「あんた大丈夫なのそれ!?」
病院内の大部屋に騒がしい声が響き渡る。
大部屋を患者ごとに区切るカーテンでは遮断できない程の音量だ。
声の主と隣接したベッドに寝て居たアスタルテは意図せず嫌な顔をしてしまう。
普段、感情を表に出さないアスタルテも重傷を負って体を弱らせている時に睡眠妨害されるのはほんの僅かだが不快だった。
しかし、少しずつ覚醒していく意識の中で声の主が知った人物だと気づく。
(この声は藍葉浅葱………)
騒がしい声を発していた人物がアスタルテの記憶ではクリストフ・ガルドシュによって誘拐されていた筈の浅葱だと理解する。
明るい声音で、辛いなどの感情は感じられない。
その後、雪菜や凪沙の声も病室内に増えていく中、古城が必死に弁解するのが聞こえる。
周りのことを気にしない騒がしい会話。
明るく元気な会話は不快ではなく、事情の一部を知っているとむしろ元気をくれるようだった。
医療に精通したホムンクルスとして作られたアスタルテは今いる場所が病院だと理解している。
元気な会話で一件に安心したアスタルテは脱力した体をベッドに預けて瞳を閉じた。
「アスタルテ〜!」
アスタルテの透き通る青い瞳が大きく開かれた。
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折れた両腕を包帯で巻いた夜如が乱暴に足で病室のドアを開ける。
「アスタルテ〜!」
夜如の呑気な声で病室に入っていく。
中には古城や雪菜達が軽い修羅場を作っていた。
「げ!?ちょ、夜如!今凪沙がいるから!!」
「あ、えっと………」
そんな修羅場から逃げ出すように視線を向けてきた古城が血の気の引いた顔で夜如に叫ぶ。
最初は病院内で叫んでもいいものかと考えていたが、古城の背中に隠れるようにしている妹である凪沙に気づいた。
古城に昔から注意されていたことで凪沙は魔族に対して恐怖心を抱いてしまう魔族恐怖症なのだ。
夜如は一瞬だけ体を硬直させるとアスタルテの寝ている筈のベッドが隠れているカーテンを見つける。
混乱している夜如は本来病室から出ればいいものをアスタルテのベッドが隠れたカーテンの中に突っ込んだ。
「フゥ………」
「………あの」
そこで待っていたのはアスタルテの無表情な瞳だった。
冷たくも暖かくもない無機質な視線が慌てて入り込んだ夜如を貫く。
数秒、にらめっこが続いた。
透き通った青い瞳、流れるような藍色の髪の毛、傷で体力が低下しているのか僅かに脱力した体をベッド柵に腕を置いて支えている。
それでも無理をしているのか少しはだけた病衣が真っ白なアスタルテの肌に張り付いて顔は無表情なのに色気がムンムンと出ていた。
とどのつまり、
「だ、抱きしめてもいい?」
「拒否します」
即答で断られてしまった。
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「鬼の回復力は魔族の中でもかなり高い方だ。
「こんな大怪我初めてですけど思ったよりかかりますね」
アスタルテのお見舞いを終えた夜如は那月の待つ家へと帰宅していた。
夜如は貴族のような風格で紅茶を飲んでいる那月の正面で同じ紅茶をストローでちびちびと飲んでいる。
この紅茶は買えば諭吉が飛んでいくような高級品。
お情けで貰ったが値段を聞いて貰わなければ良かったと夜如は後悔していた。
「当たり前だ。回復力が高いと言ってもあくまで生物としてだからな。傷の付き方で完治までのスピードに差は出る」
「この腕の折れ方ってまずかったんですか………?」
「テロリストといえど高度な生体障壁を纏った輩を素人が強引に殴りつけたりすれば鬼気を纏っていても只では済まない。特に右肘の靭帯が千切れていたんだ。人間だったら片腕を失っていたと自覚しておけ」
那月の淡々とした警告は夜如を責めるようだった。
遠回しに二度とするなと言っているようなものだ。
実際、夜如も那月が何を言いたいのか理解している。
雪菜や古城に紗矢華、強者である仲間が集まる中で夜如は非合理的な行動を繰り返していた。
それがアスタルテのことを思っての行動だったとしても最善とはとても言い難い。
夜如は目を伏せて頭を下げた。
「ごめんなさい」
「はぁ………私も手を出さなすぎた。お前がそこまでアスタルテのことで怒るとは思っていなかったんだ。保護者として軽率だったと言わざる終えないな」
「そんな!自分が勝手に暴走してしまっただけですから………」
「だから、お前のことを理解していなかった私にも責任の一端はあると言っているんだ。アスタルテも重傷を負ってしまったしな」
那月は紅茶を飲み干すと少し乱暴にティーカップを皿の上に置いた。
アスタルテは現在病院から移動して那月の家の地下にあるホムンクルス用培養液の中で眠っている。
ホムンクルスであるアスタルテは定期的に培養液で調整を行わなければならないからだ。
珍しい那月の自虐に夜如は押し黙ることしかできなかった。
「そこでなんだが」
「………はい」
「お前は携帯が欲しいと言っていたな」
「え?」
驚いた夜如は顔を上げると那月が澄まし顔で腕を組んでいた。
あまりに平然としすぎて那月が本当に言ったのか疑うほどだ。
「早く質問に答えろ」
「あ、はい!」
呆けていた夜如は無駄に返事が大きくなってしまう。
那月が夜如の欲しい物を尋ねることなどこれまでなかったのだ。
どうしたのだろうかと失礼ながら夜如は心配する。
「今回の件でお前は経過はどうあれナラクヴェーラを止めた。加えてテロリストのガルドシュの奴も倒した。十分な功績だと思う」
「はぁ」
「だから、まぁなんだ。虚数の彼方にしかなかった可能性を掴み取ったということだ」
夜如は数日前のことを思い返す。
以前、那月は確かに言っていた。
”………ふん。今後の働きを見て私が虚数の彼方にしかない可能性だが、買ってもいいと思えば買ってやらんでも無い”
虚数の彼方にしかない可能性を掴み取ったとはつまりそういうことだ。
「本当ですか!?」
「今日はもう遅い。店に行くのは明日だ」
「もちろんアスタルテの分もですよね!!」
「あいつにはもう買ってある」
「嘘ぉ!?」
那月は面白がるように微笑みながら新しい紅茶を入れるのだった。
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数日後
「那月さん那月さん!!」
「なんだ?」
「メーラーだえもんって人からメールが届いたんですけど」
「………………お前は今度から学校に通ってもらうことにする」
「へ?」
「精神の成長と学力の向上。携帯を買ったからにはお前には常識を身につけなければならない。というよりか、前々から考えてたことだが学園生活を送ってもらう」
夜如は学校に行くことになった。
お久しぶりです!
まぁ、バンドリのアプリを頑張っていたり、大学が思ったより忙しかったり、SAOHRを遅いけど1000層まで頑張ってみたり、バンドリを凄く頑張っていたりとしていました。
更新遅いですがこれからも宜しくお願いします。
では、評価と感想お願いします!!
バンドリ頑張ります!!