「まったく………無様だな。この餓鬼」
「………そんなこと言われましても」
神々が鍛えた古代文明の遺産”
本来の使用方法は敵を拘束するためのものだ。
早朝、夜如はその
縛られ、ひっくり返され、吊るされて、今那月が
対して術者の那月は展望デッキに悠然と座って片頬を突きながら溜め息を漏らしている。
「つまり、私に負傷した
「うぐ………」
棘のある那月の言葉に夜如は返す言葉もなく押し黙る。
決して、夜如は那月の言ったように海水浴などで遊んでいたわけではない。
殴り飛ばされた夜如は必死に絃神島へと戻ろうとしていたのだ。
しかし、鬼には体の濃密な筋肉で水に沈みやすいという弱点がある。
十六歳の平均身長とさほど変わらない夜如の体もやはり水の中では動きにくく、端から見たら溺れているようにしか見えていなかった。
吸血鬼と獣人を病院に送ってから公園に戻った那月には敵を捕らえ損ねた上に側近のような形の夜如が海でバシャバシャ不覚を取っていたりと不満なことばかりなのである。
「私に救護などさせずに任せていればいいものを調子に乗りおって。敵の素性ぐらいはわかったのだろうな?」
「素性までは………あ、でも藍色の髪をした
「十点だ」
「えっと………黒の法衣を着て片眼鏡をした金髪大男!聖教者のような口調!年齢四十代前後!藍色の髪の吸血鬼はケープコートだけ!人工的な口調!見た目十歳前半!眷獣の名前は油断していたので聞き取れませんでした………」
鋭い眼光に気圧された夜如は昨夜出会った二人組の特徴を舌が回る限界で捲し立てた。
動機や素性は不明でも見た目が判明すれば防犯カメラなどで探すなりと手段は広がる。
那月は今後の対応を考えて、つまらなそうに言った。
「五十点。不合格だな。私の側を歩くなら油断せず捕まえろ」
「肝に命じておきま___す〜〜〜〜!!!???」
夜如が落ち込むと、
遊園地のアトラクションのように高速回転をし続け、夜如に罰を与える。
展望デッキではいじめっ子の表情で那月が黒い扇子で円を描いていた。
「ほら、バイト先まで送ってやろう」
憂さ晴らしに
「ちょっと!!」
那月は思ったより飛んだなと感心しながら飛んでいく夜如に軽く手を上げる。
鬼の身体能力なら着地に支障は無いはず。
溜まった不満もある程度は解消されて那月は公園を見渡した。
一部の警備員はこの場に残っている魔力がないかを探知しているが、那月の見た限りこの場に魔力は残っていない。
「はぁ、夜如は運が良いらしい」
夜如の話や樹木の折れ方を見ても鬼の体を相当遠くへ飛ばされたのはわかる。
しかし、金槌の夜如がどうやってこの付近まで戻ってこれたのかがわからない。
潮の流れで運良く戻ってこれたと説明できなくも無いが、都合よく戻ってこれる可能性は低い。
那月は夜如に手を貸したものがいると考えていた。
「もしくは………」
ほんのわずかな夜如への懸念が那月の頭を掠めるのだった。
その日は異常な程に多忙だった。
朝から荷物を運送するために車で絃神島中を駆け回り、昼には引越しの荷物をお届けすると小型のトラックを初めて運転した。
近々法改正で普通免許で運転できる車の大きさや詰め込める量が変わるので、このまま無視して運転させられるんじゃ無いかと夜如は不安に思っていたりもしてる。
そんな不安を抱えたまま引越し荷物を届けに行った住所が獅子王機関から派遣された剣巫である雪菜のマンション、それも世界最強の吸血鬼である古城の部屋の隣。
夜如が雪菜を仕事熱心な人だと思いつつ古城の毒牙にやられてしまったかと暖かな瞳を向けてしったのは仕方ないだろう。
逆に雪菜は夜如に”人を食べちゃいけませんよ”と忠告をした。
夜如は”大丈夫”と笑った後に”最近の人は健康的じゃ無いから美味しそうじゃないですからね”と答えて雪菜の警戒レベルを無意識にあげていたのには気づいていない。
「よいしょっと」
夜如は大手食品会社の食料保管庫に今日最後の運送品を運び終えた。
夜も遅くなり今日は那月の
鬼気で体を守っていたとはいえ眷獣の攻撃に直撃してしまったのだ。
特に体へのダメージはないが、眷獣とは様々な種類があり中には毒を操る眷獣も存在する。
万が一を考えて戦闘は避けたほうがいいと那月の稼業ではなくアルバイトを遅くまで入れられることにしたのだ。
「これで最後です。次は明日になりますんで宜しくお願いします」
「ああ、宜しく頼むよ。判子が欲しいから事務室まで来てくれ」
大工が似合いそうな繋ぎを着ている男の後に夜如が着いていく。
東地区は倉庫街など企業の備蓄場が多く存在している。
他にもゴミ処理場など絃神島になくてはならない心臓部のような地区だ。
その地区に夜如は昨日の魔力をその黒い二本のツノで感じ取る。
「ッ!?………すみません!!」
「な、何をするんだ!?」
夜如は直接の被害が現れる前に前を歩く繋ぎの男を担いで倉庫街の事務所に全速力で駆け込んだ。
見ると中にはまだ事務処理をしている男女が数人いた。
人口は少なく普段はあまり使われないような東地区にも企業の役人は常に配備されているのだ。
大事な倉庫を無人にすることはない企業の考えはわかるが、今は危険だと夜如はツノで確信している。
夜如は歯を食いしばった。
そしてついに。
『ギャァァァァァ!!!』
「逃げてください!!眷獣です!!!」
人間にも確認できるほど強い魔力の波動が夜如達を襲う。
同時に爆音も。
夜如は昨日確認した眷獣とは別の巨大な魔力を感じ取っていたのだ。
恐らく眷獣だろうと夜如は予測していた。
人々はパニックになりかけながらも、魔族特区住人さを見せて迅速に避難を開始する。
しかし、逃げている間も魔力の波動は絶えず発生していた。
幸いなのは昨日確認した眷獣と今初めて確認した眷獣が争っていることだ。
倉庫が邪魔で夜如達には見えないが、攻撃の方向がこちらではないのは夜如にはありがたかった。
人命が最優先。
絶滅危惧種保護団体への資金援助を毎月している夜如は命を人一倍重く感じている。
夜如はこのまま避難が完了するまで敵の目標がこちらに向かわないよう祈った。
「はぁあ」
鬼気を全身から放出し赤い衣のように纏う。
軽く癖のついた長めの髪がゆらゆらと風の有無なしに揺れている。
夜如は立ち止まり逃げ遅れた人の確認をした。
目を瞑って自慢のツノから流れてくる情報に集中する。
五感だけじゃ感知できない場所なども頭の中でイメージできた。
普段でさえ魔女にも勝る気配と魔力の察知能力を持つ鬼は鬼気を放出した状態だとその能力は倍以上になり、一定範囲なら手に取るようにものを認識することができるのだ。
「ここの周囲にはいないか」
夜如は安心して目を開き、遠くの戦闘が行われているであろう場所を見る。
真夜中にも関わらず夜如が見る地帯だけは赤く光っており、時折地面から火の玉が放出されている。
少しだけだが鳥の形をした眷獣も見えている。
「魔族狩りか!!」
夜如は遅れて自体を飲み込んだ。
昨夜出会った二人組みが魔族を現在進行形で狩っているのだ。
しかし、後ろにはまだ逃げている人が見える。
夜如は戦闘が終わった瞬間に現場に乱入して例の二人組を拘束することにした。
前のように油断することなく最初に相手をする敵を間違わない。
「ん?」
すると、鳥の形をしていた眷獣の気配が消えていった。
まるでガスバーナーの火を弱めるように力がだんだんと消えていったのだ。
ここにきて謎の現象。
しかし、片方の眷獣が消えた今どんな状況だろうと敵は油断している可能性が高い。
昨夜に被害にあった二人組みの魔族は衰弱していても生きていたことから殺しが目的ではない。
故に今被害にあっているであろう魔族も生きている可能性がある。
その被害者の救出も考えなくてはならない。
「鬼瓦!」
夜如は後ろの遠くで背中を見せている人達の背中に小さな鬼瓦を投げつけた。
鬼瓦は物質の耐久と硬度を増加させるお守り。
気休めだがあって損するものではない上、落石ぐらいからは守ってくれるだろう。
夜如は彼ら彼女らの無事を願い、投げつけた勢いで転んでいた繋ぎの男に謝った。
「よし!!」
夜如は地面を蹴った。
人間の目には残像が残るだけの超加速、魔族の中でも高い身体能力を持つ獣人でさえ捉えるのは至難の技であるスピード。
しかし、魔族一かもしれない身体能力を持つ鬼は初めたばかりの加速をやめて地面に這いつくばってしまった。
理由は戦場にいた友人二人。
「なんでいるの!!!」
瞬間、辺りは光に包まれる。
いくら鬼の身体能力が魔族一だったとしても自然には敵わない。
夜如はツノでギリギリ察知していたのだ。
少し近づいたことではっきりと確認した最悪の眷獣を操る最強の存在を。
「羅生門!!!」
それはとっさに作ろうとした即席で不完全の夜如最強の防御技。
その防御壁は簡単に打ち砕かれてしまい。
多少弱まったとしても余波は確実に命を奪える威力。
「暁さんの馬鹿〜!!!!」
全てを破壊する雷撃の矢が夜如を襲うことになった。
伏線を頑張ってます!!
あ、でもあまり伏線伏線言ってたらバレちゃいますよね。
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