なにしおはば改   作:鑪川 蚕

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「なにしおはば」を既読の方へ
「なにしおはば」の「旅行」後半部とさして違いはないので読みとばしても大丈夫です。


6話 食堂

「ここが食堂よ」

 

ここも白色の壁だが黄ばみが無く清潔感に溢れている。兵学校の食堂は料理の匂いがプンと漂い、食欲を刺激されたのだが、ここではしないのが不思議だ。しかも、料理人の話し声がせず、聞こえるのはブーンという低重音のみ。

まだ彼女達は来ていないようだ。

 

 

 

「あの…誰もいないのですか?」

 

少し怖くなった大鳳は隣の陸奥に尋ねる。

 

 

「いるわよ、まみやさんが」

「ええっ、間宮さんが!?」

 

給糧艦、間宮。日々食事の献立を考え、調理する艦娘だ。彼女の作る料理は味、見た目、そして栄養バランス、各方面に優れる。その腕前は一流レストラン、料亭、給食センター、食品関連企業から視察が来るほどだ。

ただ間宮は当然1隻しかおらず、棟京霧ヶ関にある海軍省の食堂で常勤していると噂で聞いたが、臨時でここにいるのか。

 

「はい、こちらがまみやさんよ」

 

 

それを見た瞬間自分の頭を押さえた。立ちくらみしたのだ、自分のバカさ加減で。間宮が本当にいるかもしれないと少し期待してしまっていた。

陸奥が「まみや」と指差したもの、そして低重音の主は高さ1、5㍍ほどの直方体の丸みを帯びた機械だった。基調は薄桃色だが上部は焦げ茶色、下部は青色で、真ん中に横幅30㎝ほどの液晶パネルがあり、その真下の底部には取り出し口が開いている。

大鳳はこの機械を知っていた。兵学校で使い方まで教わっていた。

 

「これ、MAMIYAですよね?」

 

苦笑いまじりに大鳳が尋ねる。正確には兵学校で見たMAMIYAはもう少し小さく、デザインもかなり違うし、液晶パネルもなかったが似たようなものだろう。そのMAMIYAは自動販売機みたいなもので、料理の写真の下にあるボタンを押すとその料理が詰められたレトルトパックがぺっ、と吐き出される。その時はすごいと思ったが、今思うとしょっぱい機械だ。そんな機械の料理(?)をこれから毎日食べると考えると気分が暗くなる。

 

落ち込む大鳳とは対照的に陸奥は何故か得意げだ。

 

「ふふん、兵学校で扱ったのはMAMIYA初期型でしょ?これは違うわ。開発に120億かけた最新式。MAMIYAーⅢよ!これに比べたらMAMIYA初期型なんておもちゃよ!」

 

わーい、すごーーい!とは絶対に言わない。120億かける程のものか実に疑わしい。

大鳳はジト目で見るが、陸奥は全く視線を気にすることなく、MAMIYAーⅢの前に立ち、電源をいれ、大鳳を手招きする。

大鳳が機械の前に立つと、ちょうど画面が起動し終わった。

 

『こんばんは。今日もお疲れさまです』

 

落ち着いた可愛らしい声とともに画面の中で割烹着姿の女性がお辞儀をする

 

「間宮さん!?」

 

大鳳が目を見開く。兵学校での放課後に見たアニメーションのような絵柄だが、間違いなく間宮だ。

頭につけた大きな赤いリボンとフリルのついた割烹着、そして陸奥よりも遥かに大きく、割烹着を着てても自己主張の激しい胸ですぐに間宮だとわかった

 

「なにかぬるぬるしてる…」

 

画面の間宮はまばたきをしたり、笑みを浮かべたり、腰をくねくねさせたりと画面の中で生きているようだ。

驚きは次々と続く。

なんと画面に触ると指の動きに従って画面が動くではないか。陸奥の説明と直感的にわかる画面操作によって大鳳は初見の機械であるがスムーズに手順を完了させていった。

まず認証のために艦娘コード(ACT1-153)、量調節のために本日の出撃の有無を入力。

 

『今日は金曜日。本日の夕食はカツカレーです』

 

MAMIYAがそう言うとルーとライスの量、辛さ、福神漬けの有無、トッピングの選択肢が表示される。

選択肢の多さに舌を巻く一方で本当に反映されているのか疑問を持たざるえない。結局『中盛辛口福神漬け有りコーン』で完了ボタンを押す。

二頭身キャラとなった間宮が野菜を切ったり、鍋をかき混ぜたり、フライパンで肉を炒めるアニメが流れだす。真ん中には後5分の表示。早いのか遅いのかわからないが、おとなしく陸奥の向かい側の席に着く。

 

「どう?MAMIYAーⅢ?」

 

陸奥が興味深そうに尋ねる。

 

「確かにスゴいですけれど…」

 

特に間宮がぬるぬる動いたりしゃべったりするのはスゴい。スゴいが本質からずれている気がする。

 

「あの声は実際に間宮さんがしゃべってそれを録音したものよ。セリフは150を越えるわ。後、超大盛りに出来るとかの隠しコマンドが30以上あるらしいわよ。それに季節によって間宮さんの衣装やセリフも変わるのよ」

 

やはり本質からずれている。確かにスゴいがおかしい。そんな大鳳の様子を感じとったのか陸奥が付け加える。

 

「味は保証するわ。見た目は気に入らないかもしれないけれど」

 

さらっと不安要素を増やされるが、陸奥は話を変える。

 

「もうそろそろ木曾達がここに来るわ。ほら、」

 

騒がしい声が遠くから近づいてきた。


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