リネアが出ない!!!
「ロタリンギアの技術によって造られし聖戦装備”
その掛け声と共に金髪大男の攻撃速度は加速した。
法衣の内に着込んだ光り輝く鎧が大男の身体能力を上げているのだ。
対峙していた古城は急な黄金の光で視界を奪われながらも大男が振るう半月斧をギリギリで回避する。
次の攻撃も、そして次の攻撃も。
人間の域を超えた連撃を古城はなりふり構わず避けていく。
しかし、古城は世界最強の吸血鬼であっても戦闘はからっきしの素人である。
攻撃を一つ躱すごとに古城から元より少ない余裕が失われていってしまう。
「先輩!!」
その姿に別の敵と戦っている雪菜は助太刀しようと動く。
「では」
しかし、雪菜が相手をしている敵はそう簡単に勝てる相手ではなかった。
白く巨大な首のない人型の眷獣は機械のような口調で雪菜の前に立ちふさがる。
眷獣の中には藍色の髪の毛を持った美しい少女がいる。
中学三年生の雪菜より幼い容姿の彼女は無表情で雪菜に攻撃を仕掛けた。
少女が操る白い巨人の眷獣は雪菜に向けて拳を降り落とそうとする。
その予備動作を見て雪菜は拳に向けて手にしている槍の先端を振りかざした。
「はぁ!!」
圧倒的体格差を物ともせずに雪菜は眷獣の拳をいなす。
しかし、眷獣の攻撃に雪菜の細い腕はビリビリと震える。
技術はあっても力が足りないのだ。
雪菜は顔をしかめながら後方へ跳んで距離を取った。
雪菜の目には苦しそうに攻撃を避けながらも僅かながら反撃する古城が写っている。
「こんなものですか!?第四真祖と剣巫よ!!この程度の力で私の聖戦を邪魔しようと言うのなら片腹痛い!!」
「黙れ強化鎧のドーピング野郎!!こんなの聖戦じゃなくてテロだろうが!!ちゃんと正規の手順を踏めって言ってんだろ!!!」
古城と雪菜は先日、偶然遭遇した魔族狩りの犯人の目的を阻止するためにここにいる。
ここは絃神島の中心に位置するキーストーンゲート最下層。
絃神島にかかる全ての衝撃、軋み、揺れを吸収する要石がある場所だ。
しかし、その要石は国が西欧教会から簒奪した神の依代となる聖人の遺体を封じた石だった。
様々な奇跡を起こすと言われる聖人の遺体を人柱のように勝手に使われた西欧教会ロタリンギアの殲教師は当然怒った。
その怒りが今回の事件を起こしてしまったのである。
殲教師の名はルードルフ・オイスタッハ。
彼は自らが信仰する西欧教会ロタリンギアの誇りのために人柱とされてしまった聖人の遺体を取り返しに来たのだ。
「あの聖人の遺体は元より我らの物!!正規の手順など必要なし!!」
オイスタッハは部屋の中心に祀られているように設置された要石を指す。
逆ピラミットの形をした金属製の土台に聖人の遺体が封じられた石は突き刺さっている。
「せい!!」
「がはぁっ!!」
怒りに任せたオイスタッハの半月斧を振り下ろす攻撃に古城は吹き飛んで壁に背中から激突する。
背中からの強烈な衝撃に呼吸が止まって古城は膝をついてしまう。
「仕方ありません………先輩!!眷獣を使ってください!!」
雪菜はたまらず叫んだ。
劣勢の状況を一気に逆転できる可能性がある切り札。
世界最強の吸血鬼が操る最凶の眷獣が相手ともなると場の状況は変わるかもしれない。
これまで魔族を相手にしたり特区警備隊と武装ロボを難なく倒してきた流石のオイスタッハも懸念の表情を見せる。
しかし、この手には二つ不安要素があった。
「いや!この場所で俺の眷獣を使ったら要石にも影響があるかもしれねぇ!!」
「そうですけどこの最仕方ありません!!聖人の遺体の奇跡と先輩の操作能力を信じます!!」
雪菜はほとんど博打な手を打とうとしていた。
しかし、このまま戦いが長引けば負けるのは確実に古城と雪菜である。
危険であっても戦況を変えたいのだ。
「けど………」
古城は雪菜が相手をしている白い巨人の眷獣を操る少女を見た。
少女はやはり無表情で雪菜が次にどう動くかを観察している。
古城と雪菜の会話は一切耳に届いていない様子だ。
「そうですよ第四真祖!あのアスタルテには眷獣の他あらゆる魔術の類を無効化します!!そこの剣巫の槍と同様に」
オイスタッハは懸念の表情を戻し、勝ち誇った表情で古城に言った。
雪菜の槍、見た目は洗礼された近代兵器。
主刃の左右に副刃が広がる槍の名は
この槍には特殊な能力がある。
それは
神の力である神気を発生させる雪霞狼はあらゆる魔術を無効化する獅子王機関の秘奥兵器でもある。
しかし、アスタルテと呼ばれた少女の眷獣はこの術式を盗んだのだ。
元よりこの術式に近い術式をアスタルテの眷獣には含まれていた。
それが先日、島の東地区で一回槍と拳を交えただけで解析され力にされてしまった。
いくら世界最強の眷獣でも神気で無効化されてしまうのだ。
「私の雪霞狼と同時に行きます!!」
「………ああ、わかった!!」
古城の全身から雷が迸り古城の右腕は鮮血を吹く。
雪菜の意志を汲み取り古城は使役する眷獣を呼び出そうと魔力を高めた。
しかし、その時にだけ一瞬の隙が生まれてしまう。
「させると思っているのですか?」
「クッ!!」
古城は頬を歪めて向かってくるオイスタッハを睨んだ。
オイスタッハのスピードは鎧により強化されている。
古城は”一撃ぐらいなら受けてやる”と固く心に決めて眷獣の召喚をしようとする。
世界最強の吸血鬼の古城は、実を言うと眷獣を召喚するのは今回が初めてなのだ。
古城が
眷獣だって全十二体の内一体を雪菜の血で目覚めさせたばかり。
そのため、眷獣の召喚に慣れてない古城は召喚に時間がかかってしまう。
「一撃で首を跳ねてあげましょう!!」
ドガァーン!!!
「間に合ったぁ!!」
しかし、オイスタッハの動きは爆音と共にブレーキを踏む。
狭いキーストーンゲート最深部。
逆三角形の形をしたこの部屋の壁を破壊して二人の乱入者が現れたのだ。
急な襲撃にオイスタッハを始めとする無表情だったアスタルテまでもが目を見開く。
乱入者は僅かに癖のついた男にしたら長めの髪とその髪から飛び出る黒い二本のツノを持つ一体の鬼と。
「ほう、ここが最深部か」
最高位の魔法使い、空隙の魔女だった。
「間に合ったぁ!!」
「ほう、ここが最深部か」
夜如は最後の扉を蹴破った。
鬼の力で蹴り飛ばされた分厚い機密隔壁は大きく凹んで逆方向の壁まで吹き飛んでいる。
扉を破壊したというより扉が取り付けられていた周りの壁を破壊したようだった。
七層にも及ぶ厳重な結界を施されていた機密隔壁の扉を力で強引に凹ませ、結界を破壊できなくても周りの壁を破壊する。
まさに力技。
最深部の部屋で戦っていた古城達四人は一瞬相手のことを忘れてその爆発音にも似た音の方へと視線が向いてしまう。
この場で夜如の力技に驚いていないのは行動を共にしている那月だけである。
「加勢に来ましたよ!」
全身から赤い鬼気を滲ませて夜如は笑う。
その笑みに反応したのは何と夜如の敵であるオイスタッハだった。
オイスタッハは一早く自らの劣勢に気づいて走り出したのだ。
近接戦闘が一番不得手な古城を先に戦闘不能にして二対三に持ち込めばアスタルテの力で残りを倒せるとの考えだった。
実際、オイスタッハから目を離してしまっていた古城を倒すのはオイスタッハにとって簡単なことである。
不老不死の吸血鬼を殺すことはできなくてもしばらくは動きを止めることはでき、第四真祖の眷獣の脅威が無くなるのはオイスタッハにとって都合が良かった。
「せぁ!!」
「何!?」
しかし、夜如がそれを見過ごすわけがなかった。
オイスタッハが古城の首を狙い振るった半月斧を夜如は右拳で弾き飛ばす。
呪力の力で身体能力を上げる鎧を装着していても鬼の身体能力には敵わないのだ。
先ほどまで数メートルも離れていた夜如が突然目の前に現れたことに驚いたオイスタッハは半月斧を弾かれて体勢を崩してしまう。
その崩れた体勢のオイスタッハの腹に夜如は右膝を叩き込む。
夜如の膝には鎧が砕ける感覚が響いた。
「ごふぁあ!!」
オイスタッハは一直線に吹き飛んでいく。
激突したのは奇しくも聖人の遺体が祀られた逆三角形型の祭壇だった。
黄金に輝いていた鎧は光を失い砕け散る。
それでも、オイスタッハの瞳からは光が失われていない。
「諦めませんよ………!!アス、タルテ!!敵を………無視して、聖人の遺体を奪取しなさい!!」
「
「しまった!!」
命令を聞いたアスタルテは雪菜を無視して聖人の遺体に走った。
魔力を無効化するアスタルテの眷獣は聖人の遺体に掛かっている強力な結界をも破壊する。
しかし、止めようにも眷獣には物理攻撃は効かず倒すためには更に強い魔力をぶつける他ない。
魔力で倒す眷獣に魔力が通じないのだ。
足止めしていた同じ能力の槍を持つ雪菜が抜かれて古城と雪菜は焦る。
「やれやれ、馬鹿のお守りは疲れる」
しかし、オイスタッハの誤算は夜如だけではない。
ここには最高位の魔女がいるのだ。
黙って見ていた那月が振りかざした手をアスタルテに向けた。
すると、アスタルテの周りの空間が歪んで突如アスタルテは元いた場所に戻る。
アスタルテは自分が何をされたのかわからないようで動きを止めた。
古城も雪菜もオイスタッハも、魔力を無効化するアスタルテに何が起きたかわからなかった。
「おい、そこの二人。さっさと片付けろ」
那月は驚く三人の心境構わずめんどくさそうに言った。
那月は空間制御を得意とする魔女。
いかに魔力を無効化する眷獣が相手だとしても眷獣に触れてさえいなければ意味はない。
空隙の魔女はアスタルテとアスタルテが纏う眷獣の周りの空間を移動させたのだ。
「流石だぜ那月ちゃん!!」
「馬鹿者、教師をちゃん付けで呼ぶな。………早く眷獣の操作ぐらい覚えろ」
古城は頭を掻いて申し訳なさそうにする。
そして、雪菜と並んだ。
「獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る!!破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威をもちて我に悪神百鬼を討たせ給え!!」
雪菜は祝詞を唱えて雪霞槍に呪力の強大な波動、人工的な神の力を宿す。
その力を鋭く、可能な限り鋭く研ぎ澄ます。
「
隣では古城の右腕が鮮血を吹き出している。
魔力が高まり古城の瞳は元の青ではなく吸血鬼本来の色の赤に染まってもいる。
「ハァァ!!」
古城の召喚の用意が整うと雪菜がアスタルテに向かって飛んだ。
アスタルテは自分の眷獣と同じ力である雪霞槍はダメージにはならないと防御の姿勢を取らないで飛んでくる雪菜に攻撃を当てることを考えた。
しかし、アスタルテの眷獣と違って今雪菜が振り下ろす雪霞槍の力は鋭く研ぎ澄まされている。
アスタルテは驚いて目を見開く。
ザン!!
「今です!先輩!!」
雪霞槍がアスタルテの眷獣に亀裂を生じさせていたのだ。
雪菜は深く眷獣に突き刺さった雪霞槍を離すと後退する。
「
その眷獣は夜如が真っ正面から受けた眷獣だった。
自分に向けられていないとわかっていても夜如の中には苦手意識が残っており、顔が引き攣る。
「あれは痛いですよ………」
雷を帯びた黄金の眷獣は狭い最深部の部屋を雷速で駆け回り、避雷針のような役割を果たす雪霞槍へと落下した。
部屋は光に包まれて、夜如が起こした破壊音よりも遥かに大きい爆発音を響かせた。
次回でこの章は終わりですね。
あぁ、早く本編に入りたいです!!
では、評価と感想お願いします!!