ストライク・ザ・ブラッド〜鬼の目にも涙〜   作:*天邪鬼*

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いや、大学キツイっす


17話 ナラクヴェーラ

「へぇ、あれが噂の”火を噴く槍”か。申し分ない威力だね」

 

天へと登る真紅の閃光を目にしたヴァトラーが頬を釣り上げて拍手喝采した。

その拍手に合わせるかのように真紅の閃光が伸びだす方向から爆発が轟く。

楽しげなショーを見るかのようなヴァトラーに那月はイラつきまじりに問いかける。

 

「なぜ奴らがナラクヴェーラを起動できた?テロリストどもに解析できる代物ではないはずだが?」

 

「さぁね?ボクにはわからないよ」

 

ヴァトラーは飄々と肩をすくめた。

しかし、顔は依然と獰猛な笑みを崩さない。

那月はこれ以上は無駄だと思い撤退を余儀なくされている特区警備隊へ指示を出し始めた。

対魔族戦闘のプロである特区警備隊でも流石に神々の兵器を相手にすることはできない。

為す術もなくやられてしまうだろう。

そうなる前に隊を撤退させて那月自身が相手をした方が被害を最小限に抑えられる。

ただし、最小に抑えられると言っても、その中に絃神島が存在しているかどうかは怪しい。

最上位の魔女たる南宮那月でも神々の兵器は脅威になるのだ。

 

「大丈夫。ボクが()()()()()()ナラクヴェーラを破壊してあげるよ」

 

那月が撤退の指示を出している中ヴァトラーが瞳を赤く大きく輝かしていた。

吸血鬼の力を活性化させて臨戦態勢に入っているのだ。

先ほど捨て去った疑惑が再度蘇り、那月は黒いレースの扇子を刃物のようにヴァトラーに向けた。

 

「責任を持ってか………貴様が黒死皇派の残党どもを絃神島に送ったということか?」

 

「いやいや、ボクの船に()()()()テロリストが乗り込んでいただけさ。現に今もボクの船”オシアナス・グレイヴ”は黒死皇派の残党のリーダーであるクリストフ・ガルドシュに乗っ取られてしまっているんだよ」

 

「余計なことをしてくれたな?」

 

那月は目を鋭く尖らせた。

そこらの有象無象ならこの視線だけで戦意を喪失するものなのだが、生きることに退屈している戦闘狂のヴァトラーからすれば那月の殺意ある視線は興奮材料でしかない。

ヴァトラーは息を荒くして全身から魔力を放出しだす。

我慢できなくて漏れ出したようにも見える。

同時に那月も同等の魔力を放出してヴァトラーに対抗する。

空気が乱れ、圧倒的なプレッシャーが辺りを襲う。

未だ姿が見えないナラクヴェーラの真紅の閃光すらも霞む巨大な力の衝突に撤退中の特区警備隊は息をするのも忘れ、ナラクヴェーラから逃げるというよりも二人から逃げると言った状況になっていた。

しかし、ナラクヴェーラの攻撃はやんでいない。

那月もヴァトラーも本来ならナラクヴェーラの相手をしなくてはならないのだが。

世界の終わりを彷彿させる二人の中に入ろと思う者はいない。

 

「へぶっ!!」

 

けれども、ここは魔族特区である。

最高位の魔女と真祖に最も近い吸血鬼の喧嘩の中に入っていける強者も少なからずいる。

全身青いジャージ姿の少年は見事なヘッドスライディングを決めて二人の中心に割り込んだ。

突拍子もない出来事に那月もヴァトラーも魔力での牽制が止まる。

 

「「ウァァァァ!!!」」

 

続いて、上空から大きな悲鳴が聞こえてくる。

上空を見ると男女が涙目になって落下してきていた。

那月はそれだけで何となく現状を理解して深いため息を吐く。

 

「那月さん!!テロリストどもは!?」

 

夜如は鼻を赤くして溜め息を吐く那月にすり寄った。

ちなみに、後ろでは古城をクッションに紗矢華がお尻から着地していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれがナラクヴェーラ?」

 

夜如が見据える先には確かにナラクヴェーラが暴力を撒き散らしていた。

ナラクヴェーラは湾曲した背中が特徴的な六本足の虫のような姿をしている。

表面は金属でできているのか光沢があり、いかにも硬そうな装甲だ。

遥か昔の兵器に何故金属のような現代的技術が取り入れられているのかは疑問に思うが、今そんなことを気にしている場合ではない。

 

「そうだ。だが、安心しろ。時間経過からしてお前たちの言う誘拐されたアスタルテ達の居場所は少なくともこの周辺ではないだろう」

 

「まぁ、君たちは誘拐された友人達の救出を考えてればいいよ。あの()()はボクが相手するからさ」

 

那月の言葉に付け加えるようにヴァトラーは口を挟む。

ムッとした様子で那月はヴァトラーを睨むがヴァトラーは明後日の方向を向いていた。

先ほどの一触即発な空気は消えたが険悪なのは変わっていない。

 

「ああ、それとここへ来る途中にあんなの拾ったよ」

 

「矢瀬!?」

 

ヴァトラーが指を指した先にはずぶ濡れになっている夜如と古城の友人がいた。

古城は急いでそばに駆け寄った。

気を失っているだけのようだが、基樹の全身は軽傷がひどく目立つ。

夜如は鬼気を露わにしてヴァトラーと対峙した。

しかし、その瞬間に那月が腕を振り下ろした。

 

「痛!?何するんですか!?」

 

「今、そんな変態に構っている時間はない」

 

常人なら頭蓋骨が割れていてもおかしくない衝撃に頭を抱えてしゃがみこむ夜如は那月の行動に意義を申し立てる。

しかし、レースの扇子を夜如の脳天へと振り下ろした那月は淡々と言う。

ヴァトラーはそんな二人を”珍しい魔族がいるね”と唇を舐めていた。

 

「アルデアル公。何故御身がここに?」

 

すると、紗矢華が問い詰めるようにヴァトラーへと詰め寄った。

元々、紗矢華は獅子王機関からの命令により日本にいる間、ヴァトラーの監視役として絃神島に来ていたのだ。

諸事情により少し離れていただけなのに神々の古代兵器と戦おうとしているのだから驚きだろう。

 

「なるほど、お前が黒死皇派の残党どもを絃神島に連れて来たのか!?」

 

「暁古城?」

 

紗矢華の問いに答えたのは古城だった。

耳元には携帯があり、誰かと連絡を取っている。

 

「へぇ、君の監視役になった剣巫からかい?」

 

「そうだよ!オメェよくもやったな!!」

 

「暁さん?」

 

夜如は頭をさすって古城に聞いた。

古城は無意識だろうが瞳がヴァトラーと同じく赤く染まっていた。

今にも眷獣を暴発させてしまいそうな勢いだ。

第四真祖の眷獣の暴発は辺りを理不尽に破壊する。

一度その攻撃を正面から喰らっている夜如からすれば身構えるくらいの態勢はとる。

 

「姫柊達がオシアナス・グレイブに捕まって浅葱がナラクヴェーラの制御コマンドを解析させられてる」

 

「なるほど、てことはガルドシュはあれを起動させただけで制御には至っていないのか」

 

「ガルドシュ?」

 

夜如は友人を呼ぶようにクリストフ・ガルドシュのことを話すヴァトラーを睨んだ。

 

「ああ、君達には言ってないね。ボクの船を奪ったのはクリストフ・ガルドシュだよ。今も安全な所からここの光景を部下を通じて楽しんでいるんじゃないかな?」

 

どこまでも挑発的な態度。

夜如の拳もコキリと音を鳴らす。

決定的なことを言わず遠回しだが隠すつもりが一切ないヴァトラーのテロリストとの共犯宣言にもとれる態度に夜如の怒りは膨れ上がる。

夜如に何故黒死皇派の残党がナラクヴェーラを必要としているのか、それに加担するヴァトラーの真意はわからない。

学校に通わず勉強ではなく特区警備隊の手伝いや絶滅危惧種保護の慈善団体への資金送りしかしていなかった夜如に世界情勢の知識など皆無なのだから仕方はない。

が、結局の所ヴァトラーがクリストフ・ガルドシュに手を貸さなければテロリストが絃神島に来ることもなかったのかもしれない。

時期がずれていたかもしれない。

アスタルテが傷つくこともなかったかもしれない。

夜如がヴァトラーに一発お見舞いしようと一歩近づく。

 

「待って」

 

夜如の肩に手を置いたのは紗矢華だった。

 

「今はナラクヴェーラを止めることが先決よ。あれが市街地まで行ったら市民は勿論アスタルテさんも危ないわ」

 

「………分かりました」

 

一瞬の間があったものの夜如は深く息を吐いて冷静さを取り戻した。

しかし、怒りは心の内に秘めている状態である。

夜如にとって家族とはそれほどに大きい存在なのだ。

 

「姫柊からの情報だと一応皆んな無事らしい。浅葱が制御コマンドを解析し終わるまでナラクヴェーラを食い止めてほしいってことだ」

 

「どうゆうことよ?」

 

「俺もよくわからないんだけど、ナラクヴェーラの制御って音声認識らしいんだ。だから制御コマンドのついでに停止させるための音声を見つけ出すらしい」

 

「そんなことができるの?」

 

「浅葱は天才的なハッカーだからな。敵も浅葱の力を狙って誘拐したらしい」

 

古城が説明すると紗矢華もなるほどと頷く。

勝つために破壊するよりも抑え込む方が被害は少なくて済む。

音声認識といった見た目同様の近代的な作りを持つナラクヴェーラは今までどの考古学者も起動すらできなかった。

それもそうだろう、考古学じゃ解けない。

デジタル的な解釈が必要だったのだ。

そのことに気がついて解析の糸口をつかんだガルドシュはハッカーとして有名な浅葱を狙ったというわけだ。

 

「ちょっと待ってくれないかな?勝手に人の獲物を奪おうとするのはマナー違反じゃないのかい?」

 

「それなら人の領地で暴れてるお前の方がマナー違反だろうが!」

 

「………確かに、耳が痛い話だね。いいだろう、君に免じて今回は譲ろう”摩那斯(マナシ)”!”優鉢羅(ウハツラ)!」

 

ヴァトラーが魔力を放って召喚したのは二体の眷獣だった。

嵐の海のような黒い蛇と対極に静かな泉のような青い蛇。

二体の眷獣はどちらも数十メートルはあろうかという大きさだ。

これほどの眷獣を同時に召喚することすら吸血鬼の中でも驚異的な力なのだが、ヴァトラーは更に上を行く命令を眷獣に下す。

なんと、二体の眷獣が空中で絡み合い一体の群青色の龍へと昇華させたのだ。

眷獣の合成。

これこそがヴァトラーが真祖に最も近い存在と言われる所以だった。

 

「これでいいかな?」

 

ヴァトラーが満足げにいうと群青色の眷獣を投下させた。

竜巻のような突風を纏う眷獣は勢いそのまま荒れ狂い、増設人工島を絃神島と繋いでいた橋を全て破壊した。

古城も紗矢華も見たことのない力に言葉を失い、那月は鬱陶しそうにその光景を眺めている。

 

「では、行きますか」

 

ただ一人、夜如だけが暴れるナラクヴェーラを見据えていた。

そして、家族が巻き込まれた際の情緒の不安定さ。

夜如の心の危うさを那月は人知れず気にかけていた。




もう、細かな設定改変したり無視しています!
さっさと進めましょう!!

では、評価と感想よろしくお願いします!!

誤字脱字なども………

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