ストライク・ザ・ブラッド〜鬼の目にも涙〜   作:*天邪鬼*

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クレーンゲームにハマる最近


16話 閃光

 

鬼とは魔族の中でも最上位の身体能力を持った種族である。

しかし、絶対数が少ないために歴史的記録がほとんどないことから身体能力が高い魔族の代名詞と呼べる存在は獣人と言われている。

勿論、獣人も魔族の中では破格の身体能力を持っている。

チーターなどがベースで俊敏さが特徴の獣人は時速100キロを超えるスピードで走ることもでき、ゴリラなど怪力が特徴の獣人ならパンチ力は1トンを上回る。

気や超能力などの特殊な力がない限り、人類が到底勝てる相手ではない。

が、そんな獣人ですら鬼の身体能力には勝てない。

スピード型の獣人より速く、パワー型の獣人より怪力。

人類と獣人の間に大きな壁があるのと同様、獣人と鬼との間にも巨大な壁があるのだ。

夜如も16歳といえど立派な鬼の一体。

圧倒的な身体能力を身に宿している。

そんな夜如がよく言われるのが”本当に鬼?”という質問だ。

夜如は疑いようもなく正真正銘、絶滅危惧種の鬼である。

ただ、その見た目はあまりに鬼っぽくないのだ。

身長は浅葱といい勝負でよく着ているバイト先の青ジャージからでもその体の線の細さは正直なところ頼りない。

ひたいの上から生える黒い二本のツノがなければ単なる小柄な若手フリーターだ。

それでも、バイトの荷物運びや待ち合わせに遅刻しそうな時にはちゃんと鬼であることを証明するかのように身体能力を発揮させている。

なぜ、小柄な夜如が圧倒的な身体能力を持つか。

それは鬼気に由来する。

鬼気は鬼瓦など技の使用以外に自身の身体能力を向上させる効果があるのだ。

そもそも、獣人のように人型から獣人化という変身により肉体の筋肉を肥大化させているわけではないので、夜如の体格で時速100キロを超えたり1トンを超えるパワーを出すことはできない。

そこで鬼気が体を、それも体の中から強制的に動かしそれを超える力を引き出しているのだ。

当然、そんなことをすれば夜如の体は一瞬で破壊されてしまうだろう。

しかし、鬼も魔族であり体の耐久力は人間を遥かに超え、元々の筋肉だって獣人に及ばないものの高い質で体に付いている。

加えて鬼気には鬼瓦のように物質の硬度、強度を上げる力がある。

つまり、鬼は鬼気の増減で身体能力を向上させることができるのだ。

そして、喜びでも、怒りでも、悲しみでも、激情により鬼気はその力を増す。

例えば、妹が生死に境をさまようことになったとしたら、鬼気は爆発的に増大するだろう。

そうなれば理性を保てても、その行動は制御が効かない。

圧倒的な身体能力の影響で突拍子もないことになってしまう。

こんな風に、

 

「「うわぁぁぁ!!!」」

 

古城と沙矢華は夜如に抱えられて風、ではなく突風になっていた。

台風でも同レベルの風が吹くのは滅多にないだろう。

嵐の真ん中には夜如、右腕に古城が左腕に沙矢華が涙目で叫んでいる。

その姿はジェットコースター嫌いな子供が無理やりジェットコースターに乗せられてしまったようだ。

爆風を撒き散らして一歩踏み込むごとにアスファルトが抉られていく。

抱えられている二人もそうだが、周りにも甚大な被害をもたらしていた。

人災を超えて天災である。

それを見ている沙矢華は悲鳴の中に今の恐怖を訴える。

 

「あんた覚えておきなさい!!獅子王機関に申請して第四真祖同様監視対象にしてやるわ!!抹殺対象よ!!」

 

獅子王機関とはテロリストなど国際的な犯罪の取り締まりを行う国の部署だ。

周りにこれだけの被害を及ぼしていては私情を含めなくても明らかな魔導犯罪として見ることができてしまう。

というより、現行犯で逮捕又聖域条約という国際法によってその場での処刑も舞威媛は可能だ。

続いて古城も夜如に叫ぶ。

 

「というより!お前ブレスレットが鳴りまくってるじゃねーか!!」

 

古城が言っているのは夜如の右手首に巻かれた銀色のブレスレットのことだ。

これは絃神島にいる全ての魔族が装着を義務付けられているもの。

もし、絃神島に住んでいる魔族が人間に危害を与えようとした場合、ブレスレットが魔力や気を感知して警告音を鳴らし特区警備隊に連絡が入る。

実際、特区警備隊はすでに出動して夜如のことを追っていた。

特区警備隊の仕事の手伝いをしている夜如が絃神島の防犯システムを理解していないわけがない。

鬼の聴力で特区警備隊のサイレンも耳に届いている。

沙矢華の忠告も古城の指摘も壊れゆく道も全てを夜如の五感は捉えていた。

しかし、頭には入っていなかった。

 

「関係ない!」

 

「「わぁぁぁぁぁ!!!」」

 

夜如の踏み込みが更に力強くなる。

道路に面する植木が軋む、通りすがりの人々が突風に煽られ転倒する、ビルの窓ガラスにヒビが入る、割れる。

天災に近い夜如の加速は順調に絃神島南地区を破壊していった。

古城と沙矢華にもその分の負担がかかる。

しかし、残念なことに鬼気は自身以外の生物を強化することはできない。

生物にとって荒々しい鬼気は毒でもあるのだ。

吸血鬼の古城だけなら大丈夫かもしれないが、人である沙矢華は確実に命の危険を伴う。

それ以前に夜如自身早く目的地に辿り着こうとしているため、二人を守ることをあまり考えていないのもあるのだが。

ちなみに、二人の叫びも夜如の驚異的な聴力で一方的に聞こえているだけで、二人は自ら叫んだ内容も風の音で全く聞こえていなかったりする。

吸血鬼である古城は魔族特有の生命力、舞威媛の沙矢華は得意の呪術によって体を保護。

体は守れても風圧は受けるし音も風でかき消えてしまうのだ。

だからこそ、夜如の間抜けな声に気づかなかった。

 

「あっ………」

 

彩海学園から数キロ。

アスファルトを砕く勢いで走っていた夜如にある誤算が生じた。

鬼にしかできない速度での全力移動と二人の荷物。

驚異的な身体能力だとしても初めてのことは誰でも失敗はするもので、何事にもコツがある。

道路が脆い。

前に進むことだけを考えていた夜如は踏み込みの基礎となる足場のことを全く考えていなかったのだ。

脛にまで右足は沈んで状態は前のめりになり、抱えられていた古城と沙矢華は突如として目の前に壁が現れたのかと錯覚する。

さすがに”やばい”と思った夜如は咄嗟に上体を上げて残った左足で地面を蹴り上げた。

刺さった右足と同じぐらいの力で………

 

「「なぁぁぁ!!!」」

 

アスファルトに亀裂が走り地割れが周囲を破壊する。

そして、足が絡まった夜如は勢いそのまま、棒高跳びの要領で前方へと回転しながら吹っ飛んでしまう。

その後、夜如が引き起こした亀裂のおかげで特区警備隊が足止めを食らうことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絃神島南地区に増設された人工島”増設人工島(サブフロート)”。

そこでは南宮那月の指揮の元に特区警備隊が銃を乱射していた。

逃げ場をなくすためにもこのような一見無駄撃ちのような行動も大切な作戦だ。

特区警備隊が相手をしているのは数年前に壊滅した黒死皇派の残党。

彼らは自らが誇示する思想の獣人絶対主義を再度世に知らしめるべくある兵器を絃神島に密輸したのだ。

しかし、そのことも特区警備隊にバレて本来切り札となる兵器で絃神島を滅ぼそうと企んでいたのだが、たたらを踏むことになってしまっていた。

テロリストの最大のメリットは先手を打ちやすいこと。

ヒーローは遅れてやってくると言うが、それは単に悪に先手を取られて先に被害を出させてしまっているだけのポンコツぶりを雰囲気よくいっただけである。

今の世の中、やられる前にやるが常識だ。

剣巫も舞威媛も脅威と判断したら被害を出していなくても対象を殺害する権利を持っている。

 

「古代兵器だか何だか知らんが、使えない骨董品に希望を見出すなど馬鹿な奴らだ」

 

南宮那月が詰まらなそうに部隊の後方でため息をついた。

特区警備隊の部隊の包囲網は少しずつ黒死皇派の残党が潜む倉庫へと進んでいる。

フレンドリーファイヤに注意して扇状になって確実に逃げ場を塞いでいく。

ただでさえ太平洋のど真ん中で逃げ場のない絃神島、それも後から増設された人工島の中。

逃げ場は元々ないに等しい。

そのことからも、なぜ兵器に頼って自ら絃神島中心地で暴れようとしないのかなどと那月は考えていた。

やはり所詮はテロリスト。

クリストフ・ガルドシュという欧州では有名な獣人のテロリストが相手だと聞いていた那月は自分が無駄に警戒していたことに嫌気がさす。

 

「後は任せたぞ」

 

那月は部隊の隊長に声をかけると戦場に背を向けた。

本業である彩海学園英語教師の仕事を休んで来ていたこともあり、気の沈みようは深まるばかりだった。

 

「あれ?もう行くのかい?」

 

那月の耳に若い男の声が聞こえる。

しかし、那月の周りには誰もいない。

那月は誰もいないはずの虚空に向けて視線を向けた。

見ると、黄金色の霧が那月の視線の先に現れて渦を巻き始めていた。

黄金色の霧は次第に形を整えていき、いつしか金髪の青年になる。

金髪で青い瞳がまさに貴族と呼ぶにふさわしい狡猾な笑みを引き立たせている。

 

「蛇使い………こんなところで何をしている?」

 

「全く、ボクにはディミトリエ・ヴァトラーって名前があるのに」

 

ヴァトラーは満更でもなさそうに肩をすくめた。

那月の言った蛇使いという二つ名に対してだ。

ヴァトラーは真祖に最も近い存在と言われている吸血鬼。

永遠を生きるが故に人生に退屈して戦いを求める戦闘狂である。

 

「悪いがお前の思惑通りにはならないようだ。頼みの綱のナラクヴェーラも使えないようだしな」

 

「それはどうかな?」

 

戦闘狂を小馬鹿にしたつもりで言った那月の目が鋭くなる。

ヴァトラーの視線が那月ではなく後ろの倉庫へと向けられていたのに加えて、何よりヴァトラー自身の表情が無邪気な子供のような顔だったからだ。

 

「撤退〜!!!」

 

ズドン!!

 

増設人工島が激しい揺れに襲われる。

ずっしりと体の芯に響くような重たい爆発音と衝撃。

那月もすぐ振り返って現状を把握する。

 

「本当に起動したのか………」

 

「いやー、楽しくなりそうだ」

 

晴天の昼下がり、絃神島南地区の増設人工島から真紅の閃光が大空へと発射されていた。

 

 

 




お待たせしました!!!
大学が予想以上に忙しかったり、車の免許証を取ろうと少し勉強したり教習所行ったりしていたらこうなりました………
元よりない文才が更に崩壊して自分でも”どうやって書いてたっけ?”の状態です。
ですが、色々と落ち着いたので投稿ペースは早まると思いますので、もし楽しみにしていただけるのでしたら待っていてください。
では、評価と感想をお願いします!!

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