20畳ほどの執務室。南向きの大きな窓から春らしい朗らかな陽が射し込む。しかし黄緑のカーテンがそれを阻み、昼間にも関わらず部屋は薄暗い。
そんな室内に2人の男女の姿があった。
男は若く20代前半、170cm弱ほどでがっしりもしていないが程よく鍛えられた体型。黒髪のツーブロック。少し垂れぎみな二重瞼。よく見かける草食系男子の印象が強い。
女は若いが、男よりは年上のようだ。
情欲をそそらせる褐色気味な肌。上向きにツンと尖ったりんご大のバスト、なぞりたくなるような細く引き締まったウエスト、丸みを帯びた立体的なヒップ。男性だけでなく女性ですら欲情せざるえないような均整のとれたスタイルだ。
リボンが控えめなワインレッドのカチューシャはライトブラウンのボブカットによく映える。
そんな二人が速く浅い呼吸を繰り返しながら、向かい合っていた。
ダブルの黒スーツは着崩れ、男は目の前の心揺さぶるものに戸惑っているようだ。女の挙動を見つめるばかりで他に何もできずにいた。女はそんな男を可愛らしく思うのか薄く笑い、しなやかな指を伸ばす。艶っぽい唇を思わせぶりに開き目の前にそびえる黒茶色の棒に顔を寄せる。
「こんなに大きくしちゃったのね……。しょうがない人……」
ジュルリと舌なめずりすると、つんと弾く。それは少し揺れつつも再び天井を突き刺すように立ち直った。男は苦悶の表情を浮かべる。
「もう限界かしら?」
挑戦的な眼差しを男に向けつつ、白絹の手袋で包まれた人差し指と親指で愛おしそうにそれの中腹部をつまむ。
「ふふ、また出ちゃったわね」
悦楽の笑みを男に向け、焦げ茶色の塔の先端を指先でいじる。男は黙って女の行為を見守る。
まだ依然としてそれはゆらゆらと揺れつつも天井を指し、立ち続けた。
女は満足げに男に笑みを向ける。
「まだまだいけそうね。でも次はアナタの番」
塔から顔を遠ざけると、男の右手を取り自分の方へ近づけ、少し窪んだ場所をスッと撫でさせた。
「ほら、ここ…。こんなに緩くなっちゃったの」
女に誘われるがまま男は窪みに人差し指を差し込む。案外すんなりと入っていく指を男は震えながら穴を掘るように奥へ奥へと進ませた。
「ああっ……!いいわっ!上手よ」
響く女の嬌声。ふぅっと息をついた瞬間
「っっっ!!??」
男は違和感を覚え、指を止めた。
「……どうしたの?」
女は首を傾げ、訊ねる。だが、その顔には薄ら笑いが浮かぶ。
男は答えられない。ただ全身の感覚が指の先端に集約されたかのように、突然固くなった穴の固さを感じ取っていた。咄嗟に指を引き戻そうとするも、女に止められた。
「ダメよ、最後までしないと。ルール違反よ?」
挑戦的な眼差しに、くっと歯噛みして男は慎重に押し進めた。
そして実は要石の役割をしていた木片が積み木から抜け出し、自重に耐えきれなくなった塔が崩れ落ちた。
机上で無数の木片がカランと乾いた音を無数に鳴り響かせる。
「勝ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「ずるいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
部屋中に響き渡る歓声と悲鳴。
男女は木製のしっかりした造りの机を挟んで立っていた。机の上には消しゴムほどの大きさで、光沢あるシックな黒の木片が無数に散らばっている。
男は机を何度も叩き、抗議せんと喚く。
「ずるいずるいずるい!なし!今のはなし!」
「どこがどうずるいのよ?」
女が試すように首を傾げると男はうっ、言葉に詰まり視線を宙にさまよわせる。
「それはですね……。これを……」
「これって?」
「●ENGAをですね……」
「TEN●Aを?」
「JEN●Aを!……で、その子供向け玩具を貴女はヒワイに表現しながら遊ぶことで僕の邪魔をしたっ」
早口で言い終えた抗議は女にとって蛙の面に水。平然とした面で反論を繰り出す。
「フツーに遊んでただけよ。それを卑猥だなんて捉えるってことはアナタ、欲求不満なんじゃない?」
「う……」
「あらあら、本当にそうなの?おねえさんが解決してあげようかしら」
舌先をチロチロと揺らし上目使いで男を蠱惑的にからかう。
「ほんっ……!いや、からかうのはよしてください。さ、休憩も終わりです。そろそろ木曾達から定期連絡が来るはず」
一瞬食いつきかけたが、男はすぐに頬を赤らめると椅子を引き寄せ、きまり悪そうに腰を下ろした。そして机に散らばったJ●NGAを片し始めた。
「待ちなさい」
ぐらつく勢いで机に手をつき、男を突き刺すように睨む。驚いて男は手を止めた。
「負けた方が何でも言うことを聞くって最初に約束したわね」
「聞くだけですよー……とか言うわけないじゃないデスカー、ヤダナー」
のうのうと約束をなかったことにする試みは力強い眼光で呆気なく崩れ去った。そんな条件をつけてゲームしようなど何かあると勘繰り、乗らないことが最善手に違いなかった。だが、胸の深い谷間を見せつけられながら美女に誘われて、断る男などいない。
「はいはいわかりました。要求はなんですか?どうせバッグでしょ」
「そんなんじゃないわ。これよこれ」
谷間をチラ見しつつ嫌そうに溜め息をつく男に背を向け、女は自分の机に行き、並べたファイルから一枚の書類を抜き出し、男の目の前に突きつけた。男は頭をはたかれたような衝撃を受ける。
「あっ……」
それは会計報告書であった。女はある数字を指差す。
「金10億圓。巧妙にカムフラージュしてるけどアタシから見たら明らかに不自然な流出。この理由を教えなさい。包み隠さず」
「貴女の食費」
「OK。遺言はそれだけ?」
「やだなぁジョークですよ」
欧米系コメディアン風に大袈裟に肩を竦めた。
女は反応薄く、そぅ、とだけ言うと男が片付けそこねて床に落ちていたJEN●Aの木片を拾いあげる。そして彼女はクラッカーを割る気軽さで厚さ2cmのそれを指先で2つに分割した。机の上にコロンと転がす。
「次はアナタよ」
放たれた殺気で固まる男にふふっ
と柔らかな微笑を浮かべた。
「やあねぇジョークよ」
悲しいかな、目が笑っていなかった。
「はは面白い……はははは…………はぁ…………大鳳さんを此所に着任させるための交渉材料ですよ」
から笑いは続かず、観念してあっさりと白状した。
女は合点がいかないようで疑問符を頭に浮かべる。
「大鳳?……確か呉鎮守府稿知支部に着任予定じゃなかったかしら」
「3ヶ月前そこで対潜特別訓練をしたでしょう。その時に岐峯根提督と大鳳さんに関する交渉をしたんですよ」
岐峯根提督は稿知支部の提督である
「どういう内容で?」
「初期訓練費と艤装開発費その他雑費合わせて10億圓を肩代わりする条件で大鳳さんの着任をこちらにする」
女は意外だったのか目を丸くした。
「えらく安い条件ね」
「何故?」
「大鳳型航空母艦1番艦大鳳。元々性能に優れていた翔鶴型に飛行甲板の装甲などの改良を加えて開発された旧仁本海軍最高傑作空母。決して少なくない搭載数、高い防御力、機動力、対空力。そんな優秀な艦をたった10億圓で手放すかしら?」
「そこなんですよね」
男は受け答えしつつ木片を桐箱へ丁寧に収納していく。他人事のような態度だ。そんな態度と対照に女は語気を荒げて詰め寄る。
「ちょっと!じゃあ大鳳に何か問題があるかもしれないのに払ったというの!?」
「そうなります」
悲壮感にかられ女の呼吸が浅くなる。悲鳴のような声で男に異議を唱えた。
「信じられない。たった10億とは言ったけれどそれは大鳳が「大鳳」であった時よ。うちの少ない予算では大出費。しかも、もし違っていても「大鳳」じゃないと証明するのには時間がかかる。あの規則、知らないわけじゃないわよね。アナタ、クビになりたいの!?」
「僕の進退を気にしてくれるとはお優しい」
「……ッ!もういいわよっ!」
茶化す態度をとる男に舌打ちし、女は部屋から出ていこうと扉に歩調速く歩み寄った。
ドアレバーに手をかけた瞬間、コンコンと
木製の扉から乾いた音が鳴った。
もちろん女が叩いて出した音ではない。
「!?」
この建物にいる人間はこの執務室内にいる者のみ。そう女は認識していた。だがノックが鳴った。彼女は恐怖と驚愕で身を強ばらせる。
「どなっぶっ!」
そして、女が「どなた」と訊き終わる前に扉は勢いよく開き、運悪く扉の真ん前にいた女は撥ね飛ばされた。おかしな断末魔をあげ、だらしなく大の字に倒れる。
一部始終を見ていた男は口をあんぐりと開けていた。まるでベタベタのコメディのような出来事。だが笑ってなどいられない。
扉を開けた真犯人の姿が男の視界に入った。
やや茶色がかった黒髪のショートボブに羽状のアンテナの付いたヘッドギア。キリッと整った眉の下には茶色の瞳が爛々と輝いている。白の長袖(何故か脇が開いている)に剣道の胴のようなプロテクター。かなり短い朱のミニスカートからは黒のスパッツが覗く。
可愛いさ7割綺麗さ2割精悍さ1割の見た目の少女だった。見た目年齢は高3か大学1、2回生と言った感じか。
その少女は撥ね飛ばしたことに気づかず、就活生よろしく大きく元気な声で自己紹介を始めてしまった。
「お初にお目にかかります!大鳳型装甲空母一番艦大鳳です!!提督、貴方の艦隊に勝利を!」
久々の更新となってしまいました。
しかも焼き直しに近いので実質新作ではありません。
このまま修正していくか、新作を書くか悩みどころです。