Fate/promotion【完結】   作:ノイラーテム

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投影六拍(偽)

「いま帰ったぞー…って。誰も居ねえのか?」

 少女が門を潜ると、屋敷に灯りは無い。

 不用心だなとは思うが、まあ生きてるなら問題はあるまい。

 それが少女の感想であり、誰かに奪われない限りは、何をしていようが執着はなかった。

 

「まっ、探すくらいはしてやるか。様子を窺うくらいは爺…つーか後輩に義理はあるしな」

 少女は不思議な縁に笑うしかなかった。

 年上の姿を持った後輩、それも騎士だからと言う意味だけではない。

 ブリテン島を預かった者という立場として、少女は老人の先輩にあたる。

 彼女がサーヴァントとして呼び出された疑似礼装『女王Aの楯』は、二人の様なブリテン島の主人の意思を代行する者を呼ぶ物であり、老人が彼女の代わりに召喚された可能性もあるだろう。

 もっとも、数年で簒奪に走った自分と、最後まで忠義を尽す老人とでは忠誠度に差はあるだろうが…。少女はそこで苦い笑いを浮かべる。

「オレにもああいう未来があったのかな? いや、そんなはずはねえか」

 あるはずがない、ブリテンの未来に終焉をもたらしたのは、他ならぬ自分なのだから。

 

『……もうちょっと、もうちょっと硬くして』

『もう保たないってば…』

「蔵か? 何やってんだ?」

 土蔵から聞こえる荒い声に、少女は首を傾げた。

 中で魔力供給でもしてるなら出直しても良いが、そんな風にも思えない。

『うっ、限界だっ』

 何度も魔力が霧散して行くのを感じながら、土蔵の扉を潜る。

 

「何やってんだ?」

「ライダー何処行ってたんだ?」

「えーとまあ、バーサーカー戦に備えて、戦力UPの試みかな」

 三人は三様の言葉を発した。

 ライダーと呼ばれた少女は呆れた顔で煤けた顔の二人を眺める。

 明らかに色っぽい話では無く、馬鹿馬鹿しい実験をしていたに違いない。

 

「衛宮が投影凄いみたいだから、アレンジできないかと思ったんだけどね。要領悪くてさ」

「だから完成した物を、慎が言ってるみたいに簡単に弄れる訳ないじゃないか。だいたい、剣以外は殆ど成功しないし…」

 慎と呼ばれた少女と、衛宮と呼ばれた少年は、同じ事を繰り返しているようだ。

 呆れた表情で、同じ事を指摘し合う。

「構造素材や製造過程を替える訳じゃないんだから、小型化や、既存魔術の上乗せくらい出来たっていいはずっ」

「やってみた挙げ句に形だけになったじゃないか。黒鍵の代わりにもなりやしない」

「お、ほんとだ。すげー、石英で作った玩具見てえだな。玩具作りの才能があるんじゃねえの?」

 長くなりそうだったので、ライダーは間に入って留めることにした。

 だるいし面倒だし、やかましくて仕方ない。

 

 ポキンポキンと、金太郎飴やガラスでも砕くように、形骸化した武器を打ち砕く。

 ただそれだけで、魔力で作られたイミテーションは、ガラスどころか雪の様に消え去った。

「無駄なことするくらいなら、このまま使い方を変えた方が良くね? ゴミが武器には成るぜ。後は慎が札でもつけりゃいいだろ」

「…え?」

 ライダーは面倒くさそうに肩をすくめた。

 いつも直観的にやってる事もあり、説明自体出来ない。

「まー、論より証拠だな。ここじゃ狭いからついてきな」

「ちょっと、どこいくのよライダー。っていうか、いつもどっか行くんだから」

「待てよ二人とも。片付けくらい…」

 ライダーを先頭に御庭へ散歩。

 

 適当な場所に、持ち出したガラクタとしか言いようがない盾を数枚重ね、脇に比較的まともそうな槍や杖を並べる。

「剣を適当に投影しな。んで、此処に布切れがあると」

「マフラー? そんなもの買ったの?」

「女の子用ぽいマフラーだな…。色はどっちかというとアレだけど、拾ったんじゃないか?」

 ライダーは剣を受け取ると、ポケットからマフラーを取り出した。

 

 友人が置いて行ったマフラーは既製品ながら柔らかそうで、可愛らしい刺繍に見えなくもないアップリケも縫いつけてあった。

「刺繍は下手だけど、配置する場所や縫い方はいいな。裁縫自体はともかく、洋裁が苦手なのか?」

「見るのはそこじゃねえよ。実演してやっから、どいてな」

 衛宮と言う少年は、不思議とマフラーに見入っていた。

 何かを思い出す様な少年を放置して、ライダーはマフラーを剣の柄に結んでいく。

「んじゃいくぜ! っそれっ!」

「うわっ、急に振り回すなライダー!?」

「あっぶな…」

 ライダーは剣に結んだマフラーを振り回しながら、大回転させて長柄の槍や杖を次々薙ぎ払って行った。

 そして最後に、盛大に振り回してから、クルリと盾に向かって力を緩めた。

 

 バリンバリンと次々と盾を粉砕し、五・六枚砕いてから、剣の方も砕け散っていく。

「ざっとこんなもんだ。てめえのはコピーするばかりで中味がねえというが、そもそも何を目指しているんだ?」

 苦笑しながらライダーはマフラーを解いた。

 延びてしまった繊維を見ながら、あちゃあと溜息つくが、後の祭りだ。

 確実に怒られるし、場合によっては弁償一直線である。

「戦う立場からすりゃあ、武器なんて使えりゃいいんだよ。てめえなりの使い方を工夫して、てめえが納得のいく成果さえ出しゃあいいんだ」

「なんて暴論…。戦士の心得であっても、騎士の心得でもなければ、まして礼装製造には関係ないじゃない」

 自信満々なライダーに、慎はポカーンとした顔をなんとか手で覆った。

 やはり大口開けるのは女の子としてよろしくない。

 むしろ嬉々としてドヤ顔のライダーが例外だろう。

 

「衛宮も何か言ってやったら? 体ばっかり大人で…ああ、そうでもないか」

「…そうか。確かにそうかもしれないな」

「ああん? 何が言いてえ?」

 慎の話を半分だけ聞いて居た衛宮は、適当に相槌を打った。

 その様子に、女の子扱いされると怒るが、女らしくないと言われても微妙にキレがちなライダーは青筋を立てる。

 面倒くさいと言うか、自分に資格が無いとか言われるのが嫌いなだけかもしれないけれど。

 

「そう言う意味じゃないって。武器の使い方と製造、どっちにも共通する理念。…それを理解しても体感して無かったってことさ」

 少年は笑いながら縁側に座る。

 そこには冷めたお茶が置いてあり、おそらくは、土蔵に向かうまでは茶呑み話でもしていたのだろう。

 どんな話か興味深くはあるが、ライダーは黙って聞いて居た。

「…要するに鋳型に嵌めただけだな。何の為に創ったのか、どんな本質なのか、材質は何か、製作技術や、その為に培った経験。それぞれが完成してからの蓄積された年月。頭でしか覚えて居なかった」

 完成品を投影できる特殊能力を受け継いだから、そっくりそのまま完成品を作り上げた。

 だから、同じ完成品を作り上げることは出来ても、アレンジ出来なかったのだ。

 

 頻繁に使う物や、元よりアレンジを繰り返した物もコピーすることで、丸ごと能力を借り受けて居たのだ。

 これでは成功するはずはない…。そう呟いた。

「それじゃ駄目なのかよ? 鋳型でも製造できりゃ便利だろ?」

「俺の方にスペックないからな。元よりこの身に出来るのは鍛冶屋の真似ごとだけ、ならば槌打つ鋼になればいい。何が必要かをイメージして、設計図を元に結果を焼き直す」

 首を傾げているが、ライダーならば使いこなせるだろう。

 しかし衛宮士郎にはとうてい無理な話だ。

 

 いわば剣で出来て居るエミヤシロウには、体の中を構成する素材を、鋳型に入れる事も…剣を打つことも出来る。

 鋳型でまるまるコピーすれば簡単だが、一から真に迫るモノを真似て行く事も出来るのだ。

 創造理念・基本骨子・構成材質・製作技術・成長経験・蓄積年月。それら投影六拍によりて、体感し共感し、自分を通して…ただ幻の剣を打つ。

 

「さっきのライダーが振り回したやつがあるだろ? あれって要するに、射程を延ばし、遠心力で威力を向上させ、思わぬ方向から迫る。という工夫を考えて実行したわけだ」

「まーそうなるな。思い付きじゃあるが、だいたいそんなとこだろ」

 投影開始…と士郎は唱えると、鎖鎌を投影した。

「これはいま作った鎖鎌だけど、ライダーがやったことをそのまま再現できる。でも、俺だけじゃ思いつけなかったし、多分、使い方も失敗するだけだろうな」

 能力的には、さっきのマフラーで振り回した剣と同じだが、先ほどまでは思い付かなかったことだ。

 ライダーがやって見せ、言って見せたことを再現できはしないが、衛宮士郎が可能なことの範疇で行って見せればいい。

 これは衛宮士朗が、ライダーのやったことに共感したから思いつけた代用品だ。

 

「そして、歴史を学べば…多分、イメージしてることが…っできるはずだ」

「それって村正の護り刀? 衛宮ってミーハーなんだな」

 うるさいなと、言いながら衛宮士郎は村正と呼ばれた小刀を作り上げた。

 テレビで見た物を再現しただけだが、ここからがアレンジだ。

「投影開始、二重工程の一面凍結を解除…。戻れ村正…元の姿に!」

 そして、小刀を折れる前の刀のサイズまで拡張する。

 この刀を選んだのは、単に、折れたから打ち直した…という経緯を覚えて居たからだ。

 もったいないという事を思いもしたが、元の姿とはどういう物かと妄想したのも、今となっては良い思い出だ。

「投影開始…重装工程をスタート、基礎概念の破却。二重工程の二面凍結を解除。延びろ村正…今一つの姿に!」

 今度は刀の状態から、刃は小刀まで戻り、柄の方が姿を変えた。

 長巻きと呼ばれる、刀と薙刀の中間に変化する。

 これは刀が折れた場合の処理として、アレンジされる形態の一つだ。

 先ほど作り上げる時に、予め二枚の設計図と概念を仕込んで居たのである。

 

「いまはこれで精いっぱいかな。ここから無関係の形に替えたり、強化やら上乗せするのは一苦労だけどな」

「まあいいんじゃない? アレンジとか出来なかった時にくらべたら、各段の進歩だと思うけど」

「ひと段落ってか? ならこっちも本題に入れるな」

 投影でる繰り出した物品のアレンジに関して、一応の目途が付いた。

 そう理解したライダーは、とある質問を切り出す。

「アサシンの件で何か判ったの?」

「その話は落ち付いてからだな。不確定過ぎるし、この目で見てない事を信じる気にはなれねえ。…なあ、セイバーのマスターよお」

「何だ? 俺で出来る事なら協力するけど」

 ライダーはここで、頼まれた一切合財を投げ捨てることにした。

 代わりに自分の用事を片付けることにする。

 

 それこそが、逆に頼まれごとをスムーズに解決出来る様な気がしたからだ。

「てめえは何の為に闘うんだ?」

「え…?」

 できればスッキリしてえなあと、つまらない事で悩んで居たライダーは笑うのだった。




/ステータス更新
・衛宮士郎
魔術オプション:アレンジ技術系ツリーの解放
オーバーエッジ(一部)、剣の矢化(一部)、ロングサイズ化(一部)を習得。

 と言う訳で、士郎が微妙に強くなりました。
プリヤ士郎は本家士郎と違って、エミヤの忠告やらなんやら聞いて無いので、その部分を補強した感じになります。
ライダーがやったブリーチ的な事は暴論なのですが、士郎の方に『投影六拍』という回答と、弓道・魔術鍛錬を重ね合わせて居ると言う前提があるので、補強される感じです。
あと、ライダーは地道な調査とか、ランサーに頼まれたことはガン無視。パシリなんかする訳ないじゃん? というスタンスです(勿論、意見に反映はしますが)。

次回がバーサーカー戦の序盤予定

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