Fate/promotion【完結】   作:ノイラーテム

26 / 57
あかいあくま

 

「とととと、遠坂、なんで貴様が此処に居る!」

「きちゃった♪」

 相変わらずの楽しい反応。

 普段以上の猫を被りつつ、口調だけは楽しく躍動させる。

「何よ、生徒が生徒会長を頼っちゃいけないのかしら? ちょっと聞きたいことがあっただけなんだけどな~」

 笑い出しそうになる口元を手で押さえながら、心外だと言わんばかりの仕草を見せつけた。

 もちろん、当の本人の前で激変させるのだから、十分過ぎる程判って居るだろうけど……。

 

 だけど、それが良いのだ。

 からかわれている事を悟りつつも、内容や外聞的にも断れない。

 それがこの男、柳堂一成の良いところでもあり悪いところでもある。

 あらやだ、全然ギルガメッシュの事を笑えないじゃない。

 

 ノって来た油でどう調理してやろうかと思った時、第三者の闖入によってそれは破られた。

「数日前にもあった様な会話だな。…もう良く覚えてないけど」

「こ、これは…。衛宮には情けない所を見せてしまったな、すまん」

 衛宮くん、なんでここに…って二人は親友みたいだし、そりゃそっか。

 慎二の馬鹿と違って、悪友じゃないから相談とか用事とか頼み易いもんね(もっとも、私は用事を押しつける方だけど)。

 

 数日前のことだというのに、不思議と寂しそうな顔をしている。

 …それもそうか、彼にとっては環境が激変したものねえ。

「ところで、遠坂の用事ってなんだ? 俺で良ければ一成と一緒に協力するよ、なあ?」

「あ、ああ。…そうだな、生徒会長として生徒に協力するのにはやぶさかではない。それに、遠坂も一応女子であるし、頼みたい事がないでもない」

 衛宮くんが話に入って来た段階で、柳堂くんは冷静さを取り戻してしまった。

 つまらないというか、興醒めと言うか。

 男の子同士の連帯を見せられても、『その手の』観賞趣味の無い私には、馬鹿馬鹿しいだけだ。

 

「なによ、一応って確認されるまでもないんだけどね。…まあいいわ、こっちの用事は放課後のことを美綴さんに聞いてね」

「美綴女史からも聞いたのか…うむ、その通りだ」

 小憎らしい事に、その通りだというのを、アヤコから聞いた話と、女子かどうか確認するほどのことだと二重に掛けて発音してきた。

 

 だが、聞き逃せないのは、その後の衛宮くんとの会話なので、思わず黙ってしまった。

「本日よりクラブ活動の類は当面禁止、不本意ながら委員会活動もである」

「あれ、その話は検討中じゃなかったっけ? 昨日の今日でもう変わったのか?」

 やはり、早過ぎる…。

 私の抗議を中断させた衛宮くんに思うところはあるが、私の代わりに効いてくれたので、良しとしよう。

 我ながら甘いとは思うが、彼らをからかい倒すのは、またの機会だ。

 

「その事なのだがな、美綴女史の話もしたろう? 彼女たち数名は専門の病院に担ぎ込まれていて、今朝がた確認が取れたそうだ」

「ああ…。そういえば冬木教会とか後援してる病院があったわよね、そういえば」

「へー。マーボーの所も手広くやってるんだな。逆かもしれないけど」

 意味的には同じなので、修正はしなかった。

 どちらも聖堂教会の系譜であり、病院はカルテの偽装や、記憶や目撃証言込みで調整する為の時間稼ぎでもある。

 しかしマーボーとは良く言った物だ。

 あのクソ神父は味音痴で、あのロクでも無い兄弟子から教えてもらった中華料理は、全部味付けが濃い。

 

「そうだ、誰も居ないなら丁度いいや。弓道場とか校庭を大掃除していいか? ちょっと片付かない所があったり、怪我しそうな所が多いんだ」

「衛宮の献身には頭が下がる。だが、これも校長先生以下の厳しい御達しでな、罷りならぬ」

 キャスターが暗示を掛けて居れば、万が一にも自由行動は許すまい。

 

 あやふやな誘導に確証が取れたのはいいけど…。

 衛宮くんたちどんだけ探索に特化してんのよ。

 昨日の今日で発見されたら、ダラダラ一週間も掛けて探して、本人たちのポカがなければ気が付かなかったってのに…。

 まあ、世の中には隠れ住む人形師を探し当てたり、モグリの闇医者に告白させるような名探偵も居るらしいし、特化型はこんなもんか。

 

「衛宮くん、気になるなら危ない場所のレポートを先生方に届けておいてあげようか? 『うち』は大地主だったし、造園業者にも知り合いが多いしね」

「なんだ…。遠坂がこちらの援護射撃をするなど、気持ち悪いな」

 天変地異の前触れか、それとも鬼の霍乱か!?

 ですって?

 別にあんたの援護射撃じゃないわよ! ってーの。

 

 まあ、ここで彼の相手をしておいても仕方あるまい。

 あえて無視して意趣返しにして、衛宮くんへの間接的な伝言を、形にしておこう。

「ああ、そういえばそんな話してたっけ。慎二んちがPTA関連とか、遠坂んちが地主とか」

「そういうこと。家としての得意分野としては、こういう形よね」

 衛宮くんは半分ほど内容を理解したようだ。

 こちらが手配という部分だけを受け取った様だが…。まあいいや。

 間桐さんの方は頭が回るし、きっと、弓道場が本命と言うのを判ってくれるだろう。

 

 もし罠を仕掛けると言うことまで頭が回らないとしても、この際、彼らでは戦力外だ。

 竜牙兵やマスターくらいは相手してくれるだろうが、バーサーカー相手には力不足だろう。

 追加の忠告をせずに、ここで置いて行く…というのも選択肢の一つかもしれない。

 

 まあ、あの時に見たライダーは可愛かったから、知り会えないのは少しだけ惜しくもあるけど。

 それはまさしく余分で余計な考えだ、切り捨てて目の前に専念することにしよう。

「そういえば、一成が対人関係の相談で呼ぶなんて珍しいな。てっきり修理かと思ったけど」

「うむ。私事だけに…言葉に載せるか少しだけ迷ったが…。ちょうと衛宮も女子である遠坂も居ることだ、片付けておこう」

 衛宮くんが促すと、柳堂くんはおずおずと口を開いた。

 いつも歯切れの良い断言を心がける彼には珍しい。

 

 …いや、私のトサカにピーンと来る物があった。

 この反応はまさか…。

 うふふ。

「もしかして、柳堂くん。女の子に口を聞く方法を教えて欲しいってこと? あの柳堂くんが? 明日は雪が降るかしらね」

「くっ。ここで逆襲をして来るとは。やはり相談なぞするのではなかった。この赤い悪魔め!」

「凄いじゃないか一成! 一成が女の子の話をするなんて何時以来だ?」

 そこからは三者三様だった。

 からかう私、苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる柳堂くん、そして、素直に祝福する衛宮くんである。

 

「ま、待て。確かに可愛らしい女性であるが、問題はソコではないのだ。せっかく可愛らしいのに、口が汚なくてな。精進を提供したら、食い散らかすし、罵るし…」

「そういえば、御寺で精進料理を、御客や近所に振舞う事もあるって言ってたっけ」

「へーへーへー。柳堂くんってば礼義作用や話術を直す所から話題に持って行く気? もしかして…御嫁さん候補に入っちゃってるわけ?」

 さらっと流そうとする衛宮くんを脇に置いて、私は前線に出撃する。

 この楽しい獲物を逃してはたまらない。

 圧倒的に優位に立つことが出来て、かつ自分は被害をこうむらない。

 

 そしていつも澄まし顔のこの男が、これほど取り乱す姿を見るのは愉しいものだ。

 まあ、敬遠されるのは判るが、…あのクソ神父の妹弟子なんだから仕方ないじゃない。

「ちっ、違う! そうではないのだ。あまりにもギャップが酷くてな」

「でも、それさえ直せばすっごく可愛いって事なんでしょ? 見て見たいなー。朴念仁の柳堂くんの心を動かしたスイートハートさん」

「そう言ってやるなよ。一成も話し難いじゃないか。で、どんな子なんだ? 話し易いとか、話題の共通になりそうな感じで」

 我ながらヒートアップしていたのだろう、衛宮くんがどうどうと留めて来た。

 私は馬かっての。

 

 それはそれとして、衛宮くんが情報をさりげなく引っこ抜いているので、沈黙。

 気になるものは気になるので、からかう事よりも優先しておこう。

「おそらくはイギリスの子女かな? なんとかブロンドであった」

「それだけじゃ判ら…。あ、イギリス人の? す、すまん、一成、もしかしたら知り合いかもしれない」

(あー。ライダーか。確かにあの子がイギリス人って言えば、そんな風にも見えるわね。クソ神父に貰った服とか着せたら似合いそう)

 衛宮くんが突如、頭を抱えた。

 もしかして、ライダーは彼の家でも、口が汚くて罵るし食い散らかすのだろうか?

 少なくとも衛宮くんが、そうだと確信したのは判った。

 

 言われてみれば、あの晩のライダーは男の子が着る様な服だった。非常に惜しい。

 さっき想像していた服に着せかえ、相応しい言動にするだけで随分と愛らしくなるだろう。

 うむ、もし間桐さんが援軍を求めてきたら、ライダーが着替えることを条件にしよう!

 どうせアーチャーの戦力なら十分だし、彼女に武装を与えて協力させるよりも、その方が面白いだろう。

 

「俺も後で言っておくつもりだけど、全然違う子かもしれない。俺の弁当で悪いけど、これやるよ。なんだったら精進料理で作れるレシピを考えとく」

「悪いな衛宮。衛宮の料理はなかなかの物であるし、付きっきりで教えてくれるなら覚えられる料理があるかもしれん。俺、いや拙僧としても寺の為に頼む」

 見た所、柳堂くんの感触は寺の料理が馬鹿にされたことだろうか?

 話の筋としてはそんな感じだが、こういうのは何時、コロっと行くか判らない。

 女の子がライダーか、それとも他の子かは別にして、経過観察は必要だろう。

 もしかしたら、アサシンのマスターかもしれないし…と、唇の端を釣りあげながら自分を納得させた。




と言う訳で、夕方以降に学校で戦闘が起きても、何の問題もないという状況の確定。
凛が申し出た事により、紹介された造園技師(教会の手の者)が、戦闘終了後に可能な範囲で、物品交換・修復してもおかしくない流れへ。

あとは赤い悪魔が降臨し、生徒会長を肴に盛りあがったという所です。
いい加減放置気味のライダーが、そろそろ御話に関わって来るとか、来ないとか。

その次くらいに、前半戦に突入。本家で言えばライダー戦後半とキャスター戦に相当するくらいの予定。
あまり長い話にはせずに、適当なところで終わることができればなーと思います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。