「…なあ、セイバーのマスターよお」
「何だ? 俺で出来る事なら協力するけど」
セイバーのマスターと呼ばれた、衛宮士郎は首を傾げた。
問われる内容は、狭い様で重い。
ゆえにここで、視点は彼の元に還る。
「てめえは何の為に闘うんだ?」
「え…?」
俺はライダーの問いに一瞬戸惑った。
何気ない質問にも見えたが、いままでライダーがこんな事を聞いて来た覚えは無い。
答えに詰まって慎の方を見ると、何と言ったら良いのか判らない顔をしてる。
彼女も聞かれた事があるのか? いや、そもそも何か深い意味がある気がしてならない。
そう思った時、ライダーがさっさと回答を迫って来た。
「慎もオレと同じで徹頭徹尾、自分の為だ。他人から見たら馬鹿かと思われることに命掛けてやがる。さあ、てめえはどうして戦うんだ?」
「ちょっ! 人の話を勝手に話すんじゃない!」
…サーヴァントは同じ様な望みだったり、似たような性格をしている者が多いそうだ。
そう言う点で、この二人は良く似て居た。
世間の大半ことはどうでも良い半面、自分が得意なことでは自己主張が激しい。
マーボーが指摘していたが、自己肯定願望が大きいのだろう…。
とはいえ他人の事を言える状況でも無いか。
俺が闘う理由、いや今でも闘っている理由は…。
「俺が大事だと思う人と、できれば、その人たちが大事に思う誰かの為にも闘う…正義の味方でありたいってことかな。昔は世界を救うヒーローなんてガキ臭い事を言ってたけどさ…ちょっと遠かった」
「はっ、何言ってやがる。今でも十分にガキだよ」
「誰かさんもねっ」
俺は大切な妹や、その友人たち、そして…仲がこじれたり戻ったりした親友の事を思い出す。
ガイアの抑止と化した●●から脱出させようと思って、自分まで脱出させられてしまった。
世界を救うヒーローなんて遠かったよジイサン…。
結局、俺は自分の大事な者を守ることすら難しい。
だからまずは、あのあまりにもかけ離れてしまった…、幸せそうな笑顔を取り戻したいと思う。
「今の処は妙な事を吹きこまれたイリヤを何とかするのが目的かなあ?」
「ならいいさ。だが、もし周囲が邪魔したらどうする?」
今日のライダーは随分と切り込んで来るな。
だけど、それは避けて通れない道だ。
今の内に覚悟を決めると言う意味で、
「もしアインツベルンの連中が邪魔するなら、それもどうにかしないといけないけど。可能なら説得、可能なら説得以外だな。ちょっと魔術師の家が持つ変質的な所はついて行けない」
「そこまで判ってんなら、オレから言うことは何もねえ。聖杯戦争の間だけなら、報酬次第で手伝ってやっても良いくらいだ」
どうせする事ねえしな。
そう呟くライダーに、慎も俺も顔を見合わせた。
思わず額を合わせて、熱を測る。
「平熱だな…一応、薬飲んどくか?」
「サーバントも風邪ってひくのねえ。戦闘が起きても大丈夫?」
「何言ってやがる! バーカバーカバーカ! 報酬次第だし、する事無ければって話だろうがっ。最低でもそうだな、王に相応しいゴージャスな料理を頼むぜ」
顔を真っ赤にしたライダーが脱兎の勢いで下がる。
そういえば女の子だったよなー、失敗と思う反面、照れ隠しぽい仕草に微笑ましくなった。
なんというか、俺より年上とは話しているのではなくて、小さなガキ大将と口を聞いて居る様な気がするのだ。
「料理でいいのか。…でもそうだな、助かるよ。ライダーは強いからな、あてにさせてもらう」
「ふん…。ダチにも食わせてえし、まずかったら承知しねえからな。…慎、何かアイデアとかねえのか?」
「アイデアって、聖杯戦争の行方? それともアインツベルンの説得とか攻略?」
ライダーに友達出来たのか…。
もしかして一成のことかな? もしそうなら、とびっきりのを用意して、二人の為に協力しないとな。
「この状況で他にねえだろ。それに、オレが居るのは聖杯戦争中だけだし、同じ様なもんだ」
「そうねえ。アインツベルンが何考えてるかしらないけど、最終目的は第三魔法の為、聖杯戦争はその過程って決まってるから…」
「…」
照れ隠しで始めた話題の様だが、俺も気になる話題なので黙っておく。
ここで答えが出せるなら、より良い結果を目指す為に見当も出来る。
急がないといけないならストレートに、直球過ぎるなら変化球で、あるいは緩急つけて、一番良い結果を目指したいものだ。
もっとも、そう上手くは行かないもので、事態はアイデアすらロクに聞かせてくれやしない。
「…っ!?」
「聖杯戦争用の特注ホムンクルスな訳じゃない? 難しいけど聖杯に変わる研究圧縮手段を見つけるとか、現実的な範囲で…衛宮?」
腕の痛みが激しくなり、緩和してもらってる許容値を一瞬だけ越えた。
そして、森がざわめく様な違和感を、僅かに覚える。
途中で剣呑な光を目に灯したライダーだったが、その意味が切り替わる。
俺だけに見られた変化から、おそらくは屋敷に侵入者が出たと判断したらしい。
「敵か?」
「ライダー…違うんだ。何か、クーフーリンか、それとも学校の結界に何かあったのかも…」
「そういえば、探索の為に同調率を上げてるっけ。仕方無い、その辺を施術し直そう」
クーフーリンが昨日の今日で何処かに出撃するとは思えない。
それを考えれば、彼が目的にしろ、結界が目的にしろ同じ事だ。おそらくは、学校で誰かが何かをしたのだ。
ここで視点は、再び彼らの元を離れる。
少年が結界とリンクする事で感知したことを、結界の監視者たちは『目』で把握したのだ。
「どこかのマスターが仕掛けたようですが、これは随分と強力な結界ですね。なんとかなりますか、ミスター?」
「ちょいと難しいが、迷いの森の強化型みたいだし、ここにあるアホみたいな量の礼装がありゃあなんとかなるだろう」
バーサーカーが語りかけた、厳つい顔の傭兵は趣味の悪い礼装を眺めた。
人の皮で作ったスクロールに、人の目で作った遠目の水晶球、更には臓腑を利用した様々な武装。
そして…無数どころか、百を遥かに超える竜牙兵たちだ。
ドラゴントゥースウォリアーと呼ばれるソレが、サーヴァントや一級の魔術師に取っては他愛ない相手としても、この数は侮れまい。
いや、良く見れば、血で描かれた紋様…血粧で強化すらされている。
なんという大盤振る舞い、この時点ですらちゃちなゴーレムを越えて居るかもしれない。
「流石は名うてのネクロマンサー。それは心強いですが…。いかがでしょうマスター、ミスターのおっしゃることは正しいですが、少々惜しいとは思いませんか?」
「そうだな。ちょっと改良して明日までに専用の礼装を作るとしよう…」
それも僅か一日で。
確かに理論的に可能なのだろうし、無数の礼装を使い捨てるには惜しいのかもしれない。
だがアトラムと言う男を知る者ならば、その勤勉さに、首を傾げた事だろう。
バーサーカーの正体は聖人だ。
聖人が持つ、ただでさえ強力なカリスマを、規格外の狂化が引き揚げて居た。
知らぬ間に、マスター…アトラム・ガリアスタは、完成した礼装をさらに改良すると言う試練に付き合わされる。
もはや呪われているとしか思えないカリスマは、努力する者へのギフテッドと呼ばれるに相応しい凶悪さで、彼を汚染していた。
「明日まで? こっちは時間がありゃあ準備は幾らでも出来るんだ。んな無茶をする必要はねえだろう」
「時計塔から報告が入ってね。アインツベルンの連中が、向こうに直接交渉に出てるらしい」
「ようするに決戦に挑む価値がある訳ですな? 素晴らしい、確かにあのサーヴァントは大英雄です、各個撃破は重要でしょう」
理論通り、嘘は言って居ない、そして採算もある。
並のサーバントが三騎くらい結集したところで、バーサーカーには叶わない。
相手にも大英雄が居た所で、こちらにだって圧倒的な力を持つ切り札がある。
そして何より…アトラム・ガリアスタは勝つ必要が無いのだ。
かくして、話が通じないはずのバーサーカーの言葉に、精神汚染されたアトラムは、頷き続けることで理解を示した。
/登場人物
・ネクロマンサーな傭兵
竜属性の人体パーツゲットだぜ、ウェーイ…というような性格はしていない。
むしろ豊富すぎる素材と、嬉々として身を捧げる殉教者たちに、ヘキヘキしている。
だが彼には引くに引けない理由がある。ここにある素材で研究したり、聖杯があれば願いが可能かもしれないのだ。
だから操られていると知って、彼は死地に向かう。魔力供給を引き受けるハンデすら背負って。
・アトラム・ガリアスタ(cool)
時計塔のロードでも不可能なレベルで、様々な素材や、それを対価にしての援助すら得て居る。
とある呪物を目的に、這いつくばることすらする一部の上位者すら見て満足した事もあり、いまや傲岸不遜ではあるが、成り金の貴族と言うよりは、魔術礼装の匠と化した。
だが心は此処にあるようで、夢幻境に旅立つ冒険者と同レベルの精神汚染状態である。
魔術礼装:
亜種聖杯x1、スクロール(龍皮)、竜眼球、ドラゴンエンジン型魔力炉x1、人間オルガン、強化竜牙兵x三百、ほか
・バーサーカー
愉悦。
彼なら傭兵さんの呪いを解けるんじゃないか? とか言ってはいけない。
と言う訳で、士郎たちの結束が固まったり微笑ましい光景を続行。
執事の爺さんがライダーにお願いに来ることが出来たり、学校での戦いに様子見すると教えてくれてるのは…。譲歩でもなんでもなくて、単にアインツベルン陣営が強化に出かけて居ただけです。
同様にアトラムさんも強化(狂化=教科)してみました。ご都合主義とタグに詠ってはいますが、やっぱり中ボスが雑魚だとRPG的に残念なので、龍ちゃん並のクールな匠になっています。