自己紹介も終わり、さぁ施設旅行だと期待していたら、付き添いは自分がぶっとばした秘書艦、そして秘書艦と提督による謎の密談の開始。内容は大鳳に関することに違いない。
泣きっ面に蜂とはこのことか。
扉の傍の壁にもたれかかり虚ろに天井に視線を向けた。
「期待はずれだったってことよね……」
他に移されるのも時間の問題だろう。
まさに今提督と秘書艦がその話し合いをしているのかもしれない。
あの事がばれたら、その時間すら問題にならなくなるだろう。
そして、すぐにでもばれて欲しいという気持ちがないでもない。
着任とはこんなにも気が沈むものだったのか。大鳳は深く嘆息した。
そんな時だ。
「あー、疲れたー」
「そうね。早くろーずばすに入って、いろーしないと。おはだが荒れちゃうわ」
「お腹空いたー。はやくはやくたべたーい」
遠方からガヤガヤと声がした。大鳳がそちらに顔を向けると3隻の艦娘らしき少女がこちらへ、つまり執務室へと横に並んで歩いていた。右から見ていくと、右目に眼帯をした者、錨のマーク入りの紺の戦闘帽を被った者、何故かウサギの耳をつけている者、となかなか見た目が個性的な艦娘達だ。
彼女達もこちらに気づいたらしく、走り寄ってきた。
「誰だ、あいつは!」
「見たことない顔ね!」
「囲もう、囲もう!」
訂正、襲いかかってきた。
あっという間に3隻に囲まれてしまった。
「何の艦娘だ?軽巡か?駆逐艦か?水母か?それとも新種か?雷装値はいくらだ?」
「あなたのレディー力低そうね!わたしが鍛えてあげるわ!」
「ねぇねぇ、今どんな気持ち?」
「ちょっと待ってください!!」
大人ペンギンに囲まれた子ペンギンのような有り様だ。大鳳は開いた両手を前に押し出し、3隻の口が開くのを止める。
「いきなりたくさん聞かないでください!まず私は装甲空母です!したがって雷装値は0です!次にレディー力って何ですか!?搭載数と関連があるとか?最後に今の気持ちはもう嬉しいとか悲しいとかびっくりだとか色んな気持ちがごちゃごちゃになってて何とも言えません!!」
3隻の質問を一気に答え切った大鳳は肩をぜぇぜぇと上下させる。答えを受け取った3隻の反応は一様に引いていた。
「え、お前空母なのか?とてもそうだとは…」
じっくりと大鳳を観察しながら眼帯の少女は眼帯をしていない、翡翠色の左目を細める。
「これがノーキンというやつね…」
意味がわかっていないにも関わらず的確な表現をした戦闘帽の幼女。ロングストレートの黒髪からびよんと伸びる跳ね毛が心なしか垂れ下がる
「ヲ、おぅぅ……」
ただただ大鳳の迫力に圧倒されているウサギ耳の幼女。
そしてそんな3隻の反応を見てなんとも言えない気持ちになった装甲空母。
「「「「 」」」」
気まずい雰囲気が4隻の周りを立ち込める。
その時大鳳の背後からガチャッとドアが開く音がした。
振り向くとそこには秘書艦が。
ここの所属らしい眼帯の少女も気づき片手を挙げた。
「よぉ陸奥、帰ったぜ」
陸奥もそれに応えるように駆けよって、拳を振り上げ
「こんのバカ軽巡があぁぁぁぁ!!」
少女の脳天に鋭く振り落とした。
ゴンッ…!という音と共に少女の被っていた軍帽が落ちていく。
そして軍帽が落ちるよりも速く少女は床に崩れ落ち、痛みに悶えた。
「いってぇぇぇぇ!!!!っ何すんだ、いきなりっ!?」
「帰投報告をしない無能旗艦に然るべき罰を与えたのよ」
「はぁー!?したっての!」
「いつ?」
「『よぉ陸奥、帰ったぜ』」
「そんなのが報告にはいるもんですかー!!」
又、少女の頭に降り下ろされる鉄槌。
そんな2隻の様子をやれやれと呆れ気味にため息をつく幼女達。それでいいのか幼女達よ。
「じゃ、アタシ達は先に食堂に行くから。提督に報告し終わったらすぐに来るのよ」
まだ悶え続ける眼帯の少女。それを平然と見下ろしながら、淡々と予定を告げる秘書艦。はぁいと揃えて返事する幼女達。そして今までのやり取りについていけず混乱する装甲空母。実にケイオス。
「なにしてるの、大鳳?行くわよ」
ぼーッとしている大鳳に呼び掛ける秘書艦。大鳳には魔王の喚び声に聞こえた。鉄槌を問答無用で叩きつける冷徹秘書艦とふたりきりで行動するなど恐怖しかない。されど従わないわけにはいかない。廊下に置いておいた革張りの鞄を重そうに持ち上げた。
「はい、逝きましょうか」
廊下が三途の川の如くうねって見えた。
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