ストライク・ザ・ブラッド〜鬼の目にも涙〜   作:*天邪鬼*

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アイス食べ過ぎてお腹壊した


21話 呪い

音もなく、まるで南宮那月のように空間転移をしてきたかと思うほどのスピードだった。

古城達の後ろには数十メートル離れた場所に立つ羅生門の上にいたはずの夜如が佇んでいたのだ。

足元は着地衝撃でコンクリートがクレーターを作っている。

それを作り出した衝撃波は古城達を吹き飛ばしかけたほど。

鬼気をこれでもかと滲み出している姿から怒っていることが顔を見なくてもわかってしまう。

 

「あの女王にアスタルテを撃った奴がいるんですね?」

 

今の夜如は鬼そのもの。

日常の夜如からは想像もつかないプレッシャーを放っている。

倒すと決めた標的が目の前にいるのだから仕方がないが、そのプレッシャーは幼少期から訓練を受けてきた獅子王機関の剣巫である雪菜でさえも足を一歩後退させるものだった。

雪菜は息が詰まりそうな空気の中で頷くことしかできない。

 

「なら、自分が女王をやります」

 

「あ、おい!」

 

前に出る夜如を古城が止める。

なぜ古城が動けたのかは戦闘経験がほとんどない故に夜如のプレッシャーに疎かったからだ。

幾ら何でも無鉄砲に突っ込むのは先までの戦闘で分かっている。

怒りで我忘れているのかと古城は夜如の肩を強く握った。

 

「一機でも面倒なのにあの数を全部倒すのは無理だろ!?協力しよう!」

 

古城の言葉に感化されて動くことができるようになった雪菜と紗矢華も頷く。

 

「大丈夫よ!ナラクヴェーラの動きを止める手はあるわ」

 

紗矢華がそう言って手にしていた大剣を突き上げる。

紗矢華の剣は触れたものの空間を斬る能力がある。

どんなに硬くても空間を斬られては高度は意味をなさない。

その剣が前後に割れたかと思うと大きく回転して弓のような形になる。

 

六式重装降魔弓(デア・フライシュッツ)、この弓こそが私の武器の真の姿よ」

 

紗矢華の持っていた大剣がリカーブ・ボウと呼ばれる現代的な銀色の洋弓と変化する。

 

「この弓で瘴気を発生させる呪矢を撃つわ。相手がこっちの攻撃に対抗するよう進化するから一回きりだけど、数秒はあらゆる機能が停止して動きを阻害できるはずよ」

 

「奥の手か………夜如、チャンスはあるんだ。みんなで一気に行くぞ!」

 

「そうです。それに藍葉先輩が作った音声プログラムを流さないとナラクヴェーラは倒せないんですよ!」

 

しかし、夜如はゆっくりと振り向いて首を振った。

 

「煌坂さん、チャンスが来るまで奥の手を隠していたようですが、それがあなただけとは限りませんよ」

 

「「「え?」」」

 

古城達が呆気に取られると夜如は羅生門を発動させたように合掌する。

祈るように促すように、夜如の瞳は虚ろに揺れ動く。

 

「開け、羅生門」

 

夜如のかき消えそうな呟きと同時に海を割っていた羅生門が動きだす。

巨大な音に古城達が振り返るとそこでは羅生門が独りでに大きく軋んでいた。

 

鬼哭啾々(きこくしゅうしゅう)

 

瞬間、羅生門の入り口から黒い瘴気が流れ出された。

その瘴気は黒く、醜く、亡霊が嘆き悲しんでいるようにも聞こえる声がしている。

実体を持った瘴気。

いち早くそれに気づいた雪菜は異能の力を無効化させる雪霞狼で自身と紗矢華の周りに結界を張る。

しかし、吸血鬼である古城は雪菜の結界には入れない。

怨念のような瘴気が辺りを包み込む。

 

「ぬお!?」

 

「自分の近くにいれば大丈夫ですよ」

 

「え?」

 

黒い瘴気の渦に古城の右拳に力が入る。

雷撃が迸り、眷獣も呼び出しそうな勢いだった。

その腕を夜如が咄嗟に体を当てて止める。

衝撃で冷静になった古城は瘴気の独特な動きに気づいた。

 

「俺達を避けている?」

 

「まぁ、自分達にまで影響があったら意味ありませんしね」

 

雪菜はそれを聞いて結界を解く。

しかし、自分達の周りを黒い瘴気が目まぐるしく吹き荒れているのは心地いいとは言えない。

いつ襲ってくるかもしれない瘴気に夜如以外の三人は顔をしかめてしまう。

夜如だけは何とも感じていない様子でナラクヴェーラの集団を見ている。

釣られて古城も夜如の視線を追う。

 

「あれは!?」

 

古城の瞳は大きく見開かれた。

それは古城だけでなく呪術のスペシャリストである紗矢華も同様だった。

あれだけ暴れていたナラクヴェーラの動きが明らかに変な挙動を見せているのだ。

動きを止めるでもなく、まるで苦しんでいるように見える。

 

「この瘴気は怨念。古来、羅生門に住んでいた鬼が殺してきた人間達の怨念。ただの瘴気ではないですよ」

 

ナラクヴェーラの動きは次第に弱々しきなっていき、もがくようになってついに動かなくなる。

紗矢華は夜如の鬼哭啾々を観察して瘴気ではないと確信していた。

瘴気とは本来だと山川の毒素であり、元を辿れば自然界の産物だ。

しかし、夜如が呼び出したのは黒く禍々しい怨念。

人から生まれた力で決して瘴気などではない。

呪い。

大昔から蓄えられていた呪いの力である。

 

「今です!!」

 

夜如の叫び声が靄のかかった思考を吹き飛ばす。

鬼哭啾々は跡形もなく消え去り、清々しい青空が天を覆う。

夜如から発せられていたプレッシャーも後ろの羅生門も同時に消えていた。

 

獅子の黄金(レグルス・アウルム)!!」

 

雪菜と夜如が走り出し、一番大きい女王を目指す。

後方の古城の眷獣は動かなくなっているナラクヴェーラに痛烈なダメージを与えている。

関節部分から嫌な音がなって黒い煙が弱々しく吹き出している。

しかし、それでも動こうとする奴がいる。

紗矢華は残ったナラクヴェーラに向けて弓を的確に打ち込んでいく。

夜如とは違う純粋な青い瘴気は学習されてないことから十分効いてくれている。

そこに。

 

「ハッハッハッハ!!まさか鬼にこんな力があったとはな!!」

 

派手な炸裂音を響かせながら獣人の男が姿を表す。

鬼哭啾々と獅子の黄金(レグルス・アウルム)によって一時的にでも動かなくなったナラクヴェーラを捨てて対人戦に切り替えたのだ。

故障して開かなくなったコクピットのドアを殴り壊して出てくるのを見れば相当の力があるのがわかる。

 

「あれがクリストフ・ガルドシュですか!?」

 

「はい!」

 

その姿はどの動物にも形容しがたい姿をしている。

ただ、力も速さも並以上だと理解できた。

夜如の全身に力が入る。

 

「気をつけて下さいね。ガルドシュは生体障壁で自身を守っています」

 

「力を振り回すだけじゃないってことですね」

 

雪菜は一瞬視線を横に向けて夜如の目を見た。

怒りを滲ませてはいるけれども冷静な目だ。

やろうと思えば夜如は雪菜と同スピードで走ることなく一気にクリストフ・ガルドシュの元に走りこむことができるはず。

怒って目の前が見えていないように見えて連携はしっかりと行なっている。

雪菜には夜如が文句を言いながらも言うことを聞く子供のように見えていた。

実際、学校に行ったりはするものの学生として多くの人と接したことのない夜如は上司の命令に従うだけの存在でもある。

そんな夜如にかける言葉。

 

「ガルドシュをお願いします!」

 

「はい!!」

 

古城と紗矢華から止められていたことを許可すること。

雪菜はそれを理解して夜如に言った。

案の定、夜如は笑ってスピードを上げた。

羅生門を出現させた時もそうだったが、夜如はお願いされると力を発揮する傾向がある。

その傾向を利用して夜如がしたいことを逆にお願いする。

精神面を考えればこれで夜如のコンディションは最高だろう。

 

「子供ですね………」

 

雪菜は二人の戦闘から避けるように女王へと走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガルドシュと対峙した夜如は跳躍した。

 

「アスタルテをよくも傷つけたな!!」

 

振り下ろす拳はガルドシュの顔面を捉えようとしている。

 

「あのホムンクルスのことかね?」

 

しかし、ガルドシュは悠然とその拳を避ける。

空を切った拳は地面に突き刺さって亀裂を生んだ。

ガルドシュはその隙に夜如へとお返しとばかりに拳を振り下ろす。

夜如は地面に拳が突き刺さっていて一歩回避が遅れてしまう。

そこで夜如はむしろ拳に力を込めてさらに深く拳を差し込んだ。

腰を持ち上げて足を上げるとガルドシュの拳を足の裏で受け止める。

 

「ふ!!」

 

「ほう?」

 

そのまま、ブレイクダンスのように回転した夜如はガルドシュの横っ腹に数発蹴りを決めた。

しかし、雪菜の言った通り生体障壁、気功術によって威力は大幅に軽減されている。

そこいらに獣人ならこれで終わりでもガルドシュには致命傷にならないのだ。

 

「いい動きだが、武術というよりも才能任せに動いているだけだな。そんなんでこの私を倒せるとでも?」

 

「思ってる!!」

 

夜如はガルドシュの懐にまで走り込んだ。

ガルドシュは一瞬遅れて膝蹴りを繰り出す。

しかし、今度はガルドシュの攻撃が空を切る。

夜如はすでにガルドシュの頭を超えて背後を取っていた。

 

「ダァ!!」

 

力強い声を吐き出しながら夜如の右手はガルドシュの背中を捉える。

打撃ではなく骨折覚悟で一点に力を凝縮した指先がナイフのようにガルドシュの背中に突き刺さる。

生体障壁を破壊して筋肉を断ち切った手応えが夜如の腕に伝わった。

夜如の右手の指も確実に折れているが、これは想定内で我慢できないほどでもない。

 

「ぐぅ………」

 

ガルドシュが膝をついて呻く。

背中の傷から血が大量に流れ出ている。

獣人でもこれは軽症ではない。

 

「再生されては面倒ですからね。妹の分まで全力で殴らせてもらいますよ」

 

全身の鬼気が左拳に集まっていく。

赤黒いオーラは生き物のようにうねりをあげてガルドシュを狙っていた。

ガルドシュはチャンスだと右拳を握り込んだ。

夜如の行動は左で殴りますよと言っているようなもの。

殴り込んできた一瞬をライトクロスの要領で外からコンパクトに顎を狙う。

ガルドシュの頭の中では勝利のイメージが怪我してなお鮮明に思い浮かんでいた。

 

「せいやぁ!!」

 

そして、想像通り夜如は目にも止まらぬ速さでガルドシュの前に踏み込んだ。

ギリギリ夜如の動きを感じ取れたのはガルドシュの長年の戦闘経験からくる第六感でしかない。

生体障壁で強度が増している肉体で拳を放てば鬼といえどただでは済まない。

鎧で殴られれば誰だって倒れるのと一緒だ。

 

「もらったッ!?」

 

右拳を突き出そうとしたガルドシュは自分の体の違和感に気づいた。

力が乗っていない。

ガルドシュはその原因が背中にあるのを瞬時に理解して歯を噛み締めた。

 

「もう遅い!!」

 

獣人のパンチは弱くても十分強い威力を持っている。

生体障壁がかかっていたらコンクリートは砂のようになるだろう。

しかし、あらゆるパンチの原動力となっている背筋を傷つけられれば威力も半減する。

夜如は顔面に当たる拳を勢いで押し返し、左腕に巻き込みながら拳をねじ込む。

 

「ラァ!!」

 

「カッ!!」

 

夜如の拳はガルドシュの顎を砕いてなお突き進み地面に押し当てクレーターを完成させた。

油断していたガルドシュの隙を作ってうまくそれを活かせた結果だ。

流石のガルドシュも生体障壁を砕く力を持った拳に顎を破壊されれば気絶する。

 

「油断大敵ですよ」

 

勿論、ガルドシュが油断していたからこそ勝てたのだと夜如も理解していた。

テロリストと言えど戦闘経験の差は明らかに上だったからだ。

 

「ですが、これで終わりです」

 

夜如の視線の先には雪菜がナラクヴェーラの上で親指を立てていた。

ナラクヴェーラが灰色の砂チリに変わっていく姿は神々の兵器と呼ばれるには呆気なさ過ぎる程の最後だった。

 

 

 

 




久々に投稿しましたけど、キャラの性格が分かんなくなっています。
リハビリが必要でうね。

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