ストライク・ザ・ブラッド〜鬼の目にも涙〜   作:*天邪鬼*

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視力が最近悪くなってます………


32話 南宮那月の失踪

 

叶瀬夏音は模造天使の影響で心身共に衰弱し、しばらくの間入院していた。久し振りの登校は新鮮なもので夏音の周りには普段以上の友人が集まり快気を喜んでくれていた。その中には人一倍喜んでいる人もいて、夏音がやっと一人になれた頃合いを見計らい話しかけてきた。

 

「夏音ちゃん!今日の夜空いてる?」

 

「は、はい。空いてるはずでした」

 

夏音に詰め寄るのは古城の妹である凪沙だ。黒髪でポニーテルの姿に加え活発的な性格は皆に好印象を与えている。夏音も凪沙には捨て猫の里親を探す際にお世話になって親友とも呼べる中になっていた。夏音は予定がないことを確認して太陽のような笑顔に微笑み返す。

 

「じゃあさ!私の家で快気祝いしようよ」

 

「わぁ、ありがとうございます!」

 

夏音は今日が始まったばかりなのに今夜が楽しみになった。

 

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「ってことなんですけどお兄ちゃんもどうですか?」

 

放課後となり夏音は夜如に今夜のことを伝えた。夜如は毎晩アルバイトに向かってしまうので早めの確認が必要なのだ。夏音としては凪沙も大勢の方が楽しいだろうという心遣いだった。しかし、夜如は難しい顔をして俯く。夏音はその表情で来れないのだと察する。兄を友達に紹介したい気持ちがあった夏音は少ししょんぼりとしてしまう。夏音のような聖女の悲しむ顔が発する哀愁は凄まじい罪悪感を相手に宿すもので夜如は慌てて首を振った。

 

「ああ、違うから!!別に行きたくないとかバイトで行けないとかじゃないから!!」

 

「それじゃあどうして?」

 

夏音が聞き返すと夜如はどうしようかと言い淀むと意を決したように小声で答える。

 

「暁さんの妹って魔族恐怖症なんだよ。まともに対面すると最悪気を失ったり大変なんだ」

 

「え………」

 

夏音は普段の彼女から全く想像できない一面に言葉を失う。天真爛漫でこの世に怖いものは無い元気な女の子というのが凪沙に対するイメージだ。そして、そのイメージと現実はほとんど変わらない。しかし、だからこそ仲の良い友人の弱みを本人以外から聞いたことで酷い罪悪感を覚える。夜如は夏音の優しい性格を考えて答えるのを躊躇ったのだ。

 

「そうでしたか………」

 

「まぁ、自分は家で留守番してるよ。アスタルテなら魔族っぽくないしアスタルテと一緒に行けば良いよ」

 

夏音は夜如の額上部から覗く黒いツノを見つめた。夏音からすれば魔族である夜如と人間の差はこの小さなツノだけだ。友人がこの僅かな差で魔族を恐怖する。過去の経験や考え方に人それぞれ違いがあるのは知っているつもりでも、身内がその対象になっていることに悲しい気持ちになる。そして、その気持ちがあることに凪沙に対して申し訳ない気持ちになる。

 

「そんな顔しないでさ。今夜は楽しんでくれば良いよ」

 

「はい………いえ!!」

 

「………いえ?」

 

夏音は何を思ったのか首を振った。

 

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「夏音ちゃん、退院おめでとう!!」

 

その掛け声を合図に夏音の快気祝いは開かれた。集まったのは主催者の凪沙から主役の夏音を始め古城、雪菜、浅葱、基樹、最後に古城達のクラスメイトである築島倫だった。場所は古城の家で開催されてリビングのテーブルには凪沙が作った色とりどりのパーティーメニューが広がっていた。それらは明らかに一般的な女子中学生の作れるラインナップではなく、夏音は素直に驚きを顔に表した。

 

「凄いですね。全部一人で作ったのでしたか?」

 

「材料は浅葱ちゃんと基樹くんの提供で雪菜ちゃんにも少し手伝ってもらったんだ!」

 

凪沙は小さな星が出るかのようなウィンクとピースサインを出す。浅葱と基樹も何故か誇らしげにして雪菜は少々照れているようだった。夏音は行儀よく手を合わせていただきますと言うと早速オリジナルドレッシングを使ったという自信作と豪語していたサラダに箸を伸ばす。

 

「美味しいです!」

 

「よかった!!」

 

凪沙は満面の笑みで手を合わせた。すると、余程料理を褒められたことが嬉しかったのか次々に料理を勧める。夏音はその一つ一つを美味しそうに食べていく。それを見て古城は快気祝いだとしてもこんなに食べていいのかと心配になる。

 

「お兄ちゃん、私もこれくらい上手になりたいです」

 

『お、おう。頑張ってくれ。楽しみにしてるぞ』

 

夏音が話しかけたのはテーブルの端に置かれたタブレットだった。画面には夜如が制服のまま片手にグラスを持って何故かサンタ帽を被っている。加えて夜如の声は明らかに震えており、尋問されているかのように正座までしている。夏音は何事もないように話しかけているが、少々変わった光景だ。

 

「声震えてますけど、私の部屋何か問題がありましたか………?」

 

『いや、そういうわけじゃないんですけど………女子の部屋に入ることが初めてで………』

 

夜如が正座しているのは快気祝いが開かれている暁家のお隣さん、雪菜の部屋なのだ。普段は男女関係なく接する夜如も現役女子中学生が一人暮らししている部屋は謎の緊張感に満ちていて固くなっていまっていた。逆に雪菜は夜如のことを変に信頼しているようで良からぬことを仕出かすとは考えてもいないらしい。あまりの無防備な姿に夜如自身から保険をかけたぐらいだ。

 

『何かあった時は私が対処します』

 

夜如が映される画面の横から現れたのはアスタルテだ。こちらは何故かパーティー用の三角帽を被っている。夜如がかけた保険はアスタルテだった。妹の前で不甲斐ない行動は取らないという鎖を自ら括り付けたのだ。これが夏音が考えた魔族である夜如も参加できる快気祝いの開き方である。

 

「い〜や、アスタルテちゃん!少しの問題なら目を瞑っといてあげるのが家族の中の妹の役割でも___」

 

「馬鹿なこと教えないの!」

 

「そうですよ!!」

 

基樹のありがたい教えを雪菜と浅葱が割り込み妨害する。倫は成る程とにやけているが部屋を貸している雪菜にとって冗談では済まないないことだ。幸い料理に夢中になっている凪沙の耳にこの内容は入っておらず、夏音は何のことかと首を傾げている。取り敢えず古城は基樹の頭を引っ張ったいた。

 

「古城まで何すんだよ!折角盛り上げてやろうと思ったのによ」

 

「頼むからそっち方面は止めろ。周りを見てみろ!明らかに男が不利な場所だろ!」

 

「なるほど………女子がいない所ならいいのか。このむっつりめ!」

 

「あんたらね………!!」

 

古城と基樹の会話にメスを入れたのはやはり浅葱だ。その姿はまるでこそこそと不毛なやり取りをする男子に対して説教する学級委員長。これから雷が落とされかける瞬間だ。しかし、この部屋には聖母がいる。聖母は全てを受け入れ場を穏やかにできるのだ。

 

「ふふふ、賑やかなことはいいことでした」

 

「さ、流石中等部の聖母の異名を持つ夏音ちゃん。全く動じてない」

 

「雪菜ちゃんも楽しそうで何よりです。それに安心してください。お兄ちゃんがそのようなことした場合は南宮先生の罰則が待っているので」

 

『教官曰く死が最大級の恐怖ではないことを知れるそうです』

 

「生きた心地がしませんね………」

 

楽しそうな快気祝い。だからこそ夜如は自分が場違いな存在のように感じてしまう。自分がいなければもっと楽しいものになっていただろうと考えてしまうのだ。しかし、夏音が度々夜如を上手く会話に混ぜ込んでくれる。それは凪沙がいる時でも変わらずで、凪沙本人は少々抵抗があったようだが何とか受け答えはできていた。家族というものを大切にしたい夏音は魔族恐怖症の凪沙に少なくとも夜如一人の認識だけでも変えて欲しいと願っている。夜如、アスタルテ、そして夏音。経緯は違えど親というものを持っていない三人は共通して今いる家族を大切にしているのだ。特に夜如は異常なほどに………

 

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夏音の快気祝いは和やかな盛り上がりの中幕を閉じた。夜如と凪沙の会話も快気祝いを通して大分進展していた。付き合いたてのカップルのようにお互いに遠慮していた二人は知り合い程度まで関係を築いていた。一見それだけかと感じるが恐怖症の対象からと考えれば大きな一歩である。これも全て夏音のお陰だ。しかし、それは画面越しの話でいざ正面向かって話すとなるとどうなるかはわからない。夜如は古城と二人でテレビを見ていた。

 

「男二人で夜テレビを見るとか悲しいな」

 

「言わないでくださいよ。自分だって本当は妹達と一緒に居たかったんですから」

 

浅葱、基樹、倫は家へと帰り、残った中学生組は雪菜の家にお泊まりすることになってしまった。自然に夜如は古城の部屋に移動となる。男一人除け者にされるよりかはマシなのだが、この状況もまたむさ苦しい。今頃女子組は隣の部屋で仲良くガールズトークに花を咲かしているのだろう。そう考えると二人の気分は荒んでいく。別に夜如も古城も下心があるわけではないのだが、こうゆうものは雰囲気によりけりなのでぶっちゃけ暇なのだ。古城はとりあえず明日の予定に夜如を誘うことにした。

 

「そういえば、さっきも話したけど明日俺の友達が絃神島に来るんだけどお前も迎えにくるか?」

 

「あ〜、明日は朝からアスタルテと那月さんの仕事を手伝うんで夏音だけ行かせてください。というか、暁さんの妹がいるから行きにくいですね」

 

「それもそうか………まぁ、機会があれば紹介するよ」

 

「お願いします」

 

明日は休日ということもあり久しぶりに那月の仕事を手伝うことになっていた。中学校に入学してからこのようなことが激減して夜如は少々物足りなさを感じていた。決して那月に怒られたい扇子で叩かれたいというMっ気があるわけではないが、自分が必要とされていないような何とも言えない気持ちになるのだ。だからこそ夜如は明日を非常に楽しみにしていた。それを考えると男二人の夜も修学旅行前の夜のように眠れなくなる。

 

「ってことで、明日は朝早いんで早めにシャワー先に浴びさせてもらいます」

 

夜如はシャワーでも浴びればこの悶々とした気分も晴れて眠気も良い具合に湧き上がってくるだろうと早速風呂場に向かう。しかし、結局シャワーを浴びても全然寝れなかったのだった。

 

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「おはようございます。那月さん」

 

「おはようございます教官」

 

次の日の朝になると夜如はアスタルテと合流して彩海学園の那月の部屋にきていた。アスタルテはお決まりのメイド服に着替えて夜如はいつもの青ジャージ姿である。今日の仕事はとある人物の護衛と聞いていた。防御に関しては夜如は人一倍の自信を持っており、アスタルテの眷獣も守護に適している。

 

「今日の仕事の対象って誰なんです………?あれ、那月さん?」

 

「教官の気配がありません。別の場所にいるのかと」

 

夜如はアスタルテと共に那月の携帯や職場に連絡を取った。しかし、何処も知らないの一点張りだった。何処かコンビニかに買い物に行ってるのだろうと思いながら、夜如はアスタルテに掛けられる九時の定時連絡を待つことにする。

 

「掛かってきません」

 

「那月さん………」

 

この日、南宮那月が姿を消した。

 

 




試しに文の構造を変えて見ました。どっちの方がいいですかね?まぁ、年明け前に更新するつもりがここまで伸びてしまった理由にはなりませんが。また、更新が遅くなりそうなのでどうか気長に待っていてください。
では、評価と感想お願いします!!

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