Fate/promotion【完結】   作:ノイラーテム

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虎穴へダイビング

 物語は進行し、一人称は三度入れ替わる。

 今宵の視座は、姿を変えた少女の元へ。

「まったく、失礼しちゃうわ。学者馬鹿にはどれだけ危険な状態か判ってないんだから」

 その晩遅く、アインツベルンに送った使い魔は拒絶の言葉を伝えて来た。

 私は爪を噛みたくなるのを抑え、可能な限り額に寄せた皺も消すように務める。

 仮にも遠坂の娘と言う者が、余裕も無く顔をしかめる訳に行くまい。

 

 その苦労を知ってか知らずか、アーチャーは肩を震わせて嫌味な声を上げる。

「いやいや、面白くなって来たではないか。当世風に言うなら、駒落ちでタイムアタックに挑む羽目になるとはな」

 くつくつと笑いながら、瞳は少しも笑ってはいない。

 こちらを値踏みするようであり、私と同じで横槍に腹を立てているようでもあった。

 

「この状況を見事覆して見せる事が出来るか? 必要なら我が何もかもやってしまっても良いが」

「冗談! これは私の聖杯戦争で、冬木のセカンドーナーに喧嘩売るって言うのよ? とっちめるのもギャフンと言わせるのも、遠坂の娘である私の役目なんだから」

 親切な風を装っているが、アーチャーは未来から来た猫型ロボットではない。

 もし安易に頷こうものなら、私から自由意思を抜き取って、気が付いたらベットか処刑台の上かどちらかだろう。

 こちらの力量を認めて付き合って居てくれるが、相手は遥かに格上。そして必要以上の貸し出しをする気は無い。

 圧倒的強者を引き当ててしまった、自分がこの時ばかりは恨めしい。

 

 そしてアーチャーは、容赦なくこちらを追及して来る。

「では、どうする凛よ? まさか教会に泣きつくでもあるまい」

「真っ先に叩き潰す。盗賊に与える物なんか何もないわ。問題は手段の方ね」

 バーサーカー陣営が強いからと言って、後回しにするのは大問題。

 なにせ相手は勝ち逃げする気なのだ、こちらが準備を整える前に、適当なサーヴァントを叩き潰して聖杯を使われるなんてたまったもんじゃない。

 悪い事にというか、ソレを狙ったんだろうけど、使い捨てるにはバーサーカーはうってつけ。

 状況の把握が済んだ瞬間に、ミサイルの様に使われて、倒したサーバントともども使い切られてしまう。

 

「うむ、王の財宝を狙う羽虫に遠慮は不要。判って来たではないか」

 アーチャーはそれ以上何も言わない。

 

 ではどうする? と視線だけで要求を突き付けて来るが。

 ある種、こちらの意見を尊重するのと同時に、仮…とはいえ、従うに相応しいのか常に選定し続けている。

 その態度は悔しいほどに、最初に交渉を持ちかけた頃と変わってはしない。

 いや、本来はマスターと言えど完全には御しきれない相手、話を聞いてくれて、騎士の真似ごとを演じてくれるだけでもありがたいと思っておこう。

「相手が亜種聖杯なんて作ろうとしている以上、完成度が劣る贋作の一つもあるでしょう。だから籠城や封鎖は無意味。速攻を掛けるしかない」

 私はそこまで言って、状況を整理する。

 相手には大聖杯どころか小聖杯の完成品を見せる訳にはいかないし、サーヴァントの魂渡して稼働するのを見せるなんてもってのほか。

 幸いにも、最も倒し易いであろうアサシンは姿を消し、キャスターは『良くも悪くも』籠城を決め込んでいる。

 

「新町で活動してると思われるアサシンの捜索を打ち切って、学校でキャスターに隠れてるマスターを探すわ。その上で結界をひとまず見える範囲でぶっ飛ばす」

「ほう…一時休戦と思ったが、案に含ませた提案を無視するのか? 舌の根が乾かぬ内になんとも面の皮の厚い事よ」

 面白そうにアーチャーが顔を歪める。

 勿論、正式に休戦協定を結んだ訳ではないが、キャスターは大事な戦力だ。

 バーサーカーへの遠距離攻撃のみならず、連れているらしい竜牙兵を薙ぎ払うのに有用だろう。

 

 ソレへの配慮は良いのかと、聞いて居る『フリ』で、こちらに尋ねて来た。

「どの道、敵である事に違いはないし…。ま、倒すフリで納める予定だけどね。籠城するお姫様への道をこじ開けたら、財宝求めて盗賊が出て来るでしょ」

 そう、キャスターを倒すのは、あくまでフリだ。

 隠れて居るマスターを見付け出し、城の守りを砕いて、バーサーカーのマスターが横槍を入れ易くする。

 相手は時計塔のロードが残した研究データを欲しがっているらしいし、手っ取り早くサーヴァントを倒す為に、出てくる可能性は高い。

 

「間桐さんの地図をパチったし、探索するのにはそれほど時間は掛らないわ。この図を見る限り、勝手に結界が修復するみたいだし、根こそぎ破壊しないようにだけ配慮すればいいでしょ」

「なるほど、薙ぎ払ったくらいで死ぬような雑魚であれば、確かに遠慮は要るまいなあ」

 ここで重要なのは、お互いに…。と言うことだ。

 アーチャーはキャスターにだけ言っているフリをしているが、実際には『私も』含まれる。

 なにせ、キャスターが仕掛けて居る、自己修復付きの罠の中へ、自ら飛び込もうと言うのだ。

 キャスターが遠慮してくれなかったり、そのマスターがこちらの意図に気が付かずに激怒しても死ぬのは私に成るだろう。

 

「まあ他に方法はあるでしょうけど、衛宮くんたちに頭下げる気ないし、私が好き勝手に出来るのはこんなもんでしょうね」

「そうだ、それで良い。王たる者は自らの責任に置いて、状況に動かされるのではなく、状況を動かす存在なのだ」

 王は独りで啼く、だっけ?

 全ての決断は自分持ち、あらゆる判断と決定する事の責任は自分に掛って来る。

 自分が王などと言う気はないが、他人に動かされるのも、ただ他人に頼るのも真っ平。

 気分良く、愉しく行きたいものである。

 

「んじゃ、方針が決まったところで私は寝るわ。おやすみ」

「今は体を休めるが良い。そして、明日はまた楽しい悪夢を愉しめ」

 アーチャーに後の事を任せると、私は服を脱いで仮設のベットに横たわった。

 別に男の前で裸になって寝る趣味は無いし、誘っている気も無い。

 

 だけど、起きたらまた成長しているので仕方ない、我が家に寝巻を毎日買い買える余裕は無いのだ。

 そして、目が覚めた時、視線が高くなった私は寝ぼけまなこで少年王と出会う。

 夜に死して、朝蘇る……。それが私、遠坂凛の日常に成って居た。

 

 




/登場人物
・遠坂凛(朝:凛 → 夜:ロリ凛)
 アーチャーのマスターで呪い・祝福によって、昼間は元の姿、夜はロリになっている。
全力を出せないせいか、迂闊さは少しだけ影を潜めているとか。

・ア-チャー
真名:不明(朝:幼体 夜:青年体)
 とある金ぴかの英霊の中の英霊。呪い・祝福により、昼間は子供の姿、夜は青年の姿を取る。

『キングとルックの輪、キャスリング』
 隣とアーチャーは、昼と夜で全盛期の姿を分けあっている。
この主従は二人で一人であり、アーチャー陣営は常に全力を出す事が出来ない。
だが、それゆえにアーチャーはホンの少しだけ慢心を抑えているのだとか。
 なお、凛が昼間に全力出せるようにしているのは、学校があるというか、夜はサーヴァント戦の時間だから。夜になるとマスターは可愛さを増し、身を隠し易くなり、恐るべきアーチャーは全盛期の姿を取り戻す。
朝になれば英雄王は少年王と化し、慢心を取り除くのだが…。英雄王ですら年齢に思考が引きずられるのに、凛は理性を保っている。
それこそが、傲岸不遜な英雄王をして凛をマスターとして認めた理由なのだろう。

と言う訳で、暫く凛の視点で。
凛とアーチャーがNPC化して、主人公チーム?に合流しない理由の開示、及び別ルートの情報を開けて行く感じです。

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