除に伴い、破壊された。
・アサシン陣営
・マスター名:オルガマリー・アニムスフィア
・サーヴァント名:不明
とある技術を試す為、聖杯戦争に参加しようと一般枠で参加したが…。
八枚舌と呼ばれる魔術師の斡旋で、時計塔系の魔術師と交渉した所で、アトラム・ガリアスタの奇襲を受けて死亡する。
その後は蘇生してもらいはしたものの、術が中途半端の状態である為、イモムシが蛹になり蝶になる生態を利用した、蝶魔術の真似ごとで延命処置を施されていたらしい。
術は結界に依存していた為、竜歌で結界が解けたことから、夢見るように死亡していた状態から覚めた模様である。
/能力
『千里眼(星詠み)』
ランク:D
世界を見通す事ができるが、魔術や他の能力を併用しなければそれほど意味が無い。
ただし、星を介する為、自分が知らないことでも知ること、介入する事が可能な場合がある。
どちらかと言えば、巫女の神託に近い。
『●●の魔眼』
ランク:不明
本来、彼女は魔眼を所持していない。
だがアニムスフィアで開発中だったとある技術を利用したり、蝶魔術の真似ごとを神代のルーンで施されたために、変質している。
本人も自覚して居ないスキルなので、詳細は不明。
/スキル
占星術・フォーマルクラフト・その他
その他人物:魔術・宝具
『
繁茂する植物の性質を利用し、戦場そのものを覆い尽し対象を取り殺す大魔術。
対軍宝具の域にあるが、かなりの準備が必要。
『
フラガラックの火力モードまたは、掃射モードに使用する呪文。
敵陣が優位に進むと言う事態を破却し、自分が優位に立てるという効果もあるが、本来の切り札である逆行剣に比べれば微妙な部類。
ただし、バセットが五種類全部使えるようになれば、リサイクルできるので話は別なのだとか。
と言う訳で、バレバレだったライダーの真名が開かされました。状態としては、アポのモーさんと、FGOのサモさんの中間。
誰かを愛したりはしないだろうけど、気に入った人間と友人になったり、過去に囚われない強さを持っている感じ。
そして、ようやく七番目の陣営のマスターも登場しました。次回で前半戦が終わって、中盤戦・終盤戦に何をするか、だいたい見当が付く予定です。
このお話は書く為の練習でもあるので、早めに終わる為に、ガンガン情報とかが開示される…はず。
当面の目標は、無事に終わらせること。