「猫?」
「そう!夜如くんって猫好きだったりする?」
昨日の今日でクラスの興味は今だに夜如へと向けられていた。
同じ質問だったり答え難い質問だったり、下手な笑顔も引きつって精神的に限界に近づいてきた時だ。
とある女子の質問に思わず強く反応してしまう。
クラスの中でもコミュニケーション能力が極めて高い女子だったこともあり、会話はそのまま進んで行く。
延々に続く質問の波に耐えかねていた夜如にはありがたいことだった。
「まぁ、犬派よりかは猫派ですけど………」
「おぉ、夏音さん!!夜如くん猫好きだって!!」
「ほ、本当ですか?」
夜如の前に現れたのは落ち着いた物腰で柔らかな声音を震わせた銀髪の少女だった。
緊張しているのか声も瞳も震えている。
しかし、そんな姿さえも美しいと思える芸能人顔負けの美女。
日本人離れをした顔立ちは外国人かハーフなのだろう。
聖女のような神々しい少女は真っ白な頬を赤らめてもじもじと言った。
「今日の放課後時間空いてましたか?」
「………でしたか?」
夜如は人生で初めて初対面の美女から放課後のお誘いを受けた。
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放課後になると夜如は屋上にた。
昨日と同じ場所のフェンスの上に登って少女の到着を待つ。
少女というのは中等部の聖女こと叶瀬夏音。
放課後に学校の中でも有名な美少女に呼び出されることに驚きもしたが、夜如は特に気にせず呼び出しに応じた。
「お待たせしました」
「いえ、全然」
夏音は小走りで来たのか息を軽く切らしていた。
しかし、どうしてか夏音は背中で扉を押すように扉を開けている。
その所為で扉が完璧に開かず戸惑っていた。
夜如は夏音の側に駆け寄って扉を開けるのを手伝った。
「ありがとうございます。この子を運んでいたので」
「子猫だ」
夏音が両手に持っていたのは段ボール箱で中から子猫が顔を覗かせていた。
ミィ、ミィと人懐っこそうな鳴き声で夜如のことを見ている。
「はい、話というのは子猫達のことでした」
「子猫達?」
「この子の他にまだ猫がいるんです。元々捨て猫だったのを里親を見つけるまで預かっているだけのつもりだったのですが。話というのはその猫を一匹だけでも引き取って貰えないかと言うことでした」
夏音は真っ直ぐな瞳で夜如のことを見つめた。
更に子猫も釣られてなのか夜如のことをジッと見ている。
その眼差しを受けながら夜如はどうしたものかと腕を組んだ。
夜如個人としては一匹から二匹ぐらいは引き取っても良いと思っている。
しかし、夜如の家は那月とアスタルテもいるので猫を飼うのは二人に相談してからでないといけない。
「むぅ………家の人と相談してからじゃないと分からないですね。個人的には飼っても良いと思ってますが」
「勿論です、今すぐは難しくても良い返事を期待しています」
夏音は聖母のような微笑みを浮かべて頭を下げた。
あまりにも無駄の無い動きに夜如は思わずドキッとしてしまう。
「学校の裏手にある丘に古い教会があります、そこに子猫がいるので是非顔を出して下さい」
「か、帰りにでも顔を出しますね」
柄にもなく夜如は照れながら頭をかく。
そんな側から見たら甘酸っぱい青春の光景なのだが、そこに勢いよく邪魔が入る。
「夏音ちゃんお待たせ〜!!ああ、子猫だ!!」
「あ」
夏音の後ろの扉が勢いよく開いて活発なポニーテールの女の子暁凪沙が飛び出して来た。
天真爛漫な古城の妹である彼女は夏音を後ろから抱きしめる。
これもまた微笑ましい美少女二人の戯れだ。
しかし、夜如にとってこの学校で一番会いたくない人物第一位である凪沙が目の前にいることは重大な事件だった。
魔族恐怖症である凪沙に見るからに魔族である夜如は相性が最悪なのだ。
「じゃ、じゃあ自分はこれで!!」
凪沙が夏音と猫に夢中になっている間に夜如は全力で振り向きフェンスを飛び越えた。
屋上からの飛び降りも鬼の夜如にはどうと言う事はない。
着地の衝撃で周りにいた生徒を驚かせながら夜如はそそくさと学校を後にした。
「アスタルテの言う事は聞いとくんだった………」
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丘というよりかは小さな森のような場所。
学校の裏手にはそんな人工島の絃神島には珍しい自然が広がっている公園がある。
公園自体が小規模で人気も少ないが自然が絃神島の暑さを和らげてくれる良い場所だ。
その公園の一番奥に夏音の言っていた教会があった。
「古いっていうか………火事の後みたいな」
古いと聞いていたが廃墟と化している程古いと思っていなかった。
屋根には伝令使の杖、ケーリュケイオンと呼ばれる二匹の蛇が巻き付いた杖のレリーフがあった。
人を生き返させることもできると言われている杖だけにこの教会は一体なんの宗教だったのか少し悪く疑ってしまう。
「入って良いんだよな?」
しかし、この場所を教えてくれた夏音が悪い人とも思えず夜如はそっと教会の扉を開けた。
木製の扉は少しばかり抵抗したのちに音を立てて開く。
中は外観から想像したよりも綺麗で明らかに人の手入れが隅々まで行き届いていた。
「本当にいる」
この手入れもこの猫達のためなのだろう。
夜如は何処からともなく集まって来た猫達を撫で回す。
「十数匹入るな」
流石中等部の聖女は捨て猫を見つけてはここで飼っているらしい。
絃神島の捨て猫が全て集まっているような数だ。
「これだけの猫のご飯代っていくらかかるんだ?叶瀬さんが一人で世話をしてるとなると結構な額な気が」
猫達の無邪気な瞳を見つめながら夜如は呟く。
人間のアルバイトは高校生からなので夏音はお小遣いなどでこれらを賄っているということになる。
一般的な家庭の中学生のお小遣いでそれが出来るとは思えなかった。
聖母のような物腰にあの外見なら何処かしらの会社のご令嬢なのかもしれない。
しかし、夜如は頭を振って自分の考えを否定する。
「まさかね。家ぐるみで保護してるのかな?」
「あれ?夜如じゃん」
「早速来てくれました!」
そこには中等部の聖女と世界最強の吸血鬼と獅子王機関の剣巫が揃っていた。
「両手に花………」
「違うっつうの!!」
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「猫だと?」
「そうなんです。一匹ぐらいなら飼えませんかね?」
その日の夕食で何やら不機嫌な那月に夜如は猫について聞いてみた。
不機嫌な那月に猫というアニマルセラピーのような癒しを与えられないかという魂胆である。
アスタルテからは既に了承をもらっているので後は那月を説得するだけだ。
しかし、那月のストレスは想像以上だったようで
「気が効くじゃないか。金をやるから買ってこい」
「え?いや、今からじゃなくて」
「良いのを頼むぞ。酒はこちらで用意するから」
「食べるんですか!?」
夜如は悲鳴を上げるように声を荒げる。
アスタルテも真剣な那月の言葉に固まっていた。
「知らんのか?ベトナムでは酒のつまみになったり猫食文化は世界中にあるんだぞ」
「じゃなくて!ペットとして飼うんですよ!」
夜如は全力で驚きの雑学である食用猫案を否定する。
那月は渋々といった形で盛大な舌打ちをしながらワインを飲んだ。
仕事で嫌なことがあると那月はこうして酒を飲む。
「………おい、明日から仕事手伝え。そうすれば考えてやる」
「あ、ありがとうございます!」
「お前なら第四真祖の眷獣にも耐えるし大丈夫だろう。頑張れよ」
「はい?」
那月の見せる不敵な笑みに夜如は冷や汗を流した。
どうか酔っ払いの虚言でありますようにと願うしかなかった。
バンドリカフェに友達と行ってきました!!
まん丸お山に彩りを添えてきましたよ。
ケーキ美味しかったです!
つぐみの時も生きたいな。
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