本家オンリーではないので、合わないと思われましたら、そっと閉じてくださると幸いです。
「嘘…でしょ」
少女が考えるのは一瞬。
僅かな呼吸が感じられたことで、体は自然と動いて居た。
「随分と余裕よなあ。心の贅沢ではないかと思うのだが」
くつくつと嘲笑う男の声。
少女は振り向きもせずに、傲岸不遜に言い放った。
「これは満足の問題。不用意に巻き込んだ事に対するケジメ、次があっても助けない」
少女はそう言うと、懐から大粒の宝石を取り出した。
ちょっとだけ名残惜しそうにしながら、隅に転がった少年に向かう。
「これで私は後悔をしないでいれる。だから全力を出せるってだけ。それに…私のサーヴァントは最高の英霊なんでしょ?」
「くっ。くははは! 言うではないか!」
苦い笑いを浮かべてやせ我慢をする少女に、男は姿を現した。
何が滑稽なのかしらないが、少女の決意を傲岸不遜な笑顔で嘲笑う。
「確かに確かに。最大最古の英霊である我のマスターには、そのくらいの余裕は当然の事、贅沢にも当たるまい。だが…」
そして、つまらなさそうに空を歪めたのだ。
空中をまるで扉を開けるかのように弄くり回し、どこへ仕舞ったのかと時間を掛ける。
勿論、それは少女の苛立ちを愉しむ為だ。
「どれ、コレを使うが良い。屑ではあるがそやつが生き残るには力は十分であろう。ソレは拾ったは良いが扱いに困る物だ、丁度良い座興よ」
「宝具には見えないけど…外見を変えてるだけで宝具なのよね。随分と大盤振る舞いじゃない」
男が投げてよこした物は、確かに力を秘めている。
少女は怒りを鎮めながらも、手にした宝石を使わぬことにホッとしている様であった。
「形見であろうと所詮思い出、使い切りの品。その覚悟があるのであれば小娘にはイザという時の護りになろう」
「ちょっ…。まあいいわ、今は御礼を言っておくわ。…誰かさんのお陰で余裕が出来たし、ここの修理もオマケ」
少女は自分を眺める男に怒りの目を向けるが、付きあっても仕方無いとばかりに少年に向きあう。
茶番で時間を取られたようだが、まだ大丈夫。
せいぜいが記憶障害だろうと、気を落ち付かせて、周辺をついでに修復し始めた。
少年の大火傷は大半が治療され、服も焼け焦げた水飲み場も、時間が戻るかのように日常に姿を戻した。
やがて少年は、意識を呼び戻す。
否、解体された意識と記憶が、元々のモノと新しいモノが絡み合って再構築されていく。
「う…あ? 何処だここは? 学校…? なんでこんな所で眠ってるんだ?」
荒い息を吐いて、俺は身を起こした。
体が熱く、背中を濡らす水が心地良い。
ザリザリと混濁する意識に、炎や、剣戟の音が思い浮かぶが、平和な学校でそんな事が起きるはずもない。
実際に見渡してみると、校舎が燃えている事も無く、服に火傷なんて何処にもなかった。
(水? なんで水が零れてるんだ? 掃除しないと…)
俺は体を起こすと、周囲を濡らす水を拭く為、掃除用具入れに向かった。
パタンと落ちたナニカに目を向けて…。
「っと危ない危ない。こんな物を剥き出しに置いて寝るなんて、どうしちまったんだ俺?」
見慣れたソレを懐に仕舞い、俺は掃除用具入れを開けた。
何故かいつもと違う場所にあったが、おおむね同じ物が入って居る。
ゴソゴソと混濁した意識で掃除をすると、雑巾を絞って乾かしてから帰宅する。
フラフラとした足取りでも、歩き慣れた我が家への道のりを間違えるはずもない。
やがて見えた武家屋敷の扉を潜り抜ける。
「ただいまーって、み…さくらが居る訳ないか。藤ねえも来るとしたら明日の朝食だな」
家族…同然の人々を思い出し、不思議と笑顔が零れた。
足元に転がるポスターに違和感を覚えるが…。
「まったく仕方無いな。片付けとけばいいのに…」
見覚えなかったポスターだが、記憶を辿ると確かに思い出せた。
丸まったままのポスターと、殴りつけられて僅かに捩じり曲がったもう一つを取りあげた時。
聞き慣れない…それでいて、聞いたことのある声が聞こえる。
聞いてはいけない声であり、聞いた以上は即座に動けと体の隅々が活性化する。
「ったく、なんで生きてるんだ? お陰で同じ奴を二度も殺す羽目になっちまったじゃねえか」
「なっ…」
誰だ? と思った瞬間に、冷静に思い返す自分が居る。
学校で見かけた、怪しげな男。
2mの長身で、軽々と杖を担いでいる。
結界は…と言い掛けて、そんな物が役に立つはずが無いとも易やすと思いつけた。
そうだ、こいつはキャスター。
その程度の事はやってのけると、さっさと身構えて、僅かであろうと活路を見出す事に賭けた。
(こんなんでも無いよりマシか。トレース…)
「ん? 強化か。割と珍しい芸風だな。なんだお前。魔術師だったのか。早く言ってくれよ」
恐ろしい。
本業の魔術師、それもキャスターの英霊となれば本当に恐ろしい。
俺が魔術回路を稼働させず、意識の隅に、強化魔術を用意しただけで…。男は容易く見抜いて見せた。キャスター?どこでそんな言葉を…。
「な、なんで俺のやる…。いや、ハリボテならともかく本物ならそれもそうか。…あ? 本物?」
「んなモン、見りゃーわかるだろうがよ。本物かどうかって言やあ、まあ英霊は本体の偽物つーことになるが、な!」
生じた違和感は、男の動きでかき消される。
なんで思いつけたのか、記憶の整合性を正す前に、強烈な一撃が叩き込まれた。
ブロックなんて間にあわない。
宿り木の杖が腹に叩き込まれ、俺は咄嗟に窓をぶち破って居た。
「がっ。痛つつ。ここじゃ駄目だ…」
「ヒュー! 意外とやるじゃねえか。今の一瞬で、逃げを打つなんてよ!」
もうちょっと楽しませてみろよ! と男は笑いながら、追撃の為に身をかがめた。
俺は馬鹿か?
何が2mだ、どう見ても2m30はある長身は、まさに人間山脈。
窮屈そうに部屋から軒下へ出て来る。
ただ蹴りつけるだけで、ただ殴りつけるだけ脅威になり得る。
その足取りがゆっくりなのは、いつでも殺せるという余裕の表れなのだろう。
下がりながら蔵を目指し、籠城…いや、何か使えるモノが無いか必死の退却を行う。
だが、退却戦とは難しい物だ。例え成功しても絶望的なのに、相手は無常な追撃を掛けて来た。
「そらっ。良く防いだ。だが次はどうするよ? そりゃあ紙だろ? 燃えちまうぞ!」
「こんなんじゃ駄目だ。ないよりマシな物、何か、ないか?」
一枚目のポスターは、強化してもあっさりへし折られた。
二枚目はねじ曲がってたので、開いて簡易的な盾にする。
拙いながらも、我ながら驚異的な成功率を見せた強化魔術も、紙で火に対抗するには至らない。
仕方無く、ポスターは諦めて時間稼ぎに投げつけることにした。
唯一の武器を手放す思い切りの良さに、男は笑って打ち払う。
「ないなら、創り出せば良い! 投…影…開始!!」
「そんな間に合わせで、何とかなる訳ねーだろうがよ。でもまあ雑魚にしちゃあ愉しめたか。もしかしたら、お前が7人目だったのかもしれねえなあ」
それならまだ、強化の方がマシだぜ?
男はそう言って、創り出した盾を砕きながら、強烈な蹴りを繰り出してきた。
何か無いか? 何か?
そうして、俺は懐に仕舞った最後の武器を思い出した。
おそらく、ここには居ない親友か家族が持たせてくれたものだろう。
「そんなカードで何をやる気かしらねえが、やるならさっさとしろよ。でねえと、せっかく生き返ったのに蘇り損だ」
俺が取り出したモノを見て、男は面白がって笑みを浮かべる。
だがそれでも男は戦士であり、冷酷な魔術師だ。
笑いながらも空に指で文字を描き…それも学校で見たよりも、強力な魔力を感じる。
何が『対応』しているのか知らないが、覚悟を決めると全ての魔術回路を集中させた。
最後になるか判らない、言葉を紡ぐ為に。この逆境に勝利する為の言葉!
それは夢幻の……。
「インストール!」
セイバーのカードを手に、俺は英霊の夢幻召喚を行った。
登場人物
少女:あかいあくま
十分に時間を取って触媒を探し当て、時間もバッチリ召喚成功。
相性の良い英霊を召喚したのか、割と余裕。
優雅たれ…を実践しようとしてるが、迂闊なのは同じだったり。
第三の介入者:金ぴか
慢心してるが、ちゃんとマスターを思いやるサーヴァントを演じている。
ついでに千里眼で色々見渡しているので、積極的に介入を行ってみた。
その結果は、紅茶さんがログアウトし、少年に戦う力を与えた模様です。
キャスター:?
プロローグでは2m弱から2mへ、衛宮家内では2mから2m30cmにスクスクと成長している。
その健やかな体の為か、キャスターでありながらアーチャーと互角に白兵戦が出来た。
少年:●士郎
本家の代わりに別の世界線から繋ぎ起こされた。
二周目相当なので、覚悟もあるし魔術も使えるが、英霊に対抗できるほどではなかった…はず。
親友ないし家族が持たせてくれた…? と勘違いしている、とある英霊のカードが無ければの話。