Fate/promotion【完結】   作:ノイラーテム

16 / 57
皇帝ネロの色眼鏡

「間桐さん、ここが購買部だよ」

「ありがと三枝さん。来たばっかりだから助かる」

 ボクは知らないフリをして、クラスの女子に購買の場所を尋ねた。

 勿論知ってはいるが、他愛ないことで感謝をして見せ、ついでにパンの一・二つも一緒に購入。

 弁当を作って来ているようだが、その子の好みだという種類だそうで、奇遇だねーとか調子を合わせておいた。

 

「それにしても、そんなの何に使うの? カラー・セロハンは勉強用だって判るんだけど」

「元のトコの課題でちょっとね。ちゃんと穂群原に通ってるかとか、皆の話を聞いてるかとか、地図やレポート寄こせって」

 赤・緑のセロハンや学校の地図が載ったパンフのついでに、色々な物を購入したのだが、適当に誤魔化しておいた。

 もともと勝手に付いてくるから、相手するついでにお願いしたり、御礼に色々したりしているが、本当の事を話すわけにもいかない。

 

(まあ、魔術サイドが元っていうなら、課題と言えなくもないけどね)

 衛宮と一緒に廻るにせよ、一人で色々回るにしても今から造るモノは重要だった。

 何せ自分では直接探知ができないし、間接的にでもキャスターの痕跡を探る方法が必要なのだ。

 

 とはいえ、本人に能力はなくとも構わない。支配の系統が得意なマキリに属するからそう思うのかもしれないが…。

 力にしても、情報にしても、魔術でさえも。

 自分が独りでする必要はなく、網の目の様に広がる状況を、上手く使いこなせば十分。

 サーヴァントを召喚するために右往左往して自滅したが、それだって桜にやらせて偽臣の書でも使えばいい話だ。

 強化魔術や前衛、結界探知も、衛宮が味方する以上はボクが自由に使えるとも言えた。

 

(なんだ、簡単じゃないか。こんな体に成ってようやく気が付くなんてな)

 桜に召喚だけやらせて、ボクがサーヴントを操ると言う、御爺様の初期プランは的を得て居たわけだ。

 桜の魔力なら古代のサーヴァントにだって手が届くだろうし、ボクはボクで魔術を小道具で補えばなんとでも出来たはずだったろう。

 御爺様のやり方は、本人の感情を逆撫でこそしているが、望みをかなえることで、自分の優位性を主張しようとしているのかもしれない。 

 性根が腐って居るから陰湿だが、案外、それが御爺様に残された…人間であった頃の残り香なのだろう。

 

「…とうさん、間桐さん。大丈夫?」

「ああ、ごめん。ちょっと考え事してて。えーっとなんだっけ?」

「いやさ、遠坂がすっごい顔して睨んでるぞ。あれはとても陰湿なんだ」

「…蒔の字、その言い方では伝わらないと思う。あれは明らかに、呼んでるように見えるけど」

 クラスの女子たち…とりあえずここでは仲良し三人組とでも呼んでおこう。

 彼女達に呼ばれて妄想を取りやめると、指の先で遠坂が笑顔で…蒔寺こと穂群の黒豹いわく、凄い剣幕で睨んで居た。

 

 …正直な話、元の体だったら遠坂が自分に気があるとか、同盟組みたいと思ってるんじゃないかと舞いあがってた所だ。

 もっとも今の状況でそんな事が思える筈は無く、牽制…というか釘を刺したいのだとハッキリ判る。

 面倒なのと、一人しかいない現時点では何も話す事は無いので、何の用事だろうねーと微笑み返しておいた。

 

「間桐さん…ちょっと御話したいんだけど?」

「いいけど、これからみんなで昼食だから一緒にどう? あ、これ少しどうぞ」

「え、いいの~? じゃあ唐揚げとウインナーお返しにあげるね」

「ずっこいぞ。あたしにも何か寄こせー。この町の歴史ならあたしが教えるからさー」

 無視されて腹を立てたらしい遠坂が、青筋を巧妙に隠しながら突撃して来る。

 そこで近くに居る、兎さんの好物を使って回避すると、うまい具合に黒豹が混ぜっ返した。

 購入したばかりのパンが半分減ったが、撒き餌としては十分な成果をあげてくれた。

 

 この時のボクには気が付かなかった事だが、このやりとりで、どうやら遠坂は元の間桐慎二とは違うと間違った方向に確信したらしい。

 自分の凄さを見せつけたいボクとしては、間桐慎に名声が蓄積され、元の自分にはなんらフィードバックしないことは、少し微妙であったけれども。

 

 ともあれ、魔術のことを遠坂がクラスメートの前で話す筈もない。

 対策でも建てるのか、それとも怒っただけなのか、どこかに行ってしまう。

 これはこれで後から問題になるのだろうが、交渉材料の一つも無い現時点では、馬脚を現すわけにもいかないだろう。

 

 

 かくしてボクは、何事も無く放課後を迎え、無事に衛宮と合流する事になった。

「それにしても、何に使うんだそれ? てっきりカラー・セロハンは勉強用だと思ったんだけど」

「皇帝ネロのサングラスって知ってる? アレをモチーフにした簡易礼装をちょっとね」

 簡略した霊符を使用して、即席の眼鏡フレームを作り始める。

 なんと、この折り紙は蒔寺のオリジナルだそうで、今度なにか奢ってやることに決めた。

 

「ええと、エメラルドで作った眼鏡だっけ? 闘技場をもっと綺麗に見ようとしたとかなんとか。ということは、その3D眼鏡は遠見用なのか?」

「その逸話を成功例として見るならそうだけど、物理的には無意味なんだよね。でも魔術的にはどうかな? オズの魔法使いって言ったら気が付かない?」 

 いまいちピンとこない衛宮に、ボクは更なるヒントを付け加える。

「オズの魔法使いで眼鏡なんて…。あっ、あれか! 見た物を全部エメラルドに見せる話」

「そうそう。あれは自分が見たい物を見たいように見て、見せたい物を見せるって詐術。でも万能の天才と詠われた皇帝ネロなら、詐欺では無く本当に使用する事ができたのかもね」

 皇帝ネロは黄金劇場のほかに、白銀工房や灼熱厨房を持っていたと言う話だが…。

 近年では、黄金劇場は魔術士としても才能があったネロの、独自の大魔術らしいという論が出回って居る。

 だが、大魔術のバリエーションを、それほど大量に作れるだろうか? そこで思い至ったのが、ネロのサングラスという訳である。

 

「良くそんなの思いついたな」

「んー。ボクに魔術を指導してくれた人が、御爺様じゃなくて幻術師で詐欺士で魔術師だったお姐さまでね。そのこともあって…」

 ヨロシク御指導してくれた時のことは今でも思い出したくないが、せっかくの知識と魔術は使うべきだろう。

 感心する衛宮を横目に、霊符の中に色々放り込んで、折り紙で眼鏡のフレームを作り上げる。

 

 そして、肝心のレンズ加工なのだが…。

「で衛宮くんが見てる光景を見るために共感魔術の媒体として…。なんで顔赤らめてるの?」

「い、いや、学校で服脱いで触り合うとか、万が一にでも見つかったら大変というか、唾液はちょっと…」

 ああ、今朝言った冗談を真に受けて居たのか。

 朴訥なやつだとは思っていたが、からかったのは自分なので自業自得である。

「あれは冗談よ冗談。針でつついて血の一滴でもあれば十分。…そうね、できればゲイボルクを受けた方の手を出してくれるかな」

「なっ! …ふう。ちょっとの血でいいのか?」

 からかわれた事を悟った衛宮だが、再び冗談を言う気にもなれないので、さっさと済ませておこう。

 

「準備が出来ない時の代用や本物の礼装なら、大量の血液だったり、もっと真に迫るやつがいるけど…。簡易礼装ならこんなもんでしょ。祖には我が大姐プレラーティ…」

 衛宮と色々深い仲になる気は無いし、桜とこじれる方が困る。

 だからこの話は此処までにして、作成に入ろう。

 

「偉大なる秘術師ミネオマーヤが著せし、常春の王国に魔力は循環せよ。二十二と二十三の書、外伝に現われたる魔界の大公爵アスタロトに捧げられし、ユダの痛み、ネロの歪んだ視覚、ヒスラーの自決せし弾丸を持ちて、新たなるマヤカシが此処に成立せん」

 魔術的な才能を増設されたとはいえ、あくまで必要最低限だ。ゆえにテンカウントではなく、簡易儀式レベルのロングスペルを唱え始める。

 別に師(術式をインストールしたという意味で)の名前を出す必要はまったくないが、どこかでライバルが聞いて居て、殴り込みにいってくれないものかと期待を込めて、冒頭に置く事にした。

 

 緑のセロハンに、衛宮の血を一適。

 赤のセロハンに、ボクの血を一適。

 一つになった赤と緑の3Dレンズは、僅か数日の間だけ、ネロのサングラスに成り遂せる。

 

 第一に使うのは感染魔術、次にレベルの低い転換魔術や支配術を挟んで、最後にようやく共感魔術と使用して行く。

 さまざまな魔術の概念に組み込まれ、ボクに素質がある支配魔術にも組み込まれているが、あえて下位の魔術として成立しているのには意味がある。

 感染魔術は病気と同じくリンク対象が近くに居ないといけないが、変換する絶対強度が高い。

 共感魔術の方は、虫の知らせや双子の共感のように距離性に利点があるので、別個に学ぶ意味があった。

 

 最後に自分に取り込んだ衛宮の血により、感覚共有が始まると共に、激しい痛みが襲ってくる。

「…痛っつつ。どうやら成功かな」

「大丈夫か? って、もしかして、俺の傷と同じ場所なのか?」

 ボクは手を抑えながら、脂汗を拭きもせずに頷いた。

 心配する衛宮を抑えて、ハンカチを取り出すと苦笑いを浮かべて汗を拭きとった。

 

「痛み止めとか使ったらどうだ? 朝に俺に色々してくれたろ?」

「無理無理。これは自分の痛みじゃなくて、衛宮くんが感じてるはずの痛みだから。部分的に色々コピーできるメリットはあるけど、コピーされたマイナスに関与できないデメリットもあるの」

 まあ、変換する感覚のレベルを下げれば解決するのだが…。

 ボクの実力では、視覚共通のレベルを維持したまま、他の感覚のレベルに敷居を設けるなんて出来ない。

 いいところ近い場所なら、視覚込みでレベルが高く、遠くなれば低くなるよう、位置を調整するくらいだろう。

 

「んー、なんとか流れが判るくらいかな。でもまあ、ありあわせの材料ならこんなもんでしょ。学校の地図に聞きこんだ来歴とか書きこんだから、さっさと会わって行きましょうか」

「今日の所は詳細地図の作成でいいんだな? 了解。じゃ、またあとで」

 こうしてできた礼装は、簡易の名に相応しく杜撰な物だった。

 だが、地図にはクラスメイト達の感想込みで、学校に対するイメージを書き込んである。

 ドルイド魔術にも使えそうな場所をピックアップしてあるので、全部に対応して居なくとも、ダミーと本命の両方を同時に浚うくらいはできるだろう。

 後は地図を完成させてから、情報の真偽を分けるのは、その後で十分だ。

 

 こうして、満足感を得て、意気揚々と学校探索に乗り出した。

 …後から思えば、対人関係や礼装作成で成功し、調子を乗ったのがいけなかったのかもしれない。

 自業自得で苦労するハメになるとは、この時のボクは思いもしなかった。




/登場人物
仲良し三人組
 いわずと知れた、fateに登場する学校の人々。
一部のエピソードを除いて、あまり関係ないので一くくりで登場。

/魔術礼装
『皇帝ネロの色眼鏡』
 皇帝ネロは闘技場を愉しむためにエメラルドの眼鏡を作ったと言う。
その逸話を元につくられているが、抽出されたのは、見方を変える…というものである。
当時のカット技術で精度の高い望遠レンズが作れないと思われるので、遮光・色変えでイメージを変えると慎は想像している。
加えて、黄金劇場は大魔術であり、白銀工房・灼熱厨房というバリエーションがある説や、『オズの魔法使い』のエピソードを組み入れることで、魔術基盤をでっちあげた。
 この礼装の骨子は、あくまで衛宮士郎が見て居る光景を、他者にも見せる事。
特殊の力は士郎持ち、術を成立させているのは、共感魔術と感染魔術である。
 なお、高度な魔術師であれば、一回ごとに多くの魔力を使用するものの、転換魔術などだけで簡単に実行できるはず。あくまで他者の特殊能力と低い技術を補った代用手段。

 と言う訳で、他人をノせて成果を引き出す事が上手い慎二的な部分を出しつつ、直ぐに調子に乗る慎二的な部分を出してみました。
この御話の士郎は強く、凛はそのことを知ってるので、慎の方が赤いあくまにイジメられることに成ります。
あと、追加した呪文詠唱は適当というか、元ネタをそのまま入れただけです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。