Fate/promotion【完結】   作:ノイラーテム

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迷いの森を越えて

 

(黄金の大剣…セイバーのサーヴァントか? こいつは三十六計逃げるにしかずだな)

「あん? 誰だ、待ちやがれ!」

 男は咄嗟に身を翻すと、我が身の不運を呪うよりも先に逃げ出した。

 護衛を兼ねた竜牙兵を連れて居る事もあり、無関係の魔術士というのも無理だろう。

 それに、サーヴァントの方も瞬時に決断していた。

 まごまごしていれば、倒されていたのは男…獅子劫界離の方だろう。

 

「俺が逃げるまででいい、防げ!」

「邪魔すんな!」

 潮の香りと共に黄金の大剣が一閃すると、ただそれだけで竜牙兵を打ち砕く。

 強化しているはずなのに一蹴とは、まさしく最優のサーヴァントだろうと獅子劫は肝を冷やす。

 冷静沈着にこそ見えないが、機転が効く上にシンプルに強い。

 

「竜化した指弾が半分以上弾かれたぞ? 魔術耐性もか…知ってはいたが、どうしようもないな」

 魔術士がサーヴァントに勝てるはずもない。

 暗殺を成し遂げた後の油断したアサシンとか、魔術を唱えた後のキャスターなら話は別だが。

「やれやれ。幸か不幸か、キャスターの結界に感謝だな。一寸先は五里霧中ってのがありがてえ」

 だが、この結界の中で、逃げ出すだけなら話は別だ。

 ランダムな方向に急成長する植物は、先ほどまでと道筋を完全に変更している。

 不意の遭遇にさえ気を付ければ、十分に引き寄せてから放送室に向かえばいい。

 

「しかし第三…いや第四勢力の御登場か。こりゃアトラムの運も捨てたもんじゃないか」

 獅子劫は困難な状況である事を知りながら、撤退する選択肢を削ることにした。

 タッチダウンを決めるだけで良いなら、彼自身の採算はある。

 そして彼を雇っているアトラムは、今夜、切り札である宝具を使う予定なのだ。

 

 バーサーカー個人の強さに加えて、聞いている宝具の内容は胡散臭く思える様な鬼札であった。

 ならば勝ち逃げを狙っている以上、アトラム・ガリアスタの優位は覆らないし、陣営に属してられる報酬は魅力的だった。

 

 

 そして彼が放送室を目指して居た頃、校庭に置いても戦いが繰り広げられていた。

 強化された竜牙兵が強くとも、所詮はゴーレム止まり。

 一撃で粉砕されないのが精々、サーヴァントを要する側が有利ではあった。

 ただし、その数があまりにも多い…。

「あーもう、ライダーってば何処行っちゃったのよもー! こっちまで分断されてどうすんのよ」

「いや、あれでよい良い。凛…敵陣が不利な状況を見過ごす訳が無かろう。なにより猟犬は解き放つもの」

 遠坂凛は唸りを上げるが、しぶしぶながら落ち付きを取り戻す。

 迫って来た竜牙兵を順調に撃退していると言うのもあるが…。

 

 思わず奇妙なモノを見る目でギルガメッシュの顔を眺めた。

「なによ、今夜は随分と協力的じゃない」

「何、我はセイバーも兼ねられるが、そなたは魔術士以上ではあるまい? ならば見た目通りの幼童と思うて助言したまでよ」

 正論ではあるが、いや正論だからこそ薄ら寒い物を感じる。

 ギルガメッシュはそこまで親切な性格をしていない、まして、凛が幼いのは姿だけだ。

 何を考えて居るのか、見定めねば大火傷をするのは間違いがあるまい。

 

「いやに親切ね。何がそんなに御機嫌なの? ライダーが可愛いとかじゃないわよね?」

「あれは躾ける過程はともかく侍らせる資格も無い。…だが道化どもの喜劇を眺めるには近い方が愉しかろう」

 ギルガメッシュは残った一体を切り倒しながら、本人が聞けば沸騰しそうな暴言を吐いた。

 ライダーほどの強力なサーヴァントを、犬猫でも扱うかの如くに扱うのは、幾らなんでも油断のし過ぎだ。

 確かに慢心やもしれぬ、だが今宵の英雄王は、いつになく本気であった。

 なぜならば…。

「火薬の上でタップダンスを踊るのを、勝ち逃げと称するのだ。喜劇以外になんと言おうか」

 そう言ってギルガメッシュは戦場を彩る、赤い光を花火の様に眺める。

 

 ギルガメッシュが見て居た赤い光、それは本来、彼が許容できるモノではない。

 本物どころか原典を持つ英雄王の前で、偽物風情が我が物顔で空を掛けて居るのだ。

「衛宮! 位置は三歩ほど右にズレてる。迂闊には動いてない…次は元の位置に戻るんじゃないかな?」

「ここは慎を信じる…。行け!」

 観測と行動予想を行う間桐慎の指示に従って、衛宮士郎は弓の弦に剣をあてがった。

 一心不乱に呪文を詠唱すれば、ソレは矢へと変わり、あてがうから番えるに運命は変転する。

 

 剣から矢へとアレンジされ、放たれる矢は赤原猟兵。

 投影で創り出したゆえ、本来より三段は劣るだろうが、この場は性質の方が重要だ。

 赤い光と化して戦場を駆け抜け、僅かな間に変化する森の結界に順応し、当たるまで延々と追いかける。

「今度こそやったか?」

「ううん、駄目。何をしたかしらないけど…相当に防具力が高いみたいね」

 士郎は自らの目で確認しつつも、竜牙兵の対処があるため、念のために慎に聞いてみた。

 だが、四つの目で見ても、結果は同じこと。

 予想を当ててなお、敵は健在。

 明らかに、直撃しているはずなのに!

 

 驚愕を覚えながらも、竜牙兵達から逃れるために、ひとまず移動を再開する。

「切実に主人を守る逸話でもあったのかしら? 単に狂気の度合いが低いかもしれないけど、それはそれで嫌…」

「あれだけの能力で狂化されてないとか、どんだけだよ。それなら一定率で撃墜する能力の方が嬉しい…よっと!」

 慎は戦闘力が無いのと、移動しながらの観測を行う為、注意して確認しているが何をやったか全然わからない。

 時折しか視界が開けないこともあるが…、あまりにも異常だからだ。

 

 キャスターとの提携を隠しているものの…。

 迷いの森に引きこみ、更には不意の遭遇を装っても、敵を圧倒出来ない事に焦りを覚えて居た。

 これで移動ルートまで確保されたら、どれほど不利になるのだろうか?

 

 そんな事を思っていた矢先、場違いな歌が四方より流れて来るのを耳にする。

 その歌は、日本人なら年末に聞いた者も多いだろう…。

 

『…Deine zauber binden wieder、Was die mode streng geteilt。alle menschen werden bruder』

 澄んだ子供の声が、スピーカーから流れて居出る。

 

 視線も声も迷う森の結界を越えて…。

「おお、汝が魔力はいま再び結び合わせる…だったかな? 私の日本語訳は合ってるかい?」

 実に楽しそうな、男の言葉が戦場に放たれた。

「時が強く切り離したかのものを…くくく。歌はいい、人間の文化の結晶と言うやつだな」

 まるで夜霧が晴れ渡る様に。

 ただ歌が流れるだけで、迷の森という神秘が吹き払われて行った…。

 

 

 





礼装:『竜の指先』
 本来は魔術師の指を使用するが、竜属性を得た子供の指を使っている。
威力は強く、命中精度は下がっているが…。相手がサーヴァントなので100%効かない魔弾よりは効く可能性はある。

宝具『赤原猟兵(投影)』
 手にすれば自動的に相手を切り刻む刃であるが、ここでは矢にアレンジされている。
僅かな間に姿を変え、まともに移動できない迷の森で運用するには有用だろう。
なお、士郎の投影は完全ならば二段階ダウンくらいだが、今回はぶっつけ本番なので三段階落ちて居る。
弱いように思えるが、セイバーの宝具と併用する事で、ハイペースで魔力を補充できるチート戦術と化す可能性がある(特性上、有利になると変換する効率は下がる)

礼装『竜歌:喜びの歌』
 竜は啼き声一つで半端な魔術を撃ち落とすと言う。
獅子劫界離の魔弾をライダーが容易く弾き返したように、より強い竜の神秘が、迷いの森と言う神秘を洗い流す。

 ギルガメッシュは双剣だけだが真面目に戦い、士郎は魔術のアレンジを着実に上手くなっている感じです。
とはいえ、獅子GOさん(正確には違う)が結界を解きました。次回はバーサーカーの宝具が登場する予定になります。

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