ストライク・ザ・ブラッド〜鬼の目にも涙〜   作:*天邪鬼*

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SAOのユウキのフィギュアをクレーンゲームで取った!!
いやー、良い出来ですね!
最高です!!



8話 突破

 

キーストーンゲートの正門にはパッキングテープが引かれており、中に入れないよう特区警備隊が規制線を張っていた。

サイレンの音などは鳴らさず、近隣の住民には防災訓練と評して然りげ無く安全確保をしていたりと大事に見せないよう努めている。

キーストーンゲートという絃神島の心臓部が襲撃されてしまったことを隠しているのだ。

現に夜如がパッキングテープの外から見ているキーストーンゲートは魔術による幻術である。

Keep Outの黄色いパッキングテープが現実と幻術の境界線となっている。

転移前の遠くから一部しか見えない状況だとわからなかったが、目の前で見れば最上位の魔女である那月に鍛えられている上に鬼である夜如にはこの程度の幻術など偽物だと判断つく。

一般市民には要人警護のような雰囲気にしか見えていないだろう。

 

「ひどいですね」

 

「そうだな」

 

夜如と那月が見ている光景は一般人とは違うものだった。

防音の結界の影響で音までは届いていないが、パッキングテープの中は悲惨な状況だ。

顔全体を黒のヘルメットで覆った黒ずくめのライダーのような武装をした特区警備隊が数十人も血を流しているのだ。

救護班が走り回って応急処置をしているが明らかに人数が足りていない。

 

「外でこれなら中も?」

 

「だろうな。キーストーンゲートの中には襲撃者に反応する武装ロボが設置されている筈だが………ふん、意味がないようだ」

 

那月が目を向けた先には鉄屑と化した太い楕円状のロボットが転がっていた。

真上から切り裂かれたような跡や強引に潰されたような跡が残っている。

負傷した特区警備隊の半分ほどの数が見る限り一撃で最新鋭機器からスクラップになっていた。

一機だけでも十分優秀なロボットの筈なのにこれだけ破壊されているのを見れば、いやでも敵の強さがわかってしまう。

ましてや一度、一瞬戦ったことのある夜如だと敵の予想以上の強さに気が引ける。

”自分はこんなのと戦おうとしていたのか”っと。

 

「行くぞ!」

 

「はい!」

 

しかし、今はそれどころではない。

夜如と那月は駆け出した。

那月の影響で顔パスで通ることができるパッキングテープを飛び越えてるとそこは戦場。

パッキングテープで区切られていた現実と幻術の境がなくなって色々な情報が夜如のツノに伝わってくる。

大穴の開いた正面玄関から聞こえる爆発音、爆発の余韻である熱と煙の匂い、そして血の香り。

 

「閉じ込められた非戦闘員を見つけろ。私の転移で外に連れ出す。もし、犯人と思しき人物と出会っても勝とうとするな。足止めだけでいいから被害を最小限に努めろ」

 

「でも、犯人の二人は?………というか犯人の動機ってなんなんですかね?」

 

「動機なんて知らん。後で吐かせればいいことだ。それに___」

 

 

 

 

 

「あの()鹿()()()()()が何とかする」

 

那月は夜如が寝ている昼の間にあった二人、第四真祖(馬鹿)剣巫(転校生)を信じた。

 

(この事件について嗅ぎ回っているようだったしな。獅子王機関の剣巫が行動しているということは国際犯罪級の事件か………)

 

「………」

 

夜如にとってそのことが若干不服だった。

 

「………何だ?」

 

「い、いえ別に!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

「あぁ、なんとか………」

 

キーストーンゲートの中は外より酷い有様だった。

強力な結界で守られていた分厚い気密隔壁が強引に抉じ開けられて現代アートのようになっていたり、至る所で天井の崩落が起きていた。

ロボットや精密機器の爆発により所々で火災まで発生している。

それが地下へと続いていた。

夜如は那月と手分けして目につく負傷者を迅速に救出していく。

天井の崩落で道が塞がっていれば崩れないように気を張りながら除石して、火災があれば拳の風圧で吹き飛ばす。

 

「犯人は………人型の眷獣………と金髪の男………」

 

「喋らないでください!煙を吸います!」

 

夜如は負傷した特区警備隊を担いで安全地帯へと運んでいく。

犯人の二人が地下へと向かっているのなら火災源は地下で今も発生し続けている。

そうなると上へと登っていく煙は上の階で負傷して倒れている者たちに悪い影響を及ぼしてしまう。

夜如は那月にそんなことを言われていた。

夜如も犯人を追いたいのだが、地下へ進むたびに負傷者がいるので中々犯人の二人に追いつかないのだ。

 

「いっそ殴って地下まで一気に潜ろうかな?」

 

「そんなことをすればお前は軍事機密を犯したことになるぞ」

 

「軍事機密!?」

 

那月と合流して負傷者を預けると那月が忌々しそうに言った。

 

「そうだ。危機的状況下でも犯してはならない法というものがある。今回の犯人もその軍事機密にある何かを狙った犯行なんだろうな」

 

「那月さんはこの下に何があるか知ってるんですか!?」

 

「知るかそんなもの。キーストーンゲートの最下層にはこの島の衝撃、揺れ、軋みを総受けする硬いだけの石があるだけだ。………ただ、それが嘘だってことはわかってるがな」

 

夜如は”なぜ嘘がわかるのだろうか”と首をかしげた。

それを見た那月は仕方がなさそうに溜め息を吐いて説明する。

 

「いいか、絃神島は設計されてから二十年も経っていない人工島。単純な話、当時の技術で人工島一つ分の衝撃を支える半永久的な物質は作れないということだ。魔術的にも科学的にもな」

 

「じゃぁ、今自分たちが立っているこの島の衝撃を吸収しているのって………」

 

「禁じ手だろうな。………さて、襲撃されたことで敵の正体が分かり始めてきたぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「禁じ手か」

 

那月と再度別れて負傷者集めを再開した夜如は那月の言った禁じ手について考えていた。

魔術での強化でも科学的な物質でもない絃神島を支えているもの。

十六歳の夜如には点で検討もつかない代物だ。

まず、ここまで推測できたのは那月が卓越した魔術のエキスパートで魔女だからである。

魔術の基礎も知らない夜如には答えがわかるはずもなかった。

 

「っとここは一段と崩落が激しいな」

 

目の前には天井が抜け落ちたようで上層の鉄やら大きな機械が山を作っていた。

ツノで気配を感じるに奥には数人いるようだった。

夜如は丁寧に上から鉄屑を退かしていった。

このような作業は運送のアルバイトで鍛えられているため手を止めることなく進めることができる。

夜如も普段のアルバイトがこのような形で役に立つとは思いもしなかった。

 

「ほい、開通!!」

 

上層から降ってきたものを全て撤去し夜如は奥の部屋に足を踏み入れた。

そこは空港の管制塔のように円を書いたような形をしていた。

壁際にはモニターなどが壁に埋まっていて本当に何かを管制する部屋だったのかもしれない。

夜如はすぐに負傷者の元に急いだ。

 

「夜如くん!?」

 

「はい?」

 

そんな時、管制室の一角からの声に夜如は反応した。

友達の声に似ていたからだ。

 

「………藍羽さん!!怪我は大丈夫ですか!?」

 

実際、声の主は夜如の友人だった。

藍羽(あいば)浅葱(あさぎ)という彩海学園高等部一年B組の生徒だ。

古城と同じクラスで当人が大食いということもありたまにご飯を奢ってもらうなど夜如とはかなり仲のいい友人である。

そして、彼女は誰にも負けない特技でキーストーンゲートでアルバイトをしていたのだ。

 

「ええ、大丈夫よ。まさかバイト中に襲撃に遭うなんて思わなかったわ。奥のPCルームにいて助かったわよ」

 

クリーム色に染めている長髪や校則ギリギリに着飾った制服は炎の煤で汚れてはいるものの目立った怪我はなかった。

夜如は友人の無事にほっと胸を撫で下ろす。

浅葱は天才的なハッカーだ。

コンピューターに精通していてこの絃神島に広がるネットワークは一般市民や業者の物を除くと全て浅葱が管理していると言っていい。

絃神島の中を通るモノレールや信号機も浅葱が作り出したプログラムで動いている。

武装ロボットの動作プログラムもそうだ。

他にも数々の重要な部分のプログラムを携わっており、浅葱がいなければ絃神島は回らないかもしれない。

 

「そうだ!夜如くんがいるなら那月ちゃんもいるわよね!?伝えないといけないことがあるの!!」

 

「えっと、それは?」

 

 

 

「このままじゃ絃神島は崩壊するわ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、供犠建材か。神に仕えた聖人の遺体を要石(キーストーン)にしたようだな。こんな邪法で島が成り立っている事実など隠したがるに決まっている」

 

「陰から見てたけど、あの二人組みこれを取り返しに来たんだわ」

 

「のようだな。一連の魔族狩りもこの要石に掛かる強力な結界を破るために魔力を集めていたということか?」

 

「これ国際犯罪ですよね?」

 

「当たり前だ」

 

目の前で行われている会話に夜如はついていくことができないでいた。

供犠健在も聖人の遺体も意味がわからない。

夜如は意を決して那月に尋ねた。

 

「あの、供犠建材って?」

 

「お前はバイトしてないで少しは勉強をしろ。………供犠建材はいわゆる人柱のことだ。それを神の依代である聖人の遺体で行なったということで奴らはそれを取り返そうとしているらしい」

 

「聖人の遺体がそんなに凄い強度なんですか?」

 

「いや、強度自体は人と同じだ。聖人の遺体は神の依代故に強い聖性を宿す。その遺体は決して腐らず、様々な奇跡を起こすと言われている。絃神島は聖人の奇跡で繁栄してるということだ」

 

夜如はなるほどと手を打った。

那月は深い溜め息で落胆する。

これを機に夜如を本気で彩海学園に入学させようか悩んだ瞬間だ。

 

「ロタリンギア、西欧教会ね」

 

浅葱は手に持っていたノートパソコンを見て痛々しく呟く。

画面にはミイラのような細い腕が青白い結晶の中に浮かんでいる。

これこそが聖人の遺体。

その聖人が所属していたのが西欧教会。

浅葱は軍事機密のプロクテクターを破壊したことよりもこの邪法で島が浮かんでいることに傷ついていた。

 

「今では国際条例で禁止されているんですよね?方法は兎も角動機は間違いじゃない気がする」

 

夜如に西欧教会のことはわからない。

どれだけの力と信仰性があったのかも不明だ。

しかし、これだけのことをして、絃神島を沈める覚悟までして取り返しに来ている状況を見れば相当のものだと感じることはできる。

 

「まぁ、当時はマナー違反だったとしてもルール違反ではなかった。そして、現在奴らがやっている行動はルール違反だ。許すわけにはいかない」

 

「ですね」

 

「ということで、夜如」

 

那月は下を指差した。

 

「軍事機密の件は全部藍羽浅葱のせいにすることができる。軍事機密が漏れて偶然敵の目的が分かったので早急に対処することになりましたってことでいい」

 

「え!?せ、先生?」

 

「行ったことのない場所への転移もしくは認識できない場所への転移はできないからな」

 

軍事機密の件を全て浅葱に押し付けると名言した那月は不敵に笑う。

無期懲役ものの責任を押し付けられた浅葱は頬を引き攣らせている。

 

「全力で大穴を開けろ」

 

 

「はい!!!」

 

 

那月の命令と共に夜如はツノで下の階に誰もいないのを確認すると右拳に鬼気を宿した。

そして、全力で拳を振り下ろす。

 

「せいゃ!!」

 

鋭く、全てを破壊するような暴力ではなく力の集約された正拳。

夜如の拳は半径一メートルほどの綺麗な穴を作り出した。

 

「藍羽浅葱、お前は危険だから先に避難していろ」

 

「いや、流石に行く気にはなりませんよ!」

 

絃神島に昔からいる浅葱でもキーストーンゲートを地下四十階まで直下掘りする気にはなれない。

あまりに強引な手段に浅葱は改めて那月の性格の大胆さとそれを迷いなく実行する夜如に一種の恐怖を覚えるまである。

 

「よし、行くぞ。軍事機密とやらで事件解決の足を引っ張った人工島管理公社の連中への腹いせにはなるだろう」

 

「では、安全確認しながら最下層までガンガン殴っていきます!」

 

「ああ、でも鬼気はコントロールできる範囲で使え。暴走されたら余計面倒なことになるからな」

 

夜如は再度鬼気を拳に宿して自分で作った穴に飛び込んだ。

 

「おいしょっと!」

 

また、キーストーンゲートの階層が一つ繋がった。

 

 




次回あたりで聖者の右腕編は終了ですかね?
まだまだ先は長いです………

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