ストライク・ザ・ブラッド〜鬼の目にも涙〜   作:*天邪鬼*

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最近、朝起きるのが辛いです


33話 手掛かり

九時になっても那月からの連絡はなかった。何かの用事かトラブルで連絡できないのだろうと暫く待っていても那月からの連絡はなく、再度心当たりのある場所に電話を入れても那月の居場所は掴めなかった。那月が失踪したのである。夜如は困惑しながら思考を巡らす。まず、那月がそう簡単に倒されるとは思えない。それでも空間転移という高度な魔術を息をするように使用できる那月が失踪せざるおえない状況が今発生しているということである。水面下で何かが起きているのだろうと夜如は結論ずけた。

 

「アスタルテ、夏音の所に行こう。何が起きているかにしても夏音を守ることが最優先だと思うんだ」

 

「肯定。教官の所在が分からない場合は一度家族の安否と安全を確認、確保することが最優先項目と教官から定められています」

 

自分の考えすぎかと夜如は常に冷静で分析力のあるアスタルテに意見する。すると、アスタルテも同意見だったようで既に携帯から夏音の居場所を突き止めていた。画面には地図と中心に青いマークが記されている。夏音の持つ携帯のGPS機能を利用しているのだ。勿論、夏音から許可を貰っての機能だ。これで那月の位置も調べたのだが、場所を測定できなかったことから電波の届かない所に那月はいるのだろう。夏音は絃神島の中心地キーストーンゲートにいた。キーストーンゲートの最上部には展望ホールがある。今日夏音は古城達と古城の友人を迎えに行くと言っていた。恐らくその友人に絃神島を案内しているのだろう。古城や雪菜がいる点では夏音の安全は保証されていると考えてもいいのだが、何が起こっているのか分からない今は逸早く合流することが重要である。

 

「よし、行くか!」

 

「了解」

 

夜如はアスタルテを抱きかかえると勢いよく窓から飛び出した。この時アスタルテは安堵していた。夜如が那月の失踪に対し冷静でいられているからだ。今までの夜如ならパニックに陥ってそうな事件に的確な対応をしている。妹が二人もできて成長したのだろうかとアスタルテは考えていた。しかし、アスタルテは夜如の精神が脆いことを知っている。今はまだ事件の全容を把握できていないからこそ那月が無事であると信じられて冷静でいるが、那月の命に何か危険が迫っていると分かれば必ず夜如は暴走してしまうだろう。そうなれば効率や周囲のことなど忘れて那月に迫る危険を排除しようと後先構わず突っ込んでいく。それは大きな弱点となり、いくら強大な力を有していようと今度は夜如自体に危険が迫ることになる。そうならない為にもアスタルテは夜如の側に居続けなければならない。無意識にアスタルテは夜如を掴む手に力が入るのだった。

 

 

_______________……………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

と思ったのだが夜如とアスタルテは想定外の出来事に呆然としていた。確かに二人は彩海学園の最上部にある那月の個人室にいて窓から外に飛び出した。当然、次の瞬間には学内の敷地に着地地点を見据える筈である。しかし、夜如が見ているのは校庭でも無ければそもそも外ではなかった。

 

「え?あれ?ここどこ?なんで?」

 

「………恐らく東地区の倉庫だと考えられます」

 

夜如とアスタルテがいるのは以前、夜如が古城の眷獣をまともに受けた場所の倉庫内だった。絃神島の外から輸入された品々が保管されている倉庫なのか積み上げられている箱は全て英語である。だからこそアスタルテが場所の特定に時間がかからなかった。しかし、今問題視するのは場所ではなく、何故東地区の倉庫にいるのかである。単純に考えて誰かに転移魔術をかけられたことを考えるが彩海学園でそのような気配はなかった。一瞬、那月の魔術かとも思ったがそういうことでもないらしい。誰も接触してこないのも考えると無差別なものに巻き込まれた可能性が高かった。

 

「空間転移となると教官が関わっている可能性は高いです。空間転移は高度な魔術故に使用できる存在は限られてきますので」

 

「ああ、もう取り敢えず夏音に直接電話しよう」

 

夜如はアスタルテを降ろし携帯を取り出した。偶然にも買ったばかりで連絡先が少ない夜如の携帯は操作が簡単ですぐに夏音へと連絡できる。夏音は思いの外早く携帯に出た。

 

『はい、お兄ちゃんでしたか?』

 

「うん、夜如なんだけど、今暁さんとか姫柊さんと一緒にいるか?」

 

『はい、今はキーストーンゲートの展望台から街を見ていました。お兄ちゃんも見えるかもしれませんね』

 

可愛らしく冗談を言う夏音の様子から夏音自身に危害などは受けていないらしい。夏音の安否がわかったことで一先ず安堵する。しかし、そんな楽しそうにしている夏音に夜如は申し訳なく思いながら言った

 

「実はな………」

 

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『そんな………南宮先生が失踪を』

 

「そう、だから出来るだけ暁さんと姫柊さんと一緒に行動して、できたらそのまま姫柊さんの家に泊まらせてもらって」

 

夏音は珍しく声を大きくして驚いた。模造天使の事件から夏音は古城と雪菜に特別な力があると知っている。しかし、詳しい事情を知っている訳でもなく夏音を厄介ごとに巻き込みたくないと言う理由からかなり適当な説明がされていた。特に古城の説明は酷く、悪の組織に捕まって改造された魔法戦士ということになっている。それでも正義のヒーローとして絃神島を守っているという設定は案外的外れでもなく、夏音が古城を頼る理由にはなる。そこに雪菜が加われば夏音も心強いだろう。

 

『わかりました。雪菜ちゃんに伝えます』

 

「自分とアスタルテもすぐ向かうから危なくなったらすぐに電話して」

 

『はい、待っています!』

 

伝える事だけ伝えると夜如は電話を切った。電話の会話を聞いていたアスタルテも夏音が無事なことに安堵している様子だった。その顔はまるで姉を心配する妹のようだ。態勢が異常ではあったが。

 

「アスタルテ?首が締まるんだけど」

 

「私の体重では問題にもならないかと」

 

アスタルテが夜如の首に両手を回してぶら下がっていたのだ。別に意味もなく絞め技を決めに行っている訳ではない。アスタルテも会話の内容が気になって聞き耳を立てていただけである。しかし、夜如が一般の男子と比べて身長が低くてもアスタルテと差がないということでもなく、アスタルテが会話の内容を知るにはこうするしかなかったのだ。顔と顔がくっつきそうな距離に無表情を貫くアスタルテとは違い夜如は柄にもなくどぎまぎしてしまう。

 

「そ、それじゃアスタルテは夏音と一緒に行動して、自分は那月さんを探すから」

 

命令受諾(アクセプト)、ですが()()()()()の安全が確保されたと判断されたら私も教官の捜索に入ります」

 

アスタルテはするりと夜如から降りると当然のように言った。夜如はあまり気にせず流してしまったが、この時アスタルテは初めての単語を発したのだった。

 

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『分かった。なら申し訳ないけど直接キーストーンゲートに来てくれない?』

 

「それはもちろん!」

 

電話はすぐに切れてしまう。その日の夜になると夜如はキーストーンゲートへと向かっていた。アスタルテは夏音と一緒に雪菜の家に泊まっている。神格振動波駆動術式という人工的に作られた神気を発せられるアスタルテと雪菜はあらゆる魔術的攻撃を無効化できる。夏音を襲うにも二人の眷獣と槍という絶対防御に近い壁を前にすればそうそう手は出せない。明日にはアルデギアから夏音を守るための精鋭が到着するということなので夏音の守りは完璧と言っていいだろう。先代の王の不倫相手の子であり、世間には知られてなくても立派な王族の一員である夏音を守る対応は驚くほどに早かった。実際は絃神島に滞在中である第一王女のラフォリアの護衛ついでだろうが、腹黒く妹思いのラフォリアが夏音を無下に扱うわけもなく、これにより夜如は那月の捜索に全力を尽くせているのだ。しかし、夜如は那月が失踪した理由に心当たりがなければ、昼間の謎の転移の真相も手がかり一つ掴めてないでいた。そこで絃神島の情報の全てがあり、それを管理している人物の元へ助けを求めようとしているのだ。

 

「藍羽さん、アポを取ったのは良いけど忙しそうだったな」

 

藍羽浅葱はキーストーンゲートにて絃神島に関する送電、下水、ガスや交通機関などのプログラミングを賄っている。絃神島は人工島である為様々なことがデジタル的に管理されている。他にも防犯カメラや犯罪件数と内容までその全てを浅葱が管理しているのだ。浅葱は夜如にこれをアルバイトと話していたが、その業務内容は明らかにアルバイトとして片ずけられるものではなく、天才的なプログラミング能力を持つ浅葱を良いように使っているだけで面倒ごとを全て押し付けているだけのようにも感じられる。ただ、浅葱も浅葱で膨大な情報を自分勝手に閲覧できるという利点からちょっとしたズルもしているのだから文句も言えないのだ。

 

「そんな大きな事件なんてあったっけ?」

 

夜如は電話から聞こえた浅葱の忙しない声を聞いて何か事件が起きたのかと携帯のニュースサイトを見る。しかし、大きな事件はなく迷子やナビの不具合が発生していることしか目立ったものはなかった。言っても重大な事件とは上の方で秘匿されていることが多いことを那月の手伝いをしていれば嫌というほど分かってくる。夜如は諦めてキーストーンゲートまで走った。

 

_______________________________

 

 

夜如がキーストーンゲートに来るのは絃神島を支える要石を盗まれかけた事件以来である。夜如はその特徴的な姿から警備の人に顔パスで入口を通してもらうと浅葱の個人室となっている地下十二階まで急いだ。

 

「浅葱さ〜ん」

 

まるで友達を遊びに誘うような口調で夜如は扉をノックした。すると、返事は聞こえなかったが扉が自動的に開いた。中には様々な機器が何層にも積み重なりモニターは無数に有機的に並べられている。正に映画や漫画などで見るハッカーの部屋であり、モニターの光しか明かりがない薄暗さは雰囲気を倍増させている。また、無数のモニターの前に座っている浅葱は部屋の雰囲気からか学校など普段とは違う別人にすら見える。

 

「あら、早かったわね。流石は鬼の身体能力」

 

「ありがとうございます」

 

夜如は案外忙しくなさそうにしている浅葱に疑問を持ちつつ部屋に入った。浅葱の部屋はあまり広くなく更に機器で囲まれている為圧迫感がある。そんな部屋に美人と二人っきりとなると思春期の男子なら変な妄想をしてしまうかもしれないが、良くも悪くも夜如にそんな感情はない。というよりも、一人に対する従順な忠誠心が大きすぎて欲情というものがあまりないのだ。アスタルテのようにかなり過度なスキンシップぐらいじゃないと夜如が照れることはない。逆に言えばアスタルテはその辺を良く理解しているということでもあり、那月の夜如をいじる性格が若干アスタルテに影響していると言って良い。

 

「さっきまで忙しそうでしたけど………」

 

「まぁね、それも含めてこれを見て。多分、夜如君が探してる情報でもあるわ」

 

浅葱が画面に映し出したのは過去に起きた魔女の事件だった。

 

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闇誓書事件、十年前に絃神島で起こされた空間異常の原因となった事件である。それは今まさに現在の絃神島で引き起こる怪奇現象と同じものだった。しかし、この事件の犯人は当時それこそ那月に捕まって今となっては監獄の中である。人知れず脱走した可能性もあるが、全ての情報が集まるキーストーンゲートにそのような情報が入ってないことから模倣犯の可能性が高いと考えられる。それが上層部の見解だった。浅葱が不正に手に入れた議事録はそこで止まっている。

 

「模倣犯?」

 

「そう上層部は考えているわ。今絃神島で起こっている空間異常も電子機器の方の位置情報を修正することで解決したしあまり深く考えてないのね」

 

「あと、監獄のセキュリティーと闇誓書事件を解決した那月がいることの自信………公社は那月さんが行方不明になっていることを知ってるんですか?」

 

「少なくても今はまだ多分知らない。私だって夜如君から話を聞いて驚いてるんだから。それにこれ、少し前に魔道犯罪組織”LCO”通称図書館の構成員が特区警備隊の防壁を破って絃神島に侵入してる。図書館って言ったら闇誓書事件にも関わったことのある組織。明らかに関連するべき二つの事件なのに公社の議題にすら上がってない。那月ちゃんがいるから特区警備隊を過信してるのね」

 

夜如は顔をしかめると浅葱も溜め息を吐く。しかし、夜如はすぐに気づいた。闇誓書事件も図書館の侵入もどちらも魔女が関わる事件なのだ。闇誓書事件の犯人は書記(ノタリア)の魔女と呼ばれる魔女、図書館も魔女で構成される巨大組織である。そして、魔女と聞けば一番最初に思い浮かべるのは那月だ。南宮那月は魔女の中でも最高位の力を持つ最強の魔女である。那月の失踪と二つの事件が関係してる根拠はないが、何かあるとしか思えない関係性である。そしてこれが関係していた場合、那月は逃げる為に姿を消したのではないか。

 

「まだ可能性の範疇だけど、那月ちゃんを見つける手がかりにはなると思う」

 

「はい、けど………」

 

「ええ、那月ちゃんを見つけるにはこの二つの事件を解決することになると思う」

 

那月に危機が迫っている、僅かに現れた可能性に夜如の心にはほんの少しの本人も気が付かない程度の怒気が生まれていた。

 




文才が欲しいと思う今日この頃。書けば書くほど自分の文才の無さを痛感するのですが、ふと思いました。

あ、所詮は二次創作じゃん

評価と感想よろしくお願いします!!

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