Fate/promotion【完結】   作:ノイラーテム

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森を越えて見ゆる山

「もう起きたら? 凛」

「もう、あさらっへ」

 モゾリと布団の中から顔を出し、とぼとぼとプールの方に歩いて行く。

 監視カメラは切ってあるし警備員は巡回してない時間なので、シャワーだけ浴びてそのままダイビング。

 流れるプールに漂っているうちに、思考回路が段々と回転して行くのが判った。

 

 気持ち良さを満喫する為、流されている間は特に何も考えず、ただ漂う。

 そして自堕落なソレも、一周するまで。

 貸切プールを満喫するという贅沢を切り上げて、元居た部屋に戻る事にした。

 

 そこでは私を起こしてくれた少年が、誰かに借りたらしい少女漫画を珍しそうに眺めて居た。

 その姿だけを見るならば、愛らしい少年であり、とうてい憎たらしいアーチャーの幼年体とは思えない。

「レディが裸のままだからって、ギルガメッシュ、あんた本当に何もしてないんでしょうね?」

「よしてくれないかな。凛はイシュタルを思い起こさせる所があるから、ボクとしては遠慮したい」

 嫌そうな顔で背ける辺り、小憎らしい。

 とはいえ、実は手を出していましたとか言われても困るので、ホっとする様な悲しい様な。

「でもイシュタルに例えられるのは悪くないわね。ちょっとだけ光栄だわ」

「気に入らなければ聖地でも思い出の品でも、何でも吹き飛ばしそうな鋼のメンタルがね…。どうして少女漫画のように慎ましくないんだろう…」

 どうやら読んでいる漫画はイシュタルなりアシュタロスなり、メソポタミア系の神々が出て来る作品なのだろうか?

 シミジミと語る少年に、私は鉄拳で頭をグリグリしたくなった。

 

 だがそれを察したらしく、ギルガメッシュはテーブルに朝食代わりの牛乳を取り出す。

 空間こそ揺らめくが、市販の牛乳と言う辺りがこまっしゃくれている。

「そんな事しやしないわよ。そりゃ魔術師だから過度の思い入れは抱かないようにしてるから、イザとなれば屋敷でも教会でも教会でも教会でも吹き飛ばすけど」

「でも学校を平気で戦場にするんでしょ? とても学生の考える事とは思えないけどね」

 ギルガメッシュ…区別もあるからこの際、子ギルと呼ぼう。

 

 子ギルは責めるという風でこそないが、あまり感心しない顔だ。

 まあ、言いたい事も判らなくもない。学校が大事かは別にして、一切合財パーにするってのは、余裕が無さ過ぎる。

 常に優雅たれを心がける遠坂家の娘としては、避けたい所だ。

「こんな面倒くさい陣を張ってくれちゃってるし、そこに誘い込む方が早い上に囮だってバレ難いもの。それに…戦場にするとしたら、第三者を巻き込み難い良い場所でもあるわ」

 地図をピラピラやりながら、私は複雑な顔を浮かべた。

 囮を兼ねた防衛用のルーンがあるが、それらは地脈上にないので、ゴッソリ外して行くと、本命の形が見えて来る。

 

 二重に螺旋を描く魔法陣。

 ケルトの象徴の一つでもある、樹と環を、時間を表す日時計に見立て構築している。

 表向きの螺旋が時間経過の促進を、逆しまの螺旋が体感時間の圧縮を表しているが…。

 昼と夜でこれが別々に存在しつつ、お互いを補っているために破壊工作が破壊という結果として成立し難いのだ。

 現地で修復できる訳だし、ウルズ・スクルズ・ヴェルザンティが勢ぞろいと言えなくもない。

 

「これが達観した魔術師として下した判断なら、ここまで言わないんだけど…。まあいいや、たまには君のサーバントとして、無辜の市民が巻き込まれた時だけは、なんとかすることにしようか」

「いつもそう殊勝だと助かるわ」

 なんかここまで協力的だと怖いくらいだが、学校に気になる子…が居る訳ないから、お気に入りの景色でも見付けたのだろうか?

 そんな他愛のない事を考えながら、地図を睨んで没頭する。

「…それにしても良く短時間でこれだけ見付けたものよ。人の向き不向きの属性は、探索と創造に破壊と死だっけ。衛宮くんと間桐さんは前者に特化してるみたいね」

 そういえば戦闘してる姿を見たけど、あの二人にはあまり脅威と言う物を感じない。

 油断は禁物だが、逆に言えば…彼がこっちの分野で長じているのだと警戒した方が良いだろう。

 あまり悠長にことを進め過ぎると、出し抜かれて聖杯を奪われると思っておくべきだ。

 

「隠蔽関連はクソ神父に準備させとくとして、中心点に居座るマスターを見つけないとね」

「おや? 結界の主はキャスターじゃないのかい?」

 判ってる事を聞いてくるあたり、からかっているというよりは、確認だろう。

 外見は変わっても、本質の部分でやはり同じギルガメッシュなのだ。

「元々のは別にして、『あの』クーフーリンは異質過ぎる。おおかたロード・エルメロイの遺産を使って強化しようとしたんだろうけど、あれじゃやり過ぎ」

 ランサーとして召喚したサーヴァントだが、ロードはセイバーとしての能力を覚醒させようとしたらしい。

 だが、その研究が途中で放棄されている以上は、成功が見込めないか……デメリットが大き過ぎたのだろう。

 

 抱くイメージは、森の中から見栄上げる活火山。

 

 それはそのままケルトにおいて、大自然を通して見る巨人族へのイメージだろう。

 学校にある結界を、巨人化したクーフーリンの異質さが、飛び越えてしまっている

 キャスターなのに、陣地作成の能力…自分に適合させるという大事な部分が失われているとしか思えない。

「隠そうにも隠せない、受け取る力も、大した量だろうが大した率じゃないわ」

 神代に生きるクーフリンに取って、あまりにもチャチ過ぎた。

 私たちが百・二百の力を圧倒的だと思っても、一万を越える彼にとっては他愛ないものだ。

 燃費の良いクラスで呼ばれたら意味は大きかったのかもしれないが、大容量大出力の現在では、あまり意味があるまい。

 

 ならば答えは『木々の成長』、大怪我をしたマスターが受け取る為の癒しであり…。

 『彼女』が持つ特性を強化する、あるいはクーフーリンが全力を出しても、問題ない様にする為のバックアップだろう。

 それが昨晩、私が辿りついた結論だ。

 どんな能力なのか、どのレベルの怪我なのか判らないが、この際は意味だけ判って居ればいい。

 

「今日中に幾つか基点を壊して、再生速度の確認と螺旋の方向を特定しておくわ。戦闘は明日か明後日になると思うけど、イザとなれば令呪で呼ぶから」

「そういえば、あの結界は外と中を厳密には遮断してないんだっけ。なら手遅れに成らない程度に駆け付けるとしようかな」

 本格的に追い詰めるんだったら、今日見付けて今日破壊するというのはナンセンスだ。

 待ち受けてる相手に教えてしまう上に、封鎖されて無いから、目敏い者には見付けられてしまう。本気でやるなら、追い詰める為の仕掛けと、追撃の準備をしてからするべきだろう。

 

 …そう、本気でやるならの話だ。

 あくまでこれは、私たちを確認してる石油王をおびき寄せる為。

 詳細を理解してないハズの私が、調査と準備に数日かけて一気に制圧すると誤認させ、その時に積極的な介入を試みさせる。

 

 そして、無意味な破壊活動は、キャスター陣営に、囮にするぞとメッセージを送る為だ。

 よほど馬鹿でない限りは、キャスター陣営も、その日に合わせて調整して来るだろう。

 

 




 と言う訳で、本格的に凛サイドの視点を開始。
慢心してない子ギルがちょっどだけ協力的な姿を見せ(理由はそれだけじゃないけど)、キャスター陣営の利点と欠点が出たところです。
 怪我を直す以外に意味が無い様にも見えますが…「ラック職人の朝は早い」ということで。
士郎たちの戦力をあまり計算に入れてませんが、まあアーチャー陣営から見て、ライダーはともかくセイバーと残り二人は勝手にしろレベルなので…。

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