Fate/promotion【完結】   作:ノイラーテム

20 / 57
 この話では、多少グロい状況が出てきます。
 四次のキャスター陣営ほどではありませんが、ご注意ください。
 また本来はあり得ないほどキャラ崩壊が発生していますので、こちらにもご注意ください。



汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし

 今を去る事、数日前。

 とある場所に工房があった。

 人知れぬ工房の前に佇み、数々の『目』をくぐり抜け、誰かが侵入していく。

「ここですか…」

 その工房は魔術と科学が融合したとでもいう様な作りであった。

 下部にある実験施設では、巨大なシリンダーの中には子供達が眠っており…。

 

「…!? 血肉を融かして魔力の塊に…なんということを…」

 侵入者が一人、その場所で起きた事に驚愕していた。

 

「ああ、こちらは順調だ。それで…例の件は考えてくれたかな? 君ほど名の知れた傭兵ならば色もつけようじゃないか」

『評価してくれるのはありがたいがね。ただまあ、一族に…とかは勘弁してくれ』

 上にある管制室の中央で、誰かが笑顔で電話に出て居た。

 より正しくは、電話変わりの端末に上機嫌で呟いて居る。

 上物の衣服を見れば、工房長というより工房の持ち主に違いあるまい。

 

「ああ、君には呪いが…。うんうん、その辺も考慮しようじゃないか。勝ち抜いてくれるなら君に令呪を譲っても構わない。まあ、他に買い手が居なければ、だがね」

『なんともまあ俗物的なことだ。魔術師ならば誰もが夢見る、根源に至るキップだというのによ』

 男はニタリと笑った。

 好感触が得られたと判断したのだろう。

 長らく要請を断って居た難敵を下したとあっては、相好を崩さざるを得まい。

 

(介入するならば今ですね。今を置いて他ありません…ですがこれが試練だと言うならば越えて見せねば)

 侵入者はまだ稼働していないシリンダーの中にも、子供達が居る事を確認すると、迷うことなく行動に移した。

 確固たる信念と、困難な状況にさえ採算を確保している強者だけが持つ、信念に満ちた瞳。

 十字を切ると、自分の為では無く、子供達にこそ祈りを捧げた。

 

「先代のロード・エルメロイは現在のロードにしてやられたようでね。想定と違った英霊の不利を正す為に、クラス変更の研究や、他にも…」

『ん? どうした?』

 階下での行動に気が付いたのだろう、電話していた男は怪訝な顔をする。

 この工房で、彼に逆らう者が居るわけがない。

 ましては聖杯戦争に必要な小道具に、勝手に触るなどと…。

「侵入者かもしれない。いざとなればサーヴァントを呼ぶが…。まあ機能だけでなく防備でも、神代の魔女の工房に匹敵すると自負しているからね。適当にあしらって見せるさ」

『そうか、幸運を祈る。お互いに生きてたらさっきの話は前向きに考えさせてもらうわ』

 電話を切ると、男はサディスティックな表情を浮かべた。

 この工房にはその辺の魔術師など、たちどころに処分できるだけの防備が施してある。

 それなのに、階下で何かしている男は、子供たちを助けようとしている。

 役にも立たない足手まといを連れて、どこまで逃げれるだろうか? 性能を試しつつ、狩りの様に追い回すのも良いかと考え始めて居た。

 

 だが、そんな余裕も相手の顔を確かめるまでだ。

「な、何をしているバーサーカー!」

「何故こんな愚かな事をなさってるのですか、マスター?」

 男は侵入者が、自らのサーヴァントであるバーサーカーだと気が付いて、驚愕の表情を浮かべた。

 事情を知らない魔術師が聞けば、まず狂っているはずのバーサーカーと会話出来て居る事に驚くだろう。

 だが、男が驚愕しているのは別の事だ。彼は令呪を使ってこの強大なバーサーカーを従えているはずなのに…。

 

 男はギリリと歯を噛み締めて、不平の表情を噛み殺した。

「愚か…、だと?  それは聖杯戦争に必要な…。い、いや、世からはじき出された者を選び、君にも配慮して、ちゃんと宗派や国籍を確かめて居るんだ。文句を言われる筋合いはない!」

「そう言う事を言っているのではありません。信仰や国境の差など瑣末な問題に過ぎません」

 文句を言いたいのは男の方であるが、バーサーカーの方が圧倒的に強い。

 それに…令呪で従えているのに、高い魔力抵抗によって反抗しているのだ。

 機嫌を損ねたら殺されかねない。まさか、こんな序盤で戦いもせずに殺されるわけにはいかないだろう。

 

「私が魔女に育てられた事は御存じでしょう? この程度の代償に対して生命を粗末に使うなど、なんと効率の悪い事を…」

「こ、この程度だと!? 私が心血を注いで作り上げた工房に、この程度だと言ったのか!?」

 男は海よりも深く、山よりも高いプライドをへし折られて激情に駆られた。

 確かにバーサーカーは魔女に育てられ、豊富な知識を持ち、高い信仰心もあって性に合わないのは確かだろう。

 容易く理解はできるからこそ、見逃してしまった。

 

 そう、バーサーカーは生贄を使った事を、別に責めては居ないのだ。

「マスターほどの才能があって、何故もっと努力しないのですか? 戦争には隠匿と補給も重要…聖杯戦争に際して本気になれば、少なくとも半分以下に抑えるべきです」

「え……?」

 男は絶句した。

 バーサーカーは生贄に対して文句を言っているのではない、効率が悪いと言っているのだ。

 生命を使ってまでやるなら、もっと素晴らしい成果を出しなさいと激励しているのである。

 

 男が知って居る限り、この英霊が、こんな回答を出すわけがない。

 まさしく狂っているのであろう…勿論、そうしたのは他ならぬ彼なのであるが。

「マスターはこの子達の才能と可能性に目を閉ざしている。鍛えれば何にでも成れる、素晴らしい未来があると言うのに」

「あ……」

「何を……、する気なんだ?」

 バーサーカーは、助け出した筈の子供の一人に指先を向ける。

 そして、ボーっとしているその子の口の中に、指を突き入れた。

 

 男が思考を停止している間に、軽く指先を動かす。

「あぎっ…痛……」

「知って居ますか? 竜の体には強大な力が眠り、歯の一つ、血液の一つにさえ力が宿ることを」

「何を…言っているんだ?  竜? ソレは金で買った世の中に価値の無い…」

 男が驚愕するのは無理もあるまい。

 竜に力があるのは当然の事だ、だが、その子は竜などではない。

 なのに…。

 

 男が驚愕するのも構わず、バーサーカーは何かを取り出した。

 それは無理やりに抜いた歯であり、…滴る血であった。

「この子達にはその竜にすら届く可能性があるのです」

「そんな馬鹿な……。いや、何をしているんだ? なぜ、ただの血に、それほどの力が宿っている!?」

 滴る血からは、膨大な魔力が感じられた。

 先ほど工房で創り出したモノよりも少ないが、100mmもあれば容易く上回るだろう。

 もし仮に、1リットル2リットルと採決すれば、どれほどの力に成るか…。

 

 バーサーカーは呆けてる男には構わず、子供…女の子に対して何かの術を使った。

 魔術か、それとも秘跡か? まあこの場では大した差はあるまい。

「貴女を助けましょう。ですが、それは貴女だけ。もし何か望みがあるならば代償が必要となります。さあ…どうしますか?」

「あ…う? お、おとうと…居る…」

 急激に意識の眠りから覚めたにも関わらず、女の子は理性を取り戻した。

 おそらくはソレが、バーサーカーのもたらした術の効果なのだろう。

 状況を判断し学習する知性すら宿らせて、頷いて見せた。

 

 女の子は粗末な服を脱ぎ捨てる。

 男の不埒な欲望を誘っている様にも、自らの肉を獣に差し出す様にも思えた。

「お願、します。おとうとも、助け、て…」

「その願い、聞き届けましょう。少し痛みますが覚悟なさい。その試練に耐えることが出来れば貴女も弟御も保証しましょう」

 向くと言うより何も考えて居なかっただけの表情に、真摯な祈りが垣間見え始めた。

 その変化にバーサーカーはニコリと笑うと、女の子の背にを這わせ…。

 

 背の皮をバリバリと引きはがしたのである!

 

「ひっヒィィ。痛い、痛い痛い! 痛た……」

「よくぞ耐えました。素晴らしい、これならば竜の皮と呼ぶに値する! 竜の皮で作った巻き物は、最大級の術を封じる触媒でしたか?」

 先ほどの小さな祈りや、家族のために痛みに耐えようとする表情を、美しいモノとして捉えたのだろう。

 のたうちまわる女の子を眠らせると、バーサーカーは輝く様な笑顔を浮かべた。

 女の子が乗り越えた試練(?)を称賛すると、男に向かって、剥ぎ取ったばかりの人の皮を翻して見せる。

 

「あ、ああ。それが竜の皮なら…100年物、いや300年級のスクロールや宝石に匹敵するだろう」

「ではマスター。血や肉から魔力を吸い出せるように改良をお願いします。もちろん、この子達の衣食住もね」

 バーサーカーの思考は、元の人格と乖離している。

 マスターである男の話を聞いて居る様に見えるが、試練を乗り越える、あるいは乗り越えさせるという点を基準に歪んで居るのだ。

 話が出来るように見えるが、決定的な処で話が通じない…。

 

「わ、判った。勿論だとも。スイートルームを…」

 男…アトラム・ガリアスタは、その事を改めて自覚すると、バーサーカーの衝動が自分に向かわない様に祈るのであった。

「いや、全て終わったら魔術など関係ない何不自由ない生活を保障しようじゃないか。その子たちだけじゃない、協力してくれる全員に保証しても安いくらいだ」

 だが彼とて魔術師、得られる成果に怯えるばかりでは無い。

 金銭的コストと引き換えに、手にする事の出来る膨大な魔力を知って、唇の端を歪める。

 

 これは双子館に居るバセット・フラガ・マクミレッツが襲われる、数日前の事である。




/登場人物
・アトラム・ガリアスタ
 金の力で成りあがった魔術師で、箔を付けに来ていると同時に、亜種聖杯を作る為の参考にする気である。
可能な範囲の術式・礼装を奪い、可能ならば聖杯を他愛ないことに使用して、実証データを得ようとしている。
生贄を使った魔術を納めており、普通の魔術師ならば一か月かかる魔力結晶を、僅かな時間で精製できる。

・バーサーカー
真名:不明
 一見、話が通じて居る様に見えるが…。
試練を乗り越える、あるいは乗り越えさせることに固定されている。
話が通じて居る様に見えて、全く通じて居ない。全ては自分がしたい様に話自体を捻じ曲げている。
人が試練を乗り越えよう、自分を克服しようとする姿に、何時までも保存したくなる様な…もっと引き出したくなるような美しさを見出す。

能力:
『狂化』
ランク:EX
 パラメーターとカリスマをランクUPさせるが、話が通じなくなる。
思考は試練を乗り越える・乗り越えさせる事に固定され、なお悪い事に他者への高い影響力から、むしろバーサーカーの言う事に従わせるようになる。

『対魔力』
ランク:B+
 魔女に習った対抗魔術と、高い信仰心から大抵の魔術を防御する。
大魔術・儀礼呪法を使用しても、傷つけるのは難しい。

他:

スキル:
『殉教者の魂』
ランクB:
 精神面への干渉に高い耐性を得る。
無効化こそしないものの、高い能力値と合わさって、まず通じない。

『聖別/竜』
ランク:B
 対象をいずれ信仰に至る者、あるいは竜に至るモノとして規定する。
エクソシストの悪魔払いと同じで、対象は最初確実に抵抗する事が出来るが、一定の段階を備えると抵抗が必要になり、やがて抵抗判定そのものが無くなる。

他:

 と言う訳で、バーサーカー陣営のお話になります。
運と、野心に対する堅実性が大幅にパワーUP。
出落ちが回避された事に加えて、優勝候補の筆頭まで上昇しております。
バーサーカー自体はバレバレですが…無茶苦茶な事になっており、スパさん並にあり得ない様な強化(狂化)になっております。
人呼んで愉悦部の写真担当、なんとかジョージさん。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。