ストライク・ザ・ブラッド〜鬼の目にも涙〜   作:*天邪鬼*

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お金が足りない


天使炎上 書き直し中
23話 学園生活の始まり


絃神島のライフラインといえばモノレール。

主な四つの人工島を繋げて人々を運んでいる小さな島には欠かせない乗り物だ。

その便利さは交通手段だけでなく四つの人工島によって変わる風景を活用した絃神島の数少ない観光名所にもなっている。

しかし、絃神島で暮らしている夜如はモノレールに乗るのが嫌いだった。

 

「ウェェェ………」

 

顔面蒼白、顔の血の気が引いて見るからに体調が悪そうな夜如は吐き気と戦っていた。

モノレールが揺れる度に脳内も共鳴したかのように揺れて吐き気の波が押し寄せる。

口に手を当ててもうずくまっても吐き気という不快感からは逃れられない。

実際、モノレールは人によっては物凄く酔ってしまう乗り物なのだ。

加えて鬼である夜如の人知を超えた感知能力は揺れを鮮明に感知してしまい、モノレール酔いは悪化していく。

自分で運転する車では酔わないのに自分が運転に関与しない乗り物は何故酔いやすいのだろうか?

 

「大丈夫ですか?」

 

夜如の前でつり革に掴まっている雪菜が心配そうに問いかけてくる。

体調不良を訴えた夜如に席を譲ってくれた優しい女の子だ。

しかし、その実態は国の役人で獅子王機関の剣巫なのだ。

背中に背負っているギターケースの中が吸血鬼の真祖すら殺しうる兵器と知っている身としては仲良くなって良いものかと考えてしまう。

獅子王機関とは夜如の主人である南宮那月の商売敵でもあるからだ。

家でも雪菜の話が出てくる度に那月の態度が悪くなる。

しかし、夜如はそんなことを考えている暇はなかった。

 

「限界が近いです………」

 

「お前な、折角の初登校になんて様だよ。ほら、水」

 

雪菜の隣に並んでいる古城が哀れむように偶然持っていた水を夜如に差し出してくれる。

夜如は冷えた水を首元に当て肺に溜まった濁った息を吐き出した。

雪菜の着ている彩海学園中等部の制服、夜如が着ていたのは彩海学園中等部の制服の男子バージョンだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「え?姫柊さんと別のクラスなんですか………?」

 

「そうなんだよね〜。私も担任だし本当は一緒にした方が良いと思ってたんだけど、私のクラスは魔族恐怖症の子がいるからさー」

 

「あ、凪沙ちゃんですね」

 

登校した夜如は中等部の先生である笹崎岬に呼び出されていた。

相談室という生徒の話を先生が聞くプライバシーの守られた部屋なのである程度砕けた話もできる。

ここで問題となっているのは暁凪沙のことであった。

世界最強の吸血鬼暁古城の妹は魔族ではない人間なのだ。

しかし、今問題になっているのは吸血鬼の妹が人間ということではなく、凪沙の魔族恐怖症のこと。

凪沙は過去に魔族絡みの事件に巻き込まれて魔族に対して異常な恐怖心を持っている。

兄である古城も自分が吸血鬼になったことを隠しているほどに。

 

「そんな………夏休みが終わって友達の輪が出来上がってるのに友達のいない自分が友達のいないクラスには入れませんよ!」

 

「まぁ、自分の力で友達を作ろうってことことだったり。バイトで慣れてるでしょ?」

 

「バイトは関係ないですよ!」

 

岬がケラケラと笑って夜如の頭を叩きまくる。

まるで何かを誤魔化そうとしているように頑丈な鬼も床にめり込みそうな力で何度も何度も打ち付ける。

そこに気づいた雪菜が岬の笑い声の合間を縫って鋭いツッコミを入れた。

 

「ところでなんですけど………なんでそれを当日に言うんですか?普通は南宮先生を通じてでも連絡するはずじゃ?」

 

「………気にしちゃダメだったり!」

 

「忘れてましたよね!?」

 

夜如の学園生活は波乱の幕開けとなった。

 

 

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「疲れた………」

 

夏が過ぎてもなお暑い絃神島は晴天の日が多い。

更に気温と同時に湿度も高いので気持ちの良い晴れというのは滅多にない。

夜如はサウナのような熱気の中、屋上のフェンスに乗って瞑想していた。

珍しい時期の転校生ということもありクラスの皆んなから質問攻めを食らって気疲れしたのだ。

授業も夜如には一杯一杯で自分がいかに勉強していなかったかを実感させられた。

那月の手伝いで高等部の授業のプリント用意などならしたことはあるが、まさか自分がやるとは思っていなかった。

魔族という理由で学校に行っていなかったのが世間とのズレを大きく生じさせていたことも深く痛感した。

実感して痛感して、那月が何故今になって夜如を学校に通わせることにしたのか何となく分かった一日であった。

 

「バイト、減らすか辞めるかしないとなー」

 

夜如は絶滅危惧種保護への援助資金を稼ぎ寄付している。

自身も絶滅危惧種に指定されていることから仲間を守る感覚で慈善活動なのだが、学校に通いながらでは続けるのは難しい。

それにただお金を寄付するのではなく、社会のことを勉強して深いところまで知った上で活動していきたいとも思ったのだ。

 

「那月さんはこういうのを教えたかったのかな?………ん?」

 

瞑想していたからかツノの感知力も敏感になっていた。

学校に通うことを強制した那月の意図は何だったのだろうかと考えていた夜如のツノに少々荒ぶった魔力を感じ取った。

ただ、感じ取った魔力に覚えがあったので特に警戒せず、ふと視線を落としてみた。

 

「あれ?」

 

視線を落とした先には可愛らしい少女がイケメンに手紙を貰っていた。

少女の方は一方的に夜如が知っている暁古城の妹である暁凪沙だ。

長い髪を器用に短いポニーテールにしている元気で活発な凪沙は他クラスである夜如のクラスでも人気である。

 

「ああ………これでか」

 

その光景を見ながら夜如はツノの感知能力を意識的に拡張し高度を上げる。

すると、校舎四階の夜如のすぐ下で古城が憤って雪菜がそれをなだめていた。

シスコンである古城は偶然今のやりとりを見てラブレターの受け渡しだと勘違いしたのだろう。

 

「実際は違うんですけどね」

 

 

『猫のことよろしくね』

 

『うん!』

 

 

しかし、夜如は魔族である自分と魔族恐怖症の凪沙が関わると面倒なことになることを十分承知している。

事実を古城に話すとシスコンである彼は変な思い込みと早とちりで確実に夜如を巻き込むに違いない。

知らぬが仏という言葉が世の中にはあるように、今見た光景を忘却し早々に家に帰った方が身のためだ。

 

「ほっと!」

 

今日の出来事を那月やアスタルテに沢山聞いてもらおうと夜如は跳躍した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『おい夜如!!凪沙がラブレターを貰ったらしいんだ!!俺に協力してくれ!!』

 

「………」

 

その夜、宿題も終えてアスタルテと一緒に寝間着姿でトランプをしていると古城から怒号のような電話が掛かってきた。

声の音量は凄まじく普段から表情の動きが希薄なアスタルテでさえも僅かに目を大きくして驚いている。

夜如は通話を切りたい衝動を堪えて耳から離した携帯を近づけた。

 

「嫌です」

 

『何で!?凪沙に悪い虫がつくかもしれないんだぞ!』

 

「いや、自分魔族なんで妹さんと関わらないようにしようと」

 

夜如は興奮している古城を逆上させないように正論でやんわりとお断りの返事をした。

今の古城に猫の話をしても”それを出汁に近付こうとしているんだ!”などと言われるかもしれないと思ったからだ。

実際、アスタルテにそのようなことがあれば夜如はそう反論するだろう。

一度湧き上がった暗雲はそうそう晴れるものではなく、全てのことを悪く考えて例え事実だったとしても頭の中で自分勝手に変換してしまう。

悪循環というやつだ。

 

「もし、魔族と公に認められている自分が関わっていたら傷つくのは妹さんですよ?」

 

ならば、自分自身をその悪循環にはめ込んでしまえばいいと夜如は瞬時に考えた。

夜如が関わると更に悪くなると古城に印象付けようとしたのだ。

 

『ば、バレないようにすれば………』

 

「何をどうやってですか?何をしようとしているか知りませんけど妹さんのためにも自分は関わらないことを勧めます。では」

 

夜如は今度こそ一方的に電話を切ってトランプに集中しようと手札に視線を戻した。

 

「これは勝手な推測なのですが」

 

「ん?」

 

電話を置くとアスタルテがまっすぐな目で夜如を見つめていた。

夜如は首を傾げた。

 

「第四真祖が起こす事件にお兄ちゃんは高い確率で巻き込まれています。今回も何かあるのではないでしょうか?」

 

「まっさか〜!」

 

無表情でお兄ちゃんと言うアスタルテに未だ違和感を感じながら夜如はアスタルテの言ったことを軽く笑って吹き飛ばす。

 

(お兄ちゃんは例の事件のことを知らないんでした)

 

アスタルテは那月から聞いた事件のことを思い返した。

しかし、それを夜如に伝えようと思うまもなくアスタルテはトランプのババ抜きに負けてしまったので再戦を申し込んだ。

例の事件のことは頭の中から消えていた。




お久しぶりです!!
相変わらずバンドリに力を入れています!
フレンド機能が追加されたりカバー曲も最高だしいいですね!

では、評価と感想お願いします!!

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